意外にも難産でした……。
思い返せば小学生時代。私は、貴方の優しさに触れてから恋心を自覚してしまっていたのかもしれません。明るくて優しくて、そして楽しい貴方。一緒にいるだけで私の心がポカポカしてきます。中学時代は違う学校でしたが、高校になって再会して、すぐに貴方だということが分かりました。だけどクラスは別々になってしまいまして、なかなかお話する機会がありませんでした。そんなある日、私は偶然、ある場面に遭遇したのでした。
それは、吉井君ともう一人の男の人が、ある女の子と出会った日。ぬいぐるみが欲しいと言っていた女の子の為に、吉井君は率先して動こうとしていました。
私はそのお手伝いがしたくて、だけどやっぱり声をかけるのが少しだけ恥ずかしくて、結局女の子にぬいぐるみを縫ってあげることしか出来ませんでした。きっと吉井君ならどうにかするのかもしれないと思ったけど、これはあくまで私のわがままみたいなものですから……。
そうして改めて気づいた事がありました。
やっぱり貴方は、他の人に笑顔を与えてくれるんですね。明るくて優しくて、一緒に居て楽しい貴方だから、私は──。
※
恋心を自覚した私は、何とかして吉井君とお話出来ないかと色々考えました。ですが、クラスが違うとどうしてもお話する機会がありません。少し良かったなって思ったのは、私が普通科に所属していたことです。もし国際教養科に入っていたら、吉井くんと同じクラスになることが出来ませんでした。今年が駄目でも、来年再来年があります。その時に同じクラスになれればお話出来るのに……一緒のクラスで吉井君とお話が出来る人がいるということを考えるだけで、胸が少し締め付けられたような気持ちになりました。吉井君への気持ちを自覚してから、私は少し感情に揺れ動かされてしまっている気がします。
そんなある日のことでした。GWに入る前、
「あぁ、姫路か。ちょっといいか?」
帰ろうとしていた私を呼び止めたのは、平塚先生でした。白衣がとてもよく似合っている、美人さんです。
「平塚先生? どうかされたんですか?」
「ちょっとした勧誘みたいなものだ。GWの中日、二日間ほど暇はあるかね?」
今年のGWは特に予定が詰まっていなかったので、空いている日は勉強に使おうかと思っていました。二日間ということは、何かお泊まり行事でもあるのでしょうか?
「はい。特に予定はありませんが……」
「掲示もしていたと思うが、その日に小学生の林間学校運営のボランティアを募集していたんだ。姫路もどうかと思ってな」
何だかとても楽しそうです。ボランティア活動に参加するということならお父さんもお母さんも納得してくれると思いますし、何よりこういった行事なら吉井君も参加しているかもしれない。これはきっと、チャンスなのでしょう。
試しに私は、平塚先生に尋ねました。
「あの……そのボランティアって、どんな人が参加されるのですか?」
平塚先生はキョトンとした表情を浮かべた後で、すぐに元の表情に戻りました。何か私、おかしな事言ったでしょうか?
「確かに、君のクラスからは参加者はいないな……けど、せっかくの機会だ。これを機に他クラスの者とも親交を深めるのもありかもしれないぞ?」
私の質問を、『クラスメイトはいるのかどうか』と解釈したらしい先生が、優しくそう言ってくださいました。確かに、知り合いが一人もいない中で行くのは少し心許ないというのはありましたが、それよりも……。
「あの……吉井君は、来ますか?」
その質問をした瞬間、いよいよ平塚先生は目を大きく見開きました。
「姫路は吉井と知り合いなのか?」
「はい。小学校が同じだったので……でも、多分吉井君は私のこと覚えてなくて、仲良くなりたいなって思ってても別のクラスでしたからなかなかそんな機会もなくて……」
「……」
先生はただ黙って話を聞いてくださいました。ただ、何故か時々身体が震えていたのはどうしてなのでしょうか。
やがて平塚先生は閉じていた目を開いて、
「それなら尚のこと、君は今回の件に参加するといい。吉井は奉仕部に入部しているから、既に参加が決まっている」
「本当ですか!?」
とても嬉しい報告でした。だってそれは、もしかしたら吉井君とお話が出来るかもしれないということですから。
「参加の登録とかは私からしておこう。詳しいことはこの紙を確認しておいてくれたまえ」
「あ、ありがとうございます!」
先生から頂いたのはスケジュールが書かれたものでした。
「それじゃあ良い連休を」
「はい!」
そう言って平塚先生は去って行きました。
「……くっ、私も青春したかった……っ!」
……なんか、ごめんなさい。
※
そして、林間学校の日がやってきました。
車で移動して、千葉村まで来た私達。
そこで私は、吉井君の姿を見つけました。
「あ、あの……」
「ん?」
「私……姫路瑞希です。吉井君、ですよね?」
これでもし吉井君が覚えていたらそれでいいんです。でも、そうじゃなかったとしたら――。
「え?」
その反応は、やっぱり私の予想通りでした。
そうですよね……小学校以来に会った人のことなんて、普通そう覚えている筈がありませんから。でも、ここで挫けちゃ駄目なんです。私は吉井君と仲良くなる為にここに来たんですから。
そう決めた私は、
「これからもよろしくお願いします、吉井君!」
「は、はい」
これはある意味、私から吉井君への宣戦布告です。
絶対仲良しになりますからね。
そして、ゆくゆくは――。
これにて一旦番外編の更新は終わります。
来週月曜日からは再び本編の更新が始まります。
次回は八幡目線でのルミルミ解決法(あるいは解消法?)となります。
原作通りなのか、それとも少しずつズレていくのか。
余力があれば、土日のどちらかでもう一つ番外編を出すかもしれません。
まだ、俺ガイル勢は戸塚しか番外編作ってないので……バカテス側2キャラ、俺ガイル側2キャラ分話を作ればちょうどいいのかなぁ……なんて思っていたり……。