やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第四問 バカと依頼と小学生(4)

「肝心なことって一体何かしら?」

 

 首を傾げながら雪ノ下さんが尋ねてくる。

 こうしてみると、やっぱり雪ノ下さんって凄い美人さんだよね。

 

「……ちょっと、何下衆びた目で見ているのかしら?」

 

 何故か雪ノ下さんは、僕と比企谷君を見るなり、自分の胸元を両手で抑えながら引き気味に言ってきた。そんなに僕や比企谷君が変態的な目で見ていたかな?!

 

「ヒッキー……ヨッシー……?」

 

 何故か由比ヶ浜さんまでも疑いの眼差しを向けてきた。

 

「い、いや、そんなことねぇから……吉井は知らねぇけど」

「僕だってそんな目で見てないよ!?」

 

 何故か僕だけ完全にスルーされそうになっていたので、自分からツッコミを入れざるを得なかった。

 とりあえず今は本題に入らないと!

 

「えっとね、僕と比企谷君は昨日、奉仕部の帰りに小学生の女の子に会ったんだけど……」

「待ちなさい」

「え?」

 

 ここで、突然雪ノ下さんに発言を止められてしまった。

 何のことだろう? と僕が思っていると。

 

「今すぐ110番に通報した方がよろしいかしら?」

 

 と、とんでもないことを言ってきた。

 

「やめてよね!? 僕も八幡も何もしてないからね!?」

「俺達を変態に仕立て上げるのは勘弁してくれ……」

 

 八幡もダルそうに否定していた。

 由比ヶ浜さんや雪ノ下さんの、僕達に対する心象が下がった気がする。

 

「と、とにかく。その子がぬいぐるみ屋さんでぬいぐるみが欲しいって言ってたんだけど、そのぬいぐるみの値段が高すぎて買えなかったんだ……何とかしてその子の為にぬいぐるみを用意したいなって思ったんだけど……」

「なる程。いくつか質問させて欲しいのだけれど、まずその子はどうしてぬいぐるみが欲しかったのかしら?」

 

 雪ノ下さんから質問される。

 一応僕の相談には乗ってくれるみたいで助かった。

 

「お姉ちゃんの元気がないから、元気づける為に買ってあげたいって言ってたよ」

「……そう」

「……どうしたの? ゆきのん」

 

 何処か、少し考える素振りを見せる雪ノ下さん。

 そんな彼女のことが心配になったのか、由比ヶ浜さんが心配そうな表情を浮かべながら尋ねていた。

 

「何でもないわ。続けて頂戴」

 

 雪ノ下さんはそう言って、僕に話を続けるよう指示した。

 

「そのぬいぐるみの値段は二万五千円で、その子が持ってたのは一万円だったんだ」

「となると、あと一万五千円足りないってわけね……小さいサイズの他のぬいぐるみでは駄目なのかしら?」

「そうしたかったんだけど、ぬいぐるみ屋においてあったのは大きいサイズのしかなかったみたいなんだ」

 

 あのぬいぐるみ屋には、確か人の大きさぐらいのサイズしか置いていなかった。それが二万五千円で、他のサイズで安い奴はなかった。つまり、葉月ちゃんがぬいぐるみを買うとすれば、あのサイズしかないということに。

 

「昨日は八幡の提案で、とりあえず予約しておくってことになったんだ。GW中までは平気ってことになったよ」

「ヒッキーやるじゃん!」

「……」

 

 由比ヶ浜さんが素直に褒めてきたのに対して、八幡はそっぽを向いて何も答えない。

 照れているのかな?

 

「そう……つまりGW中に何とかお金を捻出しなきゃいけないわけね」

「そうなんだよねぇ……けど、いいアイデアが浮かばなくて……何かいい方法ないかなぁって」

「そっかぁ……同じようなぬいぐるみを作ってあげるっていうこともあると思うけど……」

「手芸はちょっと僕には難しいかなって……」

 

 由比ヶ浜さんのアイデアもすごいいいものだなぁって思うんだけど、あの大きさのぬいぐるみを用意するのはなかなか難しい気がする。

 もしかしたら、昔会ったうさぎのヘアピンを着けている女の子なら出来るのかなぁ。

 

「無難な手を打つとすれば、小さいぬいぐるみで妥協するか、何か自分達が要らないものを捻出して、それを売ることでお金に変える、とかかしら」

「いらないもの……」

 

 確かに、お金がないなら増やせばいいっていうことも考えられる。

 けれど、僕に売れる物は……あっ!

 

「そっか! いらない漫画とかやらないゲームを売れば何とかなるかもしれない!」

「……確かに、それならば誰にも迷惑かけず、穏便に済ませられるかもな」

 

 八幡からも意見がもらえた。

 そうなると、僕の家にあるもので売れるものかぁ……ん? ちょっと待てよ?

 もしかしたらもっといい物があるかもしれないぞ?

 

「……ねぇ、八幡」

「どした?」

「昨日さ、僕らのクラスって抜き打ち荷物検査あったよね?」

「あぁ、あったな」

 

 鉄人の手によって突如行われた荷物検査。

 あのせいで僕も鉄人に色んな物を没収されたわけだけど、もしかしてその時没収された物をすべて売れば何とかなるかもしれない?

 

「もしかしたら、あの時の荷物が返ってくればお金になるかもしれない!」

「……貴方、その発言から察するに、かなり高価なものを取り上げられていることになるのだけれど」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら尋ねてきた。

 それに対して、

 

「あー、そういえばヨッシーってば、ゲーム機とか取り上げられてたよね?」

「学校を何だと思っているのよ……だから平塚先生からあのような依頼が来るのではないかしら……?」

 

 うん、それに関しては完全に反論出来そうにない。

 

「確かに、あのゲーム機を売ればそれなりに金になるかもしれないな。だが、問題点が一つある」

「どういうこと? 八幡」

「西村先生の言葉だと、取り上げられた荷物が返されるのはGW明けだ。つまり、ぬいぐるみ屋の期限に間に合わないということになる」

「あー……」

 

 確かに、それについては八幡の言う通りだった。

 没収された物が返ってくるのを待っていては、葉月ちゃんとの約束に間に合わない。

 

「んー……どうにかしてGW中に返ってこないかなぁ……」

 

 もしそれが叶えば、ゲームを売ることが出来るし、そのまま何とかぬいぐるみを買ってあげることが出来るかもしれないのに。

 どうしたものかと悩んでいた、その時だった。

 

「失礼するぞ」

 

 扉をノックせず、平塚先生が教室に入ってきた。

 

「先生、ノックを……」

「悪い悪い。ノックしても返事をしないと思ってな。様子を見に来たのだが、何やら少しばかり気になる話を聞いたので、聞き耳を立てさせてもらったよ」

「そういうことしているから、嫁の……」

「衝撃の――」

「ナンデモナイデス」

 

 八幡の言葉に、平塚先生が拳を強く握りしめて思い切りパンチを放ちそうになっていた。

 八幡は慌てて謝罪していた。

 

「ところで……吉井はともかく、比企谷も居るとは。感心だよ」

「強制されて来ただけです。別に自分の意思で来たわけでは……」

「それでも、君ならば何かと理屈や文句をつけて来ないのではないかと思っていたよ」

「……そうっすね」

「……本入部も近いかもしれないな」

 

 そう言った平塚先生の声は、少し優しく聞こえた。まるで本当に生徒を心配する先生のようだった。やっぱりこの人っていい先生だよね。どうして結婚出来ないのか……。

 

「吉井、今失礼なこと考えなかったか?」

「なんでもないです!!」

 

 そう言う所だよ!!

 

「ところで、君はF組の……」

「由比ヶ浜結衣です! 吉井君に連れられてきました!」

「そうか……いつの間にやら新入部員候補まで捕まえてくるとは……」

 

 いつの間にか僕入部したことになっている?

 

「ところで、今君達は何やら困っているように見えるのだが?」

「実は……」

 

 せっかくだし、平塚先生にもアイデアをもらいたいと思った僕は、少しばかり相談してみることにした。

 すると先生は、少し考える素振りを見せた後で、

 

「そう言うことならば、今度の連休中に手伝ってもらいたいことがある。もちろん、見返りとして先んじて君が没収されたゲーム機を返すことも約束しよう」

「本当ですか!?」

 

 先生が天使に見える!

 けど、一体手伝ってもらいたいことって何だろう?

 

「それで、平塚先生。手伝って欲しいことと言うのは?」

 

 もちろん、部長である雪ノ下さんが尋ねる。

 先生は、ニヤリと笑った後で、

 

「何、ちょっとした社会勉強だ。実はな――」

 

 と、僕達の連休の内、一日は絶対に予定が埋まった瞬間だった。

 

 




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