部活が終わった後、僕と八幡は真っ先にゲームや漫画本、そして文庫本などを回収し、それを売りに行った。金額が結構な物となった上、葉月ちゃんにお金を払わせなくても十分な程までになった。由比ヶ浜さんや雪ノ下さん、それに八幡も、自分の要らない物を売ってくれたからだ。みんなで合わせれば、二万五千円まで到達したので、葉月ちゃんにはお金を払わせなくて済んだ。
意外だったのは、雪ノ下さんや八幡まで協力してくれたことだ。雪ノ下さんは『部活動の一環なら仕方ない』と言い、八幡は『ついでに要らない物を処分出来るから等価交換だ。Win-Winの関係が築けるからやったことだ』と言っていた。きっと照れ隠しだと思う。
そして僕は、面倒臭がっている八幡を引き連れて、昨日の公園へと足を運んだ。
「あっ、お兄ちゃん達!」
ブランコに乗って待っていてくれていた葉月ちゃんは、僕達の姿を見つけると笑顔で駆け寄ってくれた。
その手には、小さなぬいぐるみが抱きかかえられている。
「どうしたの? それ」
僕が尋ねると、葉月ちゃんは笑顔で、
「お兄ちゃん達が来る前に、綺麗なお姉さんが来たです!」
「きれいな、おねえさん?」
「はいです! このお人形を、あなたのお姉ちゃんにあげてって! でももし、お兄ちゃん達がノインちゃんを持ってきてくれたら、そのお人形はあなたの物だよ、って!」
「……」
うーん?
一体誰がそんなことしてくれたんだろう?
八幡も少し考えているみたいだし。
雪ノ下さんや由比ヶ浜さんではないとは思うし……ぬいぐるみの話をしたのだって今日だから……。
けど、それなら今葉月ちゃんが持っているぬいぐるみは。
「なら、それはお前の物だな……ほれ、吉井」
「うん」
「ほぇ?」
八幡に促される形で、僕は背負っていたぬいぐるみを葉月ちゃんの前に差し出した。
「こっちをお姉ちゃんに渡してね!」
「わぁ……ノインちゃん!」
葉月ちゃんの目がキラキラと輝いている。
本当に嬉しそうだなぁ……これだけでも、買ってあげることが出来て本当によかったって思う。
八幡も、心なしか少し目の濁りがとれている気がするよ。
「……お姉さん、元気が出るといいな」
その時、八幡は葉月ちゃんの頭を優しく撫でながら、そう言った。
葉月ちゃんは本当に嬉しそうに、
「……はいですっ!」
と、笑顔で言った。
その後で、僕と八幡の顔を交互に見ながら、何やら考える素振りを見せていた。
「あの……お兄ちゃん達、少ししゃがんでもらってもいいですか?」
「え?」
「ん?」
僕と八幡は、葉月ちゃんに言われるがまま、その場にしゃがみ込む。
多分葉月ちゃんの顔の高さと同じくらいかな?
「こんな感じ?」
すると――。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
八幡にぎゅっと抱き着いて、その後で僕のほっぺたにキスをした。
……へ? キス?
「っ!?!?」
明らかに動揺している八幡。
いや、僕も凄い動揺しているよ!?
なんで僕キスされてるの!?
顔が凄く熱くなってくるのを感じる。凄いなぁ……最近の小学生って本当に進んでるんだね……。
「優しいお兄ちゃんみたいなお兄ちゃんが欲しいです……お兄ちゃんって、呼んでもいいですか?」
「お、おう……」
少し涙目で、上目遣いで、葉月ちゃんは八幡に言う。
八幡は思わずどもっていた。うん、いつも通りの八幡だ。
その後で葉月ちゃんは僕の方に向き直って、
「バカなお兄ちゃんは、バカだけど、とても優しいから大好きです! おっきくなったら、葉月のお婿さんにしてあげますっ!」
「あっ……」
僕も恥ずかしさのあまりにどもってしまった。
僕、小学生の女の子に告白されちゃった?
何だろう、凄い嬉しいけど、物凄く嫌な予感もする。
「ばいばいです、お兄ちゃん、バカなお兄ちゃん!」
そして、葉月ちゃんは二つのぬいぐるみを抱きかかえて、笑顔でその場から立ち去っていった。
残されたのは、茫然と突っ立っている八幡と、同じく茫然と突っ立っている僕。
「……俺の妹は、小町だけだ。そう、小町だ……小町、だよな?」
「お、落ち着いて、八幡。八幡の妹はたぶん小町ちゃんだよ」
「そ、そうだよな? 俺の妹は小町だよな? ……うん、大丈夫。問題ない」
「そうだよ!だ、大丈夫だよ! 絶対大丈夫だよ!」
多分、この時の僕達は、二人ともまともじゃなかっただろう。
※
しばらく僕と八幡は公園のベンチに座り込んでいた。
落ち着いてから帰らないと、きっと僕も八幡も、家で悶絶することになると思ったからだ。
「ねぇ、八幡」
「どうした?」
心を落ち着かせる為にも何か話さないと、って思ったから。
せっかくだから気になっていることを聞いてみるのもありだなって思ったから。
だから僕は八幡に、こんなことを聞いてみた。
「僕達ってさ、友達だよね?」
「……」
八幡は黙り込んでしまう。
何か考えているみたいだ。
「雄二やムッツリーニ、秀吉に……島田さんとは?」
「……分からない」
『分からない』。
確かに八幡はそう言った。
それってつまり、今は考えてくれているってことかな?
「そっか。僕はもちろん、きっと雄二達は、八幡のこと友達って思ってるよ」
「……そ、そうか」
「うん。島田さんや由比ヶ浜さんだって――」
「……なぁ、吉井」
「ん?」
僕の言葉を遮る形で、八幡は言葉を発した。
「部室で平塚先生が言ってたあれ、奉仕部の部員が言われたことだよな?」
まるで確認を取るかのように、八幡は聞いてくる。
一体その質問に何の意図があるのかは分からない。
だけど、なんとなく答えなくちゃいけない気がした。
「たぶんそうだと思うよ?」
「なら……俺は受けなくてもいいんだよな?」
「えっ?」
何を言っているのだろう?
僕は平塚先生からの交換条件で参加は必須となっている筈だし、何より奉仕部への依頼という形で先生は言っていた筈――。
「部員じゃない奴は、受ける必要ないだろ?」
「……八幡」
そっか。
何となく、八幡がやろうとしていることが理解出来てしまった。
いや、きっとすべてが当たっているとは思えない。
だって僕はバカだから、八幡が何を考えているのか分からない。
けど、これだけはなんとなく分かる。
八幡はきっと、何かに怯えているんじゃないかな?
「俺はまだ、入部届を出していない。平塚先生だって、入部するかどうかは個人の自由だって言っていた。つまり俺はまだ入部していない。奉仕部の部員ではない。これで、お前達との関係も終わりってことになる」
「何言ってるのさ? 僕は八幡のこと、友達って思ってるし、GW中に遊ぶ約束だって」
「気が向いたらって言っただけだ。別に気が向かないから――」
「ねぇ、八幡。何でそんな辛そうにしてるの?」
八幡の目が大きく見開かれた。
なんとなく、八幡が遠くへ行っちゃいそうな気がしたから、ここで言わないといけない気がした。
「八幡はやっぱり友達とか関係とか、難しく考えすぎてると思う。友達って、きっと理屈じゃないんだよ。難しいことはあまり考えられないけどさ、八幡の周りに居る人達は、きっともっと仲良くなりたいって思ってるよ? もちろん僕だって……今日会った葉月ちゃんだってそうだよ」
「……」
八幡は何も言葉を返さない。
せっかくだから、僕が思っていることを八幡に伝える。
「もし、入部届を出さなきゃ部員じゃないって言うんだったら、明日一緒に入部届出しに行こうよ。所属する分には自由なんでしょ? なら、行くもいかないも自由なんだし、何も部活入っていないなら別に何ら変わりはないんじゃない? それに、僕や由比ヶ浜さん、きっと雪ノ下さんも、一緒にGW中に遊びに行きたいって思ってるよ」
「……妹、泣かせるわけにもいかねぇもんな」
八幡は、何やら自己解決したかのように呟く。
そして、
「分かった。また明日、な」
そう言って、八幡は僕の顔を見ずに立ち去っていった。
「……うん、また明日ね!」
これから、僕達の関係はきっと変わるのかもしれない。
そんな想いを胸に抱きつつ、僕も家へと帰るのだった。
――そして、GWがやってくる。
これにて第四話終了です!
次回よりGW中のエピソードとなります!
次回は八幡目線でのお話です。