車で移動して、僕達がたどり着いたのは。
「千葉村、だね」
千葉県の学校に通う人ならば、多分一度はここに来るんじゃないだろうか。小学校の林間学校とかでよく使われるような施設だ。今日も林間学校のお手伝いという事だったので、多分当てはまっている。
その時、僕達の他にもボランティアの人がいるのか、もう一台の車がやってきた。そこから降りてきたのは。
「あれ? 葉山くん?」
「おはよう、結衣」
葉山隼人君。クラスの中でもトップクラスのイケメンで、一年生にしてサッカー部のエース候補として頑張っている、という話を聞いた事がある。他にも、同じくサッカー部にいる戸部翔君や、そんな彼らといつも仲良くしている三浦優美子さん、そして海老名姫菜さんの四人だ。
「あっれー? ヒキタニ君もいるじゃん? まじっべーわ!」
「やぁ、ヒキタニ君」
「う、うす……」
戸部君と葉山君の二人は、八幡に対して挨拶する。だけど彼の名前は『ヒキタニ』じゃなくて、『ヒキガヤ』だよ?
けど、戸部君のそれは本気で勘違いしているように見えるけど、葉山君のはなんというか、わざとっぽいというか?
「なんか引っかかるのぅ……」
ポツリと秀吉が呟いた。
やった! 秀吉と僕の心が通じ合ったよ! 僕らはいつも以心伝心なんだね! 二人の距離詰まるテレパシーを飛ばしあおうね!
「平塚先生。何故彼らも?」
当然気になる所だよね。
雪ノ下さんは不機嫌さを隠そうともせずに平塚先生に尋ねる。
先生は、そんな質問を待ってましたと言わんばかりのにっこり笑顔と共に、八幡と雪ノ下さんに言った。
「私が呼んだんだ。最も、来たこと自体は彼らの意思でもあるのだがな」
「どうしてそのようなことを?」
あぁ……あれ、完全に不機嫌さMAXだよ。由比ヶ浜さんがオロオロし始めている気すらしてるし。八幡も葉山君達の方を見る度に溜め息をついている様子だった。
何だろう、一体何かあったのだろうか。
「仲良くしろ……とは言わない。せめて卒なくこなしてみたまえ。これは私なりのお節介みたいなものだ」
「つまり、この二日間何事もなく過ごしてみせろ、ということですね?」
八幡の答えに満足がいったのか、平塚先生はうんうんと頷いている。
ただ単に人集めしていただけじゃなくて、そこまで考えていたんだ……時々、この人が何でモテないのか分からなくなる時がある。
「ん? 何か言いたいようだな吉井」
「な、なんでもないです!!」
もう、本当そういう妙に勘が鋭い所ですよ先生!!
「吉井……お前は言いたいことがすぐ顔に出るんだ」
「そ、そんなことないですよ!?」
まさかの鉄人にまで言われた!?
というか他の人達まで納得したように頷かないでよ!!
「あれ? もう一台来たよ?」
そんな時、彩加が少し遠くの方を指差しながら言った。
僕達はその方向を見つめてみる。
すると確かに、そこにはもう一台車がこっちに近づいて来ているのが見えた。これで全員ってわけではなかったんだね。そういえばまだ霧島さんの姿が見えないから、もしかしてあの車に乗ってるのかな?
程なくしてその車は僕らの前に止まり、そこから降りてきたのは……。
「わぁ……」
思わず、僕はため息をついてしまった。
降りてきたのは二人の少女だった。一人は、長い黒髪が印象的な女の子――霧島翔子さんだ。その美しさは、男女問わず人気と言われるほどだ。何せこの学年で雪ノ下さんと霧島さんのことを知らない人なんて居ないくらいだと思う。
もう一人の女の子は、ピンク色の髪をした女の子だった。清楚という表現が似合う彼女のことも、噂になっている。
姫路瑞希さん。
確か学年でトップクラスの成績をとった三人のうちの一人だ。彼女だけは国際教養科ではなく、普通科の所属である。今年は別のクラスになってしまったけど、来年は同じクラスになれるといいなぁ。
「おはよう、雄二」
「……おう」
車を降りた霧島さんが真っ先に向かったのは雄二の所だった。
GW初日、雄二と霧島さんが幼馴染である事が判明している。だからそれ自体は別に何もおかしくはない。だけどなんというか、雄二の態度が少し素っ気ないというか、何処か引っ掛かりを覚える。
「……今日はとっても楽しみ。思い出作ろうね」
「そうだな。作れるといいな」
「作るよ。だって、高校に入ってやっと、雄二とこうして出かけられたんだから」
「……」
霧島さんすごくいい笑顔してるなぁ。本当に心から嬉しいのが伝わってくるような笑顔だ。そんな霧島さんに対して微妙そうな返答をする雄二は一体何を考えているのだろうか。
「あ、あの……」
「ん?」
後ろから声が聞こえてきた。
声のした方を振り向くと、そこには緊張した面持ちの姫路さんが立っていた。
僕なんかにわざわざ挨拶しに来てくれたのかな? だとすればなんて素敵な人なんだ!
「私……姫路瑞希です。吉井君、ですよね?」
「え?」
思わず間抜けな声を出してしまった気がする。
なんで姫路さんは、僕の名前を知っているんだろう?
そして、その姫路さんは、今の僕の反応を見て何かを悟ったみたいだ。
少し寂しそうな、だけど何かを決意したような、そんな表情だった。
「これからもよろしくお願いします、吉井君!」
「は、はい」
今なら少しだけ、八幡の気持ちが分かるかもしれない。
本当に何も言い返せなくなった時、人はきっとどもってしまうんだ。
緊張が限界に達すると、きっと何も言えなくなっちゃうんだろう。
「こんにちは、吉井君」
そんな事を考えていると、葉山君が僕の所にもやってきた。
「あ、葉山君。こんにちは」
「吉井君も、奉仕部に入っているんだってね?」
『も』ってことは、さっき八幡から何か聞いたのかな?
それとも由比ヶ浜さんかな?
雪ノ下さん……はなさそうかなぁ。なんだか雪ノ下さん、葉山君を目の敵にしてそうな目でじっと睨んでいるみたいだし。
「うん。葉山君は確かサッカー部だっけ?」
「そうだよ。戸部と一緒にサッカー部にね」
三浦さんや海老名さんと話している戸部君を見て、葉山君は言った。
その後で、葉山君は僕を見ながら、
「それで、部活での雪ノ下さんはどうかな?」
と、突然雪ノ下さんのことを尋ねてきた。
「へ? 雪ノ下さん? うーん、別に特に変わった所はないと思うけど……」
「そっか……君達はいつも何を話しているんだい?」
「うーん、主に僕は雪ノ下さんに勉強しろって言われてる位かなぁ」
何だろう?
葉山君は妙に雪ノ下さんのことを聞きたがるなぁ。
「お主、そこまで何が気になるのじゃ?」
首を傾げながら秀吉が葉山君に尋ねる。
くっ、その表情可愛いよ秀吉! 今夜は思い出作ろうね!
「何でもないよ。木下君もよろしくね」
「うむ」
そう言うと、葉山君はその場から立ち去っていく。
一体何だったんだろう?
「それじゃあ一度こっちに来てくれ! 向こうの小学生が既に集まっているようだからお前達のことを紹介する!」
鉄人の号令によって僕達は一度移動することとなる。
道中、葉月ちゃんが僕に抱き着いてきたことによってムッツリーニが鼻血を出しそうになったけど、その他には何も問題なく集合場所まで到着出来た。
僕等の前に集まっていたのは、何十人もの小学生達。
今日から二日間、僕達はこの子達の為にボランティア活動に勤しむというわけだね!
けど、見た感じ葉月ちゃんよりも年上の子達のような気がするなぁ……。
「今日からみんなのことをサポートしてくれる人達に、ご挨拶をしましょう!」
向こうの先生が号令をかけると、体育座りしている子供たちが一斉に『よろしくお願いします!』と言ってくれた。なんか既にムッツリーニが身体震わせているんだけど大丈夫かな。
対するこっちは、代表挨拶を霧島さんが行う。
「……みんな仲良く、楽しい思い出を作りましょう」
そう言って微笑む姿は、本当に美しかった。
美人さんが言うとやっぱり違うなぁ……。
「……むぅ」
近くで、姫路さんが不満げな表情を浮かべていた。
うーん? 一体何があったのかな?
「……つくづくお前、鈍感なのな」
近くに居た八幡がポツリと僕に対して言ったのを聞き逃さなかった。
いや、その台詞、八幡にだけは言われたくないからね?
というわけで、とうとうこの小説にも姫路さんと霧島さんが登場してくださいました!!
そして葉山グループの本格参戦でございます。
この先本当に何が起きるのか想像つきません……というかキャラ多すぎててんやわんやしてます(白目
今回の林間学校編で注目したいポイントは、
・ルミルミ問題をどう解決するのか?
・霧島さんと雄二の関係性はどうなっていくのか?
・姫路さんが何処まで明久にアピール出来るのか?
・八幡は一体どう動くのか?
・その他のキャラ達の人間模様はどうなるか?
と、見所多いですね……というか筆者も書きたいこと多くて正直悩んでます()
ちなみに、実はこの作品においては、八幡と戸塚初対面です。
きっとこのキャンプ中に仲を深めて、八幡のハートを射抜いてくれると信じております!!