僕達の最初のお手伝いは、小学生達が通過するチェックポイントへの誘導係だ。
人数が多いこともあり、チェックポイントとしてスタンプを押す係と、迷っている小学生が居たらルートへ戻してあげる係の二手に分かれることとなった。
僕達奉仕部は案内係なんだけど、主に僕と由比ヶ浜さんがやることとなっている。
理由は単純で、雪ノ下さんと八幡が、その、話しかけにいってくれないからだ……。
ちなみに、葉山君も誘導係を務めている。
「バカなお兄ちゃんとっても優しいね!」
「バカなお兄さんありがとう!」
「バカなお兄さんやっぱバカだなー」
「バカなお兄さん楽しいね!」
ところで、道行く小学生達にバカなお兄さんと言われるのはなんでだろう?
もしかして、葉月ちゃんの言い回しがみんなに知れ渡ってない?
「安心なさい。誰かが言わなくても、貴方の頭については自ずと気付かれるものだわ。いっそ誇りを抱いてもいいのかもしれないわね」
「バカに対する誇りを持つなんてなんか嫌だよ!?」
今日も雪ノ下さん節は炸裂している。
何というか、この人はいつにもまして元気だなぁ。
「……ん?」
「どしたの? ヒッキー」
その時、八幡が何かを見つけたらしく声を上げていた。
僕達はその方向を見てみる。
そこには、五人の女子小学生達が固まって何かをジッと見つめている様子が見えた。
「何やってるのかしら……?」
「見てくるよ」
雪ノ下さんが呟いた後に、葉山君がそのまま笑顔を見せて様子を見に行く。
雪ノ下さんは露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。
いや、本当仲悪いの? 実は永遠のライバルだったりする?
「あれ?」
何気なく見ていると、僕はその五人組に対して違和感を抱いていた。
「どしたの? ヨッシー」
今度は僕の声に反応した由比ヶ浜さん。
わぁお! 近づいてくれたおかげでおpp。
「ぶはぁっ!」
「えぇ!? 何処から!?」
何か視界の片隅で赤い鮮血が飛び出している!?
まるで噴水のように!!
「きゃーっ!」
これには流石に目の前の小学生組もビビっている!
いや、これってもしかしなくてもムッツリーニだよね!? 何してるのさ!?
「大丈夫だよ! これはちょっとした脅かしアイテムだからね! どう? びっくりした?」
そんな時、さり気なくフォローを入れる葉山君の姿が見えた。
凄い、こんなトラブルでさえもコミュ力によって覆い隠すことが出来ちゃうんだ……。
ちなみに、雪ノ下さん達は茫然と眺めているだけ。
「もしかしたら、チェックポイントは反対方向にあるのかもしれないよ? みんなで探してみようよ!」
そう言って、葉山君は小学生グループを連れて進んでいく。
……やっぱり、なんとなくだけどおかしい。
「えっとね? さっきの件でうやむやになっちゃったけど、あの子……」
僕が指差した先に居るのは、黒くて長い髪が特徴の女の子。その子が一人、みんなより少し後ろを付いていくのが見えた。もしかしなくても、あれって……。
「ああいうのって、小学生でもある物なのな」
「小学生だって等しく人間なのよ。高校生だろうが、小学生だろうが、そう言う所は同じよ」
八幡のつぶやきに対して、雪ノ下さんはさも当然のように答えた。
僕も、ああしてみんなの一歩後ろを歩いているのと、その際に少し寂しそうな表情を見せているのは引っかかる。そして、たぶんだけど葉山君は優しいから、
「チェックポイント、見つかった?」
「いえ……」
「そっか。ならみんなで一緒に探そうよ。名前は?」
「……鶴見、留美」
「俺は葉山隼人。よろしくな?」
そう言って、留美ちゃんをみんなと一緒の所まで連れ戻すのだ。
「すげぇな。さり気なく名前まで聞き出してるぞ」
「流石だよねぇ、葉山君……」
八幡と由比ヶ浜さんは感心したように見ている。
かくいう僕も、葉山君の行動が凄いなぁって思っていた。あそこまで流暢に僕は出来ないと思うから、尊敬しちゃうよ!
だけど、雪ノ下さんだけは違った。
「けど、あれは悪い手ね」
「……かもな」
「「へ?」」
八幡は雪ノ下さんの言いたいことが理解出来たらしい。
僕と由比ヶ浜さんはキョトンとしてしまった。
だけど、次の光景が目に飛び込んできて気付いた。
「あっ……」
女の子達四人が、留美ちゃんを無視しているのだ。
「もしかしてあれって、仲間外れにされてる?」
「そう言うことだ。そして、ぼっちにとって今の葉山の行動はすべてマイナスにしかならない」
「どういうこと?」
由比ヶ浜さんが首を傾げていた。
どうでもいいけど、その角度、凄い強調されます。
「ぼっちって言うのはすべからく少数派だ。基本的に集団から孤立してしまっている以上、それ相応の立場で以て接していることが大抵だ。そんな中、葉山はしきりに『みんな』という言葉を使っている。本人にとって『みんな』とは一体誰なのか分からないのに、第三者からそう言う風に言われると、自分が惨めで仕方なく思える物なんだ。そして極め付けは、『目立つ』ということ。ああいう場合、話しかける時は目立ってはいけない。そして目立った時に弱い所を見せてしまうと、そこに付け入る隙が出来てしまう」
「え、えーと……?」
「うーん……?」
僕と由比ヶ浜さんはキャパシティオーバーを招いてしまっている。頭から湯気が出てきそうだよ! 容量オーバーで強制シャットダウンしちゃいそう!
「……比企谷君。二人がついて来れないから簡潔に述べてあげた方がいいわよ」
「つまり、葉山が悪い」
「まとめ過ぎだ!?」
いきなり過ぎてびっくりしちゃったよ!?
由比ヶ浜さんだって驚きのあまり全力でツッコミ入れちゃってるよ!
「でも、なんだか可哀想だよ……何とか出来ないのかな?」
由比ヶ浜さんが少し寂しそうに呟く。
だけど、
「今はもう少し様子を見ているしかないわね……事情が分からない以上、下手に動かない方がいいわ」
「……あの子が今の状況をどう見ているのか。それによるな」
雪ノ下さんと八幡は、もう少し様子を見るべきだと言った。
確かに、今のままじゃ何も分からないから、何か行動を起こすにしても事情を把握してからの方がいいのかもしれない。そうなると、今さっき鼻血出したむっつり助平の出番なのかもしれない……。
「ムッツリーニ、そこにいるでしょ?」
「っ!」
まだ少し鼻血を出しながら、ムッツリーニが立ち上がった。
「土屋君!? 大丈夫なの!?」
由比ヶ浜さんが心配そうに駆け寄ってくる。
駄目だ! 今のムッツリーニにそんなことしたら!!
「っ!! 至福……っ!!(ブシャアアアアアアアア)」
余計に鼻血が酷くなっちゃうじゃないか!
「……何やってんだアイツ」
「……なんでこう、貴方の周りはこうも愉快な人達ばかりなのかしら」
こめかみを抑えながら雪ノ下さんが呟く。
うん、今回に関しては全く否定出来る気がしないよ……。
結局、ムッツリーニの鼻血が治まってから事情を説明し、何とか協力してもらえるようになった。
そうこうしている内に、カレー作りの時間となった。
だけど、この時僕はまだ知らなかった。
あの人達の料理スキルが……ここまで壊滅的だったのかということを。
一応、第六問ではキャンプ一日目、第七問ではキャンプ二日目ということで話を進めていくつもりです。本格的に行動を起こすとなると二日目になるので、一日目を描く今回の話はどちらかというとコメディに偏る可能性があります。
と言うより、明久視点にすると基本的にコメディ色が強くなります故……。
ただし、第六問でもきっちりと真面目パートありますよ。
そして何より、ここからが少し重大なお話です。
キャンプ中で描かれるエピソードは、鶴見留美の一件のみではありません。
雄二・霧島さんの件、島田さんと八幡の件、姫路さんと明久の件、葉山と雪ノ下さんの件、etc...
数えるとキリがありませんね()
なので、本編とは別に番外編を作ろうと思います。
本編の補完という意味で、それぞれの視点でのエピソードを作成予定です。
ここで連載するのか、或いは番外編として新たな作品を作るのか、どちらにしようかまだ未定ですが、いずれにせよこのあたりの話もしっかりと作るつもりなのでお楽しみにください。