やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第六問 バカとキャンプと仲間外れ (5)

 カレー作りもある程度安定して、僕達の分は鍋の様子を見るだけとなった。とりあえず姫路さんの料理スキルがかなりやばいことに気付けた僕は、事前になんとか対処することが出来た……いや、レシピ通りの動きは出来るし、何なら手際もいい方なんだけれども、隠し味で入れようとするものが斬新過ぎて……ある意味目が離せなかったというか……。

 

「明久? 何故遠い目をしておるのじゃ?」

 

 僕の顔を覗き込みながら、心配そうに訪ねて来てくれる秀吉。あ、好き。結婚しよ。

 

「ううん、なんでもないよ。ちょっと疲れちゃっただけだから」

 

 主に姫路さんのコントロールをするのに疲れたので、間違ったことは言ってない。

 鍋の様子については先生方お二人が見てくれるというので、僕達は小学生達の様子を見るように言われた。八幡は面倒臭がって鍋を見ると言ったけど、平塚先生の笑顔の前に何も言えなくなってしまった。あの笑顔は怖い……鉄人がいなかったら鉄拳が飛んできたかもしれない。今だけは鉄人に感謝……いや、うーん、素直に感謝出来る気がしない。

 そうして僕達は色んな班の所を見て回った訳だけど。

 

「あれ……?」

 

 昼間見た女の子が、一人で野菜を洗っていることに気付いた。他の班の子は四人で固まって作業しているけど、留美ちゃんだけ別行動してる……なんか、少し寂しそう? 

 

「カレー、好きかい?」

 

 ちょうどその様子を眺めていると、笑顔で葉山君が近付いて話しかけて来た。多分留美ちゃんの様子に気付いて動いたのだろう。

 

「別に。興味ないし」

 

 そう言うと、留美ちゃんはその場から離れていった。

 

「あの女の子、なかなか頭いいんだな」

 

 ちょうどその時、今の流れを見ていたのか雄二がそう言ってきた。

 

「え? どういうこと?」

 

 僕は雄二の言っている意味が分からず、キョトンとしてしまう。そんな僕を見て雄二が一言。

 

「お前は小学生よりもバカなんだな……」

「それとこれとは関係ないじゃないか!」

 

 いちいちコイツは僕をネタにしないと気が済まないのか! 

 

「まぁ、あの四人組見てみろよ」

 

 雄二が指差した先にいたのは、留美ちゃんと同じ班の四人組。その子達が、葉山君がいる方……いや、留美ちゃんが居た場所を見ながら何やらコソコソと話している様子が見えた。多分、あまりいい話ではないんだと思う。

 そういえば八幡が言ってた気がする。あの時は難しくて頭が痛くなって来ちゃったけど。

 

「ああいうのは、話しかけるタイミングとかが重要になるわけだ。ハブられてる奴を第三者が無理矢理仲間に入れようなんて無理な話だ。葉山は確かに優しいんだろうが、その優しさが裏目に出てやがる」

「優しさが裏目に……」

 

 多分葉山君は、結果としてこうなってしまっている事に気付いてないのかもしれない。それにしても……。

 

「ねぇ、雄二。どうかしたの?」

 

 留美ちゃん達の様子を見ていた雄二の様子が少しおかしいと思った。何というか、不快感を隠そうとしてあまり隠しきれてないような、何か思うところがあるような、そんな感じ。上手く言葉に出来ないけど、少なくとも雄二がいい感情を抱いてなさそうだということは理解出来た。

 

「……いや、なんでもない。俺は向こうの様子見てくる」

「あっ……」

 

 雄二はそのまま別の班の様子を見に行ってしまった。雄二のことも少し気になるけど、今は留美ちゃんの方が心配だ。僕は留美ちゃんが行った先に向かうと、

 

「あれ? 八幡達?」

 

 いつもの奉仕部メンバーがそこに集まっていた。なんだか何も言わなくても結局集まるのが部員らしいなぁ。

 

「そういえば貴方も部員だったわね……鶴見さんに自己紹介しなさい」

 

 雪ノ下さんがこめかみを抑えながら突然そんなことを言ってきた。いつの間に留美ちゃんに名前を教える事になっていたのか。

 

「僕は吉井明久だよ。気軽に……」

「もうそれはいい」

 

 八幡に止められてしまった。

 うーん、確かに小学生の女の子に『ダーリン♡』って呼ばせるのはあまりにも危険な気がする。最悪の場合、命の危険が……。

 

「……八幡」

「呼び捨てかよ……」

「この人、バカっぽい」

 

 初対面からいきなりそんなことを言われた。

 

「待って!? 僕まだ一言しか喋ってないよね!?」

「……凄いな、吉井。一目見ただけでお前がバカだということを見抜かれるとは。将来この子は大物になるやもしれないな」

「あ、あはは……ヨッシー、どんまい?」

「ある意味一番そのフォローが傷付くよ!」

 

 八幡に至っては最早フォローすらしてないじゃないか! 

 

「それで、みんな集まってどうしたの?」

 

 雰囲気を変えるためにも僕は話を振る。すると雪ノ下さんがここまでの流れを説明してくれた。

 留美ちゃんのクラスでは、少し前から誰かを仲間外れにすることが流行りだしていたらしい。特に深い理由もなく、ただ何と無くでターゲットが決められて、それがたまたま今は自分の番になったのだという。

 留美ちゃん自身も同じことをやってしまった為、自分がターゲットにされても仕方ないことだと思っていた。留美ちゃん本人は自分がやったことを反省しているみたい。

 小学生でもこんなことがあるんだ……。

 

「でも、中学生になったらまた新しい友達が……」

「それは無理ね」

 

 留美ちゃんの言葉を、雪ノ下さんが即座に否定した。

 

「同じ学区の子も中学校にはいるのよ? 確かに新しい子も入ってくるかもしれないけれど、無視して来た子もいるのなら、状況は何も変わらない。むしろ余計に酷くなるだけよ」

「…………やっぱり、そうなのかな」

 

 留美ちゃんは何処か寂しそうな表情を浮かべている。僕達に何か出来ることはないのかな……。

 

「……ねぇ、留美ちゃん」

 

 僕の声を聞いた留美ちゃんは、少し不安そうに見上げてくる。気丈に振る舞ってたけど、やっぱりこの子は弱っているんだ。

 

 僕は、この子と仲良くなりたい。

 

「良ければ、僕達と友達にならない?」

「……え?」

「は?」

「……はぁ」

「ふぇ?」

 

 上から順番に、留美ちゃん、八幡、雪ノ下さん、由比ヶ浜さんの順番だ。

 え、何か僕おかしな事言ったかな? 

 

「お前、どうして今の流れでそうなるんだ……後、『達』って誰だ?」

「ここにいる僕達のことだよ?」

「…………マジ?」

「うん、マジ」

 

 八幡は完全にキョトンとしていた。

 雪ノ下さんに至ってはこめかみを抑えて溜息を吐いている始末。

 由比ヶ浜さんは、

 

「それ、いいよ! 友達になればいいんだよ!」

「「!?」」

 

 その反応を見て、八幡と雪ノ下さんは目を見開いていた。

 

「…………どうして?」

 

 留美ちゃんが抗議するような目で尋ねてくる。何だか疑われているような気がするけど、ここは正直に僕の気持ちを伝えた方がいいよね。

 

「留美ちゃんと仲良くなりたいって思ったからだよ」

「…………そういうことか」

 

 その言葉で八幡は何かを察したみたい。

 留美ちゃんはまだ疑っている。

 

「同情で友達になろうとしてるなら、友達なんていらない」

「同情なんかじゃないよ。僕達は留美ちゃんと友達になりたいだけ。もちろん無理矢理じゃないよ? だけど、友達ならさ、困っている時に助け合ったり、言いたいことがあった時に伝えることが出来たりするんじゃないかな?」

 

 僕の言葉を聞いて、みんなが黙り込む。

 そして、最初に口を開いたのは、

 

「……八幡は?」

「え?」

 

 留美ちゃんは八幡の顔を見つめる。そして、一言そう尋ねた。

 多分、八幡は友達になってくれるのか、そう尋ねてるんじゃないかな。

 それに対して八幡は、

 

「……いいんじゃねえの? お前の好きなようにすれば」

 

 そっぽを向いて、そう答えた。

 その言葉を聞いた留美ちゃんは満足そうに、

 

「そっか……それじゃあ勝手にする。後、お前じゃない。留美。明久みたいにちゃんと名前で呼んで……でも、明久も『ちゃん』付けは辞めて欲しい……何だか子供扱いされてるみたいで、不満」

 

 一気に要求が来た! 

 けど、これくらい言ってくれた方が友達みたいでいいよね! 

 

「分かったよ……ルミルミ」

「ルミルミ言うな」

 

 だからって八幡。

 その略称はあんまりだと思う。

 

「……なかなかに貴方も照れ隠しが下手なのね」

「うっせ」

「ヒッキー顔真っ赤だよ? 照れちゃって〜」

「ちょっ、由比ヶ浜……」

 

 雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに指摘されて、八幡は顔を赤くしていた。

 こういう時間もいいなぁ……だけど、留美ちゃんの問題が解決したわけではない。

 友達の為にも、何とかしてあげたい。

 改めて僕はそう思ったのだった。

 




これにて第六問は終了となります!
明久の行動理念とかを考えた時に、まずは仲良くなろうとするのかなぁ……なんて思ってたら、こんな展開になりました。
ですが、これは問題の解決にはなっていません。
きちんと今残っている課題を解決しなければならない。解決するための道筋の一つにしか過ぎないわけです。
なので、次回の八幡目線での第七問にて、留美の一件の解決に向かいます。
……と、行きたいところですが、ここから少し番外編の補完エピソードを少しずつ更新していきたいと思います。
戸塚と八幡が仲良しになるエピソードや、一日目における美波視点での話、更には雄二と翔子の間にある違和感の話など……しなければならない話がまだまだあります故、ここからは短編集的な感じでお話を作りたいと思います。
基本的に番外編は『番外編』の章を作って話を投稿していくつもりなので、そちらを読んで頂ければ幸いです。また、更新した当初のみ、分かりやすいように『●月×日更新』というものをつけておこうと思います。
それではもうしばらく、林間学校編をお楽しみくださいませ……。

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