やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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【第七問】 生物

以下の問いに答えなさい。
「人の大脳にある大脳皮質は、構造・特徴の上で三つに分けることが出来る。その三つの名前を答えなさい」

雪ノ下雪乃の答え
「新皮質・原皮質・古皮質」

教師のコメント
おみごとです。ちなみに新皮質は大脳の外側に、他の二つは大脳の内側に位置していることも覚えておきましょう。

土屋康太の答え
「B・W・H」

教師のコメント
B→バスト W→ウエスト H→ヒップ

吉井明久の答え
「あのう・そのう・このう!」

教師のコメント
君は生物の授業をなめているんですか。


第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (1)

 飯盒炊飯も終わり、本日のボランティアについてはこれにてお開きとなった。後は平塚先生と西村先生に本日の報告をして、自分達も床に就くのみとなる。小町と葉月については、時間も時間ということで先に休んでもらうこととなった。そして、当然ながらその話し合いで出ていたのは、鶴見留美の問題についてだった。

 当たり前のことではあるが、今回の林間学校において露骨に問題点として出るべくして出たものだ。当然これについては小学校側にも報告される流れとなる筈。

 だがここで、平塚先生は俺達にこんな提案をしてきた。

 

「責任はすべて私が取ろう。だから、君達で一つ、今回の問題点について話し合ってみたまえ。その結果については事前に伝えるでも、事後報告でも構わない」

 

 この提案に、俺は目を丸くする。確かに平塚先生が責任を取ってくれるというのであれば大体のことは問題ないように思えるが、それにしたって随分とまた強気なようにも思えた。と言うより、根本的には違う考えがあるのではないか。平塚先生の行動の裏をどうしても読もうとしてしまう自分がいることに気付いた。

 

「平塚先生が言うのであれば、俺も責任を取る。ただし、吉井に坂本は行動のし過ぎには十分注意する様に。特に吉井は突っ走るなよ」

「どうして僕と雄二だけ名指しな上に、さらに僕は念を押されるんですか!?」

 

 なんとなく西村先生の言葉もごもっともな気がしないでもないが。

 

「それじゃあ、私達は向こうの先生方と打ち合わせをしてくるので、何かあればまた連絡したまえ」

「頼んだぞ……」

 

 そう言うと、平塚先生と西村先生はその場から立ち去ってしまう。

 残された俺達は、今回の件についての話し合いを始めることとなった。

 議題は当然、鶴見留美の問題をどうするかについてだ。

 

「俺は、やっぱり一度全員で話し合いをするべきだと思う。両方がしっかりと話し合えば、きっとみんな仲良くなれると思うんだ」

 

 葉山は相変わらずの笑顔でそう提案する。

 それはあまりにも愚かすぎる考え方だ。ここまで誰かを明確に仲間外れにしているというのに、話し合いに意味なんてあるわけがない。そもそもそんなことをしたところで当事者が余計に立場を悪くするだけであり、結果的に虐めは激化する。初めはただ単に無視されるだけだったものが、表では何もないように取り繕い、裏でもっと別の何かに変化するだけだ。それでは根本的な解決にならない。

 

「貴方のやり方では、何も解決しないわ」

 

 そしてそのことに、やはり雪ノ下も気付いていた。

 今回、葉山が行ってきたことに対してあまり肯定的な意見を持ち合わせていない雪ノ下だ。それにしたって随分と葉山に突っかかることは気になるところではあるが、概ねその意見に賛同出来ないのは確かだった。ただし、代わりに雪ノ下が提示した意見とは──。

 

「私なら、相手を徹底的に叩き潰すわ」

 

 それはそれで、悪手に他ならない物だった。

 誰もが雪ノ下雪乃のように強いわけではない。誰もが独りであることに対して誇りを持っているわけでも、ましてやそれで耐えられる心があるわけでもない。鶴見留美には雪ノ下雪乃のような強さもなければ、俺のように孤独に慣れている心があるわけでもない。形上、吉井の手によって親しい者が増えたことは確かではあるものの、いつも自分がいる場所において近くに居る人物がいるわけではない。そして何より、雪ノ下の提案は叩き潰せればまだいい。もし中途半端にそれが上手くいかなかった場合は──。

 

「ねぇねぇ、二人とも。どうしてそこまで極端な意見が出るの?」

 

 ここで口を挟んだのは、意外にも吉井だった。

 

「何よ、吉井の癖に口だそうだなんて。今は隼人が──」

「待って。意見を聞くのは大事なこと」

 

 三浦が口を挟もうとしたところで、霧島によって遮られた。

 

「……そうですね。今は喧嘩をするべきでも、ましてや相手の意見を論破する場所でもありません。みんなの考えを出し合って、問題を解決する為の策を出していくことが大事です。この話し合いにおいて、ゴールは鶴見留美さんに対して私達から働きかけることが出来ることは何か。そこを突き詰めていくことにしましょう」

 

 真剣な眼差しで周囲を見渡しながら、しっかりとその場をまとめたのは姫路だった。俺の中での姫路の印象は、どことなくおどおどとしたような雰囲気を持つ、自分自身の意見を持たない人物というものだったのが、一気に変わった気がする。言うべき所ではしっかりと意見をすることが出来るのだろう。

 その流れをしっかり汲んだ上で、吉井は口を開いた。

 

「一番大事なことはさ、当然今の問題をどう解決していくのかも大事なんだけど……留美ちゃんがどうしたいかによると思うんだよね」

 

 それは確かに最初に思わなければいけないことだった。

 これだけの人数が居れば、何かしらの意見が出て、何かしらの方法で手を出すことは可能だろう。しかし何より大事なのは、『本人が何を考えていてどうなることを望んでいるのか』という所だ。俺達が語っているのは机上の空論でしかなく、自分達自身の主観によって編み出されたものの集まりに過ぎない。葉山の意見も、雪ノ下の提案も、すべて自分自身の主観で話していることに他ならない。そこに、鶴見留美の意思はない。

 

「確かに、留美ちゃんは困ってる。僕も出来る限りのことをしてあげたい。でも、留美ちゃんの考えもしっかり聞いてあげないと駄目だよ。だって僕達は、留美ちゃんの現状は知っていても、留美ちゃんの考えはまだ何も聞いてないんだから」

 

 誰も、その意見に対して反論する人はいなかった。吉井の言葉は、別に鶴見留美を否定するものではない。むしろ肯定し、彼女を尊重した上で言っていることだ。

 そうだ。結局の所人間は人間を救うことなどそう簡単には出来ない。全知全能の神でないし、何処ぞの国の油田王でもない。人は勝手に行動し、その結果勝手に助かる。そこに明確な意思があるのなら、その方向に事は動こうとするのだろう。

 まして、小学生だからとかそういった理由で動くわけではない。吉井にとって、鶴見留美はもう友人なのだ。あのバカは今、友人が救われる為に必死に考えているんだ。

 本当、何処までコイツは優しいのだろうか。

 

 ──優しい奴は嫌いなはずなのに、不思議とその言葉を振り払えない自分がいることに気付いた。

 

 そういう奴は、ただ優しいのだ。何があろうとも、そこにどんな真意があろうとも、『優しい』を大前提にして動く。その優しさは時として残酷なこともあるというのに。

 葉山も言ってしまえば優しい人間だ。言葉だけで見てしまえば、葉山も吉井も言っていることにそこまで大きな違いはない。

 ただし、根本にある考えが違うのだ。

 だからこそ、葉山隼人は吉井明久の意見を覆すことが出来ない。反論出来ない。

 

 ──当然ながら、俺もただその言葉に耳を傾ける他なかった。

 

 




番外編も何話か更新し、ようやっと本編再開です!
果たして林間学校における解決策はどのような方法が提示されるのでしょうか……?

そして……。

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