やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第七問 言うまでもなく、優しさは人に影響を与える。 (2)

 次の日。

 昨晩に雪ノ下と葉山の関係性について色んな事を聞いたり、今朝に至っては戸塚の連絡先をゲットすることが出来るという嬉しすぎる青春ラブコメイベントが発生したりしたが、今日は夜に行われるキャンプファイヤーや肝試しの準備ということで、朝から労働する羽目になっている。小学生達は自由行動とのことで、今回は平塚先生や西村先生もそっちに手を回すこととなっているらしい。

 俺は黙々とキャンプファイヤー用の木を組み立てていたが、

 

「八幡、手伝うよ」

 

 そんな時にやってきたのは吉井だった。

 昨日の話し合いの時、コイツの影響力は正直言って大きかったと思っている。もしあのまま葉山と雪ノ下が対立を続けていたとしたら、正直な話ただ喧嘩して終わりだっただけの可能性すらあった。吉井が発言したことにより、現状を見守りつつ、さり気なく鶴見留美に彼女の考えを聞き出すという方向に持って行くことが出来たのだ。そのうえで助けを求めてきたのならば、その時に対処方法を考える。

 とはいえ、今回に関しては時間がない。解決をするにはあまりにも困難だ。

 

 なら、最初からその問題が発生しないような状況を作り出すこと――即ち、問題の『解消』を行うことが出来たとしたら?

 

「ねぇ、八幡。留美ちゃんの件、もしかして何か考え浮かんでるの?」

 

 木を組み立てながら吉井が尋ねてくる。ちっとは自分でも考えちゃくれませんかね……基本的にこう言った作戦担当を俺や雪ノ下にぶん投げてる気がするんだが。

 

「一応な。だが、最終的にはお前の言った通り、あの子がどう考えるかによる。何もしなくて済むのならそれが一番疲れなくていいからな」

「相変わらず八幡は仕事したくないサラリーマンみたいなこと言うね。将来困っちゃうよ?」

「お前よりは困らない自信あるから安心しろ」

「あれ? なんか何も安心出来ないぞ?」

 

 そりゃお前の将来先行き不安だらけだからだろうな。

 

「でもよかった」

「ん、何がだよ」

 

 吉井が何やら安心したような表情を見せてくる。今の会話の流れで、一体何処に安心するような要素があったのかはさっぱり理解出来ない。次なる言葉を待っていた俺に吉井が言ってきたのは。

 

「なんだかんだで、やっぱり八幡は他人の為に動くんだねって」

「……」

 

 コイツは一体何を言っているのだろうか。

 俺が他人の為に動いている? 確かに、頼まれたことに関しては基本断らないようにしている。断ることが面倒だし、断った後に自分に降りかかってくるものの方が余程大変であることを承知しているからだ。何もしなくていいのならばそれが一番であることに変わりない。

 何より、俺は俺の為にしか基本的に動かない。

 それをコイツは勘違いしているのだろうか。

 

「屁理屈言ってるけどさ、結局八幡は今回だって留美ちゃんの為に動こうとしているでしょ? もし本当に何もしなくていいのだとすれば、そもそも考えようともしないじゃない?」

 

 どうしてコイツは、いつもはバカであるのに。

 肝心なところに関しては鋭いのだろうか。

 

「後回しにするより、先に片付けておいた方が苦労しないだけだ。別にお前が考えているようなことは何も……」

「そうかな? もし八幡が優しい人じゃなかったら、きっと由比ヶ浜さんや島田さんも、八幡に感謝するようなことはなかったと思うし、葉月ちゃんが懐いていることもなかったんじゃないかな?」

 

 由比ヶ浜に島田は、たまたま自分達がそういう状況下に置かれた時、そこに居たのが俺だっただけの話だ。別に俺じゃなくてもよかった筈。例えばそれこそ、その状況を見ていたのが吉井だったとしても動いた筈だ。故にそこに特別だとか、本物だとかは存在しない――そう考えていた。

 葉月の一件だって、最初に動いたのは吉井だ。俺は別に何もしていない。ただ、彼女には兄のような立ち位置の人物がいなかったから、たまたま自分に懐いただけの話だ。

 俺は、別に優しい人間ではない。

 本当に優しい人間と言うのは、きっとコイツや由比ヶ浜、そして葉山のような奴のことを指すのだろう。

 

「……手、止まってんぞ」

「え? あ、ごめんごめん」

 

 そう言って吉井は木を組み続ける。

 俺も、吉井と一緒に組み立て続ける。

 やがて俺達は黙々と作業を続け、そんなに時間が経たないうちにキャンプファイヤーの土台が完成していた。

 

「終わったぁ~!」

 

 吉井は気持ちよさそうに両手を伸ばしている。

 俺も少し肩が凝っているような気がしたので、両腕を軽く回していた。

 

「お疲れさん、二人とも」

「あれ? 雄二。木の調達は終わったの?」

 

 そこにやってきたのは坂本だった。

 

「まぁな。明久と比企谷も終わったんだな」

「ま、まぁ……」

 

 特に答えを用意していなかった為に何故かどもってしまう自分がいる。

 

「んで、明久。姫路達がなんか呼んでたぞ。川の方に行って来いよ」

「え? 姫路さんが? ありがと、雄二」

 

 一仕事終えた吉井は、坂本の言葉通りに川沿いに向かう。残されたのは俺と坂本のみ。別に今の所肝試しの時間までまだまだあるので、特に仕事があるわけではない。だから休んでてもいいわけなのだが。

 

「んで、比企谷。今回の件、お前ならどうする?」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ、坂本は尋ねてきた。

 ……なる程な。コイツ、恐らく考えを持っている。そしてきっと、俺と同じことを思いついているのだろう。ほかの奴らではなく、敢えて俺を指名して尋ねてきたのだ。その予想はきっと的中している筈。

 

「問題の解決なんて今日一日でどうにかすんのは無理な話だ。鶴見留美が望むかどうかは知らんが、やれることがあるとすれば――」

「問題の解消。そもそも問題そのものをなくしちまえばいい。そんなところだな?」

「……やっぱお前、同じこと考えてんだろ」

「そうかもな。となりゃ、俺達なかなかに気が合うってことじゃねえか」

 

 なんだかその台詞は無性に腹立つな……しかもそんな不敵な笑みを浮かべながら言って来るのは正直イラっと来るんだが。

 

「不快そうな表情隠そうともしねぇな」

「取り繕う必要もねぇからな」

「それもそうだな」

 

 一しきり笑い飛ばした後、坂本は言った。

 

「解消方法は一つ。鶴見留美の周囲の人間関係をぶち壊す。そんなところだろ?」

 

 そうだ。

 解決は出来ずとも、鶴見留美を取り巻く人間関係をリセットしてしまえば解消は出来る。そこからどうするかについては、それこそ鶴見留美本人次第ということにはなるが。

 そして、リセットする為の方法として利用するのが――。

 

「肝試し。二日目の夜にそう言ったイベントを仕込んでおいて、次の日帰りの時間があるってことを承知の上で実行するってか? ま、雑だがそんなところだろ」

「……お前、悪知恵働くんだな」

「これでも神童なんてあだ名つけられる位だからな。そんなこともうどうだっていいけど」

 

 さほど昔のことなど興味ないかのように吐き捨てる。

 いや、興味ないと言うよりは、その事実を忌み嫌っているというレベルまで達するだろうか。

 

「決行すんのは今夜だな。友達の為に頑張ろうぜ。出来ることなら俺も協力するからよ」

「……友達ってのは誰のことだよ」

「今注目のお姫様って所だろ? 騎士にはなれずとも、参謀にはなれんだろ?」

「姫を助けるのは王子の役目だろ」

「その王子が役立たずのポンコツだから仕方ねぇだろうさ」

 

 コイツは王子のことが嫌いなのだろうか。

 

「ま、お前もお前で、この先色々苦労するんだろうけどな」

「大きなお世話だ」

「かもな。んじゃま、俺達も川に行こうぜ」

「何、俺達も姫路に呼び出されてたりすんのか?」

「いや、川で土屋や木下が休憩してるからよ。それで一緒にどうかと思ってな。どうせやることねぇならちったぁ付き合えよ。平塚先生も言ってたんだろ? 卒なくこなしてみろ、って」

「……そうかよ」

 

 特にこの後やることもなかった俺は、坂本と一緒に川沿いへ向かうこととなった。

 




祝! UA数80000突破!
応援ありがとうございます!!
文字数もなんだかんだでついに90000字超え。もうすぐ10万字行きますね……そこそこの長編小説になってまいりました。
さてさて、順調に準備段階へ突入していく形となっております。
これから先、一体どうなっていくのでしょうか?

(そろそろ一色いろはを出したいと思っている作者です。バカテスからも工藤さんや優子さん、そして久保君を出したい……。

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