坂本に連れられて川の方までやってきた。そこで目にしたのは――。
「あ、お兄ちゃんだ! おーいっ!」
「へ? あ、ひ、ヒッキーっ!?」
何故か川で水着を着てはしゃぎ回っている小町と由比ヶ浜だった。小町の水着はフリルのついた黄色いビキニタイプ。由比ヶ浜のは、スカートのついた水色のビキニタイプ。何という万乳引力だ。これが乳トン先生の実力か。
いや、それよりちょっと待て。そもそも何でコイツらは水着を着ている?
「平塚先生から川で遊べるって言われたから……」
そういや説明の時にそんなこと言われた気がするな。正直行く気がなくてほとんど聞き流してたせいで何も頭に残っちゃいないが。
「ま、そういうこった。比企谷は水着持ってんのか?」
ちゃっかり自分の分の水着を見せつけてきながら坂本が尋ねてくる。当然俺はそんなこと頭に入れていなかったので持っている筈がない。どの道こんな暑い中、ただでさえ労働した後だと言うのに身体動かしたりなんてしたら干乾びて打ち上げられる自信すらある。体力のなさを舐めないで欲しい。
「持ってねぇって……」
「あれ? みんないつの間に来たの?」
見ると、既に水着を着ている吉井が居た。その後ろからは、フリルのついた青色の水着を着た姫路と、赤と白の水着を着た島田がやってきた。島田は俺の顔を見た途端に少しだけ顔を赤くしている。え、何か怒らせるようなことしたっけか?
「は、ハチ……どう、かな?」
身体をもじもじとさせながら尋ねてくるその姿勢に、正直俺の心は鷲掴みにされそうだ。そのまま勘違いした上に川に流されてダムに沈められる自信すらある。俺は一体何処へ向かってるのん?
「い、いいんじゃ、ねぇか?」
「そ、そっか……ありがと」
前髪を弄りながら礼を言って来る島田。
待ってくれ、これなんて青春ラブコメだ?
ただ、何故か由比ヶ浜がハムスターみたいに頬を膨らませているのが見える。本当にどうしてなんだ?
「おにいちゃーん! バカなおにいちゃーん!」
その後を追いかけてくるように、今度は葉月がやってくる。葉月は学校指定の水着を着ているようだ。うん、これはこれで似合っていると思う。いや、学校指定の水着に似合っているも何もないんだがな。
そして葉月はそのまま、吉井の腕にしがみ付いていた。
「葉月ちゃんも可愛いよ!」
「ありがとうですーっ!」
嬉しそうに目を細めている。
可愛い。が、俺の妹は小町だ。
「お兄ちゃん? 何か小町の妹的立ち位置が危ぶまれた気がしたよ? 小町的にポイント低い?」
「何言ってんだ。世界一可愛いぞ小町」
「うわぁ適当だなぁ」
こんなどうでもいい会話に反応する小町はやっぱり可愛いし俺の妹だ。
「あら、何鼻の下を伸ばしているのかしら?」
そんな中、次にやってきたのは――。
「お、おう……」
綺麗だった。
目の前に居るのはまるで精巧に作られた人形のような女性。
雪ノ下雪乃の水着姿は、それだけ完成されていた。
「……雄二。他の女の子にうつつを抜かさない」
「しょ、翔子? 俺は別に……」
どうやら見惚れていたのは坂本も同じだったようだ。
背後から聞こえてきた声に身体をビクンと反応させながら坂本は振り向いて、そのまま声を失っていた。すこし気になった俺も、後ろを振り返ってみる。
黒の水着を着た霧島翔子は、雪ノ下雪乃と負けない位美人だった。
「……どう?」
「い、いいんじゃないか?」
頬を掻きながら感想を言う坂本。
どうやらコイツと霧島が幼馴染同士というのは本当のようだ。しかもその上、霧島は目に見えて分かりやすく、坂本に対して好意を抱いている。坂本もそのことは多少感じているのか、それとも何も言わないだけなのか。
いずれにせよ、これだけは言える。
リア充爆発しろ。
「……眼福」
そんな時、鼻血をたらっと流しながらカメラを構える土屋の姿を発見した。
俺は無言でソイツに近づいて、
「……小町を撮ったらどうなるか分かっているな?」
「……承服しかねる」
「カメラぶっ壊す」
「……話を聞こう」
これで、悪の道から妹は守られた。
「本当八幡って、シスコンだよね……」
葉月を撫でながら言っても正直何の説得力もないからな、吉井。
※
水着を持っていないのは俺だけだったみたいで、一仕事を終えた奴らが次々と水着を着て川へやってくる。戸塚と木下は何故かパーカーを羽織っている。はぁ、俺も戸塚に水かけたかったな……。
木陰に体育座りしながら川の様子を眺めていると、
「……ん、おう」
少し俯きがちに、鶴見留美が隣に座り込んできた。
「なんで一人なの?」
いきなりな質問だ。
確かに、川でアイツらが遊んでいるにも関わらず、俺は一人でぼけーっとしている。傍から見たら目立つ光景なのかもしれないな。
「水着忘れたんだ。お前は?」
「お前じゃない。留美。私達、友達なんでしょ?」
「そりゃ悪かったな。ルミルミ」
「ルミルミ言うな……」
今のやり取りで多少気が紛れたのか、ルミルミ――留美がようやっとその口を開く。
「今日自由行動なんだって。起きたらもう誰もいなかった」
「そっか……」
しばらく無言の時間が続く。
ぼっち同士がこうして隣同士で座り込んでいても、正直話題なんて何も見つかるわけでもない。気の利いた会話なんていうのは、葉山とかが得意そうな分野だ。俺はそんなのちっとも得意じゃない。必要ないからやらないまである。
そんな俺達に気付いたのか、吉井や由比ヶ浜、そして雪ノ下が近づいてきた。
「留美ちゃん!」
「ちゃんづけはやめてって……」
「あ、ごめんごめん。留美も一緒に遊ばない?」
「……私も、水着持ってない」
元々泳ぐことを前提にしている林間学校ではないだろうから、水着を持っていなかったとしても仕方のない話だろう。吉井の提案はあえなく撃沈となった。
「あれ? そのデジカメって……」
由比ヶ浜が何かに気付いたように留美の首からぶら下がっている物を指差す。
留美はデジカメを大事そうに抱えながら、
「お母さんが持たせてくれたの。林間学校でたくさん写真を撮ってきなさい、って……友達との……」
「そう……」
何か含みのある反応をする雪ノ下。
家族関係のこととなると、雪ノ下は嫌に敏感に反応するように見える。何か思う所があるのだろうか。今は考えても仕方のない話だが。
「それならさ、僕等と一緒に撮ればいいんじゃないかな?」
何という理論。
吉井が満面の笑みでそう言ってきた。
「え?」
これには留美もポカンと口を開けている。
「せっかくだからみんなも呼んで……」
「だいぶ趣旨変わってんぞ。高校生同士の写真を撮ってどうすんだよ」
「いいんじゃない? だって僕達友達でしょ?」
……そう言えば、昨日コイツの発言によって『友達』になったんだった。思い返してみれば留美もまた、俺のことを『友達』と言ってきたな。コイツはコイツで、昨日のことをしっかり覚えていたのだな。
そして、留美が言われたのは『友達との写真を撮ってくる』ということ。
間違ってはいない。うん、間違ってはいないんだが……いや、まぁ、うん。
「……カメラなら任せろ」
いつの間にか復活していた土屋が、木の上から突然姿を現した。
コイツ今まで何処に居たんだよ。
「い、いつの間にそこに居たの……」
雪ノ下がこめかみを抑えている。
由比ヶ浜は何故か『忍者みたーい!』って言いながら喜んでいる。吉井に至っては最早慣れているのか平然としていた。いや、これに慣れるっておかしくね?
「わ、私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「う、ウチも!」
そこに、姫路や島田も入ってくる。
気付けば葉山グループ以外はほぼ全員ここに集まってきていた。
いや、なんでこういう時の動き迅速なの?
「……八幡。これって……」
「まぁ、これはこれでいいんじゃねえの? 知らんけど」
「……」
少し、留美の表情が明るくなった気がした。
だからこそ、今尋ねるべきなのかもしれないと思った俺は。
「……惨めなのは嫌か?」
「……うん」
一度こう言った温さを味わってしまうと、余計に小学校における自分の立ち位置が嫌と言う程実感出来てしまう。こんなのはイベント事の一過性でしかない。元の日常というのはもっと残酷で、ぼっちにとっては辛いだけの現実が待ち受けているのだ。
そして、留美は『惨めなのは嫌だ』と決定的な一言を発した。
コイツは、自分の意思で助けを求めた。
「でも、私も見捨てちゃったから……」
そして、留美は何故自分がそうなったのかも理解している。
理解した上で、惨めなのは嫌だとはっきりと口にした。
なら、俺に出来ることは――。
「肝試し、楽しいといいな……」
「え?」
「……後はお前次第だ」
この場に居る人達で、留美のカメラを使って集合写真みたいなものを撮りながら、俺は決心する。
――問題。世界は変わりません。自分は変えられます。さて、どう変わりますか?
――答え。新世界の神になる。
今回の水着回を書く上で、小説を読み返したり、アニメを見返したり、バカテスの水着回を見直したり、様々やっていたのですが……キャラ多い!!
キャラ多すぎる!!
……失礼しました。
明久がいい感じに動き回ってくれるので、暗さ一辺倒にならずに済みました。
そして、留美の本心を聞き取った八幡は、満を持して行動に移ることとなります。
次回、肝試しが始まります。
そこで今回の解消方法――並びに、留美に対するある一つの提言がなされます。
いよいよ本格的に動き始める林間学校編。
お楽しみに!