以下の問いに答えなさい。
「『冒涜』という漢字の読みと、その例文を答えなさい」
雪ノ下雪乃の答え
「読み……ぼうとく
例文……彼のその発言は神に対する冒涜だ」
教師のコメント
正解です。ちなみにこの漢字の意味は、神聖なものを冒し汚すことです。覚えてしまいましょう。
由比ヶ浜結衣の答え
「読み……ぼうよみ
例文……彼は演劇の台本を冒涜した」
教師のコメント
何故でしょう。読みを無視すれば、例文は間違っていないようにも見えるのですが……。
戸部翔の答え
「読み……しょうとく
例文……冒涜大使は一度に十人以上の話を聞けるらしい」
教師のコメント
聖徳太子に対する冒涜です。
バイトをしよう。
僕がそう決意をしたのはGWに入る前。大型連休を前にして、仕送りのほとんどをゲームや漫画に使ってしまい、しかもその上ほとんど鉄人に没収されたのだ。最も、没収されたものについては、平塚先生から奉仕部に対して課せられた、『林間学校でのボランティア活動』の依頼を受け入れる代わりに返してもらい、そのほとんどを売ったわけだけど、そのお金は葉月ちゃんのぬいぐるみを買うことによって使い切った。
そう言えば葉月ちゃんのお姉ちゃんって美波のことだったんだよね……ということは、あのぬいぐるみは美波が欲しがっていたということになるのかな。
ともかく、僕の口座にはもうお金が振り込まれていなくて、そうなるとこのままでは僕は生活が出来なくなってしまう。GWの途中で林間学校に行けたのは、食事的な意味では本当によかったと思う。だけど、それ以降の生活が若干怪しいなって考えた僕は――そこでふと思いついたのだった。
そういえば、今月の仕送り、まだもらってない。
僕は早速母さんに連絡を入れ--結果、失敗に終わった。
そこでGWも終盤に差し掛かった八日目である今日、僕は雄二達と一緒にアルバイトに来ていた。
雄二に教えてもらったこのバイトは、募集人数五人となっていたこともあり、秀吉やムッツリーニ、そして――。
「なんで俺まで……?」
八幡にも協力してもらう形で、バイトに来てもらうことにした。
林間学校で小町ちゃんと話した時、八幡を誘う時には断らせないようにするのが正解だと言われた為、雄二に作戦を練ってもらって、逃げ場をなくした上で来てもらうことにした。ごめんね、八幡。だけど八幡って絶対力になると思ったから。
「八幡ならきっと頼りになると思ったから。駄目だったかな?」
「……」
八幡は何か言いたげな表情を浮かべたけど、その後渋々受け入れてくれた。やっぱり八幡ってば優しいよね。
「で、ここがそのバイト先なわけじゃが……」
「……なんだか雰囲気がおかしい」
駅前にある個人経営の喫茶店。
何故かそこは、雰囲気が少しだけどんよりしている気がした。いつも通りかかる時にはこんな雰囲気はしていない筈なのに……一体何があったというのだろうか。
「……どうする? 帰る?」
「何いきなり帰ることを推奨しておるのじゃ!?」
「どんだけ八幡は帰りたがりなのさ?!」
まだ始まってすらいないのに帰ることを推奨するなんて!?
でも、確かに今の喫茶店には入ろうという気があまりしないのは確かなんだけれども……。
「とりあえず、このまま突っ立っていても何も始まらねぇし、開けるぞ」
「あ、う、うん」
雄二が先陣切って扉を開けた。
するとそこに居たのは――。
「い、いらっしゃい。今日一日、バイトで来てくれた子達、だよね?」
物凄く暗い表情を浮かべている男の人が僕達を迎えてくれた。
「よ、よろしくお願いしますー……」
とりあえず店長に挨拶をした僕達は、固まって話を始める。
「……なぁ、あの人、本当に大丈夫なのか?」
「油断をしたらすぐにでも富士の樹海に飛び込みそうな雰囲気を出しておるぞ……」
「これは噂なんだが……奥さんと子供に逃げられたらしい」
「……かなり由々しき事態」
上から順番に、八幡、秀吉、雄二、そしてムッツリーニの四人。
「そ、それじゃあ、制服はこれだから、これに着替えてね……」
そう言って店長が僕らに渡してくれた服を確かめて……。
スッ ← 制服を渡した音。
パシッ ← 僕らが制服を受け取った音。
そっ…… ← 僕らがそっと制服を置いた音。
「「「「制服が合いません」」」」
「性別が合いません!!!」
僕等はほぼ全員、一斉に抗議をしたのだった。
「どういうことですか!? 俺の奴どう考えてもサイズが明らかに小さすぎるじゃないですか!!」
「俺のも、これ入らないと思うんですが……」
雄二と八幡に関しては、どう考えてもサイズが小さすぎる。これ明らかにSサイズじゃないだろうかっていう服のサイズを渡されていた。僕のは頑張れば着れるかもしれないけれど……ムッツリーニはサイズが逆にデカすぎる。そして秀吉は何も間違っていないのにどうして抗議をしているのさ!?
「え? あ、いや、その、ね?」
店長は明らかに焦っているようだった。
もしかしたら単に間違えただけかもしれないので、一応真相を確かめてみることにする。
「坂本君と比企谷君が、Sで……吉井君が、Mで……土屋君が、えr……Lに見えたんだけど……」
「それは服のサイズじゃなくて性癖ですよ!?」
「待て吉井。それはお前がMだということを自覚していることになるぞ」
あれ?
八幡の言う通り、僕は今自分でMだということを自覚してしまった!?
「……否定は出来ない」
「そこは否定してよムッツリーニ!! 第一君はエロじゃないか!!」
「……!!(ブンブン)」
凄い必死に首を振っているけれど、君の場合は普段の行いが行いだから、最早言い逃れなんて出来ないと思うんだけどね。エロであることに違いないと思うよ。
「ご、ごめんね? 性癖と制服を間違えちゃったみたいだ」
「どうやったら間違えるんですか!?」
「じゃからワシは性別が……」
「あ、あぁ! そしたら新しいの、はい、これ!」
今度こそ店長は僕達に合うサイズの制服を渡してくれた。
うん、やっぱりこれだよね。
「あ、あれ? ワシだけ何も変わっておらぬのじゃが……」
「え? 秀吉はそれで正解でしょ?」
「……木下。これ渡すからこっちにしておけ」
八幡が目を逸らしながら、先程店長に渡された制服を秀吉に渡す。
それは男物だから秀吉は違うんだって!!
「す、すまぬ八幡……恩に着るぞ」
「お、おう……」
なんで二人とも顔を赤くしているのさ!?
なにこれなんてラブコメ!?
「……おい明久。お前今バカなこと考えてる顔してるぞ」
「それって一体どんな顔なのさ!?」
なんだかとても失礼なことを雄二に言われた気がするぞ!?
「え、えっと、ロッカールームは狭いから、その、二人ずつ使ってね?」
「……廊下で着替えるのはありっすか?」
八幡は手を上げて尋ねる。
すると店長は、
「え? あ、うん。君がそうしたければ、それでも大丈夫だよ。今の時間なら、その、お客さんはまだ、来ないと思うから、ね」
「う、うす」
そのことを確認すると、八幡はそそくさと物陰に隠れて着替え始めちゃった。
仕方ないから、僕は最初にムッツリーニと二人で制服を着る。
慣れないウエイター服に苦労したけど、何とか着ることが出来た僕達がロッカールームから出てくると、
「おぉ……二人とも、似合っておるではないか」
「明久もムッツリーニも、比企谷も似合ってんぞ」
「お、おう……」
「そうかな? ありがとー」
八幡は頬を掻きながら、僕は少し照れながら答える。
秀吉に褒めてもらえるなんて今日はなんて嬉しい日なんだ!
「それじゃあ秀吉。俺達も着替えようか」
「そうじゃのう」
そして今度は雄二と秀吉が、二人でロッカールームに入っていく。
……うん? ちょっと待って?
秀吉と雄二が、二人で、ロッカールームに?
「「……ちょっと待てぇえええええええええええええええ!!」」
僕とムッツリーニの声が重なった瞬間だった。
というわけで、原作短編集でも屈指のギャグ回、バイト編スタートです!!