「何堂々と秀吉と着換えようとしているのさバカ雄二!!」
やばい!
このままだと秀吉の身に危険が――!!
「何言ってんだよ明久。男同士なんだからそんなの関係ないだろ?」
「それはあくまで戸籍上の話でしょ!!」
「戸籍上も何もワシは男じゃ!!」
「書類上の言葉を信じるな! 見くびったぞ雄二!!」
「……コイツらは一体何を言ってるんだ」
「何を言ってるんだはこっちの台詞だよ八幡! 秀吉が雄二と密室で二人きりなんだよ!? 八幡だって、彩加が雄二と二人きりで一緒の部屋に居たらどうなるか分かるでしょ!!」
「あくまで二人とも男じゃねえか……」
くっ、駄目だ……八幡は常識に囚われ過ぎている……っ!!
「雄二、こうなったら僕にも考えがある」
「なんだ明久。突入だけはするんじゃねえぞ? バイト来て逆に金払うようなことだけは絶対に避け……」
「霧島さんにこのことを包み隠さず暴露する」
「よし分かった廊下で着替えよう」
「分かってくれて助かるよ」
「どうしてそうなるのじゃ!?」
中では何やら秀吉が困惑したような声を出していたけど、雄二は分かってくれたみたいで何よりだ。
「……命拾いしたな」
「……なんで戦地で敵と相対するようなこと言ってんのコイツ」
ムッツリーニの言葉に八幡がツッコミを入れていたけど、それはその通りだからだよ八幡。
「とりあえず、八幡とムッツリーニ。二人が着替えている間に店長の所行こうよ」
「……了解」
「……おう」
秀吉と雄二が着替え終わるのにも少し時間がかかるだろうし、僕達は先に店長の所へ行って開店準備を手伝うことにした。
※
「店長ー。もうすぐ開店時間ですよ、ね……?」
僕達三人が店の所までやってくると、店長は暗いオーラを出しながら天井を眺めていた。それも完全に死んだ目で。まるで何かに囚われたかのように。
そんな店長は、僕の声に反応したのか、ハッとしたような表情を浮かべた後で、
「あ、そ、そうだね!」
取り繕うようにそう返事した後に、再び遠い目をしてしまった。
「……こうして、僕が独りでもしっかり店を切り盛りしていけば、きっと娘も帰ってくるよね……?」
「……お客さん、いっぱい来るといいですね」
駄目だ。
店長は自分の世界に入り込んでしまっている。
「……吉井、土屋。これは大丈夫なのか?」
「やっぱあの店長やばくない?」
「……危険かもしれない」
僕達三人の意見は凡そ一緒だった。
このまま今の状態の店長に任せたとしても、きっと大丈夫じゃない。
そして店長は、僕達が聞いたわけでもないのに、まるで昔話を思い出すかのように語り始める。
「僕の可愛い、可愛い娘はね……二歳の頃は、『お父さん大好き!』が口癖だったんだよ」
「店長。それはねつ造です。赤ん坊との会話が成立するのは二歳からです」
八幡が的確なツッコミを入れているけど、店長の耳には届いていないみたいだ。
「それなのに……それなのに……最近娘から出てくる話は……はなし、はぁあああああああああああああ!!」
突然叫び出した!?
一体何がトリガーだったの!?
「お、落ち着いてください店長! 店長の可愛い娘さんは……」
スッ ← 店長が突然ナイフを取り出した音。
チャキッ ← 店長が僕の頸動脈にナイフを突きつけた音。
だらだら ← 僕の汗が滝のように流れ出る音。
「地獄の閻魔への挨拶は済ませたか」
「ちょぉおおおおおおおっと待ってくださいてんちょぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
どうなってるのさ!!
いきなり低い声を出してきたと思ったら、突然店長がナイフを僕に突きつけてきたよ!? これおかしいよね!? どう考えてもやばい展開だよね!? 僕の命完全に取られるよね!?
「……あぁ、ご、ごめん、ごめんね? そうだよね、これは吉井君の頸動脈だもんね? 僕の可愛い娘を突け狙う輩のじゃないもんね?」
すぐに元の店長に戻って、ナイフもそっと仕舞う店長。
そんな店長を一通り眺めた後、僕とムッツリーニと八幡は、再び会議を始める。
「ムッツリーニ。アウト、セーフ?」
「……チェンジ」
「アウト三つで即チェンジかよ……」
「でもそれだけまずいよね? これかなり厳しい状態だよね? というか外に出していい状態じゃないよね?」
「……同感」
「けど、あくまで俺達はバイトだ。店長が外に出てはいけない状態なのはなんとなく察することは出来るが、それでも俺達だけで何とか出来るわけではない」
「そうだよね……一体どうすれば……」
八幡の言う通りだ。
だけど、今の店長が接客をやったら、それこそ道行く女性を相手にして『Dear My Daughter』とか言いながら飛びついてきそうな気配がする。それだけは何としても避けなくてはいけない気がする。
「……とりあえず俺に考えがある。吉井と土屋は、坂本と木下が来るのを待っておけ」
「……了解」
「うん……分かった」
八幡は店長の所へ行って、何か相談している。
僕とムッツリーニはその間に、二人が戻ってくるのを待っていた。
そして。
「お待たせしたのじゃ、三人とも」
「待たせちまったな」
ウエイター姿の秀吉と雄二がやってきた。
わぁ……二人とも凄いよく似合ってる。
「……男装姿も、悪くない」
「ワシは男じゃから男装も何もない!!」
ムッツリーニは早速と言わんばかりにカメラで秀吉のことを撮影しまくっている。何処からカメラ取り出したのかは分からないけど、後でその写真は買い取ることにしよう。
「……とりあえず店長に話はつけた。俺達が外で接客をして、店長はキッチンで料理や飲み物を作ることに専念してもらう形になった。なるべく店長には外出ないよう、せっかく俺達が来ているんだからということで説得した」
「いつの間に……まぁ、あの状況じゃ外出せないからな。それに俺達じゃ料理作れねぇし」
家庭料理ならともかく、確かお店で出す料理を作るには免許とか色々必要なんだっけ?
難しいことはよくわからないけど、今の状態の店長が外に出ないのならばとりあえず安心だね。
「とりあえず店員が全員外に出ていても仕方ないから、まずは誰かが出てくれ」
「そこで八幡が出るっていう選択肢はないんだね……」
「働きたくねぇんだよ……」
流石というかなんというか。
八幡はやっぱり働きたくないって言うんだね……最も、今こうしてバイトしてるわけだけど。
「なら、最初にワシが行こうかのう」
そう言って前に出てくれたのは秀吉だった。
うぅ、ウエイター姿の秀吉も可愛いけど、出来ればウエイトレス姿の秀吉が見たかったなぁ……あぁ、でもそんな秀吉を見たら店長が暴走してしまいそうだ。
そんなことを考えていたちょうどその時。
カランカラン、とベルが鳴って、男女の二人組が入店してきた。
「いらっしゃいませ。二名様でしょうか?」
入ってきたのは、中学生くらいの男女ペアだった。男の人は『いかにもイケメンです』って言ってそうな顔の人。女の子は、亜麻色の髪の可愛い女の子。くっ……デートか……これだからリア充は!
ここに須川君が居たら、FFF団の掟に則って……!
「……どうした比企谷? 何か嫌そうな表情浮かべて。知り合いか?」
店の裏で、雄二と八幡が何やら話をしていた。
そのほうを見てみると、何故か八幡は女の子を見ながら嫌そうな表情を浮かべている。
一体どうしたのかな?
「……いや、ああいう打算的な女子は警戒するに越したことねぇと思っただけだ。一挙手一投足があざとい」
「あざとい?」
八幡の言葉が気になった僕は、試しに秀吉が下がった後で二人の様子を眺めてみることにする。
「ここの喫茶店、珈琲が何でも凄く美味しいらしいよ?」
「へぇ~、そうなんだ~。それじゃあ私もそれにしてみようかなぁ」
「俺も同じものにするか」
「了解でーす」
「こうしてデートしてるわけだからさ、せっかくだし楽しもうね」
「そうだね~」
そんなやり取りをしている二人を見た、僕達の一言は。
「「「「あざとい」」」」
「お主らは何をしておるのじゃ……」
秀吉が何やら呆れたような感じで言ってきたけど、こればかりは仕方ないじゃないか。
だってあの女の子、八幡が言った通り一挙手一投足が『可愛い』んだよ? 話す時は自然と上目遣いだし、話し方もなんだか可愛い女の子の代名詞みたいだし。
それでもあの女の子は凄く可愛い。くっ……やっぱり……って、女の子?
「……っ!!」
やばい。
女の子を見て店長が反応しかけている……っ!!
今回の話には、さり気なくあの子が登場しております。
出すタイミングがあるとすれば、まさしくここかなぁ……なんて思ったので、登場しちゃいました!
ちなみに、始まりまでは原作とあんまり変わりませんが、ここからは大きく原作と逸れます。
何せ登場するキャラが全然違いますし……。
安心してください。
『Dear My Daughter』はちゃんと言います。