やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第八問 バカとバイトと大騒ぎな一日 (4)

「私、ここの喫茶店ってよく来るんですよー。でも、今まで見かけなかった店員さんですよねー?」

「え? 今さっきこの喫茶店初めてって……」

 

 女の子の言葉に、男の子が茫然としている。

 だけど、女の子は構わず八幡に話しかけていた。

 何というか、あの男の子可哀想になってきたよ……。

 

「そりゃまぁ、今日限りのバイトだからな……」

「そうなんですかー!? また会いたいなぁ、なんて思ったのに~。残念ですぅ」

「あざとい。やり直し」

「またあざといって言った!?」

 

 うん、今のはあざとかったと思う。というか八幡、今は店員だっていうこと忘れてないよね? 一応お客さん相手に敬語抜きというのは流石にどうなんだろう?

 けど、あの女の子も八幡に興味を抱いているっぽくて、男の子そっちのけで話しかけてるよ。

 

「……万死に値する」

 

 ムッツリーニの言葉もよくわかる。

 あれってつまり、女の子に無茶苦茶話しかけられている男の図だよね?

 

「まだ客が少ないからよいのじゃが、流石にいつまでも囚われっぱなしというのもどうかと思うのじゃが……」

 

 確かに、八幡もそろそろ奥に引っ込みたいって顔してる。

 そろそろ誰かしら行ったほうがいいのかもしれない。

 って、考えていたその時だった。

 カランカラン、とドアに備え付けられたベルが鳴り、お客さんが来たことを知らせる。

 僕はその音を聞きつけて出迎えると……。

 

「いらっしゃいま……って、葉山君!」

 

 入ってきたのは、葉山君達だった。戸部君や三浦さん、そして海老名さんも一緒だ。GWでもこうしてお出かけしてるなんて、やっぱり仲良しなんだね。

 

「あれ? 吉井君! ここでバイトしてたの?」

「今日だけなんだけどね。雄二やムッツリーニ、秀吉に……八幡も居るよ」

「マジ!? 一日バイトで喫茶店とかマジっべーわっ!」

 

 戸部君がテンション高めに驚いている。

 

「ヒキタニ君達五人でウエイターの服を着て、みんなで何をしちゃうの!? というかナニをしちゃうのかな!? これは、これはぁ……キマシタワァアアアアアア!!」

「どうして!? ちょっと姫菜! ここでは自重するしっ!」

 

 相変わらずの鼻血噴水っぷりを見せる海老名さんと、そんな海老名さんのお世話をするおかんスキルを存分に発揮する三浦さん。二人は何だかんだでいいコンビだよなぁ。

 ところで、そんな四人を見つめるカップルの片割れの女の子。

 最早男の子は状況に追いついておらず、言葉を失っているみたいだ。

 あ、八幡が女の子にぐいって引っ張られた。

 

「ちょっと。あの人物凄くかっこよくないですか? もしかしてお友達ですか?」

「ばっか、アイツと俺が友達なわけねぇだろ。釣り合わねぇっての」

「そうですねぇ。確かに月とすっぽんみたいなお二人ですもんね」

「こいつ……」

「人のことあざといって言った罰ですーっ。素直に可愛いって言ってくれればいいんですーっ」

「あざといもんはあざとい」

「うぐぐ……」

 

 とりあえず、このままだと話が進まないみたいだし、そろそろ僕達も動かなきゃ。

 

「雄二、葉山君達の対応お願い。僕は八幡の所行ってくるよ」

「任せとけ」

 

 とりあえず一旦葉山君達の相手を雄二に、店長を宥めるのをムッツリーニと秀吉に任せて、僕は八幡の応援の為に向かうことにする。

 

「八幡、そろそろ他のお客さんの相手をしなきゃいけないと思うから……」

「あ、お構いなく~」

 

 違うよ?

 僕達がお構いあるんだよ?

 

「仕方ないですね……せめてあの人がどこの学校に通っているのか教えてくれませんか?」

「総武高校だけど……」

「僕や八幡も同じ学校なんだよ」

「本当、なんで吉井はあの学校受かったんだろうな……一応進学校だぞ」

「失礼な!? 僕だって入試シーズンは頑張ったんだよ!?」

 

 姉さんに相当詰め込まれたけどね!

 その反動か分からないけど、入試終わったらほとんど全部忘れちゃったよ!

 人間、キャパシティを超えた勉強をするべきじゃないってことだよね!

 

「本当ですか!? それなら、私も総武高受験してみることにします!」

「え、まじ?」

 

 八幡が心底嫌そうな表情を浮かべている。

 それに対して女の子が、

 

「あーっ! また嫌そうな顔してますぅ! それは酷いですぅ、せんぱい!」

「もう後輩気取りかよ……」

「私、一色いろはって言います! 総武高に受かったら、あの人のこと紹介してくださいよね? せ~んぱい♪」

「サッカー部入ってるからマネージャーにでもなっとけ。ほれ、これでいいだろ」

 

 うわぁ、八幡ってば仕事雑。

 

「っていうか、八幡。一応自己紹介したら?」

「え、嫌だよ。何されるか分かったもんじゃないし」

「僕は吉井明久。んで、この人は比企谷八幡だよ」

「ちょっと? 何勝手に自己紹介してんの? 名前知られちゃったら絶対後で悪い噂流されるだろ?」

「せんぱいは私のことなんだと思ってるんですか……」

「あざとい後輩」

「私ぃ、そんなにあざといですかぁ?」

 

 上目遣いで涙目うるうる攻撃!

 これはなんというか……正直凄く可愛い。

 こんな子が後輩として入ってきたらどれだけ嬉しいだろうなぁ。バラ色の高校生活を送れそうだよなぁ。

 

「……ま、まぁ。あざといのに変わりはねぇけど、その、いいんじゃね?」

 

 八幡が照れているのか、頬を掻きながら明後日の方向を向いている。

 

「そしたらせんぱい! 連絡先交換してください!」

「は? なんで?」

 

 あ、八幡本当に嫌そうな顔している。

 そんなに連絡先知られるのが嫌なのかな……。

 

「総武高受けるに当たって、色々と準備しなきゃいけないじゃないですか~」

「塾行け。そしてそこで勉強しろ」

「でも~、塾ってお金かかるじゃないですか~」

「お前が出すわけじゃないんだ。親の脛齧ってろ」

「うわぁ……なんかニートみたいな発言してますね」

「うるせ」

 

 気のせいかな?

 八幡、いつもより言葉数が多い気がする。

 そういえば八幡って、小町ちゃんがいるからなのか年下の女の子に対してはそこまで動揺する素振りもないよね。あまり緊張してないのか、それとももしかして――ロリコン?

 

「おい吉井。お前今変なこと考えてないか?」

 

 あれ? バレテーラ。

 

「ソンナコトナイヨ。八幡がロリコンだなんて思ってないよ」

「誰がロリコンだ」

 

 流石に否定された。

 

「それで、どうなんですか~? 連絡先、交換させてもらえないですか?」

「見知らぬ人に話しかけるなって教わってるから無理です」

「もう互いの名前知った仲じゃないですか~。これも何かの縁だと思って。人助けだと思って~」

「……吉井。何とかしてくれ」

「あれ? 完全に僕任せ!?」

 

 完全に僕に丸投げされちゃったよ!?

 こうなったら仕方ない……。

 

「えっと、僕が八幡の連絡先知ってるから、僕から送るよ」

「おいちょっと?」

「まぁまぁ八幡……言いたいことは分かるけど、このままだといつまで経っても終わらないから……」

「……」

 

 八幡も渋々と言った様子で納得したみたいだ。

 いろはちゃんも、それで妥協してくれたみたいだ。

 まずは僕といろはちゃんが連絡先を交換して、そしていろはちゃんに八幡の連絡先を送った。

 よし、これでバッチリと。

 

「ありがとうございます、吉井先輩♪」

「どういたしまして。それじゃあ改めてよろしくね? いろはちゃん」

「こちらこそで~す。せんぱいもよろしくで~す♪」

「お、おう……まぁ、その、なんだ? 出来ねぇことの方が多いけど、何か困ったことあれば連絡しろ」

「……」

「どした?」

 

 完全にキョトンとしている様子のいろはちゃん。

 ある程度止まったと思ったら。

 

「なんですかそれ口説いてるんですか後輩のことを想う先輩アピールで早速私に付け込もうとしているのですかそんな下心が見え見えですし私は今憧れの先輩が出来た所なので無理です」

「なんで俺早速振られてんの?」

「ていうか俺忘れられてない!?」

 

 あ、カップルの片割れの男の子がようやっと入り込んできてくれた。

 それを見越した僕と八幡は、やっと奥へ引っ込むことが出来た。

 ……それにしても、随分と強敵だったような気がする。

 




怒涛の一色いろは回です!
完全に八幡ロックオンされましたね……さり気なく後輩女子の連絡先をゲットした明久もなかなかのやり手です(なお、本人に下心は微塵もない模様)。
それにしても驚いたのですが、なんと7月24日のデイリーランキングにてついに6位という順位を獲得していたみたいです……応援ありがとうございます……っ!!
これからも頑張っていきます!!

そう言えば、次の話にだれを出そうかなぁって考えて原作を読み返したりアニメを見返したり、設定を漁ってたりしたんですけど……工藤愛子さんって……転入生でしたね……(軽い絶望)。
最初から入学している設定にしてしまってもいいんですが、転入生としてのネタもやっぱり入れてみたいですし……正直悩んでいます。

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