やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (2)

 昼休み。授業中は眠気に負けてほとんど夢の中で授業を受けていたような物だった。何度か島田に起こされたりもしたが。それはともかくとして、今日も今日とて俺のベストプレイスで昼飯を食べる。最近分かったことなのだが、ここから見えるテニスコートで練習していたのは戸塚だったみたいだ。アイツ部活もやってる上に昼休みに自主練しているのか……本当凄いな。というか眼福だ。とつかわいい。

 そうしていつものように購買で買ったパンを齧っていると、

 

「ハチ!」

 

 今日はそこに、島田がやってきた。

 

「島田か。どうしたんだ?」

「ハチと一緒にご飯食べたいなって思って。でも、話しかけようと思って振り向くと、もういないんだもん……隣、座ってもいい?」

「お、おう……」

「やった。ありがと、ハチ」

 

 俺に了承を取った後で隣に座って弁当を広げる島田。ご飯や卵焼き、ホウレンソウのお浸しや唐揚げと言ったお弁当の定番を入れつつも、きっちりと栄養バランスが整っている弁当だ。こうしてみると、島田って意外と家庭的だったんだな。そもそも妹の世話をしてたりしてるわけだから、当然なのかもしれないが。

 それにしても……近い。近くていい匂いがする。もう少し隣に来たらそれこそ触れちゃうんじゃないかって思う位近い。最近思うんだが、島田の俺に対する距離は何処か近い気がする。ぼっちのパーソナルスペースを金槌でぶち破ってくるレベル。最初の頃の距離感が懐かしいとすら感じてしまう。だが、不思議とこの距離感が嫌いじゃない。近いのは確かなのだが、必要以上に近づき過ぎないのだ。

 例えるならばそれは、奉仕部で四人と一緒に過ごしている時間と似ている。似ているが、何処か違う気もする。

 

 ――それは恐らく、甘美な誘いなのかもしれない。

 

 きっと島田は、この距離感についてはあまり意識していないのだろう。その証拠に、島田はただ黙々と弁当を食べている。時々最近の状況や葉月のこと、吉井達のことを話したりするが、必要以上に話題を投げ続けることはしない。時には沈黙している時間もあるが、それが決して気まずいとかそういったことは感じない。

 

 あぁ、これは駄目だ。この時間はとても温かく、甘く、そして――優しすぎる。

 

 いつまでもそのぬかるみに浸かってしまったら、抜け出せなくなるかもしれない。そうして勘違いをして、やがて黒歴史を生むことは分かり切っている筈なのに、こんな状況も悪くないと思っている自分がいる。成長したのではないのか。学習したのではないのか。このままでは二の舞いになってしまうのではないか。

 そんな不安を抱えつつも、やっぱり振り払えない自分がいる。

 

「……ねぇ、ハチ」

 

 そうして考えている内に、島田が少し心配そうな表情を浮かべつつ俺のことを見つめてきた。やめてくれ。そんな心配そうな表情で俺を見ないでくれ。島田が俺に心配する必要なんてないんだから。

 

「ハチはさ、少し難しく考えすぎなんじゃないかなって思うの」

「……」

「友達のことも、関係性のことも……留美の時もそうだったけど、もっと単純に考えていいと思う。それとも……何かきっかけがあったの?」

「……っ」

 

 きっかけがなかった、と言えば嘘になる。

 元々、俺はもっと単純だったのかもしれない。少し優しくされれば簡単に惚れてしまうような、そんな弱い人間だった。だが、それはまやかしであると、幻想であると理解したからこそ、今の俺がいる。

 由比ヶ浜もそうだが、島田もまた優しい女の子だ。最近見せている自然体の彼女こそ、本来の島田美波であり、そんな彼女はとても魅力的だ。別に贔屓とか色眼鏡で物を語っているわけではない。客観的に見ても、彼女は本来俺なんかより他の人物と一緒に居るべき存在だ。

 そんな彼女だからこそ、今の台詞が言えるのだ。

 

 ――分かっている。それが誰に向けられている言葉なのかを。

 

「……別にきっかけとか、昔の話とか、そういったことを聞くつもりはないよ。ウチはね、今のハチと友達になりたいの。過去がどうとか、未来がどうとか、立場がどうとか。そんなことは関係ないの」

 

 やめろ、やめてくれ。

 そんな甘い囁きを俺に向けるのは止めてくれ。

 

「だからさ、これからもこうしてちょくちょく、ハチと一緒にご飯食べてもいい?」

「……たまになら、別にいいぞ」

 

 ここで俺が折れてしまったのは別に悪くない。

 断れるわけがない。受け入れてはいけなかったのかもしれない。いや、彼女のことを考えるのならば俺は関わるべきではないのだろう。

 だが、ここで断ってはいけないと思ってしまった。

 

 ――断りたくないと思ってしまった。

 

「ありがと、ハチ」

 

 その時に見せた彼女の笑顔は、とても魅力的で。

 本当に、島田美波という存在は温かいと思ってしまった。

 

 

 放課後。

 部活に行く途中、廊下でスマホが鳴っていることに気付いた。小町から何か帰りに買って来て欲しいという連絡でも入ったのかと考えて一応のこと確認する。

 そこに表示されていた名前は。

 

「一色……?」

 

 一色いろは。

 はて、こんな名前の知り合いは果たしていただろうか?

 一応のことメールとのことなので、文面を確認してみることにする。

 

『せんぱい! 今度の日曜日暇ですか? もし暇ならば勉強を見て欲しいなぁって思って』

 

 勉強?

 日曜日にわざわざ家の外へ出て、その上他人の勉強を見なければならないだと?

 そもそも一色いろはとは一体何者なのかも思い出せて……あぁ、思い出した。GW中に吉井に引っ張り出された喫茶店で連絡先を交換させられた女子じゃねえか。しかもデート(?)中に俺や吉井の連絡先をちゃっかりゲットしている辺り、相手の男子が本当に可哀想に思えてくる。

 そう考えるとますます相手にしたくなくなってきた……。

 

『日曜は予定が入ってて無理だ』

 

 これでいいだろう。

 流石に予定が入っていると分かれば、相手も深追いしてくることはあるまい。そもそも予定なんて存在しないのだが。それに、アイツは喫茶店に訪れた葉山を目当てにして総武高校を受けようと考えているのだ。だとすれば頼む相手は俺じゃなくて葉山の方がいいのではないか。

 するとしばらくして、スマホが再び鳴り始めた。しかも今度のは長い。どうやらメールではなく通話のようだ。表示されている名前は、またしても『一色いろは』。

 いっそこのままスルーしようかと考えたが、いつまでも電話が鳴り続けている為、流石に出た。

 

「もしもし?」

『せんぱい、日曜日に予定が入っているなんて本当ですか~?』

 

 開口一番に、他人の予定を否定してくるこの後輩は一体何なんですかね。

 

『それに、ほら、可愛い後輩と二人きりで勉強教えられるチャンスなんですよ? こんなチャンス滅多にないんじゃないですか~?』

「生憎、勉強教えるのなら間に合ってる」

『え……せんぱいって本当に頭いいんですか?』

 

 何故勉強教えてもらおうとしてきた相手の学力を否定してくるのん?

 もしかして君、実はバカだったりする?

 バカの知り合いなら間に合ってるんだが?

 

「舐めるな。国語なら学年三位だ」

『理系は?』

「常に夢の中で授業を受けている」

『……せんぱい。それ、頭いいって言いませんよ』

 

 何故俺は電話口で後輩にプライドへし折られているのだろうか。

 

『本当に駄目ですか~? 実は模試が近づいてて、少しでもいい点を取りたいなぁって思ったんですよ~。こんなこと頼めるの、せんぱいしかいなくて……』

「吉井に……すまん、吉井じゃ無理だったな……」

 

 吉井が一色に勉強を教えようものなら、逆に一色が吉井に勉強を教えるまである。それは流石に吉井も可哀想だろう。だからと言って俺がコイツ相手に勉強を教えてやらなければいけない理由などない。

 

「待ち合わせ場所とか決めておけば、この前会った葉山を送り込むが?」

『いえ、葉山先輩ってこの前吉井先輩から聞いたんですけど、サッカー部に入っているみたいですよね?』

 

 あら、君達いつの間にメル友になってたの。順調に仲を深めているようで何より。どうでもいいけど。

 

『ですから、休みの日とかもきっと部活でしょうから、迷惑かけられないなぁって思って』

「……そういう気づかいも出来るんだな」

 

 意外だった。

 まだ一回しか会ったことはないが、その段階で『あざとい』という言葉が染みついていたせいで、その印象しかなかったものだから、こんな配慮が出来るのかと感心していた。

 

『そのほうがポイント稼げるじゃないですか~』

 

 前言撤回。

 何処までもあざとい女だった。

 

「……俺に予定が入っているとは考えないの?」

『せんぱいは基本日曜日は家にいる確率が高いって吉井先輩からリサーチ済みです♪』

 

 あんにゃろう……俺のプライベートダダ漏れじゃねえか……。

 

『というわけで、日曜日は10時に千葉駅集合でよろしくで~す♪』

「は? え、なんで? ……って、切れてるし……」

 

 気付けば一色からの通話は切れていた。

 仕方あるまい。こうなったら『あ、ごめん~体調不良で連絡出来なくて~』作戦でも使うとするか……。

 と、そんなことを考えていたら。

 

『せんぱいへ。ずる休みしたことが分かったらどうなるか……覚悟しておいてくださいね♪』

 

 先回りされたようにメールが届いた。

 どうして逃げ道塞ぐようなことしてくるかな……。

 諦めて俺は部室へと向かうことにした。

 




震えました……。
ついにお気に入り登録数が1000件突破しておりました……っ!!!!
応援本当にありがとうございます!!!
感極まってます……こんなに読んでくださっているのは初めてなので……っ!!
本当に励みになります! これからも頑張ります!!

さて、本編の方では当作品ヒロイン力ナンバーワンこと島田美波さんと、追従する形で彗星の如く現れたあざとヒロインこと一色いろはさんの登場です!
ちなみに、この話につきましては本編でやるか番外編でやるか悩んでいる所です。
理由は、一色さん視点でこの話をやりたいなぁって考えているからで……。
ちなみに、次回更新の話にはとうとう剣豪将軍が登場する予定ですよ!
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