やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (3)

 日曜日に謎過ぎる予定が入ったことに少し悲しみを抱きながらも部室へ向かった俺が目にしたのは。

 

「……何してんのお前」

「ひゃっ」

 

 可愛らしい悲鳴を上げた後で、身体をびくっと震わせる。そう、御存知雪ノ下雪乃だった。いや、こんな雪ノ下存じ上げてねぇよ。初めて見たよ。

 

「なんだ、比企谷君じゃない……驚かせないで欲しいわ」

「へいへい、そりゃ悪かったな……で、何してんの」

 

 部室の扉の前に立ち、そーっと中を覗きこんでいるようにしか見えなかった。つか、部長であるお前がそこに居たら俺入れないじゃん。

 由比ヶ浜は葉山達と少し話していたみたいだし、吉井は吉井で坂本達と話している。俺はそそくさと教室を出てここに来ようとした時に一色の電話に捕まって遅れたが、まさか誰も中に入っていないとは思わなかった。

 

「あれ、二人ともどうしたの?」

「やっはろー、ゆきのん! それにヒッキーも!」

 

 ちょうど俺達の後に追いつく形で二人もやってきた。というか由比ヶ浜、俺への挨拶はついでなのかよ。

 

「……貴方達って同じクラスよね?」

「へ? そうだよー」

「うん。気付いたら八幡いなかったから何処だろうって思ってたけど……先に来てたとは思わなかったよ」

 

 雪ノ下の質問に素直に答える由比ヶ浜と、大袈裟に驚いている吉井。

 そんな二人の反応を見た後で、雪ノ下はこめかみを抑えながら、

 

「貴方は一緒に来るということをしないのね……」

「おい、なんで俺限定で話を進めてる」

「貴方以外にいないじゃない……」

 

 否定出来ないところがなんとなく悔しい。

 

「それで、中入らないの?」

 

 吉井が最もな質問をしてきた。

 それに対して雪ノ下は、扉を指差しながらこう言った。

 

「部室に不審人物がいるのよ……」

「「「不審人物?」」」

 

 とりあえずこのままだといつまで経っても誰も扉を開けそうにない。

 そう思った俺は、そっと部室の扉を開いた。

 すると、そこに居たのは――。

 

「ククク……まさかこんな所で出会うとは驚いたな。待ちわびたぞ、比企谷八幡」

 

 舞い散る紙吹雪。風が入り込む中、汗をかきながらコートを羽織り、指ぬきグローブをはめている男子生徒。知らない、俺はこんな奴知らない。材木座義輝なんて知らない。

 

「あれ? もしかして材木座君じゃない?」

 

 そういやコイツも同じクラスだった。吉井が材木座を指差しながら、名前を言っていた。

 言われた本人である材木座は、少し黙ってからしばらくして俺の方を見て、

 

「如何にも。我が剣豪将軍・材木座義輝だ……時に八幡。奉仕部とはここでいいのか?」

「えぇ。ここが奉仕部よ」

 

 俺の代わりに雪ノ下が答える。

 材木座は一度雪ノ下の方を見て、それから俺の方に向き直って、

 

「そ、そうであったか。平塚教諭に御助言頂いた通りならば、八幡には我の願いを叶える義務があるわけだな?」

「別に奉仕部はあなたのお願いを叶えるわけではないわ。そのお手伝いをするだけよ」

「……ふ、ふむ。八幡よ。では我に手を……」

「僕達、忘れられてない?」

「というかさっきから、ヒッキーの方しか見てないような……?」

 

 うん、気付いてた。材木座の奴、緊張しているのか分からないが、さっきから俺としか会話してないんだもの。同じクラスの中でも全然話す奴がいないから、多分吉井とも由比ヶ浜とも話せないんだろうな。分かるよその気持ち。ところでコイツって普段昼飯とかどうしてんだろうな。

 

「比企谷君、ちょっと……」

「ん?」

 

 雪ノ下が俺の耳元で、次のことを尋ねてくる。

 

「なんなの? あの剣豪将軍って」

「……中二病だ」

「ちゅーに?」

「静まれ、我が右腕……っ! とかだよね?」

 

 キョトンとしている由比ヶ浜に対して、演技までつけて実演してくれた吉井。

 さては吉井、コイツも通ってきた奴だな?

 

「えーっと、つまり……?」

「病気ってわけじゃない。スラングみたいなものだと思えば簡単だな」

「要するに、自分で作った設定に基づいてお芝居をしているようなものなのね」

「だいたい合ってる。あいつの場合、室町幕府の十三代将軍である足利義輝を下敷きにしているみたいだな。名前が一緒だからベースにしやすかったんだろ」

 

 中二病にも様々な種類があるが、とりわけ材木座の場合は『厨二』『邪気眼』に分類されるだろう。不思議な能力を所持しているとか、実は特殊な組織に所属しているとか、そう言った設定を創り上げるのだ。

 何故って、かっこいいだろう?

 

「そういえば八幡って、八幡大菩薩の漢字と同じだよね?」

「そういうことは知ってんだな吉井……清和源氏が武神として厚く信仰してたやつだな」

「……二人とも、詳しいのね」

「……まぁな」

 

 やめろ、雪ノ下。

 何かを察したような目で俺のことを見るのは止めてくれ。

 由比ヶ浜も『うわぁ……』みたいな目でこっち見んな。

 後材木座、お前なんで目輝かせてんだこの野郎。

 

「とりあえず、あなたの依頼はその心の病気を治すということでよろしいのかしら?」

「……八幡よ。余は汝との契約の元、朕の願いを叶えんがためにこの場に馳せ参じた。それは実に崇高なる気高き欲望にしてただ一つの希望だ」

 

 雪ノ下の言葉に対してかなり動揺しているのか、一人称も二人称もブレブレで、最早何言っているのか分からない言葉を汗だらだらになって話している材木座。

 ……うん、同情はするけど半分はお前のせいだからな。

 後お前、こっち見んな。

 

「話しているのは私なのだけれど。人と話をするときはきちんとその人の顔を見なさいって習わなかったのかしら? 失礼だと思うのだけれど」

 

 雪ノ下雪乃は、人の礼儀に対してはとことん五月蠅い。特に材木座はここにきて『俺としか』会話していない。それが気に喰わなかったのか、襟元を掴んで無理矢理材木座を正面に振り向かせた。

 

「む、ムハハハ……これはしたり……」

「その喋り方も止めなさい」

「あ、はい」

「とにかく、その病気を治すのが依頼ということでいいのね?」

「あ、いえ、別に病気ってわけじゃないです」

 

 雪ノ下はとことん材木座を攻めまくっている。

 

「……八幡。流石にこれは材木座君可哀想じゃない?」

「まぁ、うん……気持ちは分からんでもない……」

 

 吉井の言う通り、このままだと材木座の心が折れてしまいかねない。何か助け船を出せればいいが、そんなこと出来る気がしない。

 と、ふと地面を見た時に、落ちている紙の存在に気付いた。確か部室に入る前に舞っていた紙吹雪だ。

 俺はそれを拾い上げると、

 

「これは……原稿用紙か?」

 

 それは原稿用紙だった。

 それも、文字がびっしりと書かれている。

 俺が拾い上げたことに気付いた材木座は、餌を得た魚のように目を輝かせ、

 

「ふむ。言わずとも通ずるとは流石だな。伊達にあの地獄の時間を共に過ごしていない、ということか」

「体育の時間のことだよなそれ」

 

 体育のペアを組む時間を地獄の時間と称するな。

 

「それ何?」

 

 由比ヶ浜は俺が手にしている紙束を見て尋ねてくる。俺は黙って差し出すと、由比ヶ浜はペラペラと何枚か捲った後、頭に思いっきり『?』マークを浮かべながら、

 

「これ、何?」

 

 余計に分からなくなった、と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「小説の原稿、だと思うが」

「材木座君って小説書いてたんだね!」

 

 吉井が素直に感心している。

 一方の材木座は、どや顔しながらこう言い放つ。

 

「如何にも。それはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようと思っているが、友達がいないので感想が聞けぬ。読んでくれ」

「なんか今とても悲しいことをさらりと言われた気がするわ……」

「なんか……ごめんね……」

 

 こめかみを抑えている雪ノ下と、申し訳なさそうな表情を浮かべる吉井。

 とりあえず、今回材木座から俺達に求められた依頼というのは、『ライトノベルの原稿を読んで欲しい』という内容だった。

 だが材木座よ……まだ投稿サイトや掲示板にあげた方がマシだと思うぞ。

 由比ヶ浜や吉井はともかくとして――雪ノ下雪乃は、そこらの人間よりも余程容赦ないからな。

 




というわけで、今回は原作における材木座さんのお話です。
何気に本編初登場の彼でした。
当作品では八幡達と同じクラスになっている為、明久は彼のことを知っています。
もちろんガハマさんも知っています。
しかし材木座はこの世界でも、八幡を相棒だと思っているわけです……というか彼以外とはあまりまともに会話出来ません。悲しい事実です。
彼の話自体は正直そこまで大きく弄れない為、基本的に原作とほぼ同じような流れを取ると思います。
どう足掻いてもゆきのんにフルボッコにされる未来しか見えない……可哀想に……。

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