やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第九問 色んな意味で、高校生活は動き始めている。 (5)

 翌日。しばらくは異世界転生物のライトノベルを読まないと固く決意した俺は、鞄の中に学園コメディ物を入れてきた。なんでも試験の点数がそのまま強さとなる召喚獣を扱った、何とも異質なコメディ物だ。このシリーズもそこそこ売れていたみたいで、店に行った時には在庫が結構少なくなっていた。気楽に読めるだろうと思って購入したが、思いの外これが面白い。何より、行動のほとんどがどこぞの誰か達に似ている気がして他人事のように思えないのがまたなんとも。

 

「おはよー、八幡」

 

 そう、今挨拶してきた吉井のように……。

 ……俺は一瞬目を疑った。

 気のせいだろうか。声は確かに吉井の物だった。そう、間違いなく吉井明久の物だ。だというのに、今目の前に居る男は――女子の制服を着ていた。

 

「いや、お前何があった」

「いやぁそれが寝坊しちゃってさー」

 

 寝坊と女装に何の関連があるというのか。

 

「多分ちゃんと制服を着ている筈なんだけど……」

「確かに着ているな」

 

 女子の物だけどな。

 

「よかったー。これで変な服を着てきてたとしたらどうしようかと思ったよ」

「……お前は遅刻してでもいいから今すぐ鏡確認して来い」

「どうしてさ!?」

「……」

 

 俺は黙ってスマホを取り出し、吉井の写真を撮る。その写真を見せることで、今コイツがどんな状況になっているのかを指摘した。

 吉井は不思議そうな顔で携帯を覗き込んでくる。しばらく見つめて、そして――。

 

「なんで僕女子の制服着てるの!?」

「いやこっちが聞きたいが」

 

 第一なんでコイツ女子の制服持ってんの。

 ……いや、なんとなく想像がついてしまった。

 

「多分これ、この前秀吉が置いていった奴だ!」

 

 木下秀吉は演劇部に所属していると聞く。そして木下は、その容姿からかどちらかと言うと女子の役を演じることが多いのだそうだ。確かに、戸塚と同じくどうして男子なのか分からなくなる瞬間がたまにある。そんな木下は、結構な頻度で吉井の家へ遊びに行くことがあるのだそうだ。その流れで、もしかしたら置いていったのかもしれない。

 いや、それにしたって友人の家に女子制服を持って行くような状況って一体どんな状況だよ。

 

「こんなんじゃみんなにバカにされちゃうよ! どうしよう八幡!」

「だから着替えてこいっての。西村先生には適当に理由伝えといてやるから」

「そ、そう? ありがとう、八幡!」

 

 そう言いながら、吉井は俺の手をしっかりと握って目をウルウルとさせる。感謝してるのは分かるんだけどさ、その、今の自分の格好考えたらそんな行為をするのは自殺行為だと思わないのん? 目立ちたくないのに確実に目立っちゃってるよ?

 

「急いで追いつくから!」

 

 そう言って吉井は、時を駆ける少女のように全力疾走する。いや追いつくも何も、ここもう学校なんだが。そしてどう足掻いてもお前の遅刻は免れないからな。ご丁寧に鞄置いていってるから机までは運んでやるが。

 ……しかし、何故だろう。なんだかさっきから熱烈な視線を感じる。例えるなら、同じクラスで男同士の絡みを熱い眼差しで見つめている眼鏡美少女と同じような、そんな視線だ。だが、恐らくこれは彼女のものではないのだろう。ぼっちは視線に対して敏感だ。その視線の持つ意味は当然のことながら、なんとなく知り合いかどうかは判断がつきそうなものだ。そしてこの視線は、きっと知り合いのものではない。

 

「話は聞かせてもらいましたよ!」

 

 ……ここまで前振りしておきながら、出てきちゃうのかよ。

 物陰から出てきたのは、何処か上機嫌というか、顔が赤くなっているというか、まるで初恋でもしている少女のような表情を浮かべている少女だった。少なからず教室で見たことはないから、きっと別のクラスなのだろう。そんな彼女は、『話は聞かせてもらった』と告げた。つまり、俺と吉井によって繰り広げられていた一連の流れをこの少女は見ていたことになる。

 待って、色々待って。

 

「ご挨拶遅れました。私、玉野美妃って言います。一年D組です」

「お、おう」

「それで、あのお方のお名前は……?」

「あのお方って……?」

 

 あ、俺の名前は聞かないのね。説明する気なかったから別にいいんだけど。

 色々すっ飛ばして『あのお方』の名前を尋ねてきた。多分コイツが言っているのは、たった今走り去っていった吉井のことだろうが……。

 

「吉井明久。同じクラスの奴だ」

「アキ……ちゃん……」

 

 何かイントネーションおかしいし、何故そこで切った?

 しかもアキちゃんって言っている時の玉野の表情が、何処か嬉しそうというか、なんというか。

 ひょっとしてコイツ……『女装している吉井明久』に恋をしたとか?

 

「これは何としてもお近づきになりたいです……アキちゃん……また会えることを願ってます!」

「そ、そうか……」

 

 宣言する必要のないことを俺に告げた後で、玉野はその場を後にした。

 ……何だったんだ、今の。

 

 

 時間は進み、帰りのHR。

 西村先生が各種伝達事項を伝えている。その中でもとりわけ重要と思われるのが、

 

「さて、六月頭から始まる学力強化合宿についての伝達だ」

 

 この学校では、どうやら一年生は勉強合宿、二年生は修学旅行という感じで旅行行事があるらしい。正直あまり興味ないし、合宿までして勉強しなきゃいけないのかと思うとかなり辛い物がある。環境が変わったからと言ってやることはそんなに変わらないだろうに。免許合宿じゃないんだからそんなことをする必要性を感じない。

 

「と言っても、別に旅行に行く訳ではない。やることと言ったらほとんど勉強みたいなものだ。夜にちょっとした交流はあるだろうが、それ以外は基本学校の授業と何ら変わりはない。勉強道具と着替えさえあれば最低限どうにかなる筈だ。くれぐれも、学習に関係ない物を持ち込まないように。詳しくは合宿のしおりを確認すること」

 

 西村先生の台詞を聞きながら、俺はしおりを眺める。

 栃木県にある那須高原。避暑地として有名な場所ではあるが、しおりを見る限り確かに観光しに行く訳ではなさそうだ。旅館に入って少し休息時間を過ごしたら、その後は夕方まで勉強。ただし、その勉強の仕組みがいつもと違い、クラスが入り混じった混合組で互いの苦手科目を補強し合うという物らしい。もちろん普通の授業もきちんと存在するが、普段とは違うこともしてくる辺り、果たして誰の差し金なのかと疑いたくなる。別に俺はどのグループに所属しようと構わないのだが。どの道一人で進めるだけだし。戸塚と一緒になりたい。

 流石に夜までは授業を行わないみたいだが、最終日には勉強の進行度がどれ程の物なのかを確認する為のテストが待ち受けている。なる程、これで一定の点数を取れというわけね。進学校らしい企画というか、なんというか。この合宿発案したの、絶対西村先生だろ。

 

「集合場所はこの学校だ。学校からバスで移動となる。時間は8時。いつもよりも早い時間になるから遅刻しないように。特に吉井、比企谷。お前達は遅刻率が高いから気を付けるように」

「う、うす」

 

 地味に言い返すことが出来なかった。

 いや、これでも遅刻しないよう頑張っているんですよ? でも、月曜日ってなんかこう、日曜日からの流れが来ているせいでたまに朝起きられないことってあるじゃん?

 

「ちなみに、テストで基準の点数を満たさなかった場合、夏休み前に再テストを受けてもらう。それでも尚点数が満たなかった場合には、夏休み最初の一週間は補習だ」

 

 うん、絶対点数取ろう。

 そう決意した瞬間だった。

 

 ――何がともあれ、こうして学力強化合宿が始まる。

 




さて、こうして高校生活が順調(?)にカオスな方面へと向かっている八幡。
次回からは学力強化合宿が始まります!!
これはバカテスサイドの長編なのですが、原作と違う点から少しずつ説明します。
・集合場所がクラスごとに分かれているわけではない。
・端々に原作ネタを入れるが、基本的にはほぼ完全オリジナルストーリー。
・集団覗きはしない!!
最大の相違点は『集団覗きはしない』という点でしょうか。
何せ世界観は俺ガイルですから、そう言ったことが許されるような状況ではなさそうなので……。
とはいえ、バカテスキャラと俺ガイルキャラが入り混じる合宿ですから、何も起きないわけがありませんよね……具体的には、夜とか……。
ちなみに、修学旅行ではないので、嘘告白とかそう言った類のお話もありません。
修学旅行でのエピソードは、彼らが二年生になったらきちんとやりますのでご安心を。
……二年生になる頃に果たしてこの小説は何話分書かれているのでしょうか()

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