休み時間も終わって、再び僕達は勉強に取り組む時間となった。今度は全員で色んな所を教え合って(と言っても僕は全部教わったけど)、それぞれの苦手科目を勉強し合った。正直、こうして大人数で勉強するなんてなかなかないから意外にも楽しかった。だけど、明日も勉強があるのかと思うと正直辛さしかない。しかも、いくら楽しかったと言えども、長時間勉強したことには変わりないから、やっぱり疲れは溜まっている。
「つかれたー」
「明久にしては長時間の勉強だったからな。今日だけで随分と変わったんじゃねえか?」
雄二が笑いながら僕にそう言ってきた。
「確かに。ちょっと頭よくなった気がするよ」
「安心しろ。気のせいだから」
「雄二! 貴様ぁ!」
人がせっかくいい気分になった所を雄二は……っ!
「まぁまぁ、落ち着くのじゃ明久」
「……そう簡単に変われるならば苦労しない」
「ムッツリーニのそれはフォローしているの!?」
まったくフォローになっていないじゃないか!
「それにしても、ハチがここまで数学出来ないとは思わなかったわ……」
「ちょっと、意外でしたね」
美波と姫路さんは、数学のノートを見ながら打ちひしがれている八幡を見ながら、苦笑いを浮かべている。現代国語はほぼ八幡のターンだったけど、数学になるとみるみる内にやる気がなくなって、最終的にはほぼ美波に教わりっぱなしだった。八幡だって数学だけで言ったら人のこと言えないからね!
「意外と言えば、比企谷君と吉井君って随分と仲良いよね?」
「「へ?」」
ここで工藤さんが、僕と八幡を交互に見ながらそう言ってきた。
「いやぁ、見ていて思ったんだけど。確かに吉井君と坂本君も最早カップルみたいなコンビっぷりなんだけれど……」
「……雄二? どういうこと?」
「カップルになった覚えはねぇ! すべて工藤が言った出鱈目だ!」
「そうだよ霧島さん! 僕が雄二とカップルなわけないでしょ!」
「吉井君……そんなに坂本君がいいんですか……?」
「どうしてさ!?」
何故か姫路さんまで膝から崩れ落ちてショックを受けていた。
僕としてはそう勘違いされる方がショックだよ!
「でも、比企谷君と吉井君って、最早夫婦みたいな仲の良さだよね?」
「それはない」
真っ先に否定したのは八幡だった。うん、まぁ八幡なら確かにそういうの否定するよね。
「俺が夫婦になるとしたら戸塚だけだからな」
「もー、八幡ってば冗談上手いなぁ」
「……ハチ?」
彩加が少し困ったように照れているのに対して、美波がムッとした表情を見せている。
「ヒッキー、マジキモイ……」
由比ヶ浜さんは頬をハムスターのように膨らませて拗ねていた。
「いやなんでお前らが拗ねてんだよ……」
「やっぱりこの男、鈍感にも程があるんじゃないかしら……」
「だからさっきも言ったろ。俺は人の視線や行動には敏感なんだよ。敏感過ぎて動かないまである。動かざる事山の如し」
「少しは理解するよう努めるべきではないかしら……」
こめかみを抑えながら雪ノ下さんが言った。
そんな中で、工藤さんは衝撃的な一言を発する。
「つまり吉井君って……男の子が好きなの?」
「失礼な! 僕は可愛い子が好きなんだよ!! 秀吉みたいに!!」
「なんでワシの名前が出てくるのじゃ! ワシは男じゃぞ!!」
秀吉が怒っているけど気にしない! だって秀吉は可愛いからね!
「一応言っておくけど、僕は同性愛者じゃ……」
「同性愛者を馬鹿にしないでください!!」
バン!! ← 突然襖が開かれた音。
ギュッ!! ← 誰かが誰かに抱き着いた音。
バタン!! ← その二人が倒れ込んだ音。
「お、お前……」
八幡の顔が引きつっている。
というか、男子組のほとんどが顔引き攣っている。僕の顔も恐らく苦笑いになっていることだろう。
一番驚いているというか、困っているのは――。
「み、美春!?」
そう。
この場に突然乱入してきたのは、清水さんだった。GW中に僕達がバイトしに行った喫茶店のオーナーの娘さんであり、美波のことを心から愛している少女だ。
「お姉様にお会いしたくて、他のグループから抜け出してきましたわ!」
「ウチは男が好きなのー!」
美波は抵抗している。しかし清水さんがそれを許さないといった感じだ。しっかりと抱き着いていて、離そうとしない。
「……あの時依頼してきた清水さんよね」
「雪ノ下さん! あの時は大変お世話になりました! お蔭さまで今ではこんなにもお姉様とラブラブイチャイチャな毎日を送っております!」
「送ってない! 嘘偽りだらけだから!」
目を輝かせながら雪ノ下さんにお礼を言う清水さんと、そんな彼女の暴走を必死に止めようとしている美波。
ちなみに、『俺や吉井もその場に居たんだよなぁ……』とぼそりと八幡が言っていたけど、当然清水さんの耳に届いているわけがなかった。
「酷いですわお姉様! 美春はこんなにもお姉様ラヴだと言いますのにぃ♪」
「ウチは同性になんて興味ないんだからぁ!」
清水さんの暴走は止まらない。
美波をぎゅって抱きしめながら、さり気なく八幡を牽制している。近寄らせないようにしているみたい。言われなくても八幡は最初から近づこうとしていないっぽいけど……。
と、その時だった。
「君達。いくら勉強が終わったからといって、はしゃぎすぎるのはよくないと思う」
眼鏡をクイっと上げながら、男の子が入ってきた。確か、久保君?
「あ、ご、ごめんね?」
「いいんだ、分かってくれれば……それに、同性愛を馬鹿にするのはよくない。彼らは異常者ではなく、個人的思考が世間一般と少し食い違っているだけのこと。普通の人に他ならないのだから」
「そう! 同性愛とは美しいのよ。だからそこにイチャモンをつけるのは許されないことだと私は思う!」
今度は海老名さんが入ってきた!
「男だけの一部屋。六人集められた美男子達……何も起きないわけがなく……そのままヒキタニ君は……っ!」
「おいちょっと。何で俺だけ? そういう役目は吉井じゃないのか?」
「さり気なく僕にキラーパス振らないでよ八幡!」
「ぶっはーっ! そういうとこだぞ!」
「ああもう姫菜! 余所のグループまで行って鼻血噴き出すなしっ!」
一人興奮して鼻血を噴き出した海老名さんの元に、最早通例となったおかんこと三浦さんが、ティッシュを持ってやってきた。
三浦さんに処置を施されながらも、海老名さんは語り続ける。
「愛とは美しい物。まして同性愛とは世間一般ではなかなか認められないもの……だけど! 愛し合う二人にとってその壁は関係ない! いわば障害になんてなり得ない! 当人同士が認め合えば、誰にも邪魔されない!」
「そうですわ! 美春はお姉様のことを心から愛しているのです!」
「確かに愛は自由だけど、ウチには――っ!」
何というとんでも空間。
これだけの人数がワチャワチャし始めたら最早収拾がつかなくなってしまう。
「……所で吉井君。君は、その……どんなタイプの人が好きなんだい?」
「結局坂本に聞けてなかったのかよ……」
何故か久保君に言い寄られ、隅の方から八幡のボヤキが聞こえた気がした。
――何故だろう。久保君の質問に答えてはいけないと思う自分がいて、結局答えることが出来なかった。
久保君や清水さんネタまではどうしてもやりたかったんです!
だからこんなにもカオスな状況が生まれてしまったんです……この二人の話をやるということは、必然的に海老名さんも絡んでくるということで……っ!
次回、八幡視点での学力強化合宿の様子です!
恐らく夜のエピソードから始まることとなるでしょう。