やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十一問 夜時間の中で、彼らの心は進み始める。 (5)

 島田の誤解を何とか解いた後、俺は一人外で夜風に当たっていた。別に旅館の外に出ていけないという規則はなかった筈だし、思考をまとめるのに最適だと考えたからだ。そう思って外に出た筈なのに、

 

「あれ? 比企谷君じゃない? どうしたのこんな時間に。部屋に戻らないの?」

「……それは俺の台詞でもあるんだが、工藤」

 

 この学力強化合宿で初めて出会った女子生徒であり、姫路瑞希のクラスメイトの工藤愛子。休憩時間では散々遊び倒されただけに、最初の印象としては油断してはならない人物としてインプットしていた。そういえばコイツは編入生だったか。それにしちゃまるで最初から輪の中に居たかのように振る舞っているが。コイツはあれか、コミュ力お化けということなのか。

 

「どうしたの? じろじろとボクの身体を見つめちゃって。浴衣の中、気になるのかな?」

 

 チラッと太ももの辺りを捲りながら、わざとらしく煽ってくる工藤。

 くっ……べ、別にその太ももが気になって直視しているわけじゃ、ねぇんだからな?

 ……男のツンデレとか誰得だよ、気持ち悪いだけじゃねえか。特に俺がやると自分で自分に対してぶん殴りたくなってしまった。慣れないことはするもんじゃないな。

 

「なーんてね。比企谷君を誘惑するのは楽しいけど、色んな人に怒られちゃいそうだから止めておくね。特に雪ノ下さんとか」

「確かに、雪ノ下を怒らせると大変なことになるが……アイツは別に俺がそういう状況になったら、素早く通報するだけで怒るとは思えないんだが……」

「……キミは鈍感なのか敏感なのか分からないね」

 

 その台詞を素で言うのは止めて頂きたい。なんだか変なこと聞いている気持ちになる。

 と、脳内で変な抵抗を見せていると、工藤は少しだけ気を抜いたような表情を浮かべながら、

 

「ボクさ、正直この学校で友達が出来るか不安だったんだよね」

 

 自身の心境を語り始めた。

 あぁ、コイツはコイツなりに、『仮面』を被っていたのだな。割と素でやっていることもあるのだろうが、相手にも分かりにくい位に仮面を被っているのだ。そうした人間の、ふと見せる素の瞬間というのは悪くない。特に相手が美少女であればある程、可愛いというものだ。

 

「けど、そんな心配はなかったみたいだよ。キミや吉井君、彩加ちゃんにムッツリーニ君。ここに居る人達って本当面白いね。教えてくれた姫路さんに感謝しなきゃだよ」

「俺からしてみれば、アンタも相当いいキャラしてるけどな……」

「あはは。それは褒め言葉として受け取っておくね♪」

「そりゃどうも……」

 

 どうにも、工藤とは会話しにくい。調子が狂うというか、掌の上で踊らされているような感覚がするというか。弄ばれるというか。

 

「あ、そういえばこの後比企谷君の部屋でみんなで集まって遊ぶんだよね? 姫路さんから聞いたよ」

「そうなってるな……」

 

 何か割と大所帯になりそうだな。一体何人集まってくるのん? この調子だと部屋埋まっちゃわない? 大丈夫? 誰か未来のネコ型ロボットよろしく押入れの中で過ごさなきゃいけなくなる?

 

「面白そうだし、姫路さんも居るからボクも行かせてもらうね♪」

「お、おう……」

「楽しみだね。あんなことやこんなことも出来ちゃうね♪」

 

 わざと耳元で囁くように言ってくる工藤。

 あまりのむず痒さに、少しだけ俺は後退ってしまった。

 工藤にとってはその反応も想定内というか、面白かったのか、にこにこしている。

 何か罠にはまった気分になって悔しい。というかさっきからこの人近い。ぼっちのパーソナルスペースにズケズケと入ってくる……いや、それでいて最低限の線引きをしているから尚質悪い。これは彼女の計算の内なのか、それとも素でやっていることなのか。

 今は考えるだけ無駄だと思い、その思考を捨てた。

 

「それじゃね、比企谷君。また後で♪」

 

 右手でピースをして、首を傾げて、にっこりと笑いながら俺にそう言ってきた工藤さん。返事を待たず、旅館の中へと入っていった。嵐のような人物だったな……。

 しかし、そのおかげというかなんというか、少しずつ落ちつけるようになってきた。俺も部屋へ戻ろうとしたその時。

 

「……ん?」

 

 スマホが鳴っている。

 ブザーが鳴り続けていることから、メールではなく電話であることが分かった。誰からのものであるのか確認する為に画面を見ると、

 

「……げっ」

 

 そこに書かれていたのは、『一色いろは』だった。模試の勉強を見てやってから、こうしてちょくちょくメールや電話が来ることがある。いつものノリで一色は電話をしてきたのだろう。

 そういえばコイツには、俺がしばらく学力強化合宿に行っていることは伝えていない。しばらくはこっちの用事があって出られなくなることを伝えなくてはいけないと考えた俺は、通話ボタンを押した。

 

『あ、せんぱ~い。今暇ですよね?』

「何勝手に人が暇だと決めつけてんの……」

『でも、せんぱいに用事があることってないじゃないですか~』

「あるよ? 俺だってたまには用事あるよ? ていうか今がその途中だよ?」

『分かってますよ? 学力強化合宿に行っているんですよね?』

 

 ……ここで俺は思い出す。

 そういえばコイツ、吉井とも連絡取ってるじゃねえか。つまり俺が今日合宿に行っていることも把握済みじゃないの? つまりコイツ、分かっていて通話してきやがったな。確信犯じゃねえか。

 

『でも、合宿先でも相変わらずぼっちしているのかなって思いまして、可愛い後輩がこうして暇つぶしの為に電話してあげてるんですよ~♪』

「別に頼んじゃいないんだが……」

『またまたそんなこと言っちゃって~。ホントは私の声聞きたかったくせに~』

「誰もそんなこと思っちゃいねぇよ……」

 

 うぜぇ。なんというかあざとい。発言のすべてがあざとい。

 しかし、この後用事があるのは事実だからあまり時間を取っていられない。

 

「あー……一色。この後俺、やらなきゃいけないことがあるからそろそろ切るぞ?」

『え~。まだ通話始めたばかりじゃないですか~。せんぱいで……せんぱいと暇つぶししたいですよ~』

「今明らかにせんぱい『で』暇つぶしするとか言おうとしたよね?」

『何のことですかね?』

「とぼけても無駄なんですけどね……」

『なんですか? お前のことなんて言葉に出さなくても御見通しな程理解していると言いたいんですか? ごめんなさいそんな超能力染みたこと言われても別にときめきませんし電話越しで言われても全然魅力感じないので出直してきてください』

「どうしてそういう風に曲解出来るの……」

 

 早口でほとんど何言っているか分からないけど、少なくとも今の流れは完全に振られるまでいきつく流れではなかったと思うんだが。

 

「とりあえず、部屋に客が来るみたいだから準備しなきゃならないんだよ」

『え? せんぱいの部屋に客ですか?』

「クラスメイトが遊びに来るらしい……」

『あー……それでせんぱいは部屋から出て孤独な時間を堪能しているわけですね?』

「そうじゃねえよ……これから準備の為に戻るんだよ」

『へ? せんぱいが迎え入れるんですか?』

 

 相当驚いている様子の一色。

 ……うん、まぁ、きっと入学前の俺が同じ光景を見ていたら、きっと一色と同じ反応をするのだろう。それだけこの二か月間で俺の行動や考えが染まっているのかもしれないと思うと、なんだか恐ろしい何かを感じずにはいられなかった。

 

「とにかく、話なら合宿終わってから聞いてやるから、今は切るぞ」

『言いましたね? 約束ですからね? それじゃあ合宿終わった次の日曜日にまた勉強教えてくださいね♪』

「なんでまたそんな……くそっ、切られた……」

 

 嵐のようにあっという間に過ぎ去る時間だった。

 さり気なくまた日曜日に俺をこき使おうとしてくるし……。

 

「……部屋、戻るか」

 

 色々あって既に疲れているが、島田達にまた後でと言ってしまった手前、俺だけ部屋に居ないというのもおかしな話だろう。

 そんなことを心の中で呟きながら、部屋へと戻るのだった。

 

 ――この時の俺は、まだ予想していなかった。夜の自由時間の内に行われる、バカ騒ぎのことを。

 




そんなわけで、次回は明久に視点をバトンタッチして、自由時間での出来事となります。
合宿で男女が一部屋に集まってすることと言えば……一体どんな遊びが行われ、どんなバカ騒ぎが展開されるのですかね……?
この八幡、最早ぼっちとは言えないのではないかと思うのですが、果たしてどうでしょうか……?
それにしても、いろはすを書くのが本当に楽しいです……早く総武高校に来てほしい……(作中時間はまだ八幡達高校一年六月なので、だいぶ先。そして二年生の時間軸までこの作品が連載しているのかどうかも謎)。
文字数や話数のわりに、意外と話の進みがゆっくりだなぁって思い始めている今日この頃。果たしてこの作品の完結にはどのくらいの時間がかかるのか……。
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