前回とは打って変わって短めな文章となりましたが、今回の主役はボクっ子のあの子です――!
「転入生を紹介します。工藤愛子さんです」
眼鏡をかけた女性の先生から、ボクの名前が紹介される。両親の仕事の都合で千葉に引っ越すこととなったボクは、編入試験を受けて総武高校へとやってきた。もちろん不安な点もあるけれど、それ以上に何処か楽しくなりそうな予感がして、ボクとしてはワクワクしている。
とりあえず先生の紹介を受けて、ボクは自己紹介をすることにした。
「ボクは工藤愛子。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパン……」
「ということで皆さん、仲良くしてくださいね」
「まだ自己紹介の途中ですよ!?」
何やら必死な形相で自己紹介を止められてしまった。ちょっとからかいすぎちゃったかな……。クラスの男の子達の視線がちょっとえっちな物に変わった気がするよ。あはは。
先生に促されるまま、ボクは空いている席へと向かう。
「よろしくお願いします、工藤さん」
隣に座っていたのは、桃色の髪の女の子だった。とても美人さんで、思わずボクも見惚れちゃったレベル。
「私は姫路瑞希です。なかよくしましょうね?」
「姫路さんだね。こちらこそよろしくね」
姫路さんと軽く挨拶をかわして、ボクは席に座る。
その時、ちょっと気になったのは。
「あれ? あそこの席、空いてるみたいだけど……?」
公立高校の編入は、欠員が出た時に行われるらしい話を聞いたことがある。引っ越してきたばかりのボクが公立に入ることが出来たのもその為だ。だから空いている席が一つなのは不思議ではないのだけど、もう一つあるのは少し気になった。
そんなボクの疑問に対して、姫路さんが答えてくれる。
「あそこの席の人……普段から遅刻癖があるみたいで……」
と、姫路さんが説明しようとしたその時だった。
突然教室の扉がガラリと音を立てると、入ってきたのは――。
「川崎さん……また、遅刻ですか?」
「……うす」
長い髪をポニーテールでまとめた女の子は、不機嫌そうな表情のまま先生の前に立つ。そして、
「遅れました」
そう言うと、空いている席へと向かっていき、周りの目を気にすることなくそのまま席に着いた。
あらまぁ……これってもしかして、不良さんなのかな?
「えっと……川崎さんです。私もあまりお話したことないので、よくわからないのですが……」
「なるほど……」
少しだけ興味が湧いた。
今度タイミングが合ったら話しかけてみようかなぁ。
※
転入生というのはやはり珍しいらしくて、初日ということもあり多くの人達に話しかけられた。特に男の子からの質問やお誘いがあったけれど、
「いやぁ、ありがとう姫路さん。あのままだとボク、お昼ご飯食べられなくなっちゃうところだったよ」
「いえいえ。困った時はお互い様、ですから」
姫路さんがボクに気を使って話しかけてくれたおかげで、何とか抜け出すことが出来た。今は姫路さんと二人で中庭に来ている。ボクは購買部で買ったパンを、姫路さんはサンドイッチを食べていた。
「それにしても、ここの学校の人達って面白い人達が多いね」
「そうですね……他にもたくさん、面白い人達がいますよ?」
「へぇ……例えばどんな人がいるの?」
ボクがそう尋ねると、姫路さんは嬉しそうに話し始めた。
頭がいい女の子の話、事ある毎に鼻血を噴き出す女の子の話、目がちょっぴり腐っているけど実は優しい男の子の話、勉強は出来ないけど誰よりも優しい一面を持つ男の子の話。この子の話をしている時の姫路さんは特に嬉しそうに話してたから、きっと恋しているのだろうなぁ。
けど、その話を聞くたびにボクは思った。
きっと、姫路さんも――。
「……ねぇ、姫路さん」
「はい。なんでしょうか?」
「どうして、姫路さんはその人達と一緒にいないの?」
「……え?」
目を大きく見開いた姫路さん。
この子はきっと優しい女の子だ。頭が良くて、優しくて。だけどちょっぴり勇気がないのかもしれない。他人のことをしっかりと見抜くことが出来るのに。いい所をしっかりと見つけることが出来るのに。見つけた本人である姫路さんは、その輪の中に入り込んでいない。
「転校初日のボクに対してここまでお世話してくれたし、そうやってほかの人のいい所をしっかりと見ることが出来ている姫路さんは、きっと優しい人なんだよ。だからこそ……ボクはちょっぴり気になったんだ。どうしてその人達の所へは歩み寄らないのかな?」
「わ、私は……」
これはお節介なのかもしれないけれど。
姫路さんはひょっとしたらそこまでは望んでいないのかもしれないけれど。
だけど、これくらいのお節介はしてもいいよね?
それに、ボクもその人達とお話したいし。
「姫路さん。姫路さんならきっと大丈夫だよ。こうしてボクとお話してくれているんだもの。きっと上手くいくって」
「……そうでしたね。何もしないのはよくないって、つい最近思ったばかりだったのに……ありがとうございます、工藤さん」
「いいっていいって」
そうだ。
誰かに対して気になったり、恋したり、そうしたことで女の子は強くなれるのだ。
「そしたらさ、今度の学力強化合宿でちょっとした行動を起こしてみない?」
「合宿で、ですか?」
「うんうん。ボクも協力するからさ」
姫路さんはボクの話に耳を傾けてくれている。
……本当は、姫路さんの話を聞いてボクが気になっただけなのかもしれない。そんなに魅力的な人がいるのなら、是非ともお近づきになりたいなぁって思っただけなのかもしれない。
特に、ボクと同じく保健体育が得意な男の子とか、捻デレさんな男の子とか、女の子みたいに可愛い男の子とか――。
きっと、これからのボクの高校生活を楽しくしてくれそうな人達ばかりだもの。
だからボクは、編入したこの高校での生活を存分に楽しもうと思う。
――この時のボクは、まだ恋を知らなかった。そんな初心なボクの、小さな始まりの物語。
これから先、姫路さんの話を聞いた工藤さんが介入していく。その前にあった出来事を番外編として描いてみました。
バカテス本編でもそうでしたが、彼女目線で描かれたエピソードというのは実はないんですよね……二次創作を漁ってみたとしても滅多に描かれることがないんですよね……工藤さん、バカテスキャラの中では好きな方なんですが……。
所で、さり気なく俺ガイルからはあのお方が登場しましたね。
本編では未だに登場していない『彼女』ですが、果たして一年生の内に出番は訪れてくれるのでしょうか……。