「早かったのぅ明久……何やら物凄い勢いで汗を流しているようじゃが、一体なにがあったのじゃ?」
僕とムッツリーニはなんとか地獄から帰ってきた。
正直、鉄人に告白するよりはまだましかなーとか、ああ見えても平塚先生ってば美人だしぃ? とか、色々心の中で言い訳を考えてはみたけれど、結局平塚先生相手だとキツイことに変わりなかった。というか、『好きです』って言葉を出した段階で結婚情報誌出してきたよ? ちょっと? 僕もムッツリーニも生徒なんですけど? 怖すぎるよ? 行動早すぎるよ?
『挙式は、何処にする?』
『『まだ結婚なんて言ってないです!! そして罰ゲームなんですすみませんでしたぁ!!』』
『照れなくていいんだぞ? まさか私のことをおちょくってるわけじゃないだろう?』
『『おちょくってはないですけど罰ゲームなんです!!』』
『ほぅ……なら、罰ゲームにしなければいいだけの話だろう?』
『『すみませんでしたぁ!!』』
『明日が楽しみだなぁ? 吉井に、土屋ぁ……』
うん、これどう見ても完全にロックオンされたよね? 明日から僕達の命ないかもしれないよね!?
「雄二貴様ぁ!! 僕とムッツリーニの未来に希望がなくなったじゃないか!!」
「うまく切り抜けられなかったお前達が悪い。王様ゲームをやる以上、これくらいのリスクは当然だろう?」
「いや、流石にここまで想定しろっていう方が無理なんじゃ……」
あまりのカオスさに彩加が苦笑いを浮かべているレベル。
ちなみに、八幡はさっきから『アラサーこえぇ……』と呟いている。
……何故だろう、突然悪寒が。
「くそぅ……こうなったら何としても王様になって、雄二に復讐してやる……っ!」
「目的が変わってしまっている気がするのだけれど……」
雪ノ下さんがこめかみを抑えているような気がするけど、そんなの構うものか!
今一度、僕はこの男に復讐をしなければならないんだ!!
「それじゃあ次いくぞぉおおおおおおおおお!」
このままスタートだ!!
せぇえええええの!!
「王様だーれだっ!?」
さぁ、王様……来い……っ!
「あ、ボクだねー」
くそぉ!! 王様になかなかなれない……!!
今王様を引いたのは工藤さん。雄二のような命令は飛んでこないとは思うけど、一体どんなことをさせられるのだろうか……?
「それじゃあね……んーと」
右手人差し指で唇を抑え、少し上を見上げながら考える工藤さん。
正直その光景は様になっているし、可愛いと思う。さっきまでの傷ついた心がどんどん癒されていくような気がして……。
「じゃあ、四番が九番の、ほっぺにちゅーで♪」
とんでもない命令出してきたーっ!!
「ね、ねぇ。その命令って、本当なのかな?」
顔を赤くしながら尋ねてきたのは、意外にも由比ヶ浜さんだった。
よく見ると、由比ヶ浜さんの持っている紙は九番!
まさか、四番の人が由比ヶ浜さんのほっぺにキスすることが出来る……!?
「くっ……なんて理不尽……っ!」
思い切り歯茎から血が出ている辺り、ムッツリーニは四番ではなかったみたいだ。
ちなみに僕も四番ではない……悔しすぎる……!!
「吉井君……め、デスヨ」
ん?
今、姫路さんのイントネーションがおかしかった気が……気のせい、かな?
「ひ、ヒッキー……もしかして、ヒッキーって……?」
由比ヶ浜さんは八幡の前に立って、番号を尋ねる。
それに対して八幡は……。
「いや、俺一番なんだが……」
「…………」
由比ヶ浜さん、固まる。
そして、そんな由比ヶ浜さんの肩を叩いた人物が、一言。
「その、わ、私が、よ、四番、なのだけれど……」
まさかの雪ノ下さんだったーっ!!
「ゆきのんが四番!?」
由比ヶ浜さんの反応は何処か嬉しそうだ。
思わず由比ヶ浜さんは嬉しそうな笑顔を見せながら雪ノ下さんに抱き着く。
「ちょっと……暑苦しいのだけれど……」
口では雪ノ下さんはそう言いつつも、無碍に扱うことはない。
雪ノ下さんってやっぱり由比ヶ浜さんのこと結構好きだよね?
「……ハチ?」
「な、なんでもねぇって……」
ムッとした表情を浮かべながら、島田さんが八幡に指摘していた。
うん、分かるよ八幡。今僕の視線は由比ヶ浜さんと雪ノ下さんに向いてるもん。完全に夢中になってるもん。どきどき百合百合空間に心奪われているもん。ムッツリーニなんて狂ったように写真撮りまくってるよ。後で良い値で買わせて頂こう。
「じゃ、二人とも思い切ってやっちゃってよ~」
工藤さんがニコニコしながら言って来る。
それにしても、この命令が僕と雄二とかじゃなくてよかった……絶対汚い絵面が誕生してた。
「そ、それじゃあ、由比ヶ浜さん……いくわね」
「うん。ゆきのん、はい♪」
雪ノ下さんが相手だからか、何の躊躇いもなしに由比ヶ浜さんはほっぺを向ける。
一方、雪ノ下さんは両手を胸元に当てて、深呼吸をしていた。がちがちに緊張していることが見て分かる。今の雪ノ下さんの反応は、見ていてとても可愛い。
「……おい翔子。まだ何も言ってねぇのに視線をこっちに向けるな」
「……雄二は見ちゃ駄目」
「いや、それ理不尽過ぎない?」
霧島さんと雄二の二人が夫婦漫才を繰り広げているけれど、今は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに注目しなくてはならない。この百合百合空間を目に焼き付けておかなければいけない!
「なんだか見ている私達までドキドキしちゃいますね……」
「そ、そうだね……」
姫路さんが顔を赤くしながら言ってきた。
確かに、僕も心臓がばくんばくん鳴っている気がする。
今回の王様ゲーム、心なしか心臓に悪い命令が結構来る気がする……雄二の奴は違う意味で心臓に悪かったけれど。
「ゆきのん、ほらはやく~」
「うっ……ゆ、由比ヶ浜さんは、その、恥ずかしくないの?」
「ちょっと恥ずかしいかな? でも、ゆきのんだから、いいよ?」
「っ!!」
あ、由比ヶ浜さんの甘い言葉に、雪ノ下さんは陥落寸前だ。
駄目だよ、今の一言は!!
人を勘違いさせる一言だよ! 男なんてイチコロだよ!?
「それじゃあ……いくわね……」
「うん♪」
覚悟を決めた雪ノ下さんは、由比ヶ浜さんのほっぺたに向けて――唇を付けた。触れるだけの一瞬のひと時。なのに、その瞬間スローモーションになったかのように見えて――とても、えっちだった。
「完了だね、ゆきのん♪」
「……え、えぇ」
「……っ」
満足気な由比ヶ浜さんに、顔が真っ赤に染まった雪ノ下さん。
そしてそんな二人を眺めながら、何とも言えない表情を浮かべている八幡。
うん、カオスだね♪
「それじゃあ次、行くわよ……っ」
何とか今の光景を振り切りたいのか、今度は雪ノ下さんが音頭を取った。
僕達は紙を元に戻し、新たな紙を引く。
そして――。
「王様だーれだ?!」
次の王様になったのは――。
「……」
『王』と書かれた紙を無言で見せつける霧島さん。
「……っ!!」
ダッ!! ← 雄二が逃走した音。
ビューンッ!! ← 僕とムッツリーニが飛びついた音。
ガシッ!! ← 僕とムッツリーニが雄二を確保した音。
「さぁ、女王様。ご命令を……!」
「離せ! テメェら!!」
「五月蠅い! 王様の命令は絶対だ!!」
必死に抵抗する雄二。
僕達だってちゃんと命令を実行したんだ! 一人だけ逃げようなんて考えは甘いんだよ!!
「それじゃあ……雄二は今から、私の命令に絶対従うこと」
「おいコイツ変態だ!!」
くっ……霧島さんからの命令なんて……羨ましすぎるぞ!!
そんな事を考えていた、その時。
「あの、霧島さん……それだと命令が不成立になってしまいます。きちんと番号で伝えないと……」
姫路さんが間違いを訂正する。
確かに、霧島さんが雄二に命令したければ、雄二の番号を言い当てなければならない。
今のままだと名前を言っているから、不成立に――。
「じゃあ、三番」
「…………」
ダッ!! ← 雄二が逃走した音。
ビューンッ!! ← 僕とムッツリーニが飛びついた音。
ガシッ!! ← 僕とムッツリーニが雄二を確保した音。
「くそっ! 離せっ!!」
雄二の番号を言い当てるなんて流石は霧島さんだね!
番号を言われた瞬間逃走した雄二を、僕とムッツリーニの二人が確保した。
「駄目だよ、坂本君。王様の命令は絶対なんだよ♪」
「そうそう! 霧島さんが今は王様なんだから、受け入れなきゃ駄目だしっ」
「しかし、あまり過激すぎるものは言っては駄目よ、霧島さん……」
工藤さんは面白そうに、由比ヶ浜さんは楽しそうに、雪ノ下さんは溜め息交じりに言った。
そんな中で、霧島さんが出した命令は――。
王様ゲーム編、書いていて思っていることがあります。
カオス過ぎません???
まだまだ彼らの夜は続きます。
次は一体どんな命令が飛び交うことになるのでしょうか……。
それにしても、雪ノ下さんが由比ヶ浜さんのほっぺたにキスしているイラストとか欲しくないですか?
誰か描いて欲しい……というかイラスト描けないからどなたかに描いて頂きたいです……。
挿絵にしたい部分とか何個もあるんです……。
イラスト勉強しようかな……。