やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十二問 バカとみんなと王様ゲーム (5)

 八幡が逃げ出してしまったことにより、王様ゲームは中止となった。くそぅ、あんな手段で逃げるなんて八幡らしい……悔しいけど、上手いと言わざるを得なかった。

 ちなみに、逃げ出した八幡に対して真っ先に捕まえに行こうと部屋を出たのは美波だった。その次位に由比ヶ浜さんで、あとの人達は少しのんびりしてからそれぞれの部屋に戻っていった。

 僕はというと、喉が渇いたから自動販売機で飲み物でも買おうかなぁと思いつつ、そんなお金がなかったことに後から気付いてとぼとぼと旅館を歩いている所。そうして旅館内を歩いていると、

 

「……ん?」

 

 一人、ロビーで勉強に励んでいる女の子が居た。

 その子は一見すると不良に間違えられてしまいそうな程、威圧的な態度を取っている。だけど、こうして勉強している姿を見ると、ただ真剣なだけなのかもしれないと思った。

 多分F組の子じゃないから、別のクラスの子かな……?

 

「あの子、確か川崎沙希さんですよ?」

 

 後ろから声をかけてくれたのは、姫路さんだった。

 

「川崎さん?」

「はい。私と同じクラスの女の子なんですけど、結構遅刻することが多くって……今もなかなか他の子と話さないから、私、ちょっと心配で……」

「そっか……」

 

 川崎さんかぁ。

 一体どんな女の子なんだろう。ちょっと話しかけてみようかなぁ……。

 それに、もうすぐ消灯時間みたいだし、時間的にはちょうどいいのかもしれない。

 

「ねぇ、そろそろ消灯時間だよ?」

 

 試しにそう声をかけてみたけど――無視。

 ピクりとも反応しない。

 

「おーい、聞こえてるー?」

 

 余程集中しているのか、川崎さんは視線を教科書とノートに向けたまま、こちらを見ようともしない。

 

「かーわーさーきーさーんー」

「うるっさいなぁ……そこまで言わなくても聞こえてるっての」

 

 不機嫌そうな表情を浮かべながら、川崎さんはやっとこっちを見てくれた。

 ……ん? なんだか雰囲気が誰かに似ている気がするぞ?

 

「あの、川崎さん。そろそろ消灯時間なのでお部屋に戻った方が……」

 

 ここぞとばかりに姫路さんが言う。

 しかし川崎さんは、

 

「ん? あたしがどこで何してようとあんた達には関係ないよ。大丈夫。あんた達に言われなくても、時間がきたらちゃんと部屋に戻るから」

 

 何処かぶっきら棒にそう言ったのだ。

 あ、そっか……誰かに似ていると思ったら、

 

「なんだか川崎さんって、八幡っぽいなぁ」

「は? はちまん?」

 

 あ、川崎さんは八幡のこと知らないんだった。

 

「僕の友達だよ。本人は頑なに友達だって認めてくれないんだけどね」

「……あっそ」

 

 特に興味もなさそうに言葉を返してくる川崎さん。

 確かに、知らない人に対する返答なんてそんなものなのかもしれない。

 だけど、なんだろう。

 根本的には少し違うんだけど、何処か八幡に似ている所のある川崎さんを、僕は放っておけないと思ったのかもしれない。

 それに、姫路さんが心配しているんだ。

 何とかしてあげたいって思った。

 

「ねぇ、川崎さん。川崎さんって好きな食べ物とかある?」

「……は? 何よいきなり」

 

 なんかキョトンとされた。

 そんなに変な質問したかな?

 

「あの、吉井君……今の質問、なんだか合コンみたいですよ?」

「へ? そうかなぁ」

 

 何か共通の話題を探そうとする時って、身近なものから聞くのが普通だと思うんだけどなぁ。

 

「……なる程。コイツはバカなのか」

「いきなりバカって言われた!?」

 

 何か物凄く唐突にバカ扱いされてびっくりしたよ!?

 僕今の流れでバカって言われる要素あったかな!?

 

「少なくとも、姫路はともかくアンタは同じクラスでもなんでもないよ。話す理由だって特にない筈。だから放っておいても……」

「それは、僕が話したいからじゃ駄目かな?」

 

 川崎さんは言葉を失ったみたいだ。

 あれ? そんなに変なこと言ったかな……僕はただ、川崎さんとお話したいだけなのに。

 一方で姫路さんは、何故か嬉しそうに笑っていた。

 

「どうしたの? 姫路さん」

「うふふ。なんでもありませんよ……明久君♪」

 

 あれ?

 今姫路さん、僕の名前を……。

 

「……勝手にすれば?」

「うん。僕の勝手にさせてもらうね。どの道そろそろ消灯時間だし、せっかくここまで来ているんだからたまには違うクラスの人と話してもいいんじゃない? 勉強している所で申し訳ないけど……」

「……別に。明日でも出来ることだから」

 

 そう言って川崎さんは、開いていたノートと教科書を閉じてくれた。

 なんだか川崎さんって。

 

「優しいね」

「……へ?」

 

 川崎さんは突然『何言ってんだコイツ』みたいな目で見てきた。

 この数分間だけで一体何回僕は川崎さんに変な目で見られているんだろうか。

 

「なんだか、優しいお姉さんみたいだなぁって」

「アンタがガキっぽいだけじゃないの?」

「確かに、明久君は何処か子供っぽい一面もありますよね」

「あれ? 僕そんなに子供っぽいかな?」

「子供ぽいってか、バカっぽい」

「そんなに言わなくてもよくない!?」

 

 何かさっきから川崎さんに攻撃されているような気がするよ!?

 でも、川崎さん何処か楽しそうにしているように見えなくもないし……うーん、これはどう反応したらいいんだろう?

 

「私、川崎さんのこと少し勘違いしていたかもしれません。クラスではなかなか話してくれませんけど、こうして話してみると結構面白い人なんですね」

「……」

「だから、もし今度教室で見かけたら、また、声をかけてもいいですか?」

 

 意を決して、姫路さんは川崎さんに言った。

 その表情はとても真剣で、きっと姫路さんは川崎さんと友達になりたいと思ったのだろう。

 その気持ちを察してくれたのか、川崎さんも姫路さんの言葉を無碍に扱わない。

 きちんと受け止めて、そうして上で。

 

「……アンタが話したければ、いいんじゃない?」

 

 そう言ったのだ。

 すると姫路さんは、笑顔で川崎さんの両手を掴んで、握手する。

 

「ありがとうございます♪」

 

 なんだろう……とても心が温まる瞬間だった。

 誰かと誰かの輪がこうして繋がることはとてもいいことだ。

 それに、仲良くなりたいと思った人とこうして仲良しになれるのは、お互いにとっても気持ちのいいことだと思う。

 だって、人は全員と仲良くなれるわけじゃないのだから、せめて友達になりたいと思った人だけでも――大切にしたいと思った人だけでも、少しでも長く一緒に居られたら嬉しいなって思うから。

 

「これからもよろしくね、川崎さん」

「……よ、よろしく」

 

 だから、八幡のように不器用な川崎さんに対して、僕は心から『友達になりたい』と思ったのかもしれない。同情とかそう言った気持ちなんて何処にもなく、本当に単純に、興味を持って、話してみたいと思ったから。仲良くなりたいと思ったから。

 

 そうして、合宿一日目は終わりを告げたのだった。

 

 




本編でやっと川崎さんが登場してくれました……。
なんとなく察してくださった方もいらっしゃるかもしれませんが、当作品の川崎さんは今の所若干明久に興味を抱いている段階です。
というか、明久が川崎さんに対して『友達になりたい』と思っているのが正しいかもしれません。
ちなみに、原作通り明久は、姫路さんについては本当に女の子として気になっています。そこは根底として崩してはいけないと思っているので。
ただ、最終的にどうなるのかにつきましてはまだ分かりません……。
次回からは八幡視点で合宿二日目の様子をお送りいたします。
今の所そこまで登場していない葉山グループに、果たして出番はあるのでしょうか?
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