やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

75 / 130
第十三問 彼の知らない所で、一歩前へと踏み出した。 (3)

 部屋に戻ってのんびりしている俺達。今は消灯前である為、寝ても構わないような時間帯だ。昨日は結局俺が逃げる前まで延々と王様ゲームをやらされていたから今日こそはじっくり寝たいところだ。

 

「ねぇ、ちょっと話をしようよ!」

 

 突然吉井がそんなことを言いださなければ、このままゆっくり眠れたというのに。

 

「いきなりなんだよ明久。一体寝る前に何話すっていうんだ?」

「んー、そうだなぁ……」

 

 坂本に促される形で考える吉井。

 考えている間に布団に入り込んでしまえば、あとは寝たふりで誤魔化せばいいだろう。

 そんなことを模索していた俺だったが、

 

「周りに居る女の子について話してみようよ」

 

 大多数の女子にとって地雷にしかならない話題が出てきて、思わず被ろうと掴んでいた布団を落としてしまった。コイツは本当に頭大丈夫だろうか。

 

「……女子評論会か?」

「なんだか一気に男子会っぽくなってきたのぅ。心なしかワクワクしてきたのじゃ」

「そうだねー。友達のことを話すのってなんだか楽しいよね!」

 

 土屋は目を輝かせ、木下と戸塚の二人は純粋そうに笑っている。あぁ、コイツら位に純粋になりたかった……俺なんて、吉井がその話題を提供した段階で土屋と同じ発想抱いているからな。ちなみにそれは坂本も同じらしい。

 

「んじゃ、誰から話す?」

「そうだねぇ。最初は自由に話しやすい人からいこうよ」

 

 坂本の言葉に乗っかる形で、吉井がそう提案する。

 自由に話しやすい女子ねぇ……。

 

「……清水、とか?」

「八幡。それは自由に話しやすいというよりかは、自由に文句を言えるの間違いだよね?」

 

 強ち話題に間違いはないと思ったんだが。

 清水相手なら、いくら何を言っても別に俺達なんて眼中にないような反応をしそうだからな。聞かれる心配なんざ微塵もしていないが。

 

「アイツはまぁ、見て分かる通りの同性愛者だからな……」

「……島田美波とよく一緒に居る」

「確かに、島田さんと清水さんって仲良しだよねー」

 

 戸塚よ。

 あの二人は仲がいいわけではない。清水が一方的に島田相手に好意をぶん投げているだけだ。いわば一方通行の道を時速百八十キロで走り抜けているようなものだ。当然、島田は避け続けているものの逃げ切れるわけがない。何せ相手は暴走超特急だからな。

 

「それで済ませていいのかは分からないのじゃが……」

 

 若干、木下は気付いているようだ。コイツはコイツで、隠れBL好きの姉を持っているわけだからな……腐海の住人が身内に居ると、なんとなく感づいてしまうものなのだろうか。

 

「とりあえずアイツを見ていると、俺はGW中にバイトしていた時を思い出してな……」

「そういえば坂本君達って喫茶店でアルバイトしたんだよね?」

 

 少し顔色を青くしていた坂本に対して、戸塚が尋ねる。そう言えばあの喫茶店の店長の娘だったな……あの家族、正直どうなってんのか分からねぇ。ただ一つだけ言えるのは、清水の男嫌いを作ったのはあの店長に違いないということだ。

 

「アルバイトと言えば、彩加はまだ会ったことないと思うけど、いろはちゃんって子がいてね?」

 

 吉井が最初の爆弾を叩きつけてきた。

 よりによって一色の話題を出すかコイツ。

 

「……後輩女子」

「後輩ってことは、まだ中学生ってこと?」

「うむ。それで、八幡との仲がよさそうな女の子なのじゃ」

「誤解だ木下。それは決してない」

 

 俺が一色と仲がいいなんて、太陽が今日から西から東に昇る位あり得ない話だ。アイツは葉山のことが気になっていて、その過程で俺を利用しているだけだ。むしろ仲がいいのは吉井ではないのだろうか。よくメールをすると聞いたし。

 

「明久も大概だが、比企谷もやっぱ鈍感だよなぁ」

「何度も言ってるだろ。俺は鈍感じゃない。人一倍人の悪意に対して敏感なんだ。敏感過ぎて空気になるまである」

「八幡が何言っているのか分からないよ……?」

 

 首を傾げている吉井。

 お前がその動きをやっても別に可愛くねぇ。そういうのは戸塚か木下にやってほしい。戸塚なら写真に収めたい。ていうかお持ち帰りしたい。

 

「今度彩加も一緒に遊びに行ってみようよ。確かいろはちゃんは総武高校を受験するって言ってたし、勉強教えるのもありかもしれないよ?」

「それもそうだね! 八幡もね?」

「お、おう……」

 

 ナチュラルに俺まで誘われてしまった。しかも戸塚に誘われた。やったぜ。戸塚と出かけるとかこれってもしかしてデートという奴では?

 なんて考えることはしない。そもそも吉井や一色が居る段階で、俺の気苦労が重なるだけなのは目に見えている。戸塚が唯一の癒しだ。

 

「そう言えば、秀吉ってお姉さん居るよね?」

 

 今度は吉井より木下姉についての話題提供がされた。

 姉の話を振られた木下は、少し複雑そうな表情を浮かべつつ、

 

「姉上は学校の外と家の中では随分と違うのじゃ……」

 

 なんとなく、それは見ていて思った。学校の外だと優秀生として模範的な行動を取っている。しかし、喫茶店で木下に見せた家族としての顔を見る限り、少なからずそっちの方が素であるのだろうと思った。

 

「姉上と言えば、さっきワシの携帯に上機嫌にメッセージが送られてきたのじゃが……何かあったのじゃろうか」

 

 多分、それは戸塚との一件が原因だろう。

 

「なぁ、木下。お前ってよく姉と間違えられることとかってあるか?」

 

 試しに、俺はそう尋ねる。

 すると木下は、

 

「うーむ。少なくともワシが間違えられることは少ない筈じゃ。じゃが、姉上がワシと見間違えられることは多いと聞く」

 

 なるほどな。だからあの時、かなり嬉しそうだったのか。結局海老名さんにドナドナされた後どうなったのか分からなかったが……いや、ひょっとしたらそれも機嫌よくなったことと関係しているのかもしれないな。知らんけど。

 

「木下さんって、可愛いよね?」

「……今、何と申したのじゃ?」

 

 木下が、戸塚の言葉を信じられないと言いたげな目をしながら聞いていた。

 そこまで姉が可愛いと言われることが信じられないのかコイツは。本当に普段家の中でどんな生活を送っているんだよ。

 

「雄二はいいよねぇ。霧島さんみたいな美人の彼女が居て」

「おい明久。俺と翔子は別に付き合っていない」

「へ? もう付き合ってるんじゃないの? 昨日の王様ゲームとか無茶苦茶イチャイチャしてたじゃん」

 

 煽るなぁ、吉井の奴。

 坂本は霧島の話題を出されると不機嫌になる。コイツなりに思う所があるのだろう。

 

「あれは翔子の命令だろうが! 俺の意思じゃねぇ!」

「けど、霧島さんと坂本君って、お似合いだよね?」

「……っ」

 

 戸塚からの純粋な言葉に、坂本は何も言えなくなってしまっていた。

 そりゃそうだ。この言葉に対する反論なんてそう多くはあるまい。というか、言葉を返した所で『そんなことないってー』って言われるのが目に見えている。後、戸塚が言っているということは、煽っているとかそう言った意味はなく、本当に本心から語っているのだろう。

 

「……挙式イベント、参加するか?」

「そんなイベントあっても絶対いかねぇよ!」

 

 土屋の言葉を否定する坂本なのであった。

 というか挙式イベントってなんだよ。そんなのあるなら戸塚と行きたいわ。

 

「それじゃあ次は……」

 

 そう呟いて、吉井は次の話題を投げるのだった。

 




男どもがひたすら身近な女の子について語る回です。
男子部屋だとなんとなくこんなことが起こるのかなぁとか思っています。
この女子についてトークは次回も続きます。
まだ、明久の周りや八幡の周りについて語られていませんからねー。
裏では女子会とかやってるのかな……とかついつい妄想してしまいますね。
それにしても、この感じだと夜這いシーンが入るかどうかが分からない……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。