と、そんなわけで現在僕達は四人でららぽの中を回っている最中だった。それにしてもびっくりしたよ……一緒に探してほしいって言ったのは雪ノ下さんだったのに、入るや否や、
『じゃあ私はこっちを受け持つわ』
『よし、効率重視だな。それじゃあ俺はこっちを。吉井はあっち。小町はそっちを……』
『な、に、や、っ、て、る、の、ご、み、い、ち、ゃ、ん!!』
てな感じでいきなり分かれて行動しようとするものだから、思わず小町ちゃんが八幡の指を強く握っていた。うわぁあれ痛そう……指って握られると地味に痛いんだよねぇ。ちなみに僕は何度か雄二にやられた。
そんなわけで出鼻をくじかれそうになったけど、何とか体勢を持ち直した感じだ。
「にしても、ここってやっぱり回るには大きいよねぇ……」
僕は辺りをぐるりと見渡して、その広さに目が眩みそうになる。いつもららぽと言われると、大抵はゲームや漫画、そしてゲームセンター目的で来るから行く場所が限定されるんだけど、今日みたいに友達の誕生日プレゼントを買うとなると、これまた何処がゴールなのか分からないから余計に大きく感じるなぁ。
って、あれ? いつの間にか雪ノ下さんショップに入っている?
「あれってパンさん、ですよね?」
「あ、あぁ……そう、みたいだな」
小町ちゃんと八幡が、雪ノ下さんが触っている物を見ながらそう言った。
そう。雪ノ下さんが今絶賛もふもふしているのは、ディスティニーランドという場所のマスコットキャラとしてお馴染みのパンさんと呼ばれるキャラクターだ。夢の国の住人みたいなものだね。ハハッ。
「……そろそろ行きましょうか」
「ありがとうございましたー」
あ、雪ノ下さん今触ってたもの買ったね。何処か満足そうだよ?
「雪乃さんって、パンさんがお好きなんですね♪」
「べ、別に、私は……」
小町ちゃんに質問攻めされて雪ノ下さんがタジタジになっている。
「……あんな雪ノ下。初めて見たな」
「確かにねぇ。けど、雪ノ下さんだって女の子なんだよ? 可愛いものに目が行っちゃうのは仕方ないことだと思うよ?」
「……」
八幡は何も言わなかった。
「しっかし、四人で回るには流石に広すぎて終わらない気がするな……」
「みんなで回るのは楽しいけど、それだけだとなかなか決まらないかもしれないねー」
「やっぱりここは手分けして探した方がいいかもしれないわね……」
こうして僕達がみんなで探して回るのは楽しい。
普段なかなか雪ノ下さんや小町ちゃんとお出かけすることはないから、いつもより楽しいのは明らかだ。そもそも女の子とこうしてお出かけすること自体そんなに多くあることじゃないからね!
……何となく須川君達には見つからないようにしなきゃって思ったけど。それ以上に雄二とかに見つかったらどんなこと言われるか分からないな……!
と、そんなことを考えていたら、小町ちゃんの目が何だかキラーンって光った気がした。あれ? 気のせいだよね?
「せっかくなので、二人ずつで回ってみるのはどうですかー? 一時間後に集合して、それぞれが買ったものを持ち寄るって形で♪」
「確かにそれならいいかもね」
それなら、必ず誰かとペアになることが出来るし、効率もよさそうだね。
流石は小町ちゃん! だけど何かまだ企んでそうな気がするなぁ。
「と、その前に小町はお手洗いに行ってきます。ペア分けはそのあとで♪」
そう言うと、ペア分けをする前に小町ちゃんはトイレに行ってしまった。
まぁ、今日はまだまだ時間があるわけだし、ゆっくりしても問題ないよね。
「この場合、俺と小町がペアになるわけだな。んで、雪ノ下と吉井が二人で回る、と」
「そう言えば吉井君は姉が居たのだったわね……それならば女性に対するプレゼントとかも分かるのかしら」
「うーん、どうだろう……僕の姉は常識では計り知れない人だから……というか、常識をもう少し身に付けて欲しいとすら思っているから……」
僕の姉さんは頭は良い。確かに勉強は凄く出来る。現在アメリカに行っていて、日本にはいない。だけど、姉さんは何というか……人としての常識を勉強と引き換えにしてしまったかのように、絶望的なまでに常識が欠けている。もしかしたら暑いという理由だけで電車の中で服を脱いでしまうのではないかと思われる程だ……なんだかえらく具体的だった気がするけど気のせいかな?
「俺だって小町がいるぞ」
「貴方の場合は人としての常識が若干問題あるから信用ならないわね……」
「えらい饒舌だな……」
相変わらず雪ノ下さんと八幡ってば仲がいいなぁ。
なんてことを考えていた、その時だった。
「あれぇ~? 雪乃ちゃん!」
「っ!?」
突然、凄い美人さんが雪ノ下さんに声をかけてきた。
その声に合わせて、雪ノ下さんが少しだけ嫌そうな表情を浮かべている。
一体どうしたんだろう? こんなにも美人な人に声をかけられているというのに……。
「姉さん……」
あ、一瞬で理解出来た。
「えっ」
八幡は驚いたように声を出す。
そりゃそうだ……今目の前に居るのは、雪ノ下さんが姉と称した人物だ。それもとびっきりの美人さんだ。だけど、なんとなく雪ノ下さんの気持ちが分かってしまった……多分、この人も姉のことが苦手なのだろう。その気持ちはちょっと分かるかもしれない。
「雪乃ちゃんの姉の陽乃です♪」
ピースまで作っちゃってるよ!
なんだかこの人凄いぞ!
「ところで、貴方達のお名前は?」
陽乃さんが尋ねてくるので、僕から自己紹介を始めた。八幡ってばさっきから目を合わせようともしていないみたいだし……。
「僕は吉井明久。それで、さっきから目を合わせようとしていないのが、比企谷八幡」
「……うす」
「ふむ……吉井君に、比企谷君か……それで? どっちが雪乃ちゃんの彼氏なの?」
「「彼氏じゃないです」」
何故か僕と八幡の声がハモった瞬間だった。
そんな僕達を見た陽乃さんは、何故かにこにこと笑いながら、
「またまたぁそんな照れちゃって~♪」
と、僕と八幡の背中をバシバシ叩き始めた。
ちょ、痛いですっ! 後なんかいい匂いがしますね!!
もう少しだけその柔らかさを堪能させてください!
「姉さん。からかうのは止めて頂戴。後、その二人が彼氏だなんてあり得ないわ……バカと腐り目が移る」
ここで雪ノ下さんから怒りのお言葉。
声色からしてかなり不機嫌そうだ。
不機嫌ついでに僕等を罵倒するのは止めてくれないかな!?
「ちょっと!? 僕の何処が腐っているのさ!?」
「違う。お前の場合バカだから。腐っているのは俺の目な?」
「なんだって?! 僕がバカだったの!?」
「気付けバカ」
「……そういう所よ」
何か二人そろって僕を可哀想な目で見てくるよね!?
「あの雪乃ちゃんがここまで……ふーん……」
何だろう。今のやり取りで僕や八幡は陽乃さんに目をつけられた気がする。
そして陽乃さんは、僕と八幡を強引に引き寄せると、僕等の耳元で、
「雪乃ちゃんはああ見えて繊細な心の持ち主だから、もし彼氏になるつもりがあるなら引っ張っていってね? お姉さんとのお約束だぞ♪」
と言ってきた。
いや、あの、それ以前に雪ノ下さんの彼氏になるつもりはないんですけど……。
「……」
「おろ?」
八幡は何故か嫌そうに陽乃さんから距離を取る。
あれ? 今のやり取りで何か嫌そうな要素あったかな?
……あ、いや、八幡の場合は陽乃さんじゃなかったとしてもそうだった。
「もういいかしら姉さん」
その様子に、より一層不機嫌オーラを出している雪ノ下さん。
あぁ、もう雷でも落ちてくるんじゃないかと思われる程だよ!?
「ゆ、雪ノ下さん落ち着いて……」
僕は思わず声をかけてしまったけど。
「へ? 私は落ち着いているよ?」
何故か陽乃さんが反応した!
そう言えばこの人も雪ノ下さんだったね!!
「ち、違うんです! 僕が言っているのは雪ノ下さんで、雪ノ下さんじゃないんです!!」
「「もうわけわからない」」
「あれ?」
八幡と雪ノ下さんの声が重なった。
僕も自分で言っていて何を言っているのか分からなくなってきたぞ!?
それが面白かったのか、
「も、もう無理、この子凄く面白い……なんだろう、とても素直ね……雪乃ちゃんのお友達としては、凄く真反対な子だね……あはははは!」
めっちゃ笑われた。
そりゃもう盛大に。
「そっかそっか……そりゃ雪乃ちゃんも影響されちゃうわけだ……比企谷君も比企谷君で、なんだかとても面白そうだし……もうちょっとお話したいけど、これ以上は雪乃ちゃんが怒っちゃうかもしれないから、また今度ゆっくりお話しようね♪」
そう言うと、陽乃さんはニコニコしながら手を振ってその場を去ってしまった。
……なんだか一気に体力が奪われた気分だなぁ。
「お待たせしました~。いやぁお手洗い混んでまして……って、あれ、なんだか皆さんお疲れモード?」
小町ちゃん。
君は今完全に空気を読んだような、読んでいないような感じだよ……。
サブタイトルの伏線を二個目にして回収してしまいました()
本当は次の話に向けても陽乃さんを出すつもりだったのですが、思いの外一話分で書けてしまったということと、きりのいい場所がなかったというのが……。
しかし、この人は本当に描くのが難しいです……。
超強化外郭は伊達じゃないです……。