とりあえず一旦落ち着いた僕達は、フードコート内にあったハンバーガーショップにて飲み物とポテトを買って、みんなで摘みながら話をしていた。そこには自然といろはちゃんも加わっていて、さりげなく僕と八幡の間をキープしている。知り合いがいる場所にとなると、今の場所が自然なのかもしれないけど、
「……なんだよ」
「別に。鼻の下伸ばして喜んでいる変態谷君のことなんてなんとも思ってないわよ」
「思いっきり思ってんじゃねえか……」
八幡に対する皮肉がいつも以上に冴え渡っている雪ノ下さんと、
「じー……っ」
何故かいろはちゃんをじーっと見つめる小町ちゃん。まるで何か品定めでもしているような感じだ。
当の本人であるいろはちゃんは、雪ノ下さんの視線に対して少し驚いているといった様子だ。
ちなみに、自己紹介とかはポテトを買う前に済ませておいたから、互いの名前はもう知っている。
「それで? 比企谷君や吉井君と一色さんの関係性って一体何なのかしら?」
話を最初に振ってきたのは雪ノ下さんだった。どうやら雪ノ下さんとしては僕や八幡と、いろはちゃんの関係性を探りたいみたいだ。というか多分だけど、雪ノ下さんって気になることはとことん追求しないと気が済まない性格だよねきっと……。
それに対して、いろはちゃんは答える。
「せんぱいと吉井先輩にはいつもお世話になっているんですよ〜。私、今年が高校受験なんですけど、総武高校に行きたいなって考えてて、そこでせんぱいには勉強を、吉井先輩には学校のこととかどんな先輩がいるのかとか教えてもらってたんです」
うん、確かに嘘は言ってない。というかその通りだ。
だけどなんでだろう。僕の名前が出た時に『勉強を教えてもらってる』って言葉が出なかったことに対して、三人とも妙に納得したような表情を浮かべているのは。小町ちゃんまでもが違和感抱いてなささうだったよ? 僕ってそこまで噂広まってるの?
「事情は理解したわ。けれど、貴方達は一体どこで出会ったのかしら?」
「せんぱい達が一日だけアルバイトしていた日があったんですけど、その時喫茶店に行った客が私だったんですよー」
「あぁ! 珍しくお兄ちゃんが明久さんに連れ出された時ですね!」
あの時も僕は小町ちゃんから色々アドバイスを貰って一緒に参加してもらったんだよね。結果的にそれがいろはちゃんと出会うきっかけになったわけだし。それ以上に店長のキャラが強烈過ぎた記憶が濃いんだけどね……。
「……なるほど。だいたいは理解出来たわ。けれどこの男、家庭教師には向いていないのではないかしら」
「おい待て雪ノ下。いくら俺でも高校受験レベルのことならつい最近やったばかりだから記憶にあるぞ」
「理数系はどうかしら?」
「数字など知らん」
「ごみいちゃん……」
きっぱりと言い切った八幡に対して、小町ちゃんの目線が冷たかった。僕の場合は全部わからないけどね! 一体どうやって高校受験乗り切ったのか分からない位だよ! 姉さんとの地獄のような日々を送ったのは記憶にあるけどね……。
「今は模試とかの前日に勉強を教えてもらったり、課題を指摘してもらったりしてる感じです。意外とせんぱいって教えるの上手だったりするんですよ? 真面目にやってくれますし」
「お、おう……」
ここにきてまさかのいろはちゃんからの褒め攻撃!
八幡は今までこうして素直に褒められたことがあまりないのか、少し照れている様子だ。そんな八幡を見て、『おやおや? これは?』と言いたそうな表情を浮かべている小町ちゃん。さっきから楽しそうだね君。八幡も『コイツ今楽しんでやがるな』って顔してるよ。流石は兄妹ってところかな?
「そう……拡大解釈をするならば、貴女も奉仕部としてしっかりと責務を果たしていたと言えるのかしら?」
「ほうし、ぶ?」
いろはちゃんが何が何だか分からないと言った感じだ。
そんないろはちゃんに対して雪ノ下さんが部長として色々と説明する。
「なるほど……つまり、学校に通っている生徒達の悩みに対して、アドバイスを与えたりする部活、と言ったところでしょうか?」
「……当たらずとも遠からず、と言った感じね」
雪ノ下さんがにこっと笑いながら言っていた。あ、なんだかちょっと嬉しそうだ。
「貴女はまだ総武高校の生徒ではないけれど、これから生徒になろうとしている人の努力を無碍に扱うわけにもいかないわ。引き続き、比企谷君には勉強面を、吉井君には生活面のサポートをすることを命じます」
「部長命令しなくたって別にいいっての……」
「もちろんだよ!」
八幡は渋々と言った感じに、僕ははっきりとそう言った。
ここまでならば普通に良い話で終わるんだけど。
「それで、いろはさんはどうして総武高校に通いたいのです?」
と、高校に入りたい理由を尋ねた。
あー……確かいろはちゃんが総武高目指している理由って、葉山君だったよね……だけど、雪ノ下さんは葉山君とあまり仲が良くないから、その名前を出したらどうなるのかな……。
とかそんなこと考えていたけれど、
「総武高校に行けば、私の気になる人に一歩近づくことが出来るかなぁって思ったからだよ」
と、葉山君の名前を出さずに笑顔で答えた。
おぉ……雪ノ下さんのことを察したのかな?
けれど、何故かいろはちゃんはチラッと八幡のことを見た気がするんだけど、気のせいかな?
そして小町ちゃんは、何故か目をキランって輝かせた気がするのは何故だろう?
「私も実は来年受験なんですけど、総武高を狙っているんです! もしよろしければメルアド交換しませんか!?」
何故か食い気味な小町ちゃん。
それに対して嬉しそうに応じるいろはちゃん。
「……なぁ、雪ノ下」
「何かしら? 比企谷君」
「女子って、あんなに簡単に打ち解けるもんなのか?」
「……私に分かると思っているのかしら?」
「ですよねー……」
やっぱりこの二人って仲いいんじゃないかな……?
※
いろはちゃんと分かれて、ようやっと由比ヶ浜さんへのプレゼントを探しに行くことになった僕達。結局、あの後小町ちゃんが強引に決定づけたことによって、八幡は雪ノ下さんと一緒にプレゼントを選びに行くことになり、僕は小町ちゃんと二人で探しに行くこととなった。
「小町の義姉ちゃん候補があんなにたくさん……お兄ちゃんってばいつの間にこんなに女の子と知り合いになったんだろう?」
うきうきしながら前を歩く小町ちゃん。
確かに、八幡と最初に会った時には近寄りがたい雰囲気があったような気がしたけど、最近の八幡からはそんな気配があんまり感じられなくなった。なんて言うか、話しかけやすくなったような気がする?
けど、多分八幡本人は気付いていないんじゃないかなぁ。
「……多分ですけど、これだけは小町、なんとなく感じているんです」
「へ?」
歩いていた小町ちゃんの動きが止まり、僕の方を振り向く。
そして小町ちゃんは、笑顔でこう言ったのだ。
「お兄ちゃんの傍に居てくれて、ありがとうございます。明久さん」
前に小町主人公の番外編を書かせて頂きましたが、小町は基本的に家族的な意味でのブラコンであることには間違いありません。しかもこの小説での小町は中学二年生です。原作より少し幼く描かれているつもりです。それでも小町は兄の幸せを願っています。もちろん幼さ故に楽しんでいる所があるのも否めませんが。
そして、八幡にいい影響を与えてくれたのが明久であることも感じているわけです。
恋愛的な感情があるかどうかはこの際置いておいて、少なからず小町は明久に対して感謝していると思っています。
そう言った所から、林間学校でのボランティアをはじめとして、今回の一件に繋がっているんじゃないかなぁ、なんて考えています。
しかし、これからどうなっていくのか筆者も心配で仕方ありません()