やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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【第十五問】 現代社会

以下の問いに答えなさい。
「次の文は、景気調節機能について述べたものである。(   )に適切な語句を入れて、文を完成させなさい。
 政府は景気が悪くなったりすると、(   )事業を増やし、(   )を拡大するなどの(   )を実施して、景気を上向かせようとする」

比企谷八幡の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(公共)事業を増やし、(減税)を拡大するなどの(財政政策)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
素晴らしいです。満点の答えが出て先生も安心しています。

土屋康太の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(援交)事業を増やし、(お小遣い)を拡大するなどの(お小遣いアップ)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
危険な香りしかしません。

戸部翔の答え
「政府は景気が悪くなったりすると、(ゲーム)事業を増やし、(売上率)を拡大するなどの(産業革命)を実施して、景気を上向かせようとする」

教師のコメント
何故ゲームの話限定なのですか。



第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (1)

 梅雨の時期が過ぎ去り、七月。総武高でも定期試験を間近に控え、教室の中では試験についての話がされるようになってきていた。かくいう俺も、国語の試験で好成績を収める為に準備を整えている所だ。来年の進路は当然文系を選ぶつもりなので、国語や英語の成績に関しては油断してはならない。数学や理科といった理数系に関しては既に捨てているから問題ない。人間諦めも肝心。時には何をしたところで無駄に終わることだってあるのだということを俺はよく知っている。故に俺は今回の試験もまた、理数系を捨てようと考えていた。うん、いつも通りそうするとしよう。とかなんとか考えていた俺だったが、そんな時に。

 

「……ん?」

 

 携帯電話が鳴った。

 一体なんの用事かと思い、俺は取り出して確認することにする。ここ最近よく誰かしらから連絡が来るようになったなと自分でも感じている。大体は島田か吉井、そして一色からだったりするのだが。

 今回もその三人のうちの誰かだろうと思って確認すると、やはりというか、そこに書かれていた名前は吉井の名前だった。

 ただ、その文面がなんとも言えないものだった。

 

『今夜。うちに泊めてくれないかな? 今日はその、帰りたくないんだ……』

 

 なんでそんな彼氏の家に泊まりに行く女みたいなメール流してきてんの?

 

「あれ? ハチ、そのメールって?」

「あっ、島田」

 

 隣の席に座る島田。恐らく今ちょうど教室に着いたところで、珍しく携帯電話をいじっている俺の姿が目に映ったのだろう。たしかに普段なかなか操作しているところを見ない奴が珍しく何か作業をしていたら気になるかもしれない。知らんけど。

 

「…………ねぇ、ハチ。一体何があったの?」

 

 心配そうな表情でこちらの様子を伺ってくる島田。それは俺のセリフだ。主に吉井相手に伝えてやりたい。

 

「いや、よく分からん。今さっきこんな連絡が来たばかりなんだ。俺に聞かれても事情はよく分からない」

「確かにハチに聞いても分からなそうね……アキってば、また馬鹿みたいなメール送ってよく分からないことをしちゃって……瑞希が苦労するのも頷けるわ……」

 

 何やらボソボソと呟いている島田。みずきって一体誰のことだ?

 

「ところでハチ。そろそろ定期試験だけど勉強の調子はどうなの?」

 

 当然、話題は試験の話になる。そりゃ多少なりとも気になるところだよな。高校始まって一発目の期末試験ともなれば、どれだけ成績が取れるか気になるところなのかもしれない。今までそんな話をしたことがないからよく分からないが。

 

「学力強化合宿でも言ったが、理数系は捨てた。文系に進む為に今はその教科を勉強している所だ。幸い数学以外はそこそこハイスペックだと自覚しているからな」

「まったくハチってば……せっかく赤点免れたのに、今度は定期試験で赤点取るつもり?」

 

 溜め息をついている様子の島田。

 

「……けど、その、お前に教わった所が出てくれれば、もしかしたら赤点回避出来るのかもしれないな。あの時も回避出来たわけだし」

 

 割とぎりぎりではあったけれど。

 いつも数学に関しては一桁を取ることすらあり得るのだから、回避しただけでもありがたいと思っている所だ。正直、島田に教わっていなかったら今頃夏休みに学校行かなくてはならないという事実で学校に行かずに引きこもっていたまである。

 

「そ、そう。それなら、いいんだけど……」

「……どした? 島田。顔赤いぞ?」

「な、何でもないわよっ」

 

 顔を背けてしまった島田。そのままそそくさと鞄を降ろして、一限目の授業の準備を始める。

 そんなわけで俺は机に突っ伏して、いつものように授業が始まるまでの時間、身体を休めようとしていたその時だった。

 

「おはよう八幡。今日はよろしくね!」

 

 と、満面の笑みを浮かべながら挨拶してきた吉井の姿があった。

 

「……何の話だ」

「メール送ったでしょ!?」

「メールの件なら却下だ。大体なんだよあのメール。内容が意味不明だからな」

「へ? 普通のメールだと思うんだけど……」

 

 吉井は心からあのメールがおかしいと思っていないらしい。

 

「なら今すぐ声に出して読んでみろ」

「えーと……『今夜。うちに泊めてくれないかな? 今日はその、帰りたくないんだ……』」

「……アキ。それじゃあまるで恋人がもっと一緒に居たいから送るみたいになっているわよ」

 

 島田からの追撃。

 何が悲しくで男からこんな連絡を受け取らなければならなかったのか。どうせ送られるなら戸塚からがいい。戸塚ならば喜んで家に泊めるまである。むしろ俺からお泊りの提案をしてみようか。

 というか、いつもより吉井の様子が少し違う気がするな……。

 

「……ところでアキ。なんだかいつもより血色いいけど、何かあったの?」

「え? 今日はちゃんと朝ご飯食べてきたからね」

 

 ということはいつもは食べていないのか……。

 いや、吉井の場合はあり得る話だ。確か以前アイツの家に行った時には、仕送りのほとんどをゲームや漫画につぎ込んでいるという話だった筈。つまり、食材を買うお金があるのかどうかすら怪しいというわけだ。

 

「それどころか、寝ぐせもないし、制服も皺がほとんどねぇな……一体どんな心境の変化なんだ?」

「た、たまたまそういう日だっただけだよ!」

 

 俺が尋ねると、吉井はそのままそそくさと自分の席へ向かってしまった。

 別に追いかけるつもりもないし、追及するつもりもあんまりないが、少なくとも吉井を今日家にあげて泊めるつもりは微塵もない。何より、小町に吉井を会わせると、何が起こるか分かったものじゃないからな。そういったことは未然に防がなければならない。

 

「何やら露骨に怪しいわね……」

「……そこまで気にする必要もないだろう」

 

 良くなったのならばまだマシではないだろうか。

 そんなことを考えながら、俺は机に突っ伏したのだった。

 

 

「吉井、保健室へ行きなさい」

「そんな! 僕が真面目に授業受けると、どうしてそこまで言われなくちゃいけないんですか!」

 

 島田が怪しむのもおかしな話ではなかったようだ。

 今の吉井は、何もかもが――きっちりしている。それも不自然過ぎる位に。

 普段ならば適当に聞き流しているだろう授業の内容についても、しっかりと聞いている。ノートをとっているその姿は、まるで模範生のようだ。

 

「……やっぱり何かあったんじゃない? アキ」

「かもしれないな。気になるなら後で聞いてみたらどうだ?」

 

 島田がこそこそと俺に耳打ちしてくる。

 やめて。授業中にそんなことしてくるとドギマギしちゃうでしょう。からかい上手の島田さんになっちゃうでしょ。俺が西方かよ。俺あんなに鈍感じゃねえよ。

 

「本当、ハチってば興味ないのね……」

「別によくなっているならそこまで気にする必要もないし。何より、俺に被害が及ばないのならばそれが一番だからな」

「まぁ、確かにアキの行動はいいものになっているんだけど……」

 

 確かに、何かきっかけでも起きなければ人間そう簡単に変わるものではない。

 吉井のあれは、何というか……不自然に目立つというべきか。

 何にせよ、いずれ勝手にボロを出すだろうと俺は考えながら、吉井のことを眺めているのだった。

 




姉のエピソードが続きますが、今回は期末試験におけるお話です。
即ち、バカテス側の姉がとうとう登場してしまうというわけですね……。
ちなみに、陽乃さんは20歳で、玲さんは23歳だそうですね……確かに言われてみればそうだなぁって納得してしまいますが、陽乃さんあれで20歳ですか……見えない……もっと大人びているように見えます……可愛いですけどねっ。

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