やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (2)

 昼休みのこと。

 いつものようにベストプレイスへ向かう為に教室を出ようとしたところに。

 

「あ、八幡。今日一緒にご飯食べようよー」

 

 と、何故か吉井が俺の行く手を阻むように教室の扉に張り付いていた。

 いや、なんでそんなに必死なんだよお前。

 

「……いや、俺購買でパン買って来るから」

「それじゃあ僕も一緒に行くね!」

「……いや、俺一人で食べたいから」

「それじゃあ僕も八幡の隣で一人で食べるね!」

 

 支離滅裂だぞお前。

 自分で何言っているのか分かっていないのか?

 

「ところでアキ。その袋って一体?」

 

 島田がここぞとばかりに尋ねてくる。

 どうやら島田も弁当を食べようとしていたらしく、机の上には小さな弁当箱が乗せられている。

 

「へ? 何ってこれは弁当だけど……」

 

 さも当然のように答える吉井。

 ん? 吉井が弁当?

 

「マジで言ってんのか?」

「八幡まで信じていないの!?」

 

 いやだって、吉井が弁当持ってきているだなんて正直予想していなかったからな。

 林間学校のカレー作りとかで見た感じだと、ある程度料理出来るとは思っていたが、よもや弁当を作るまでやってくるとは思わなかった。

 

「これ、誰が作ったの?」

「僕だよ?」

「「それ本当?」」

「なんで二人とも疑っているのさ!?」

 

 俺と島田の声が重なったことに対して、吉井が抗議の声をあげる。

 うん、まぁ、確かに吉井が言い訳したくなる気持ちも分からなくはないが。

 

「……日ごろの行い、じゃねえか?」

「八幡には言われたくないよ!?」

 

 どうしてそこで俺を引き合いに出すのか。

 

「とにかく、うちに泊まるのはなしだ。頼むなら坂本辺りにでもしておけ」

「そうか! その手があったか!」

 

 おいコイツもしかして、坂本に連絡するということすら思いついていなかったのか。

 

「ありがとう八幡! 雄二に聞いてみるよ!」

「お、おう……」

 

 とりあえず満足したらしい吉井は、坂本の所へと向かった。

 それを見送る俺と島田の二人。

 

「……絶対、何かあったとしか思えないんだけど」

「気になるなら聞いてみればいいんじゃねえか?」

「……瑞希と相談してみる」

「……なぁ、島田」

「何?」

 

 俺はずっと疑問に思っていたことを島田に尋ねることにした。

 

「その、みずきって一体誰のことだ?」

「……」

 

 その後、瑞希とは姫路のことであると説明された俺。

 何故かその時の島田は、何処か可哀想な物を見る目をしていた気がする。

 俺、何かしたか?

 

 

「邪魔するぞー」

 

 放課後。

 いつものように奉仕部の部室で本を読んでいると、そこに坂本の声が聞こえてきた。

 依頼がくるまでは基本的に暇な部活であるが、こうして坂本のような知り合いが入室してきたのは珍しことかもしれない。

 

「貴方は確か……」

「あっ、坂本君だ!」

「よっ、由比ヶ浜。そして雪ノ下」

 

 一通り挨拶してくる坂本。

 そう言えばまだ吉井が来ていないみたいだな。

 

「一体どうしたのかしら?」

「まぁ、単純に言えば奉仕部に依頼しに来たって感じだ」

 

 何食わぬ顔で坂本がそう言う。

 コイツが依頼? 随分と珍しいな。坂本ならば一人で勝手に解決しそうなものだが。

 

「……依頼ということであれば無碍に扱うことは出来ないわね。そこにおかけなさい」

「お気遣いどうも」

 

 ストン、と坂本は座る。

 俺や由比ヶ浜も定位置に座り、雪ノ下はその間に紙コップに紅茶を淹れ、それを坂本の前に差し出した。

 

「お、紅茶か。サンキュー」

「……それで、依頼とは一体何なのかしら?」

 

 雪ノ下が尋ねる。

 すると坂本は、紙コップに淹れられた紅茶に口をつけた後に、口角を上げてこう言った。

 

「ちょっとした調査に協力して欲しくてな……明久の件だ」

 

 なるほどな。

 流石は吉井の悪友。勘付いていないわけがなかったか。

 

「そういえばヨッシー、今日はまだ来てないよねー」

「まず、そのことなんだが……今日はどうやら放課後に予定があるって言ってすぐ教室を出ていっちまったみたいだぞ」

「そうなの?」

 

 由比ヶ浜が意外そうな表情を見せる。

 ……やはり何かあると考えるのが妥当だろうか。

 

「それに比企谷……お前明久に何吹き込みやがったんだ。翔子が来ている目の前で、『今夜は家に帰りたくないんだ……』なんて言ってきたから、一瞬地獄を覚悟したんだぞ!?」

 

 必死な表情を浮かべる坂本。

 いや、待て。一体何があったんだよ。こっちが気になるわ。何があったらそんな必死に懇願出来るんだ。

 

「……俺はただ、坂本に聞いてみろって言っただけだ。そもそも同じメールを最初俺も受け取ったんだが」

 

 俺は携帯の画面を開き、証拠としてメールを差し出す。

 それを見た三人はというと。

 

「……マジかアイツ」

 

 坂本は目を見開き、

 

「……ヒッキー?」

 

 由比ヶ浜は何故か俺を睨み付け、

 

「……はぁ」

 

 雪ノ下はこめかみの辺りを抑えていた。

 最早雪ノ下のそれは、吉井が何かしら行動を起こす度に発生する様になったな。一種の持病かなにかみたいになってるぞ。大丈夫か雪ノ下。

 

「まぁ、そんなわけでただ今絶賛怪しい明久の家に、この後ムッツリーニや秀吉、島田や姫路も呼んで、明久の家へ行ってみようと思うんだ。お前達も来てくれないか?」

「ヨッシーって確か一人暮らししてるんだよね? ちょっと気になるかも!」

 

 由比ヶ浜は少しテンションが上がっているようだ。

 高校生で一人暮らしというのは確かにあまり見ないから、そう言った意味では興味あるのかもしれない。

 ……そういやここに一人暮らししている女子高生いたわ。

 

「……部長へ話を通すわけでもなく、友人に伝言を頼んだ吉井君だもの。部長として確認しないわけにはいかないわね」

 

 別の意味でやる気を出している雪ノ下。

 うん、まぁ、ほどほどにしてやれ。

 

「いいでしょう。奉仕部として調査に協力します」

「やったー! みんなでかてーほうもんだ!」

「ちょっと、由比ヶ浜さん。暑苦しいのだけれど……」

 

 余程友人の家に遊びに行けるのが嬉しいのか、それとも雪ノ下と一緒に遊びに行けるのが嬉しいのか…恐らく後者だろうなぁ。島田や姫路も居ると言う話だし、女子が多いに越したことはないのだろう。由比ヶ浜的には。あと若干漢字になってないの気になるぞ。

 

「ま、そんなわけで。放課後突撃取材といこうぜ。比企谷も協力してくれるよな?」

「……やっぱ、俺も行かなきゃ、駄目か?」

 

 悪そうな笑顔を浮かべながら俺に話を振ってくる坂本。

 それに便乗する形で雪ノ下が一言。

 

「貴方は奉仕部の部員なのよ。部活動に関しては基本全員で何かしらの形で参加するのが一般的でしょう……それとも、特別な事情があるのだったら考えるけれど……」

「あ、それなら私、小町ちゃんに確認してみよっかー?」

「分かったよ行くよ」

「随分早かった!?」

 

 小町を引き合いに出されてしまったら行かざるを得ないじゃねえか。というかこの話が伝われば、小町は確実に面白がってついてくるに決まっている。

 ……それだけはなんとなく避けなければならない。

 

「んじゃ、決まりだな」

 

 逃げ道を塞がれた気分だ。

 そんなことを思いながら、俺は部室を出るのだった。

 




雄二からの依頼(?)により、奉仕部のメンバーは明久の家へと向かうこととなります。
原作通りのメンバーに、奉仕部の三人が加わる形での家庭訪問です!
このままだと確実に、あのお姉さんが八幡達と出会うことになりそうですね……。
一体どれだけカオスな展開が待ち受けているのでしょうか……。

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