やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十五問 期末試験で、彼はいい成績を取らなくてはならない。 (3)

「つーわけで明久。家宅捜索の時間だ」

「僕結構早めに帰ったつもりなのにもう追いついたの!?」

 

 奉仕部の部室をすぐに閉めて、坂本達と一緒に吉井の家へと向かったのも功を為したのか、何と吉井が鍵を開けようとする寸前に俺達は辿りつくことが出来たのだった。

 ちなみに、校門を出ようとした段階ですでに島田達がスタンバイしていた為、余計に逃げることが出来なくなってしまった。自転車は下に置いてある。

 

「明久。何の説明もなしに俺の家へと転がり込もうとするのは無理な話だ。それに、定期試験の範囲をいきなり聞き出す辺り、お前にしてはいよいよ以て怪しいんだよ」

「なんで!? 定期試験の範囲聞くのは別に問題ないと思うんだけど!?」

「……中間試験の時は勉強すらしていなかった」

「その中間試験を踏まえた上で僕だって……」

「嘘だな」

「勉強を……って雄二! ちょっとは僕の言うことを信用してよ!」

 

 見事なまでに信用されていない様子の吉井。

 まぁ、確かに吉井の勉強嫌いというか、勉強のやらなさは筋金入りと言ってもいい。小テストもほぼ赤点という結果を残す位だ。というかまともな点数を取っている科目があるのか知りたいところである。

 

「しかし明久よ。今日は一段と変じゃのう。弁当を持ってきておったり、ワイシャツにはアイロンがけしてあったり……果てには家へと真っ直ぐ帰ろうとする。もしや……」

「……彼女」

「えっ」

 

 土屋の言葉に真っ先に反応したのは姫路だった。何故か目に見えて落ち込んでいる。コイツもしや、吉井に彼女が居るとは思っていなくて、ショック受けているのか? 吉井にも彼女が居るという事実に。

 

「ヒッキー……なんかちょっとズレたこと考えてない?」

「おいなんでお前俺が何か考えているってナチュラルに分かってるんだよ」

 

 由比ヶ浜からのツッコミを受ける。

 何故分かったし。

 

「顔に出ているわよ……最近、貴方も吉井君に感化されてきているのではないかしら」

「なん……だと……」

 

 やはりその一言を喰らうのは間違っている。

 そんな筈はない。感化されるということはつまり……バカになるということだ。

 俺がバカになっている筈がない!

 

「確かに、段々アキみたいに分かりやすくなっている気がする……ハチも」

「え、島田までそれ言う?」

 

 なんとなく最後の砦であるような気がしている島田にすらそれを言われて、最早逃げ道がなくなったような気持ちになる。そんなにこの三ヶ月間で変わったのか? 本質など変わるわけがないのに。

 

「とりあえず明久。鍵開けてくれないか?」

「嫌だ……」

 

 吉井はなんとしても鍵を開けないつもりだ。

 しかし坂本は、何かを悟ったような顔をしながら。

 

「裸ワイシャツの苦しみ……味わってみるか?」

「坂本に何があったの!?」

 

 島田が思わずツッコミを入れていた。

 いや本当に何があった。男の裸ワイシャツとか需要なさすぎ……いや、何人か思い当たる節あったわ……喜びそうな人達いたわ……。

 

「……涙目で上目遣いだとありがたい」

「土屋君。出来ればワイシャツのボタンは上二つ開けて頂けると……」

「姫路さんまで何言っちゃってるの!? え、何、それ売るの!? というか撮ること確定なの!? まさかの秀吉コラボ!?」

「何故ワシまで巻き込むのじゃ!?」

 

 秀吉を巻き込もうとする吉井を見て、俺はとあることを思いつく。

 

 そうだ。戸塚の裸ワイシャツとか最高じゃね?

 

「……ハチ。ハチも裸ワイシャツ味わってみる?」

「待て。なんで俺まで巻き込もうとするんだ島田」

「よしなさい島田さん。そんなことをしてしまったら、腐りが周囲にまき散らされてしまうわ」

「ヒッキーの裸ワイシャツ……ちょっと、いいかも」

 

 待て。

 一番正しい反応が雪ノ下とはどういうことだ。そして由比ヶ浜。その反応はどういうことなのん? 俺のやばい写真撮って一生かけて脅しをかけるつもりなのん?

 

「……まぁ、そろそろカオスな状況になりつつあるからな。明久、中に入れてくれないか?」

「……分かったよ。観念するよ」

 

 渋々と言った感じで、吉井は家の鍵を開ける。

 ガチャッと扉を開けて、一番最初に視界に飛び込んできたもの。

 それは――。

 

 女性ものの下着が部屋干ししてあるという、なんとも異様な光景だった。

 

「これ以上ない程言い訳出来ない物的証拠がぁああああああああああああ!」

 

 頭を抱えて叫び出す吉井。

 

「……吉井君。これは一体どういうことかしら。部長として流石に看過出来ないのだけれど」

「……駄目じゃないですか、吉井君」

 

 雪ノ下はこめかみを抑えながらそう言って、その後で姫路が何かを告げようとする。

 ……心なしか少し目が黒いのは気のせいだと信じたい。

 そんな姫路から発せられた一言は――。

 

「明久君がつけるにしては、サイズが大きすぎますよ」

 

 それはただの現実逃避では?

 

「み、瑞希? それは流石に無理が……」

「あら、これは……」

 

 次に、姫路がテーブルの方を見て何かに気付く。

 

「これって、化粧用のコットンだよね?」

 

 流石というかなんというか。

 真っ先にその正体に気付いたのは由比ヶ浜だった。

 しかし、姫路は……。

 

「吉井君。何故テーブルの上にはんぺんを落としているのですか? 今日の朝御飯だったんですか?」

「はんぺん!?」

 

 これには由比ヶ浜も驚いているようだ。

 いや、コットンとはんぺん間違えるわけねぇだろ……どんだけ認めたくねぇんだ。

 

「……姫路。いい感じに壊れているのぅ」

「……殺したい程妬ましい状況だが、先にそっちの方が心配」

 

 色々とツッコミどころ満載だが、面倒臭いので放置。

 と、周りを見渡した所で更に気付いた点がある。

 

「女性ものの弁当……?」

 

 台所には、弁当が置かれていた。

 恐らく本来ならば持ち出されるべきものだったのだろうが、何かしらで急いでいたのか忘れられたものなのかもしれない。

 

「……もうだめです。否定しきれません!」

「なんで弁当はアウトなんだ……」

 

 姫路は膝から崩れ落ちた。

 いや、下着の段階でゲームセットだろ。どんだけロスタイム引っ張っていたんだお前。

 

「はぁ……もうこうなったら正直に言うよ」

 

 とうとう吉井も観念したのか、溜め息をついた後で、こう言った。

 

「実は今、アメリカから姉さんが帰ってきているんだ」

 

 あぁ、そう言えば吉井には姉が居るって話だったな。

 この前由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行った時にも話題に上っていたな……。

 

「姉……なる程。吉井君も苦労しているのね」

 

 その手の話題となると途端に弱くなるのか、雪ノ下は同情したような声で言う。

 姉に苦労しているのは吉井だけではないというわけか。

 

「姉かぁ……確かに、姉の存在というのはなかなかに難しいものじゃが。そこまで隠し通す程のことじゃろうか……?」

 

 木下の疑問はごもっともである。

 話題にのぼらなければ言う必要もないが、別に隠し通そうとする必要もない筈。

 

「えっと、それは……」

「あら? アキ君。誰か来ているんですか?」

 

 ちょうどその時。

 部屋の中に女性の声が響き渡る。

 

「初めまして。私は吉井玲といいます。こんな出来の悪い弟と仲良くしてくれて、ありがとうございます」

 

 現れたのは、黒髪の女性――吉井の姉である、吉井玲さんだった。

 




とうとう登場してしまいました、明久の姉こと玲さん……!
今後彼女は物語にどうかかわってくるのでしょうか……。
カオスになることは間違いなしの存在ですからね……。
次回もお楽しみに!

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