部屋を移し、各々が自己紹介を始める。特に滞りなく進み、次は木下が自己紹介をする番となった。
「木下秀吉じゃ。初対面の者にはよく間違えられるのじゃが、ワシは……」
「おとこのこ、ですよね?」
「おお! 一目で男と分かってくれたのは主様が初めてじゃ!」
余程男扱いしてもらえたのが嬉しかったんだろうな……木下が感動のあまり笑顔になっている。なにこれかわいい。いや、別に木下萌えとかではないが。
だが、吉井さんは斜め上の回答をしてきたのだった。
「だって、うちの馬鹿で不細工で甲斐性なしの弟に、女の子の友達なんて出来るわけないじゃないですか」
それは流石に酷過ぎません?
俺が小町にそこまで言われたとしたら泣いちゃうよ?
「ですから、こちらの四人も男の子、ですよね?」
そしてあろうことか、未だに自己紹介していない女子グループ全員を男扱いしやがった。
島田と姫路、そして由比ヶ浜の三人は苦笑い。
……うん、分かってた。一番やばいのはコイツなんだって。
「吉井さん。流石に今のは看過出来ないのだけれど……戸籍上立派に女子と記されている上に、今の発言は侮辱されたと受け取られてもおかしくありませんよ」
雪ノ下だ。
不機嫌そうな表情を隠すことなく、吉井さんに口撃している。もしかしなくても、姉として不当な扱いを受けている吉井に対して援護している?
「そうでしたか……それは失礼致しました」
吉井さんは自分の非を素直に詫びている。
それを受けて雪ノ下は何も言わない。それ以上追及するつもりはなさそうだ。
だが、吉井さんは次にまた少しズレたような発言をする。
「ところでアキ君。いつの間に女の子を家に連れ込むようになったのですか?」
まぁ、姉としてはそういった所も心配なのかもしれない。俺には姉はいないから知らんけど。だが、小町が男を家に上げたとなれば怒りのあまりに何をするか分からない。
……もしかしてそういう気持ちなのかもしれない。下の兄弟を持つ立場としては少し理解出来た。
「いや、えっとね? これには事情が……」
「あの、私達が無理言って押しかけてきたんです」
今度は由比ヶ浜が援護してくる。
「そうなんです……ちょっと驚かせようかなって思っただけで、連れ込むってことでは……」
島田もまた、由比ヶ浜の言葉に乗っかる形で吉井は悪くないという旨を伝える。確かに今回の場合、吉井の家の目の前でやり取りをしたわけだからな。
「そうでしたか……しかしながら、アキ君が部屋の中に女子をあげたのは事実です。減点対象ですよ」
「そんなぁ!」
……減点って何のことだ。
「あの、その点数ってなんすか?」
一応のこと尋ねてみる。
すると吉井さんは、にっこりと笑顔を見せながら、
「アキ君が一人暮らししても大丈夫かどうかを確認する為の点数をつけているんです。零点になったら、一人暮らしは認められず、私がこの家に居座ることになります」
……なんというか、コイツにとってはその方がしっかりとした生活を送るようになるのではないかと一瞬考えたが、よくよく考えてみれば吉井にとっては痛手でしかないのだろう。何せ今まで一人暮らしをしていく中で自由な生活を送っていたのだ。自分に置き換えてみれば、監視役が一人ついてくるというだけで面倒臭さが増す。
「明久も苦労しているんだな……」
何故か坂本が同情するような表情で、吉井の肩をポンと叩いていた。
コイツもコイツで、家に何かしらの事情があるのだろうか……興味ないが。
「せっかく皆さんいらっしゃったので、お詫びと言っては何ですが、お夕飯を是非食べていってはいかがでしょうか?」
吉井さんからそんな提案がされる。
夕飯か……小町に聞かなければ分からないな。
一応連絡入れてみよう。その返答次第では俺は運よく帰ることが出来るかもしれないし。
「俺、妹に聞いてみます」
「比企谷君は妹さんがいらっしゃるのですか?」
当然といえばそうなんだろうな。
吉井さんからそんな感じの質問がされる。
「えぇ。俺と違ってかなり可愛い妹がいますよ」
「相変わらず八幡ってばシスコンだよね……」
吉井が何か言っているが、とりあえずは無視する方向でいこう。
一旦部屋から出ていき、それから小町に電話を入れる。
程なくして、
『もしもしお兄ちゃん? 珍しく今日は遅いね~。部活長引いちゃってるの~?』
何やらダラダラしていそうな声が聞こえてきた。
小町ちゃん? 何か想像以上にだらけてない?
「なんか予想よりもだらけてない? お兄ちゃん心配になってきちゃったよ?」
『小町はお兄ちゃんの捻くれ具合の方が心配だよ……それで? いきなり電話ってどったのー?』
「今吉井の家に居るんだが、夕飯どうだって言われちまってな……そんで、もう夕飯作ってるだろうと思ってれんr……」
『あ、ごっめーんお兄ちゃん。小町さっきまでだらけてたから夕飯作ってないし、今日はだらけたい気分だからお兄ちゃんの分のご飯作る予定ないんだ~。だから是非是非そちらで召し上がってくださいな~』
「待ちなさい。だらけ気分でいるのはよくないぞ。今から帰るから夕飯を……」
『え~。たまには小町だって休みたい~。それに今帰ってきたら、しばらくお兄ちゃんと口きかないから』
「んな理不尽な……」
『多分だけど、夕飯ご馳走になるってことは、明久さん以外にも人がいるってことでしょ? ユー、仲良くしてきちゃいなよ~』
その後、小町は電話を切ったようだ。
……マジか。え、何。小町ってば予言者なの? 実は未来見えていたりするのん?
「あ、おかえりハチ。どうだったの?」
真っ先に聞いてきたのは島田だった。
「……だらけたいから今日は俺の分の夕飯作ってくれないそうだ」
「でしたら、是非こちらでお夕飯を食べていかれてはどうですか?」
追い打ちと言わんばかりに吉井さんが提案する。
もう、その流れに乗るしかない。そして夕飯を食べたらすぐにここから立ち去ろう。
「分かりました……ご相伴にあずかります」
「それではアキ君、お願いします」
「分かったよ、姉さん」
吉井が立ち上がり、台所へ向かおうとする。
そんな様子を見て、
「あれ? 吉井君ってお料理出来たんですか?」
姫路が目を丸くして驚いている様子だった。
確かに、普段の様子を見ていると、とてもそんな印象はないからな。
「今時男が料理作るのは珍しくもないだろ? 俺も多少なら作れるぞ」
「ワシはちょっと苦手じゃ……」
「……右に同じく」
俺も基本的に小町が食事担当をしているからな……本当に簡単な物しか作れない。
「んじゃ、明久。俺も手伝うからよ」
「サンキュー、雄二」
二人が台所へ向かおうとすると。
「あ、それなら私も……」
「私もお手伝いを……」
と、姫路と由比ヶ浜が一緒に台所へ行こうとする。
それを必死に止めるように。
「「女子はここで待っていて! 何とかするから!!」」
と、絶妙なコンビネーションで立ち上がろうとした二人を止めた吉井と坂本。
……うん、それは正解だと思う。姫路はどうなのか知らないが、由比ヶ浜はカレーの隠し味に桃缶を指定してきた位には、料理音痴だということが分かっている……。
「なら、私がいくわ。何もせずただ座っているだけというのは納得いかないもの」
「……そこまで言うなら、構わねぇが」
雪ノ下が立ち上がると、坂本は不服そうではあったが協力を認めた。
「三人いればなんとかなるわ。むしろ台所の広さを考えると、それ以上は動きづらくなってしまうから、その、由比ヶ浜さん達はここでゆっくりしていて頂戴」
あ、これやんわりと由比ヶ浜がいかないように牽制している。優しさと見せかけた戦力外通告だ。
この反応から見るに、もしや姫路の料理についても壊滅的なのでは……?
「それでは、残った皆さんは一緒にアルバムでも……」
吉井さんからの提案もあり、部屋に残った俺達はアルバムを見ることとなった。
予想以上に玲さんが動かしづらい件について()。
というか、私の頭の中で、雪ノ下さんが『姉』という存在に対して恐ろしくマイナスの感情を働かせているのが止まらないのですが……どうしましょうこれ……。
凡そ原作通りの動きをしておりますが、これ、まだ高校一年の時の話です。
つまり、恐らく高校二年の同時期にも、玲さんによる監査が入るのではないでしょうか……そんなことを考えております。
ちなみに、原作とは出来事が起こる時系列が異なる場合もございますので、予めご了承ください(そもそも本来二年生で起きる筈のことが一年生の段階で起きているのでずれているのは確定なのですが)。