やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

90 / 130
第十六問 バカと期末試験と姉さん (3)

 勉強会が決まった帰り道。

 家までの道のりを歩いていると、

 

「ん?」

 

 携帯電話が鳴っていることに気付いた。どうやら誰かからメールが届いたみたいだ。

 一体誰からだろう? と思って取り出して確認すると。

 

『たすてけ』

 

 とだけ書かれたメールが届いていた。

 差出人は……。

 

「雄二……一体君に何があったんだい」

 

 いや、なんとなく察することが出来なくもないけれども。

 思えば雄二は昨日、偶然とはいえ四人の女の子と一緒に僕の家まで来て、夕飯まで一緒に食べている。そんなことが彼女――霧島さんにバレたら一体どうなってしまうことか。少なくとも拷問にかけられることはないだろうけど……まさかFFF団じゃあるまいし。

 ごめんね、雄二。僕は無力なんだ……そんなことを心の中で呟いていた、その時だ。

 

「あ! バカなお兄ちゃんです!」

 

 公園の近くを通りかかった時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あれ? アキ。今帰りなの?」

 

 もう一人分、いつも聞いている声も聞こえてきた。

 そう……葉月ちゃんと美波だ。

 二人は買い物帰りなのか、手には買い物袋をぶら下げている。

 

「うん。奉仕部の活動……といっても、今日も依頼は来なかったんだけどね。美波は買い物帰り?」

「そうよ。今日は両親が帰ってこないから、二人で夕食なの。アキは……」

「あー、姉さんの分は作らなくていいって言われてるから、今日は自分の分だけあればいいかなって思って、簡単なものにするつもりだよ」

 

 姉さんを見返してやりたい気持ちもあるけれど、何より姉さんがこうして勉強する場を設けようとしてくれていることだけは認めなくちゃいけない。

 すると美波は。

 

「そう……頑張る気満々なのね、アキ」

 

 笑顔でそう言った。

 そっか……そう言えば美波もお姉さんだったね。

 

「バカなお兄ちゃんはお勉強がんばるです?」

 

 美波の手を握りながら、葉月ちゃんが尋ねる。

 

「うん。ちょっと今回のテストは頑張らなきゃいけないからね。せっかく八幡や雪ノ下さん達も協力してくれるみたいだから、気合い入れないと」

「そうなの?」

 

 意外そうな表情を見せる美波。

 

「うん。今度の土日、奉仕部で勉強合宿みたいなことをするんだ。一人暮らししている雪ノ下さんの家で勉強を見てもらおうかと……」

「奉仕部、ってことは……結衣や、ハチも……?」

 

 美波は少し躊躇いながらも僕に聞いてくる。

 

「そうだよ。奉仕部の四人でって話だからね」

「そう……」

 

 もしかして美波も一緒に勉強したいのかな?

 あ、でもいくら雪ノ下さんが一人暮らししていると言っても、これ以上人を増やすのはどうなんだろうか……僕だけじゃ決められないし……今回は申し訳ないけど、次回何かの機会で合わせた方がいいのかな。

 

「ハチってもしかして、お兄ちゃんもいるです!?」

 

 おっと!

 葉月ちゃんが僕の身体にグイッと近づいてきた!

 

「う、うん。八幡も奉仕部の一員だからね」

「葉月、お兄ちゃんにも会いたいです! バカなお兄ちゃんともたくさんお話したいですし……」

 

 葉月ちゃんが少し寂しそうな顔をしている。

 そっか……いつも学校で会える美波ならともかく、葉月ちゃんはまだ小学生だ。何かしらの機会がなければ、一緒に遊ぶことすら出来ないんだよね。

 雪ノ下さんには申し訳ないけど……。

 

「美波。ちょっと待っててね。雪ノ下さんに電話するから」

「へ? いいけど、一体何を……?」

 

 美波はなんだかよくわからないって感じだけど、今はとりあえず雪ノ下さんに相談してみよう。何もしないよりも、何かしてからの方がいいと思うし。

 何より……葉月ちゃんの寂しそうな目を見たら、そんなことは関係ないって思うから。

 雪ノ下さんの電話番号を入れて、少し待つ。

 程なくして、

 

『吉井君? 一体どうしたのかしら?』

 

 電話口に雪ノ下さんが出てくれた。

 

「もしもし、雪ノ下さん。ちょっとお願いがあって」

『何かしら? 勉強量の相談ならば、増やすことのみ聞くわよ』

「そうじゃないんだ。けど、勉強会に関して一つ頼みがあってね」

『今度の勉強会でのこと?』

「うん。あのね、雪ノ下さん。美波や葉月ちゃんも一緒に参加させて欲しいんだけど……」

『……吉井君。これは遊びではないのよ。れっきとした部活動の一環なのだけれど』

 

 当然すぎる言葉だった。

 だって今回の勉強会は、僕や由比ヶ浜さんの為に開いてくれた企画で、奉仕部の部活動として開かれるものだ。部長としての言葉は正しい。

 

『……けれど、依頼として話を持ち出してくれるのであれば、話は別よ。奉仕部として、出来る限りの力は貸したいと思うから』

「あっ……」

 

 ……なんだ、雪ノ下さん。

 やっぱり優しい人なんだね。何処か八幡と同じで、ちょっと遠回しかもしれないけれど、根はやっぱりいい人なんだ。それは姉さんの前で僕のことを褒めてくれた時にも感じたことだ。

 きっと雪ノ下さんは、人のことをよく見ている。

 僕が何故美波と葉月ちゃんを一緒に参加させたいって言ったのかを理解し、くみ取って、その上でそう言ってくれているのだ。

 

「美波、どうする? 雪ノ下さん、依頼ということであれば聞いてくれるみたいだけど……」

「アキ……」

 

 後は美波が決めることだ。

 葉月ちゃんも、期待の眼差しで美波のことを見ている。

 そんな葉月ちゃんの頭を優しく撫でながら、美波は言った。

 

「うん。お願い……私達の勉強も見て欲しいの」

「……分かった。ってことで、いいかな? 部長」

 

 確認の為に、雪ノ下さんに尋ねる。

 すると雪ノ下さんは。

 

『……承ったわ。その依頼、奉仕部として全力でサポートさせてもらうわ』

 

 柔らかな声で、そう言ってくれたのだ。

 

「……ありがとう、雪ノ下さん」

『何故貴方が礼を言うのかしら。それは貴方が無事今回の定期試験を乗り越えてから言って欲しいのだけれど……今回参加するメンバーで一位二位を争う程頑張らなければいけないのは貴方なのだから』

「返す言葉もございません」

 

 その通り過ぎて全僕が泣いた。

 

『場所や時間とかは後で連絡するわ。島田さん達にもよろしく伝えておいて頂戴』

「うん。ありがとう。また明日ね!」

『……えぇ、また明日』

 

 そう言って電話は切れた。

 

「ありがとうです! バカなお兄ちゃん!」

 

 葉月ちゃんは感極まって僕に抱き着いてきた。

 本当に嬉しそうだね……行動してよかった。

 

「ハチもそうだけど、アキも本当お人好しよね……」

「美波だって人のこと言えないじゃないか」

「……ありがと、アキ。私や葉月のわがままに付き合ってくれて」

「ううん。きっと八幡も喜ぶと思うよ」

「そう、かな……」

 

 言ってみて思ったけど、八幡ってば喜んだとしてもあまり顔に出なさそう。むしろ捻くれた答え方をして照れているのを隠すかもしれない。あ、でもそうなると分かりやすいかも。

 

「それじゃあアキ……また、明日ね」

「バイバイですー! バカなお兄ちゃん!」

「うん、またね! 美波、葉月ちゃん!」

 

 こうして、今度の勉強会に二人も加わることが確定し――とうとうその土日がやってきた。

 




書いていて思い始めたのですが、これ……どのくらい期末試験エピソード続くのでしょう()。
なんだか終わりが見えるような、見えないような気がしています。
本編の方は、勉強会に美波と葉月ちゃんも参加することになりました。
奉仕部with島田姉妹での勉強会が実施されます!!
……これ、玲さん的に大丈夫なのかなぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。