そして土曜日。
雪ノ下さんの住むマンションまで来た僕達だったんだけど。
「……マジ? 本当にここに住んでんのか?」
思わず八幡がポツリと呟いていた。
僕達の視界に広がるのは、大きなタワーマンション。どうやら雪ノ下さんはここの十五階に住んでいるとのこと。僕達は驚くばかりだよ。実は雪ノ下さんって相当大金持ちなのでは?
「ゆきのん、凄い……」
由比ヶ浜さんは目を丸くしている。
「お姉ちゃん! なんだかホテルみたいですー!」
「そうね……ここで一人暮らししているなんて、まるでOLみたいじゃない」
「その表現されると妙にしっくりくるな……」
美波の呟きに、八幡が同意していた。
でも、雪ノ下さんの場合はOLというよりは社長の方が似合う気がする……若くして会社を切り盛りする女性社長的な……なんだか妙にしっくりくる。
「とりあえず、入ろっか」
僕の言葉を聞いたみんなは、雪ノ下さんの住む部屋まで歩みを進める。
程なくして辿り着いた僕達は、
「あれ、ここの部屋だけ表札ないよ?」
「……アイツらしいな」
由比ヶ浜さんは不思議に思い、八幡は何故か妙に納得していた。
「どうせ表札をつける必要性なんて感じないとか、そんなところだろ」
「あら、そこまで言い当てられると逆におぞましい気持ちになるのだけれど、不審谷君」
扉がガチャリと開かれたと思ったら、雪ノ下さんがそんなことを言ってきた。
え、どうやって聞いてたの?
「やっはろー! ゆきのん♪」
「こんにちわですー! 美人なお姉さん♪」
テンション高く答えたのは、由比ヶ浜さんと葉月ちゃん。
そして美波は。
「今日はその、ありがとう……雪ノ下さん。ウチらの為に……」
少し申し訳なさそうにそう言った。
一方の雪ノ下さんは、特に気にした様子もなく。
「依頼とあらば奉仕部として見過ごすわけにはいかないわ。その代わり、しっかりと勉強して帰りなさいよね。これは部活動も兼ねているのだから」
「まーまーそう固くならなくていいじゃないゆきのん♪せっかくのお泊りなんだから楽しもうよー!」
「そうです! バカなお姉ちゃんの言う通りです!」
「バカなお姉ちゃん!?」
葉月ちゃん。
君は今物凄く的確な言葉を言った気がするよ。
何せあの八幡が笑うのを堪えているレベルだよ……あ、雪ノ下さんもぷるぷる震えてる。怒っているわけじゃなくて、噴き出さないように必死になっている感じだ。
「ちょ、ちょっと葉月! 流石にそれは失礼よ! それを言っていいのはアキだけ!」
「僕ならいいっていうの!?」
何気に僕だけバカ認定されているのは気のせいかな!?
「……島田。たとえ真実でも伝えてはならないことだってある」
「八幡が一番残酷だよ!?」
勉強始める前から僕のハートはズタボロだよ!
「どうしたです? バカなお兄ちゃん」
そんな僕を心配そうな眼差しで見つめてくる葉月ちゃん。
うん、その言葉は完璧なんだけどね……呼び名だけがね……追い打ちをかけてきたよね……。
「こうなったら……汚名挽回! 名誉返上するつもりでいくよ!」
「逆だからな。ものの見事にすべて逆だからな」
いきなりやらかした気がしたけど、気にしない!
※
中に入ると、雪ノ下さんの部屋の広さがもっと伝わってきた。
間取りは確か3LDK。僕が住んでいるマンションより広いよ!
「お前、随分といい所住んでるのな」
「一人暮らしするには勿体ない位の間取りだけれどね。掃除の手間がかかるだけよ」
「とことん無駄を省こうとするのはお前らしいな……」
八幡は溜め息をつきながらそんなことを言っていた。
「勉強はリビングで取り掛かることにするわ。基本的に吉井君と由比ヶ浜さんは勉強漬けだと思っていて頂戴。島田さんは比企谷君と吉井君の数学を。比企谷君は島田さんと吉井君の現代国語を教えることを重点的に。私は吉井君と由比ヶ浜さんの点数を徹底的に上げる為に策を練るわ」
わぁ……凄い。雪ノ下さん、すっごく本気だ。きっと今、平塚先生から課せられた依頼を解決に向けようと躍起になっているんだ……常にすべてがベストコンディションのように感じる。
「特に吉井君は今回の合宿では世界史を重点的にあげていくわ。ただし、それだけだと心もとないから、次回に備えるという意味も込めて、せっかくだから数学と現代国語も鍛えていくことを前提に進めていくわ」
「ゆきのん、私は?」
「……………………まずは世界史から始めましょう」
「あれ? 私スルーされた?」
いや、うん。雪ノ下さんは悪くない。由比ヶ浜さんも悪くない。
多分考えた結果、一緒にやるのが効率がいいと考えたに違いない。
「お兄ちゃん、葉月に勉強教えてくれませんか?」
そんな中、葉月ちゃんは八幡に上目遣いでお願いしていた。
……何故か八幡は悶えている。
「そ、その……俺も自分の勉強やりながらだから、その合間合間なら、構わない」
「本当ですか!? お兄ちゃん大好きですーっ!」
「ぐほぁっ! そ、そうか……ありがとうな」
葉月ちゃん……それはシスコンである八幡を死に至らしめるリーサルウェポンだよ。
ただ、雪ノ下さんは携帯を片手に通報しようとしているし、由比ヶ浜さんは頬をハムスターばりに膨らませているし、美波はなんだか複雑そうな表情で見ているよ。
「けど、一番大好きなのはバカなお兄ちゃんなので、お兄ちゃんはお兄ちゃんとして好きなのです!」
「…………吉井、現代国語の時は覚悟しておけよ」
「八幡の妹って小町ちゃんだよね!?」
なんか今、背後に修羅が見えた気がしたけど、八幡の妹は小町ちゃんだからね!? 葉月ちゃんは君の妹ではないからね!?
「とりあえず、そういうことで始めるわよ。準備は――いえ、覚悟はいいかしら?」
「「これから何が始まるの!?」」
思わず僕と由比ヶ浜さんは声を合わせてしまった。
※
結論から言います。
地獄です。
「駄目……もう、無理ィ」
「スパルタすぎるよゆきのぉん……」
僕と由比ヶ浜さんは、初めてから一時間程度でダウンしていた。
確かに雪ノ下さんの言っていることは正しいし、何なら試験に出るポイントを的確に突いてきている。
けど、なんというか……量が凄まじい。人間の限界を遥かに超えている気がする。
「おい、雪ノ下。なんでコイツら既にこんなに疲弊してんだよ」
八幡は、自分は数学を教わりながら、葉月ちゃんに国語を教えている。一方の美波は、数学を教えながら国語の課題に取り組んでいる所だった。相変わらずこの二人は仲良いなぁ……葉月ちゃんも交えると。
「なんだか八幡と美波って、家族みたいだよね!」
「か、かぞくぅ!?」
美波は一気に顔を赤くしちゃった。
そして恥ずかしそうにノートで顔を隠してしまう。
「そうすると、お兄ちゃんは葉月のお兄ちゃんです♪」
「俺の妹になってくれ」
「ヒッキー!? それは駄目だし!? ヒッキーには小町ちゃんがいるよ!?」
「……はぁ。貴方まで変にならないで欲しいのだけれど」
何故か既にカオスな予感。
と、その時だった。
「……ん? 電話だ」
僕の携帯電話に電話がかかってくる。
着信は誰からだろうと気になって確認してみると。
「姉さん?」
電話の相手は、姉さんだった。
葉月と美波、そして八幡を並べて家族っぽい図にしたかったんです……だからこそこの二人を呼んだのです……っ!!
ちなみに、お泊りが本筋というよりは、明久と玲さんとのエピソードが本筋である為、次回でこの話は終わります。
お泊り会の様子につきましては、恐らく番外編で描かれることになるかと……せっかく女子四人(うち一人は小学生ですが)が揃っておりますし、女子会なんてやるのはどうかなぁなんて思ってみたり……。
予定は未定なので、どうなるかは分かりませんけどね!!