やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十六問 バカと期末試験と姉さん (5)

「もしもし?」

 

 今日勉強の為に雪ノ下さんの家に泊まりに行くことは既に伝えている筈。最も、その時に相当な減点を喰らったのは言うまでもないことだけど……。

 だとしたら一体どうして電話してきたんだろう?

 

『アキ君。ちゃんと勉強していますか?』

 

 電話してまで確認してこなくてもいいじゃないか……何処まで僕は信用されていないのだろうか。

 

「ちゃんと勉強してるよ。今さっき、雪ノ下さんに扱かれて頭がもうグルグルしている所だよ……」

『普段からしっかりと勉強していれば、直前にそんな辛い思いをしなくて済むというのに……これをいい機会として今後は常に少しずつでも勉強に取り組むべきです』

「言われなくてもそうするって……」

 

 姉さんに言われるのもそうだけど、何よりテスト前に雪ノ下さんからたくさん扱かれるのは勘弁だからね……これを毎回やらされていたら、たまったものじゃない。僕の身がもたないよ!

 

『でも、アキ君もいい御友人を持ちましたね。ここまでしっかり見てくれる人が居ると言うのは、それだけ幸せなことなんですよ』

「……」

 

 分かってる。

 普通なら、他人の為にここまでしてくれる人なんてそう居るものじゃない。世の中は思っている以上に残酷で、自分のことしか考えていない人だって多い。だから、奉仕部に居る人達は――関わっている人達は――凄く優しいと僕は思う。

 皆仲良く、なんて出来ないことだと思うけど、せめて仲良くなりたい人とはもっと仲良くなりたい。

 

『ですが、過程だけでは評価されませんからね。結果を出すのもアキ君の仕事です』

「もちろんだよ、姉さん。僕だってただやらされてるからやっているだけ、ってわけじゃないからさ」

『……アキ君が素直で姉さんは嬉しいです。明日はたくさんキスしてあげますからね』

「どうしていきなりそういう方向に持っていくの!? 姉弟でそれは勘弁だよ!?」

『残念です……』

 

 本当にブレないねこの姉さんは!

 

『ところでアキ君。姉さんは勉強合宿だから特別に認めましたけど、不順異性交遊はしていませんよね?』

「してないよ!? 何を心配しているっていうのさ!?」

『……その感じなら大丈夫そうですね』

 

 まったく! 少しは僕のことを信用してよね!

 姉さんも疑り深いんだから……。

 

『アキ君。姉さんは今回のテストで、アキ君がいい点数を取ることを期待しています。同時に、アキ君と二人で暮らせることを祈っています』

「それって点数取って欲しいのか、取って欲しくないのかどっちなの!?」

 

 姉さんは僕を応援したいんだかしたくないんだか全然分からないよ!?

 僕だって一人暮らしを何としてでも死守しないといけないんだから!!

 あ、でもちょっと待って。

 

「ところで姉さん。ご飯とかは大丈夫? 姉さんが特に料理作らなくていいって言うから、僕は作らなかったけど……」

『大丈夫ですよ。アキ君は人の心配をする前に、自分の心配をしてくださいね』

「分かってるよ……」

 

 この言葉も、八幡の言葉を聞く前だったら、単純に僕を突き放しているだけの台詞に聞こえた。だけど、姉さんは姉さんなりに、僕のことを心配してくれているんだって思うと――あぁ、僕も姉さんも、互いに不器用なだけだったんだなぁって、ちょっと思えてくる。

 

『明日の夜には戻ってくるんですよね?』

「流石にね。試験前だし、早めに休まなきゃいけないし」

 

 勉強のし過ぎで翌日の試験受けられませんでした、ってなってしまっては本末転倒だと雪ノ下さんも言っていた。だから今日はとことん詰め込むし、明日も昼過ぎまでは地獄のような時間が待ち受けているわけだけど、その後はゆっくり寝るようにと言われている。

 直前まで暗記物の確認をしなくていいのかなとは思うけど、あまり詰め込み過ぎるとかえって効率が悪くなるらしい。

 

『そうですか……』

「……?」

 

 何か言いたげな感じだけど、いまいち要領が掴めない。

 

『なんでもありません。それではアキ君。勉強頑張ってくださいね』

「ありがとう、姉さん。努力が実を結ぶように頑張るよ」

『えぇ。応援していますよ……ですが、不順異性交遊が発覚したら、大幅減点ですからね』

 

 最後にそれがなければ、完全に普通の応援だったのになぁ……。

 

「どうだったのー?」

 

 電話を終えた後、由比ヶ浜さんが近づいてきて尋ねてくる。

 

「姉さんにしては普通の応援だったよ」

「そっかー。本当、ヨッシーはお姉さんに愛されているよね!」

「なんだかシャレに聞こえない……」

 

 本心から言っているのは分かるんだけど、何故か『姉さんに愛されている』という言葉を聞くたび、妙に恐怖に近い感情が湧いてくる。何というか、超えてはいけないラインというか。

 

「……吉井君。貴方としては、何としても見返してやりたいかしら?」

「雪ノ下さん?」

 

 雪ノ下さんが再確認するように尋ねてくる。その目は何処か真剣で、決意を秘めているようにも見えた。

 きっと、『姉』という言葉に思う所があるのかもしれない。

 

「見返してやりたい、ってだけじゃないかな……今はさ、みんなの期待に応えたい、っていうのがある。特に、雪ノ下さんの期待に応えたい、って感じかな」

「私の?」

 

 目を丸くして僕のことを見つめてくる。 

 そんな様子に、葉月ちゃんは目を輝かせているようにも見えた。

 ……葉月ちゃん凄い興味津々に聞いてるね。

 

「うん。せっかく見てくれているわけだしさ。わざわざ時間を割いて、場所まで提供してくれて。これで赤点でしたってオチだとしたら顔向けできないなって」

「……お前、それフラグだって分かってるか?」

「ハチ。今良い所だから……」

 

 八幡の呟きに、美波がツッコミを入れていた。

 自分でもフラグっぽいかなーなんて思っていたけれど、改めて言われるとなんだか怖くなるからやめて!

 

「そう……期待しているわね、吉井君」

「こちらこそ、よろしくね! 雪ノ下さん!」

 

 何としても期末試験を乗り切ろう!

 改めて僕は決意した。

 

「バカなお兄ちゃん、かっこいいです!」

「ごふぁっ!」

 

 感極まったのか、葉月ちゃんが僕の鳩尾に飛び込んでくる。

 ぐっ……身長差もあってピンポイントかつダイレクトに鳩尾に衝撃が……っ!

 

 結局、今回の勉強会は、土日の間しっかりと雪ノ下さんによって扱かれて――。

 

 

 

 

 

 ――期末試験は、名無しによって再テストを喰らいました。

 

 

 

 

 

 一応、再テストでは赤点回避できたし、元々のテストでも僕にしては高得点を獲得したのに、締まらない最後となった……。

 




悲報:明久名前を書き忘れる。
アレキサンダー大王にはなりませんでしたが、名無しの権兵衛にはなりました。
ただ、再テストが認められたおかげで救済はされた感じですね……玲さんは明久の家に滞在することは避けられましたが、本番で点数が出なかった為、ちょくちょく監視の為に家へ訪れることでしょう()。
次回以降どんな話になるのかはまだ何とも言えませんが、恐らく夏休みのエピソードとなりそうです。
夏休み関連だと、俺ガイルよりもバカテス側の話が濃くなるんですよね……林間学校は先にやってしまいましたし()。

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