以下の問いに答えなさい。
「日本アルプスと呼ばれる山脈の名前を、三つすべて答えなさい」
比企谷八幡の答え
「飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈」
教師のコメント
正解です。それぞれ北アルプス・中央アルプス・南アルプスと呼ばれていることも確認しておくといいでしょう。
戸部翔の答え
「動脈・静脈・頸動脈」
教師のコメント
脈がつけばなんでもいいわけではありません。しかも、頸動脈は動脈の一種です。
吉井明久の答え
「ハイジさんの脈・ペーターさんの脈・クララさんの脈」
教師のコメント
『さん』『脈』と続けばいいという話ではありません。しかも何気にアルプスの少女て掛けないでください。
夏休み。学生である俺達にもたらされるいわば褒美のような時間だ。学校という小さな社会から解放されて、思う存分自分だけの時間を堪能出来る細やかなひと時。俺は何としても休みの期間を享受すべく、宿題に関しては七月中にほとんど終わらせていた。休む為にも労働を強制されるなんて、やっぱり現実は糞ゲーだ。どこぞの漫画で眼鏡をかけた神様だってそんなことを言っていた気がする。中身全然知らんけど。
そんなわけで、やることもない俺は――ソファに寝転がってゲームに勤しんでいた。今は八月の頭。この調子でいけば少なくとも二十日位はこうしてだらけた生活を送ることが出来る筈。部活とかそういったことは夏休みに行われない筈なので、こうしてゆっくり休みを満喫するとしよう。
夏休みと言えば、七月の時には何度か吉井や島田から連絡が来ていた。だが、その時は割と普通に宿題を終える為に時間を費やしていたこともあり、適当に受け流してしまっていた。吉井はともかく、島田には少し申し訳ないことをしたかもしれない。後で詫びの連絡でも入れておいてやるか。
「おにいちゃんまーたゲームして」
自分の部屋で宿題をやっていたと思われる小町が、リビングに入ってくる。その姿はおよそ人様に出すことが出来ないような姿をしていた。ぶかぶかなシャツは、かつて俺が着ていた服をそのまま着まわしているだけ。ズボンやらスカートやらは恐らく履いていない。シャツから見える足は素足。学校や外で小町のことを見ている人達からすれば、涎必死な姿かもしれない。あまりにも見慣れた光景過ぎて俺は何も思わなくなってしまったが。だがこんな光景を吉井とかに見られたとしたら、狂気のあまり何をするか分からない。自分を抑えられないかもしれない。なんだよそれ厨二病じゃねえか。材木座でも乗り移ってきたのか。
「小町は勉強か?」
「もう少しで夏休みの宿題が終わりそうなの。なのでもし小町が宿題を終わらせることが出来たら、ご褒美を要求します!」
「いくらだ?」
「うわぁ金で解決しようとしてるの引くわぁ。それにごみいちゃんってばお金そんなにもってないでしょ」
「確かに。下手したら小町より小遣いもらっていない自信すらある」
「お父さんの贔屓っぷりは凄いからねぇ」
「いつか俺達は話し合わなければならない気がする。主に小町について」
「やめてー小町の為に争わないでー」
「棒読みだからね。感情まるで篭ってないよ」
「あ、でもでも。小町は何があってもお兄ちゃんの味方だよ! あ、今の小町的にポイント高い♪」
「最後のがなければお兄ちゃんにとってもポイント高かったんだけどなぁ」
こうして兄妹のくだらない会話をすることが出来るのも夏休みの良い所だな。通常の三倍はゆっくり会話出来ると思う。普段はなんだかんだで外に出ずっぱりだから、たまにはこんな時間もいいだろう。決して外に出るのが面倒くさいとかそんな理由ではないからね? 本当だよ? 八幡、ウソツカナイ。
「ところでお兄ちゃん。お兄ちゃんってもう宿題終わってるの?」
反対側のソファに寝転がり、偏差値が低そうな雑誌を読みながら小町が尋ねてくる。下着見えてんぞ。
「お兄ちゃんレベルになると宿題は七月中にすべて終わらせられる」
「凄い根拠のない自信だぁ。けど相変わらずお兄ちゃんはこういう時だけは無駄に早いよね」
「ばっか、お前。俺はいつも仕事をするとしたら早く終わらせるだろ?」
「仕事に取り掛かるまでが遅いけどねー」
「働きたくねぇ」
「たまには外出たらー? 美波さん達だって寂しがってると思うよー?」
そこで何故島田の名前を出すのだ我が妹よ。
「アイツだって葉月ちゃんが居るだろ……いや待てよ。葉月ちゃんに会いに行くのなら強ち悪い話ではない……?」
「あれ? 小町の妹的立場が大ピンチ? お兄ちゃんの妹は小町だけだよ!」
「くっ……いかん……俺としたことがこんな可愛い妹が映らなくなるほど重傷だったなんて……っ!」
「いよいよお兄ちゃんの目の腐り具合が限界を超えようとしている……?」
「おいちょっと。露骨にお兄ちゃんの精神削ってくるのやめて」
「てへぺろ♪」
くっそ。
右手を軽く握りしめて、頭を軽くポンと叩いて下をペロッと出してしまうようなあざとい仕草。これがもし一色とかがやろうものなら『あざとい』の一言でバッサリと切り捨ててやるというのに、小町がやると可愛いじゃねえか。
あ、そういや一色からも何回か連絡きてたの忘れてたわ。
「ところでお兄ちゃん。さっきから携帯がぴこぴこ鳴っているけど、見なくていいの?」
「え、まじ?」
小町に指摘されて、テーブルの上に放置していた携帯電話を確認してみる。
確かに、何かしらの通知が来ているようで、画面にメッセージがあることを知らせる旨が表示されていた。メッセージアプリなんて滅多に使わないし、鳴らないように設定していたから気づかなかった。
一応確認しようと俺は開いてみる。
そこに書かれていたのは。
『八幡、海行こうよ!』
凄く簡潔にまとめられすぎた一言だった。
この言い回しは間違いなく吉井。てか、せめて日時とかそう言ったものを言ってくれ。断る理由を作るのが面倒じゃないか。
「誰からなのー?」
いつの間にやら俺の所まで移動してきていたらしい小町は、俺に馬乗りになって携帯の画面を見ようとする。重い。つか邪魔だ。
「おろろ? 明久さんから海のお誘い!!」
目がきゅぴーんって光った気がする。
俗に言う『やまぴかりゃー』状態とでもいうべきだろうか。なんだその状態。状態異常にも程があるだろ。
「みたいだな。これから断ろうかと思うが」
「なんでよ!? せっかくの海だよ!? 水着だよ!? ウハウハパラダイスだよ!?」
「なんでお前がそんなに必死なんだよ小町。あと近い」
「あ、お兄ちゃんってばドキドキしちゃった?」
「あぁした。めっちゃした。ドキドキが止まらない」
「めっちゃ棒読みじゃん」
妹のテンションの上下変動が激しすぎる件について。やほーの知恵袋で相談しても碌な返事がこないことは分かり切っているからこの際置いておくとして。
「お兄ちゃんお兄ちゃん。小町が明久さんに返信しておくから任せなさいー!」
「おいやめろ。絶対お前行くって返事するだろ」
「そりゃもちろん! 小町だってお兄ちゃんと海行ったりして思い出作りたいよ? 水着も見せちゃいたいし!」
「林間学校の時見たが」
「あの時お兄ちゃんってば水着持ってきてなかったじゃんかー」
「いや聞いてなかったし……」
「そういうわけで、あの時のリベンジだと思えば! 戸塚さんに水かけることだって……」
「話を聞こう」
「うわぁごみいちゃんってば変わり身早いなぁ」
さっきの小町ちゃんもなかなかに変わり身早かったぞ。兄妹でよく似るものだな。やっぱり小町は比企谷家の遺伝子を受け継いでいるだけある。
そんなわけで、俺の夏休みの予定が、何日間か埋まってしまった瞬間だった――。
というわけで、夏休み中のエピソードとして、海水浴編です!
バカテスでは確か6.5巻のエピソードだった気がします……。
と、いうことは……このままでは色々とカオスな予感が……?
何人か被害者も出るというのか……?(困惑)