やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十七問 やはり、俺達が海ではしゃぎ回るのはまちがっている。 (3)

 スイカ割りも終わり、今は休憩時間。まだ海の中に入ってすらいないというのに、男性陣はほぼほぼ再起不能となっていた。柄にもなくはしゃぎ倒していたからな……特に吉井と坂本は。ちなみに土屋は、工藤の水着に興奮してからというものの未だに復帰していない。鼻血出しすぎるのも考え物じゃねえか?

 そんなわけで現在、女性陣と、木下と、戸塚で昼飯を調達している所だ。

 何人かのグループに分かれて、出店で食事を購入していく。俺は小町や戸塚と一緒に飲み物を調達しているところだ。両手に天使だなんてどれだけ贅沢な瞬間だろう。戸塚とこうして肩を並べて合法的に歩けるなんて……生きていてホントによかった。

 

「まったくごみいちゃんってば、なんでこういう所で美波さんや結衣さんと一緒に行動しないかなぁ……」

 

 小町が意味不明な呟きしている。何故に俺が島田や由比ヶ浜とペア組まなければならないというのか。むしろ海などという公共の場でペアを組もう物なら、ゾンビが歩いていると周囲に囁かれて俺の地位がどんどん蹴落とされていくまである。あれ、今この状況はどうなるんだろうか。

 

「ねぇねぇ、八幡、小町ちゃん」

 

 そんな時、戸塚が俺と小町を呼ぶ。

 

「あれって……島田さん達だよね?」

 

 戸塚の指差す方向を見ると、確かにそこには島田や由比ヶ浜が居た。あの二人は確か串物を買いに行っていた筈だ。そんな二人の前には。

 

「ねぇ君達、可愛いねぇ」

「俺達と一緒に遊ばない~?」

 

 今時漫画やアニメの世界でもなかなかお目にかかれないような、絵に描いたようなナンパ男達が居た。ナンパ現場なんて初めて見た。しかも身内がやられているところなんて初めてだ。いやそんな頻繁に見たい物でもねぇけれども。小町がやられたらと考えるだけで苛立ちが止まらないし……というか、今も見ていて正直イライラする。

 俺は周囲を確認して、とあることを確認する。その上で、

 

「戸塚、小町。頼みたいことがあるんだが、いいか?」

「う、うん」

「何? お兄ちゃん」

 

 俺は戸塚と小町に耳打ちをすると、二人は頷いて島田達とは別の方向へと走り出す。

 さて、これで準備完了だ。実を言うと、俺は二人には特に作戦のような物は伝えていない。だからこれから起こるのは、俺が勝手にしゃしゃり出て、勝手に自滅するだけの黒歴史だ。それでアイツらがナンパから抜け出せるのならば、たいしたことではない。

 

「し、島田。由比ヶ浜。待たせたにゃ」

 

 ……なんで俺は肝心なところで噛んでしまうんだろうか。情けないったらありゃしない。

 

「ハチ!」

「ヒッキー!」

 

 俺を見つけるなり、二人は満面の笑みを浮かべる。

 やめてくれ。勘違いして惚れて振られてしまうのだろ。振られちまうのかよ。

 

「ああん? いきなり出てきてお前何様のつもりだ?」

 

 それが気に食わなかったのか、ナンパ男の一人が俺に威嚇してくる。

 ……こ、こえぇえええええ。正直ちびりそうだ。

 いや、今は怖がっている場合じゃない。俺一人がここで何か行動を起こした所で、ナンパが避けてくれるとは思えない。

 だから一種の時間稼ぎみたいなものだ。

 

「みんな心配してたぞ。帰りが遅いって」

「ごめん……買って帰ろうと思ったら、知らない人に話しかけられちゃって……」

 

 由比ヶ浜が申し訳なさそうに言う。

 

「おいテメェ。さっきから無視してんじゃねえぞ?」

「そうだぜ~。今は俺達とこの子達が話してんだぞ~? 部外者はすっこんでろ!」

 

 この場合部外者はアンタ達なんですけどね。

 

「ちょっと、ハチのこと悪く言わないでよ!」

「ハチって犬の名前みてぇだなぁ~!」

 

 あ、それはちょっとダメージ来る。

 他人にそんなこと言われると正直精神に来るな……なかなかエグイ所ついてくるじゃねえか。そんなこと気にしたこともなかったというのに。

 ていうかそろそろいい加減五月蠅くなってきたな……このあたりで話しかけておくか。

 

「この二人とは後で合流する予定だったんですよ。二人の暇つぶしに付き合ってくれてありがとうございます。それじゃあ俺達はここで……」

「何調子のいい事言ってんだテメェ!」

 

 ナンパ男が俺の腕を掴んでくる。

 俺は重ねて口にする。

 

「海で余計なトラブルは起こさない方が身の為っすよ」

「今度はのんきに説教かようっせぇな!!」

 

 男は挑発に乗ったのか、俺の顔を思い切り殴り飛ばした。

 

「ハチ!」

「ヒッキー!」

 

 島田と由比ヶ浜は俺の傍まで駆け寄ってくる。

 ……よし、これでお膳立ては終わったな。

 

「そこの人達! 今のは一体なんですか?」

 

 殴り飛ばされた俺と、殴り飛ばした男。

 そんな光景を、監視員がみすみす見逃すだろうか。いや、そんな筈はないだろう。

 当然、男達を捕える筈だ。

 

「お、俺達はただ……!」

「言い訳はこっちでゆっくり聞かせてもらうから」

 

 海にはライフセーバーや監視員が付き物だ。いつどこでどんな危険が待ち受けているのか分からないからだ。だから俺は、小町と戸塚の二人に監視員を呼んでもらった。俺は単なる時間稼ぎ。あわよくば相手が直接的な暴力行為に訴えてくれれば、尚目立つと考えたのだ。結果として思った通りに動いてくれたわけなのだが……殴られたところは普通にいてぇ。

 

「は、ハチ……ウチらがナンパされてたばかりにこんな目に遭って……ごめんね?」

「ヒッキー……助けてくれてありがとう。それから、ごめん……」

 

 何故か二人は目を伏せながら謝ってくる。二人が悪い所なんて何処にもない筈だ。悪いのはナンパ達。そして殴られに来た俺なのだから。

 

「俺のこれは単なる自己満足で自己責任だ。自分でやったことの結果にしか過ぎない。だからお前達が気に病む必要なんてねぇし、第一ここは海だぞ暗い顔してる位なら、いっそのこと弾けて遊んだ方がいいんじゃねえか?」

 

 俺はそんなことしないけどな。

 口にはせずとも、心の中でそう続ける。

 

「……うん。ありがと、ハチ」

 

 島田は何を思ったのか、にっこりと笑って俺に礼を言ってきた。

 

「ありがとね、ヒッキー。私達を助けてくれて」

「……お、おう」

 

 なんだか気恥ずかしくなって、思わずどもってしまった。

 やめてくれ……ただでさえ目のやり場に困る格好しているのに、余計にお前達の顔を満足に見られなくなってしまいそうだ。

 

「はちまーん! 大丈夫!?」

「お兄ちゃんってばまったくもー、無茶ばっかりするんだから……」

 

 監視員を呼んできてくれた二人も合流して、俺のことを心配するような言葉をかけてくれる。

 まぁ、頑張った甲斐はあったのかも、しれないな……。

 

 

 

 ちなみに、雪ノ下や他の女子もナンパに遭遇したらしく、特に雪ノ下は不機嫌そうなオーラを醸し出していた。

 何故か坂本と吉井の二人が、大きなダメージを受けていたが。

 

 




海といえばナンパです(個人的感想なのですべてがそうであるとは限りません)。
というわけで、ナンパに遭遇した時の八幡的解決方法を提示した回となりました。
彼ならばもしかしたらこんな風に解決するんじゃないかなぁ……なんて。
結果、美波と結衣の好感度がアップしましたね!
最早この二人がツートップになりつつある八幡ヒロイン。

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