やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十七問 やはり、俺達が海ではしゃぎ回るのはまちがっている。 (5)

「「……」」

 

 互いに表情を変えずにただジッと見つめているだけの島田と一色。いや、こんな場面で会話なんて悠長な真似が出来るとは到底思えない。一色はともかく、島田目線で見た今の光景を言葉にするならば、『トイレに行くと嘘をついて女と会っていた駄目男』の図が完成してしまっているのだから。あれ、これ浮気したとかそんな場面ではないよね? 正直に状況を説明したら許してもらえるのでは?

 

「ねぇ、ハチ。これって一体どういうことなの? ウチにも分かるようにしっかり説明して欲しいんだけど」

 

 やばい。

 島田の顔に青筋が浮かんでいるのが見える気がする。それほどまでに島田が怒っている。怒られても仕方ないことをしているのは事実だが、これじゃあ浮気を責められる夫の気分だ。正直に話せばいいだけなのに、下手に口を動かしたら殺されるような気配すら感じる。

 

「せんぱい。この人一体誰ですか?」

 

 一色も一色で、笑顔なのにどうしてそんな冷たい声色出せるのん? ていうかそろそろ腕離してくれない? さっきからそれのせいで島田からの視線も相当冷たいの分かってるでしょ? 俺を窮地に追い込んで楽しいの?

 

「と、とりあえず……こっちは島田。俺のクラスメイトだ。そしてこっちは一色。後輩だ」

「一色……もしかして……」

 

 島田がボソッと呟く。

 そういえば学力強化合宿の時に島田には一色のこと話したんだったな……。

 

「せんぱいの言う知り合いには女の子も居たんですね……正直驚きました」

「いやホントお前俺のことなんだと思ってんの?」

 

 マジに目を丸くして驚かれたものだから、ついツッコミを入れてしまう。

 

「やだなぁ~。せんぱいのことを寂しい人だなんて誰も言ってないじゃないですかぁ~」

「今この瞬間言っちゃってるじゃないですかぁ~」

「うわそれ私の真似ですか正直キモいのでやめてもらっていいですか海で運命的な再会が出来てちょっとだけときめきかけちゃいましたけどやっぱり今の減点にしてもらっていいですかとにかくごめんなさい」

「もう早口過ぎてなんて言ってんのかわかんねぇけど、俺何回フラれたら気が済むの?」

 

 正直半分も聞き取れなかったから、一色が何言いたいのかまったく分からなかった件について。

 

「……随分と仲良さそうね、ハチ」

 

 そんな俺と一色のやり取りを見ていた島田は、何というか、その、背景に般若でも見えるんじゃないかという程怒りを見せていた。いやこえぇよマジこえぇよ。雪ノ下以上の恐怖を俺は今感じちゃってるよ。だから一色。ちょっとマジで怖がりながら俺の腕引き寄せるのやめて! それがまた怒りの引き金になっちゃってるから! 俺の命を射抜く銃の引き金になりかねないから!

 

「ト、トイレ行ってたらたまたま会っただけだ。コイツもコイツで友達と来ているらしいから、本当に偶然だ。これに関して嘘は言ってない」

「へぇ……たまたま会っただけで腕を組んじゃう程の仲なのね。本当仲睦まじいようで何よりだわ」

 

 駄目だ。何を言っても逆効果にしかならなそうな気がする。というか、本当のことを言っているのに俺の言葉がすべて言い訳臭くなるのは何故なんだ。海だからってはしゃぎ過ぎたのが間違いだったか。てかさっきナンパだか何だかの話題が出てからのこれだから、余計に状況がやばい気がするのは俺だけだろうか。

 

「そうなんですよ~。私とせんぱいってとっても仲良しですから~」

 

 おいコラ一色。

 テメェ何火に油注ぐようなセリフぶちまけてんだ。

 

「……う、ウチだって! は、ハチに気持ちいいことしてもらったんだからねっ!」

「「はぁ!?」」

 

 顔を真っ赤にしてとんでもないことを言い出した島田。

 それってもしかして、合宿でやった肩揉みのこと言ってる? そうだよな? 思い当たるものって言ったらそれしかないからな!?

 

「せ、せ、せんぱい。い、今のって一体……」

「肩揉みだ! 合宿の時王様ゲームでそう言う命令があったんだよ! てかそろそろ腕離してくれ」

「あっ……」

 

 気が緩んだ隙を見て、何とか一色による拘束から抜け出すことが出来た俺。一瞬柔らかな感触がなくなって残念だったとか、もう少し堪能したかったとか、そんなこと思ってないからな……俺誰に言い訳してんの? 見苦しいにも程があるぞ?

 

「ほらハチ! みんな待ってるんだからそろそろ行くよ!」

 

 俺が一色から離れたのを見て、今度は島田が腕を組んでくる。

 ちょっ、おまっ! 凄く強い力で引っ張ってくるもんだから、むっちゃ密着している状態じゃねえか! 腕とか足とか、色んな柔らかな感触が俺に襲い掛かってくるんだけど!?

 なんだこれ、なんだこれ?!

 今日俺死ぬの?

 

「あ、せんぱーい!」

「一色もそろそろ友達待たせてるだろ? また今度勉強教えてやっから、それで勘弁してくれ!」

「もうハチってば! 行くよっ!」

 

 島田に急かされて、俺はその場を後にする。何故か一色がふてくされていたが、遊び道具が取られてしまってつまらないと言った所なのだろうか。もしそうなのだとしたら色んな意味で俺の心がズタズタに引き裂かれる気がしないでもない。

 

「……」

 

 みんなが待っている所まで向かう間、島田は一言も発しない。なんだか妙に気まずい空気が流れている気がする。絶妙な拷問のような時間だ……。

 そんなことを考えていた時だった。島田はふとその場に立ち止まる。引っ張られていた俺もその場に立ち止まる。自然と俺は島田の背中を見つめる形となった。

 

「ど、どうしたんだ? 島田」

「……っ」

 

 島田は腕を離し、それから俺の方を向く。

 その表情は何処か不安そうで、そして――。

 

「ねぇ、ハチ」

「……!」

 

 これは一体どんな状況だ。

 何故か、胸の高鳴りが収まらない。心臓がやけに鼓動を鳴らしまくっている。やばい。何か言葉に言い表せない何かが俺の心を侵そうとしてくる。

 そして島田は、そんな俺の気持ちなんていざ知らず、こんなことを尋ねてくるのだった。

 

「やっぱりハチって……ああいう子がタイプなの?」

「…………は?」

 

 いや、え、……うん?

 ちょっとその質問の指す意図が読めず、俺は思わず困惑してしまう。

 しかし、質問してきた本人である島田はえらい本気で、真剣な表情で俺を見つめてくる。

 

「……そうじゃない。一色はなんとなく、放っておけないだけというか……小町と似たような感覚というか……」

 

 俺が一色に対して抱いているのは、『あざとい』という感情の他には、『放っておけない』が正しいのかもしれない。それは歳が小町に近いからとか、年下であるからとか、様々な理由が重なっていることだろう。滅多に会わないからそんなに実感することもないのだが。

 島田は俺の答えを聞いて、

 

「そっか……よかった……」

 

 と、ホッと胸をなでおろした様子だった。

 

 駄目だ。そんな反応をされると、勘違いしてしまう。

 俺の頭の中で鳴り響いている警笛。勘違いしたまま黒歴史を量産してしまうのではないかという恐怖。最近は感じることのなかった、素直すぎる優しさという名の、毒。

 

「……急いでるんだろ? 行くぞ」

「あっ……うん」

 

 だから俺は、その言葉の真意を伺うことなく前へ進む。

 

 ――抱きかけた感情を振り払うように。

 

 




正直、今回の回は書いていて凄く楽しかったです!!!
とまぁ、それは置いておきまして……結局八幡は相手の好意を素直に受け止めきれず、信じ切れないのだろうなぁって……。
とりあえず今回で海のエピソードは終わりとなります。
次回は明久目線で夏祭りの様子をお伝えしようかと思っておりますー。
10月中に何本か番外編も更新出来たらいいなぁ……。
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