しばらく祭を楽しんでいた僕達。屋台のご飯を食べたり、射的で景品を狙ったり、金魚すくいをしたり、色々堪能していた。そんな時に、とある看板を見つけた。
「ミス浴衣コンテスト……?」
多分名前の通り、浴衣が似合う人を決めるコンテストだと思う。こういった祭の場でもやはりミスコンみたいな企画ってあるものなんだなぁ。
「浴衣を着ていない人の為に、浴衣の貸し出しもやっているそうね……意外とお金をかけてやっている企画みたいね」
「大方、主催者が町興しを兼ねて個人的趣味趣向を押し付けた結果開かれた企画なんだろ。千葉の海と浴衣がどう絡んでくるのかもさっぱり分からん」
「相変わらずヒッキーってば捻くれた見方するよね……」
八幡達が感想みたいなことを言っている。特に八幡ってば相変わらず視点が斜め上の方向に行ってるなぁ。
「……これは、撮影チャンス」
ムッツリーニはすでにカメラの手入れを始めている。行動が早いよムッツリーニ!
「へぇ〜。ミスコンがあるなんてボク知らなかったよ〜」
何故だろう。言葉としては間違っていないと思うのに、工藤さんの言い方が少しわざとっぽいと思ってしまったのは。気のせいだと信じたい。だけど、何となく僕の中で胸騒ぎがするような……。
でも、ミス浴衣コンテストなんてそう見られるものでもなさそうだし、ここに居る人達で参加したら誰かしらは優勝するような気もするから。
「せっかくだし、みんなで参加してみたらどうかな?」
僕は思わずそう提案していた。
「いいですね! ここにいるみんなで参加すれば、優勝も間違いなしかもしれませんよ! ね、お兄ちゃん?」
「え? あ、お、おう……」
何故かハイテンションになっている小町ちゃんと、そんな小町ちゃんについていけなくて思わずどもってしまう八幡。
ん? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
「そうですね……せっかくですし、みんなで頑張って参加してみませんか? きっといい思い出にもなりますし」
「へぇ、意外だな。姫路が結構乗り気なんて」
雄二が正直な感想を言っていた。
確かに、姫路さんって人前で目立つようなことってあまり得意そうには見えないけれど……。
「はい。恥ずかしいですけど、みんなで思い出が作れるのでしたら平気へっちゃらですっ」
両手を握ってガッツポーズを作る姫路さん、すごく可愛い。この瞬間を脳裏に焼き付けて……ってムッツリーニが既に写真で撮っていた!? 後で買うしかない。
「そっか。そしたらせっかくだから、みんな参加してみたらどうかな?」
「そうね……『みんな』で参加しようね」
ん?
なんだろう……美波のイントネーションが少しおかしかった気がするよ?
「……『みんな』で思い出を作る。とても良いこと」
「不本意だけれど、『みんな』で参加するのであれば仕方のないことね」
霧島さんも雪ノ下さんも、なにやら『みんな』というところをやけに強調してきている。どうしよう、なんだか背筋が凍りついてくるような錯覚すら感じられるよ!?
そして、そんな僕の寒気が嘘ではないと決定づける一言を姫路さんが宣言した。
「はい。それでは
「「散!!」」
ダッ!! ← 僕と雄二が逃げ出そうとした音。
ババッ! ← 霧島さんと美波が逃げ道を塞いだ音。
ダンッ!! ← 悔しさのあまりに僕と雄二が崩れ落ちて地面を叩いた音。
「あんまりだぁあああああああああああ!」
僕達が逃げ出してから行動が早すぎるよ!?
一体どうしてそんなに足速く行動することが出来るのさ!?
「逃げようったってそうはいかないわよ、アキ……そこまで恨みはないけれど、瑞希を悲しませた罰は受けてもらうんだからね!」
「……雄二。諦めも肝心」
「待て翔子! 俺のガタイじゃどう考えても女装は無理だ! 明久の女装だけでお納めしてくれ!」
「雄二貴様ぁ! 僕を差し出して自分だけ助かる気だな!?」
コイツ……! 自分の保身の為に友人を平気で売るなんて!!
「往生際が悪いわよ。土屋を見習いなさい。潔く、漢らしく受け入れてるわよ」
「……無念」
今明らかに無念って言ったよね? 絶対受け入れてないよね!?
もう色々おかしいからね!?
「そ、それに! 俺らだけっていうのはおかしな話だろ!? ここは比企谷だって『みんな』に入っているわけなんだから、女装は比企谷だってするべきだろ!?」
「……え」
今まで我関せずって感じでスルーしていた八幡だったけど、雄二が話題に出したことで注目の的となった。よくやったよ雄二! 八幡だけ逃げようだなんてさせない!!
「いや、俺ナンパしてねぇし……怒られるようなことなんて何も……」
「……ハチ? そういえば昼間は女の子と」
「待って。待ってくれ島田。話せばわかる」
ん?
今美波の口から何か零れたような気がするぞ?
聞き出さなくてはならないことが出てきたような気がするぞ!?
「さぁ八幡。話し合おうじゃないか。昼間は女の子と、なんだって?」
「いや、女の子にゾンビ扱いされて……」
「昼間女の子と腕組んで仲良さそうに歩いていたじゃない」
「滅!!」
「お、おい! あぶねぇだろ!」
ちぃっ!
渾身の右ストレートを避けられたか!
「比企谷君。まさか貴方だけ逃げ出そうだなんて思ってもいないわよね?」
「ヒッキー? あきらめもかんじん、ってやつだよ?」
「……由比ヶ浜。そんな難しい言葉覚えてたんだな」
「バカにすんなしっ! それに、そうやって逃げるつもりなのバレバレなんだからねっ!」
「部長命令よ。比企谷君、浴衣コンテストに出なさい」
うわぁ……奉仕部部長の命令とあらば聞かざるを得ないじゃないか。最早八幡の逃げ場もなくなってしまったよねこれ。
「……俺の女装とか何処に需要あんだよ」
「需要とかの問題じゃなくて、『みんなで』参加することに意義があるんだよ、比企谷君。ね、彩加ちゃん♪」
「へ? う、うん。そうだね……?」
工藤さん、上手い……。
彩加が肯定すると、八幡としては最早やらざるを得ない状況となってしまう。というか彩加も参加するということが分かったから、八幡も後に引けない!
「そんなわけで、早速エントリーしてくるわね」
「……木下。メイクは任せた」
「そう言われてしまっては、演劇部として断るわけにはいかぬのじゃ」
「そんなぁ! 秀吉、せめてネタになるように……」
「大丈夫じゃ明久。ここはワシの腕の見せ所じゃ!」
「変な所で自信満々に答えないでよぉおおおおおおおお!」
こうして、僕達のミス浴衣コンテスト出場が決定してしまった瞬間だった――。