試練開始だ! …………と息巻いたは良いが、いい加減俺は腹が減ってて保たないので、一旦街の中で飯を探して食いたい。あのスカル団とかいうチンピラ集団(二人)を追っ払った時点で昼飯の時間だったのに、そこからなんだかんだ何も食えずにこの時間になってしまった。
しかもイリマのやろ……キャプテンは、折角俺の大切なポケモン達を回復させたと思ったらすぐ様バトルを吹っかけてきやがるから、もう一回回復させてやらにゃならん。
今日は流石にこれ以上無茶はさせられんか…………まだ今日は戦わせてない奴もいるから実際のところ問題は無いんだけど、なんかこう……な?
まだポケモンの体調とか把握できるわけじゃないし。
「リーリエ、俺は腹が減ったから昼飯が食いたい」
「は、はい……」
「この街になんか良いモノは無いか?」
取り敢えずぶん投げてみることにした。ハウオリには何回か来たことあるそうだし、俺よりはまともな案を出してくれるだろう。
「え……えっと……それでしたら……あちらの方にマラサダという食べ物を……売っているお店が……」
「なるほど……マラサダ…………?」
マラ……マラサダって、なんだ?
「リーリエ、マラサダってなんだ」
「マラサダは……揚げたパン……ですね」
揚げたパンか……
「それはカレーパンみたいな?」
「いろいろ種類が……あるんです! ……アマサダが特におすすめで……とっても甘くて美味しんですよ!」
リーリエも女子らしく甘いものは大好物らしい。いやしかし、昼飯に甘いものだけってどうなんだ……?
まあリーリエが紹介してくれたんだし行くか。
「じゃあその……マラサダ? の店まで案内してもらっても良いか?」
「はい!」
ポケモンセンターの横を通り、突き当たりを曲がる。直進すると左手に大きな建物があった。
「なになに……ハウオリ役所 あなたの 街の なんでもやる課……」
やっべ……引越し届けの確認して無かったなそういや……慌ただしかったとはいえ流石にまずいな、飯食ったら寄っていこう。
ハウオリ役所の隣には何かのポケモンをモチーフにしたのであろうキャラクターの看板を掲げた店がある。通りに面した壁はガラス張りで中が見えるようになっており、人が席に座って何かを食べているのが見える。
「リーリエ、ここか?」
「そう……です……!」
リーリエがソワソワしているのが手に取るように分かるので躊躇わずに中に入る。
「いらっしゃいませ! アローラが産んだ奇跡の味! マラサダショップにようこそ! どのマラサダをお買い求めになりますか?」
結構強気なキャッチコピーだな、それだけ自信があるということだろうか。
「どのマラサダ……どんなマラサダがあるんですか?」
店員に尋ねるとなぜかリーリエが
「わたしはこのアマサダをおすすめします!」
と、またもやアマサダ推し。
まあそこまで言うならば……
「じゃあ俺もアマサダを一つと……」
結構一個一個のサイズが大きいけど流石に一個じゃ腹は膨れんだろ。
アマサダ以外でなんか良いのないかな。
「男性の方はこちらのカラサダをお求めになる方が多いですよ」
と、店員が助け舟を出してくれたので
「それも一つください。リーリエは他になんか食べたいのあるか?」
「わたしは……アマサダで十分……です」
まあまだ子供だしそんなもんか。
「じゃあそういうことで」
「お会計はどうなさいますか?」
そりゃ俺が払うに決まってるだろ……
「えと……わたしが……お支払いしましょうか……?」
「いやいや俺がまとめて払うから……年上にかっこつけさせてくれ。いくらですか?」
リーリエもリーリエで俺の面目を潰しにかかるのはやめてほしい。
「3つで600円になります」
600円を支払ってマラサダを受け取り、二人で席につく。
腹も減っているので、両手を合わせていただきますをしてさっさと食べ始める。
「いただきます」
「いただきます……」
まずはカラサダから齧ってみる。
サクリと耳に響く小気味の良い音と、揚げ物特有の油の匂い、揚げたてゆえにはっきりと分かたれた皮の硬さと具の柔らかさは、店員が言っていた奇跡の味という言葉に期待を持たせた。
そして肝心の味だが、具が何かは分からないものの……噛んでいるうちに、舌の上で辛味がジワジワと広がっていくのを感じる。いわゆる香辛料のような、発汗させるような辛さとは違う。飲み込んだ後には水のように舌の上の辛さも一緒に胃に飲み込まれてしまった、そんな後味のスッキリとした辛さだった。
「うぅむ、美味い!」
思わず唸ってしまう程には美味い。
「フフッ……おすすめして良かったです」
リーリエもアマサダを食べて上機嫌だ。
するとそこに店員が歩み寄ってくる。何か用かと顔を向けると、ニコリと笑って
「マラサダはポケモンも食べることができるので、是非、分けてあげて下さい」
なるほど、だからチラホラと座っているお客の横でポケモンも座っているのか。
俺も新たにマラサダを注文してポケモンたちにあげることにしよう。
♢♢♢
腹も満たして、ポケモン達にもマラサダをあげて、ついでに引越し届けも確認してきた。これでこの街からようやく出る準備が出来た。
ハウオリシティから二番道路に入る。歩いていくとどうやら途中で舗装道路から土の地面に変わるようだ。
看板を見ると 2番道路 草深い 道 と書いてある。
リーリエの格好を見る。
「……? ……なんですか?」
「ん、いや、ここから先はちょいとワンピースだと進みづらいかな、なんて」
と、ワンピース姿を眺めているとリーリエはふんすと鼻息荒く言う。
「大丈夫……です!」
「おお、そうか」
大丈夫そうなら良いか。
二番道路を進むと道脇に女性が立っている。
目を瞑っているようなので通り過ぎる。
「ちょっと待ちなさい!」
「はい?」
「目と目があったらポケモンバトルでしょ!」
まずもって目が開いていなかったし、ボールを持っていないように見えるのだが、と思ったら右腰に括りついていたようだ。
「もう少しボールは見やすいところにつけた方がいいんじゃ?」
「う、うるさい! 早くやるわよ!」
ボールを構えると咳払いをする。よしっと小さく声を出すと
「さぁ、私の試練を乗り越えられるかしら!」
試練? もしかしてこれも試練の一環なのか? まだ洞窟に着いてないのに?
辺りをキョロキョロと見回していると意図が伝わったのか顔を赤らめて
「別にキャプテンとは関係無いわよ!」
と叫ぶ。
紛らわしいし、恥ずかしいならやめた方が良いと思うのだが。
「もうグチャグチャよ! 行け、アブリー!」
見た事の無いポケモンを出してきた。
なんか虫っぽいな。
「行け、アシマリ」
虫っぽいな、アシマリで対処できるだろうか? 試練とか言ってるし強いかもしれない。
「アシマリ、はたく!」
アシマリが走り込んではたくというかショルダータックルを決めにいく。
「アブリー、距離を取ってようせいのかぜ!」
細く洗練された風がアシマリに当たる。
「もう一度はたくだ!」
「アブリー! しびれごなで動きを止めて!」
運悪く範囲から逃れられなかったアシマリはしびれごなを浴びてしまった。
「あ……しゃまあ!」
しびれた体を動かして突っ込む。
「痺れてるわ! ようせいのかぜよ!」
ようせいのかぜによって体が傷ついていくが頭蓋を敵に向けて風を切って走る。
そのままアブリーを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたアブリーは崖に向かって一直線だが、途中でなんとか体勢を立て直す。
「アブリー頑張って! ようせいのかぜよ!」
そこにみずでっぽうが追い討ちとなってアブリーは倒れた。
「むー……お疲れアブリー……」
なんか物言いたげな顔で見てくる。
「せっかく練習したのに!」
「そんなこと言われても……」
試練とか紛らわしすぎないだろうか。
辟易していると横から草を掻き分ける音が聞こえた。
草むらに近いところでバトルしていたからポケモンを刺激してしまったのか。
「えっ、わ、私の手持ちアブリーしか……」
「後ろに下がってくれ」
アシマリをモンスターボールから出していつでも指示が出せるようにする。
そしてガサガサという音と共に飛び出してきた影はそのまま突進してくる。
「アシマリ、みずでっぽう!」
その影をみずでっぽうで吹き飛ばす。
即座に図鑑を構え、
「……アーボか」
他地方でも普通にいるアーボだった。
とはいえ、アローラは何かと勝手が違う……らしいので油断はしない。
「接近せずに常に距離を保て! ……みずでっぽうだ!」
アシマリがみずでっぽうを放つとアーボは体をくねらせて回避し、地を這って近付いてくる。
「チャンス!」
モンスターボールを投げつける。
アーボを吸い込むとボールが揺れる。中でアーボが抵抗しているのだろう。
やがていつものように大人しくなったボールを拾う。
ぽんぽんと手の中で何度か放る。
「先に進むか……あ、お疲れっす」
「えっと、頑張って下さい!」
「頑張ってロト〜」
リーリエと俺とついでにロトムも女トレーナーに声をかけて先に進もうとすると戦慄したような顔をしていた。
気にせず先に進む。
「二人で楽しく旅……私は一人で頑張ってるのに……」
気にせず進むんだ!
♢♢♢
道中のトレーナーを倒し、野生ポケモンを倒し、坂道を登ると道の両脇に建物がある。
左の建物の前には見た事のないポケモンと肌の黒く焼けた爺さんが立っている、守衛か何かだろうか。
「アローラ」
片手を軽く上げて挨拶をする。
「アローラ! 海に近い! それが自慢のモーテルへようこそ!」
「しゃぎじゃぶぅ!」
爺さんはこの建物、モーテルを経営しているようだ。そして足元のポケモンもハサミをあげて挨拶をしているように見える。
「わたしのマケンカニはすごいだろ。海を見せたいからってお客さんを足止めするのさ!」
「はあ、そうですか……」
悪質な客引きみたいなことしてんな……
「もっとも案内しすぎでモーテルは満室だがね……来た人に損はさせないよ」
それだけ海が綺麗でみんなを惹きつけるんだろう。観光客もかなり来ているということの証左でもあるな。
「さあ、ついてきなさい」
「えっ、どこに……?」
リーリエに思わず顔を向けると
「ふふっ……きっとヨシダさんも気に入りますよ……」
「お、おう」
取り敢えず付いていく。
彼はモーテルの駐車場の隅、周りを囲う柵が途切れた所で待っている。
「ほら! 広がるビーチ! 名前はビッグウェーブビーチ、面白いポケモンもいるからぜひご覧になるといいでしょう!」
ハウオリシティのビーチと何が違うんだろう。
「ちなみにわたしとマケンカニでビーチへの道を造ったのです!」
「ええ、すげえ……」
全部手作業とか気が遠くなるな……。しかしこのポケモン、マケンカニのことをちょっと調べたいな。
「俺は最近ポケモントレーナーになったばかりでして、ついでで申し訳ないんですけどそこのポケモンを図鑑に登録してもいいですか?」
「ん、構わんぞ」
おじさんは快く了承してくれた。
「ロトム、頼んだ」
「ケテ!」
ロトムがポケモンをスキャンする。
マケンカニ けんとうポケモン
格闘タイプ
硬いハサミは 攻めも守りも得意。
マケンカニ同士の戦いはボクシングのようだ。
「マケンカニか……これも南国特有って感じだな」
ポツリと溢すとおじさんが話しかけてきた。
「君はアローラの外から来たのかい?」
「ええ、本当につい最近移住してきたばかりです」
「そうか…….……」
難しそうな顔をしている。
「どうしたんですか?」
「最近、若者が別の地方に出て行ったりする事も多くてね。そんな中でこの地方に来るなんてのは、君は変わり者なんだね」
そこまで言ってから、でも、と笑う。
「ようこそアローラへ! 若者が増えるのはいい事だ!」
「そのとおり! アローラ!」
先ほどから近くに立っていたサーフボードを構えたドレッドヘアーの青年がいきなり話しかけてきた。彼は俺のZパワーリングを指差すと
「島巡りさん、サーファーを見るのは初めてか?」
「どうだったかな……テレビでは見たことあるかも知れないな」
「なるほどな……サーフィンをやりたいとは思わないか?」
確かに、折角南国のビーチに来たんだしやってみたくはある。
肯いて言葉を返す。
「興味あるな、教えてもらえるのか?」
すると、傍に抱えていたサーフボードのテール部分を地面に立てて腰からボールを取り出す。
「俺が教えてやるよ、バトルしてくれたらな!」
いや、バトル脳過ぎでしょ……とドン引きしつつ俺もボールを取り出す。
「まあ、そういうのもしまめぐりの醍醐味か……」
「そうそう、ハハハッ! 行け! デリバード!」
テンション高すぎだろ……あまりに高すぎて俺のテンションが上がらねえ……
「行け、アシマリ、はたく」
「デリバードよけろ!」
デリバードは回避を選択したが、ずつきは命中し、派手に吹き飛ぶ。
デリバードは怯んでいるようだ。
「アシマリ、みずでっぽう!」
そこに追撃が入り、急所にヒットしたのかあっさりとデリバードは沈んだ。
「バトルの波には乗れなかったか……」
頭の中がサーフィンとバトルしかないんだな……
「それで、サーフィンは教えて貰えるのか?」
「良いぜ! それじゃあ水着に着替えてきな!」
「えっ?」
「えっ?」
…………水着?
♢♢♢
「アローラ!」
「おう、今度は水着持ってこいよ!」
挨拶をして、今度はビーチに向かってみる。
坂道を降り切り、砂浜に足をつけると、靴が砂に少し沈む。
「このまんまだと靴の中が砂だらけになるな……リーリエは大丈夫か?」
そう言ってリーリエを見るとサンダルに履き替えている。用意周到だ。
「あ……大丈夫です……」
だろうな、さてどうしたものか…………サンダルを買いに今からハウオリに戻るのは流石にめんどくさいから靴でいいや。
すぐ左手の看板にはマンタインの絵が描かれている。補助看板が下に付いており、こう書かれている。
サーフスポットではマンタインサーフができます! 名前のとおりマンタインといっしょにお楽しみください!
「ふーん……リーリエはやった事あるのか?」
「いえ……足腰を鍛えていないと危険だとかで……」
「あー……まあ、確かに……」
リーリエの細い足腰を見て納得する。しかし、その視線に気付いたのかリーリエは顔を赤らめてワンピースの裾を抑えてしまった。
おっと……
「…………」
リーリエはジト目でこちらを見ている。
スケベな意味じゃないんだけどなあ……まあ不躾に見た俺が悪いわな。
「ごめんごめん、もう見ないよ」
ちょっと顔をむくれさせたリーリエの機嫌を取りつつ、人が集まっている大きな看板の前に歩いて行く。
横に立っているビキニの女の子が俺を見て話しかけてくる。
「ようこそマンタインサーフが楽しめるビッグウェーブビーチに!」
「あの看板に書いてあったやつか」
「えぇそうです! マンタインサーフとは名前のとおりマンタインの背中に乗せてもらってサーフィンを楽しむレジャーのことなんですよ!」
「ほぉ〜中々楽しそうだな」
是非ともやってみたいところだけど……
ビキニさんはリーリエを見ると
「もっとも、若い人がマンタインサーフを遊ぶならもっと鍛えないとね、ちょっぴり激しいレジャーだから」
と、リーリエに向かってかわいくウィンクをした。俺にもして欲しいなあ……
「まあともかく、俺は出来るってことだな、お姉さん」
「ええ、そうですよ! 激しいレジャーですのでそのままだと服が濡れてしまうでしょうし、水着に着替えたらまたお声掛け下さいね!」
あらら…………まあ今度でいっか。
俺の表情を見て察したのか
「是非今度楽しんでくださいね!」
と、ウィンクをくれたので良しとしよう。
マンタインサーフしてるのを眺めたり、貝殻が落ちていたりする砂浜を適当に歩いているとリーリエが唐突に聞いてきた。
「あの……男の人というのは……綺麗な女の人にウィンクしてもらうのが……好きなのでしょうか……?」
答えづらっ……しかもなんでウィンク限定? ……まあ、お茶を濁しとくのが一番か。
「ああ大好きだぞ、リーリエもハウに会ったらしてやると良い」
「なっ……ハ、ハウさんだとは言ってません!」
いや冗談だから…………思春期は難しいなあと、子供との正しい接し方の難しさについて反省していると、
「おちゃめな俺たちスカル団にもマンタインサーフさせろよな!」
と、聞き覚えのあるワードが耳に飛び込んできた。音の出所を探すと、どうやらビキニさんのさらに向こうのスロープの上からだったらしい。
スロープから降りてきたスカル団をビキニさんが適当に流している。
「あら、スカル団じゃない……あなたたちも乗れないのに良く来るわね」
スカル団はなぜか踊りながら言葉を紡ぐ。
「どうして乗れないのでスカ! もしかして子供に見えまスカ?」
「そんなことないわよ」
「じゃあなんででスカ!」
「だってあなたたち、正しい乗り方をしないじゃない」
もう完全に塩対応である。
「マンタインの上で踊ろうとしていつも海にさらわれているし……」
ええ……
「俺らのアイデンティティを捨てろというのでスカ!?」
スカじゃない方の下っ端もキレ始めた。
「許せねえ! 俺は無理やり乗るぜ!」
「あっ、ちょっと! やめなさい!」
「うるせえ!」
ドンッとビキニさんを突き飛ばし、マンタの方に二人でダッシュしていく。
突き飛ばされたビキニさんは大声で助けを求める。
「誰か助けてー! マンタインを守ってー!!」
海辺にいた人たちが野次馬の如く集まっているが、みんな及び腰であの二人組に干渉しようという気概はないらしい。
ここは「勇気」を見せてやるか。
「リーリエ、ちょっと行ってくるな」
「は、はい……」
ベンチから立ち上がり、二人組に近づく。
「おいお前ら、懲りねえな」
「あ? 何見てんだ? …………ってお前は!?」
「朝っぱらから人のポケモンとリングぶんどろうとしたかと思えば今度は無理やりサーフィンしたようとするなんて筋金入りというか何というか……」
「ぐぬぬ……今度は本気見せてやりまスカら!」
そう言ってボールから出したのはなんか鼻の長いやつ。図鑑で見つつアシマリを場に出す。
「あーそうか、スリープって言ったか……」
「知らないんスカ? それは勉強不足でスカね! スリープ! はたく!」
その通りである。
「悪いな、こちとら新人トレーナーなもんでな! はたく!」
スリープの右手とトリミアンの右手が激突し、お互いに弾かれる。
「これならどうだ!アクアジェット!」
「はたく!」
スリープの右手が最高速度に達するよりも早く、アシマリの加速しきった頭蓋部がスリープの胸元に潜り込み、その反応を待たずに右脇にめり込む。アシマリの速度を受け継いだスリープはそのままトレーナーの方に吹き飛んだ。
「なんでっスカ!? グギャア!」
慌てふためくも咄嗟に避けることはできずに、自身のポケモンの下敷きになる。
「お、重い……」
近寄ると、スリープは目を回して気絶していた。スカル団のしたっぱは、完全に脱力したスリープの下から抜け出すことが出来ずに苦しんでいる。
こいつが犯罪紛いの事をしていても、流石にこのままにしておくのは忍びない。もう一人のスカル団に指示を出す。
「おい、スリープを持ち上げるからこいつ引っ張り出してくれ」
「お、おう……」
♢♢♢
「それで? なんでこんな事するんだ?」
気絶している方は置いといてスカじゃない方──めんど臭いからしたっぱAとかにしよう、どう見ても大物では無さそうだし──したっぱAに事情を聞く。
「…………」
しかし項垂れたまま何も答えない、思わずため息が出る。
「はあ…………なんでも良いけどさ、こんな事やっててもお先真っ暗だぞ?」
彼らがこのまま歳を経たらどうなるかなんて容易に想像が出来る。スカル団? とかいう反社会組織でそのまま底辺として生きるか、あるいは別の反社会組織で底辺として生きるか、そんな感じだろう。
「…………せえよ」
「あ? なに?」
下向いて、三角巾を口に巻き付けたままボソッと喋るからよく聞こえなかった。
「うるせえんだよ! お前みてえな奴らには俺らの気持ちなんて分からねえよ!」
若干震えた声でそう吐き捨てると、気絶しているほう──したっぱAときたので次はしたっぱBだな──したっぱBを背負うとトボトボと歩いていった。
すでに日の傾きは夕方一歩手前と言ったところであり、俺達も今日は一旦どこかに泊まる必要がありそうだ。
流石に今から試練とかイリマも困るだろう。何か策は……
「ありがとう! おかげで助かったわ!」
そこにマンタインサーフの案内をしていたビキニさんが来た。
「ん……君はビキニの……」
「え?」
「いや、なんでもない」
ビキニさんと覚えていたから危ういところだった。
「そういや名前はなんて言うんだ?」
「わたし? そう言えば自己紹介はしていなかったわね! わたしはアミって言うのよ!」
「アミちゃんか、俺はヨシダっていうんだ、よろしく」
「よろしく! そっちのお嬢さんはあなたの妹……には見えないわね」
なんだか失礼な事を考えていそうな顔だ。
「わたしは……リーリエと言います……」
「リーリエちゃんね、覚えたわ!」
そのままワイワイと二人で楽しく話し始めたので、遮って少し困っている事を伝える。
「宿が決まってない? ……モーテルはどうなの?」
「生憎とここに来た時点で満員だったんだ」
野宿ならそれはそれで良いけど、最終手段に残しておきたい。そもそもこの島は南国の観光地として多少整備されているので、野宿するにしても周りに建物があるというなんだか寂しい状況になってしまうのだ。
と、アミちゃんは俺の腕にハマっているZパワーリングを指差してこう言ってきた、
「あれ? でもあなたって島巡り中なのよね?」
それがどうしたんだろうか。
「この先にも一応ポケモンセンターはあるわよ?」
そうなのか、この先は試練の洞窟しかないと思っていた。リーリエに確認の意味も込めて顔を向けると
「わたしは……ポケモンを持っていないので……この先には行ったことが無かったんです……」
「なるほど……じゃあ、そのポケモンセンターに泊まればいいか」
良かった良かった……と安堵しているとアミちゃんがアチャーッという顔をしている。
「ポケモンセンターって確かにポケモントレーナーなら泊まれるけど、トレーナーじゃない子は…………どうだったかしら?」
確かに……どうなんだ? 泊まれなかったとしたらその時のリスクはデカいな、いやそんな非人道的な対応はしないと思うけど。
「何かお困りのようですがどうしたのですかな?」
何の脈絡もなく、小太りのオッサンが声を掛けてきた。
「いやね? 何やら騒がしいようだから見ていたんですよ。そしたら君達が困っているような事を言っているものだから」
「実はですね……」
事情を話してみると
「なるほどのう……それなら、私がお役に立てそうですね」
「でも……大丈夫なんですか?」
何故かアミちゃんが反応した。
「ハハハ……今日帰ってくるなんて事は無いでしょうからね……」
よく分からないけど泊めてくれるらしいのでそれに甘えておこう。
♢♢♢
アミちゃんにお別れを言って正体不明のおじさんについて行くと、意外とあっさりとその建物に到着した。
ビッグウェーブビーチの坂の上にあるモーテルの、道を挟んで向かいにある家だった。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「お邪魔……します……」
おじさんの他には誰も住んでいないのか、来た時点では家の電気は付いていなかった。
「とりあえず、ソファにでも座ってのんびりしていてくだされ」
「お気遣いありがとうございます。ほら、リーリエが先に座っていいぞ」
「は、はい……」
リーリエは若干緊張しているようだ。まあ、年端もいかない女の子が知らないおっさんの家にいきなり招待されたらそうなるか。年上の男しかこの場にいないしな。
「今日は妻は帰ってこないのでね、先に夕飯を作り始めておきますかな」
まだ若干の混乱の中にあるこちらを置き去りにしてズンズンと話を先に進めていくおじさん。
「そうそう、寝る場所は二人一緒でいいのですかな?」
「いやいや、別じゃなきゃダメですよ」
密度が濃すぎて忘れそうになるが、俺とリーリエは会ってまだ2、3日だぞ。
「なるほど……ベッドと布団がそれぞれ1組ずつしか無いのですが、どちらが良いですかな?」
「リーリエはいつもどっちで寝てるんだ?」
「いつもは……ベッドで……」
「じゃあリーリエをベッドで寝かせてあげて下さい」
それを聞くとおじさんは玄関扉正面にある部屋の扉を指差す。
「それならば、あの部屋でお嬢さんは寝ていただくことになりますな。見てきても良いですぞ」
扉にはネームプレートがぶら下がっている。また、扉の両脇には本の詰まった本棚が壁の下側を占めている。本棚の上や、壁上部には写真が額縁に入れて飾られている。
「俺も見てこようかな」
「え? ……ヨシダさんもですか?」
リーリエについて行こうとすると何故か若干拒絶の意思を感じる回答をされた。
「ちょっと写真が気になってな、見ても良いですか?」
「っ……ええ、構いませんよ」
おじさんは一瞬言葉に詰まるが、すぐに了承してくれた。
写真には大柄な少年が一人で写っているものもあれば、おじさんと、あるいは女性──奥さんだろうか? ──と一緒に写っているものもある。そして一際目を引くのは、その大柄な少年がしまめぐりの証を誇らしげに掲げている写真だ。そして、どうやらその少年の名前はグズマというらしい。ネームプレートに名前が書いてある。
そこで、出会った際のアミちゃんとのやり取りと、俺たちがこの家に来ることになった経緯を思い出した。
──今日帰ってくるなんて事は無いでしょうからね……
今思えば、その時のおじさんは寂しそうな顔をしていた気がする。
この少年は今この家に住んでいないという事だろうか。だから、この部屋を使って良いということなのだろうか。
多少確認したいような気もするけど、ご厚意で泊めてもらう分際で、しかも興味本位でそういう繊細な問題に突っ込むのは恥知らずというものだろう。
「この方は……息子さんですか……?」
まあ10歳の子はそういう事は考えないでも良いけどな。
リーリエの質問に対しておじさんは
「ええそうですよ」
と、至って普通に返していた。
「へえ〜……」
「リーリエさんには今日は息子のベッドを使ってもらおうと思っているのですが……匂いなどが気になりますかな、ははは!」
ジョークを混ぜる余裕もあるようだ。実はそこまで気にしていないのかもしれない。
ガチャリとグズマくんの部屋の扉を開けるとまず目に付くのは大小様々なトロフィーだ。
「おっトロフィーがこんなに……」
感心して見ていると
「息子が取ったものでしてな……すごいでしょう?」
おじさんが後ろから誇らしげに声を掛けてきた。
「はい、すごいっすね」
「すごい……です……」
嬉しそうに頷くと
「荷物は好きなところに置いてくださって構いません。それと、風呂などの場所を教えておくのを忘れていました」
そして十分に寛がせてもらい、飯なども済ませて夜になった。
「お風呂ありがとうございました」
最後に風呂に入った俺が風呂を終えると、リビングでは2人は既にテレビをつけて談笑していた。リーリエの隣に座り、何の話をしているのか聞くと酔っ払ったおじさんが脈絡なく話し始める。
「息子が出て行って……こんなに家が騒がしいのは久しぶりです……」
さらに続ける。
「子供の旅は嬉しいが……飛び出したままなのは……いかんです……なので、とっちめてやろうとしたら……コテンパンにされましてのう……」
「連絡とかは取れてるんですか?」」
「はは……居場所は分かってるんですがね……」
グイッと、缶の中のビールを呷る。
「ぷはぁ……今日は疲れたでしょう? そろそろお休みになりますか?」
そう言われると体中に疲れが押し寄せてきた気がする。
「じゃあお言葉に甘えてそろそろ寝させてもらいます」
「わたしも……そろそろ……」
「そうですかそうですか……おやすみなさい」
布団に向かう直前に見たその眦には光るモノがあったのだった。
一番頑張ったのはマラサダの表現です