仮アジト
ヨルビアン大陸の北西、海岸沿い・・・・
言い伝えによると、此処はとある民族が3000年前まで支配していた地域であり、その民族は地下に巨大な神殿を建てた後、滅んだとされている。
その噂を便りに、幾度となく夢を求めた者達が、我こそはとこの地に降り立ったのだが、長い年月を経ても発見される事は無かった。
その言い伝えは昇華し、今では伝説とまでなっている。
しかし偶然、遺跡ハンターによってこの神殿が発見された。
居合わせた者は心を奪われた。
そこには巨大な逆十字が飾られ、散乱した美しいレリーフが刻まれたグラスや皿、そして壁画が荘厳な雰囲気を演出している。
お宝と呼ばれる歴史的価値の高い物品が床に数多く乱雑していたが、それもこの有無を言わせない空間の演出に一役買っていた。
何故、こんな立派なものが今まで誰にも発見されずにーーー
見回した感じでは、盗掘者と呼ばれる輩の手がついていないように思われる。
古代の物としては保存状態も良く、世間に公表すれば一大ニュースとなるのは必然だ。
壁画に描かれている謎の絵、そして神字に似た文章は解読が出来ず、同行していた専門家もお手上げ状態だ。
「ククク」
一人が笑い、周りの者達もつられて口を歪める。
これだけの素晴らしい状態で保存されている。
ハンター協会に知らせれば自分達の格は上がり、一ツ星に認定される可能性もある。
それは今後の活動範囲にも影響し、貰える額も桁が変わり、金に困る事は一切無くなる。
目前に晒された欲望を前にして、座り込んだ。
「これで俺達の未来は約束される!!」
皆が床に散らばっていた食器やグラスを手に取った瞬間、強烈な光が差し込み、咄嗟に目を閉じる。
その場に居たハンター、専門家は、光に包まれながら跡形もなく消えたーーーー
ーーーー1995年
「団長、今日はいったい何なんだ?」
ピンク色の髪を後ろで束ね、くの一を連想させる服を着用し、黒いスパッツを履いたマチという女性が、皆から団長と呼ばれている黒のオーバーコート、額に逆十字の刺青が入った男、クロロ・ルシルフルに尋ねる。
「面白そうなものを見つけた」
それ以上は言いそうになく、いつも通り愛想のないクロロの後ろ姿を見て、「はぁ・・・」と溜め息をつき、歩く速度を合わせる。
仕事であれば場所、奪うお宝を指示するクロロだが、今日はそのような素振りが微塵も感じれないので、何があるのか全く分からなかった。
只、全員集合という団長命令があったので、こうして集まった次第である。
「チッ。戦いが出来ねぇんなら、呼ばねぇで欲しかったぜ」
金髪の眉毛無しに上下ジャージという、どう見てもヤンキーにしか見えない男、フィンクスが愚痴を溢す。
それに対しては身長二メートルを越す大男、動物の毛皮を纏い全身筋肉で覆われたウボーギン、
ジャポンの刀を帯びている着物を着た男、ノブナガが同意の意思を示しており、不満そうな表情を隠す様子もない。
「いいじゃない、こんな機会は滅多にないんだから。
全員が揃うなんて貴重な時間よ」
微笑む美人な、金髪に長身の女性がパクノダ。
その美形からか、周囲の者からはチラホラと視線を集めている。
「パクの言う通りだよ。
それに、団長が何もないのに皆に召集かけると思う?」
美青年という言葉がぴったりと当てはまる、金髪の男はシャルナーク。
頭脳明晰で機転が働き、主に情報収集を担当している。
「やぱ戦い無いのありえないね。
団長命令だからて、乗り気にはなれないよ」
「まぁいいんじゃねぇの?
行ってみて、面白そうな事が無ければ帰ればいいじゃねぇか」
全身を中華風の黒衣に身を包んだ男の顔にも、不満そうな三人と同様の表情が見てとれる。
そして、退屈をもて余すあまり、拷問に使えそうな人間がいないかを探している、片言の言葉を発するのは、フェイタン。
もう一人はウボーギンに劣らずの巨漢で、口角から切創が走り、
それを縫った痕の残るフランクリン。
歩く度に巨大な耳たぶが揺れる。
9人は幻影旅団という、極悪A級賞金首の盗賊である。
彼等は欲しい物があれば奪い尽くし、立ちはだかる者は当然の如く皆殺し。
自分達の事を蜘蛛と呼び、一つの頭、そして12本の足で構成されている。
その一団は、活気に賑わっていた街から離れていく。
目の前に現れた巨大な山を一瞥して、全く舗装がされていない獣道に入る。
歩き続けて三時間程経っただろうか、クロロがとある石の前で立ち止まった。
その石の裏に回ると、隠されていたかのように、小さな穴があった。
薄暗くて中がよく見えないが、丸石で出来た階段が覗いている。
団長が自身のコートから蝋燭を取り出し、火を付けると階段を降りていった。
そこはただ降りるだけの必要最低限のスペースしか無く、地中という事もあって、土の香りが充満している。
元から空気が薄いのか、それとも一度に入る人数が多いのか・・・
多少の蒸し暑さと息苦しさを覚えるーーーー
「おい団長!いつまで階段続くんだよ!」
「もうすぐだ」
フィンクスの怒声は最もな話だ。
かれこれ一時間弱も階段を降りていたのだ。
だが、フィンクス、ノブナガ、ウボーの我慢が限界を超えそうになった所で、変化は起きた。
「壁画・・・だね」
シャルナークの足が止まり、蝋燭の明かりを頼りに、描かれていた壁画をじっくりと見ていく。
階段の左右に描かれた壁画は連続して成り、まるで一つの物語をイメージさせる。
途中には悪魔のようなものや、カニバリズムのような絵が描かれた物もあり、少し薄気味悪さを感じていた。
この先にあるのはお宝だ・・・
誰もがそう思い、体にも自然と力が入る。
隙間無く連なった壁画が終わりを告げた時、団長の足が止まった。
目の前にそびえるのは巨大な扉。
「すごいわね」
パクノダが驚きの声をあげつつ、扉の感触を確かめるように指で撫でている。
ひび割れ、苔ばんでいた扉は、長い歴史を感じさせた。
そして、団長が扉をあけて中に入っていくのに習い、皆も入っていく。
「あら、空気はどこから入ってきてるのかしら?」
それまであった息苦しさは全く無くなったので、どこかに通気口があるのだろう。
地上にいる時と大差ない、新鮮な空気が入り込んでいた。
周りを見れば、この神殿を支えているのだろう、石で作られた巨大な柱が数本たっており、無数の遺物が散乱している。
そして奥には、主張するように巨大な逆十字が飾られていた。
「随分巨大な地下神殿だね・・・」
そして飾られた逆十字を目にしたシャルナークは、プッと吹き出した。
「あはは、十字架じゃなくて逆十字だよ。神に対する冒涜だね、悪魔でも崇拝してたのかな」
「滑稽だろ」
笑い始めるシャルナークに団長も口角を吊り上げ、
「本当に見て欲しいのはこの先だ」
と言って、礼拝所の奥にある石の扉に手をかける。
ギィィィィ ゴォォン
重厚な音が響き渡り、中に入ると再び蝋燭を灯し、部屋の内部が明らかとなった。
「えっと、棺・・・え?!」
マチが驚きの声を上げたのを機に、何事だと皆も棺の中を覗き込んだ。
「どういう事よ・・・」
「は?意味がわかんねぇ」
「生きてるよな?」
「女の子・・・だよね?」
口々に信じられないものを見るかのような言葉を並べ立てる。
棺には、先程見た壁画と同様の絵が描かれており、上部のガラス部分には、同じく解読不能の文字や記号が綴られ、中には眠っている少女がいた。
皆が興味津々で覗き込み、試しに棺を叩いてみたりガラス部分を外そうと試みるが、ビクともしない。
いつから此処に閉じ込められていたのだろう、少女はミイラと呼ばれる状態ではなく、肌は水気を含み潤っており、胸は規則的に上下している。
ウボーが手にオーラを纏った状態で外そうと試みたが、棺が開く気配がないので、
力ではない何かが必要なのだろう。
「それにしても、こんな所に神殿があったなんてビックリしちゃったよ。何の民族だろうね」
棺に納められていた少女は、民族衣装を着ていた。
髪は薄いピンク色で、翡翠を思わせる緑色に輝く首飾り、両手首にはリングを装着している。
「メーズ族。一応此処を見つけてから蔵書を探してみたら、該当する本はあった。
今から3000年前までこの地はメーズ族が支配し、人身御供が行われていたらしい」
「ふーん。何でこれがメーズ族だと団長は思ったの?
蔵書に書かれていてももしかしたら、違う民族かもしれないよ?」
「この民族は滅びる直前、巨大な地下神殿をこの地に建てたとされているんだ。
言い伝えである以上、発見者はいない事になる」
「・・・確かに。もしこんなのが発見されていれば、立ち入り禁止区域になるか、観光化されるしね」
シャルナークは納得したように一つ頷いた。
「じゃあなんだ?!こいつ3000年前の人間か!!だが息してるぜ!」
ウボーギンが興奮した反応を返す。
3000年前に棺に入れられた少女が、綺麗な状態というだけでも驚きなのだが、息までしているとあればおかしすぎる。
人類なら、長く生きたとしても100歳を超えるぐらいだろう。
眠っている少女は10歳程度であるが、この神殿が建てられてからと考えるとその歳は3000を超えてしまう。
「これは何かの念かしら・・・凄いわね」
パクノダがそう言うと皆も同じ反応を示し、その非現実的な光景に目を奪われている。
「今日から此処を仮のアジトにする」
「は?!」
驚きを隠せない一同の、当然の反応にクロロが続けた。
「直感だが、少女が目覚めれば退屈はしないだろう
」
「なにを言うか。眠てるの起きるまで待つか?床に散らかてるお宝盗って終わりでいいね」
フェイタンの言った事は、蜘蛛にとって当然の事なので何人かは頷くが、
「盗ろうとしてみろ」
団長の言葉の意図が分からず、フェイタンがあたりの物を適当に手に取ろうとする。
散乱している物は、よく見るとオーラが出ている。
ちなみにオーラというのは生命エネルギーであり、通常の人間にもオーラは存在するのだが、駄々漏れの状態である。
自身のオーラは修行によって認知する事ができ、ここから念能力者としての道が始まる。
細い体ながらトラックに引かれても無傷な者、決して見破られる事のないトリックを操る者、演説をすればたちまち大多数の国民の支持を得てしまう、洗脳する者等、例を挙げればキリがない。
彼らはそれゆえ、天才、超能力者、超人などと呼ばれ特別視される。
一方、念能力に目覚めていなくても、その者が長い期間愛着を持って接していた物がオーラを纏ってしまう事もある。
ホラーではあるが、髪の毛が伸び続ける人形等はいい例だ。
そして今、目の前にある遺物・・・
意図的にかけられた念か、個人が大事にした挙げ句、自然と込めれたものかは分からないが、嫌な感じは一切ないので警戒感は一切無かった。
しかし、クロロが言った「盗ろうとしてみろ」という言葉が引っかかる。
それは暗に、警戒しろというメッセージのようにも聞こえる。
そして、フェイタンが落ちていた皿を手に取ろうとした瞬間にオーラの雰囲気が変わったのが分かった。
明確な殺意をもったそのオーラは、赤い警戒色となって濛々と立ち込めている。
気付いたフェイタンも触れる寸前で止まっていた。
「多分、盗ったらヤバイよそれ」
マチが自身の勘だと付け加えて言うと、「マチの勘は当たるからな」と皆が口々に言う。
「どういう事だ団長」
ノブナガは意味が分からないといった様な表情をしていると、
「盗ろうとすれば何かが起こる、だが持つだけであれば大丈夫みたいだ」
クロロはそう言って、試しにと自分の足下にあるグラスを持つが、
嫌なオーラが流れる事は無かった。
「何の念かな…変わってるね。
いずれにしても、遥か昔に込められて尚このオーラ、眠りの少女・・・
面白そうじゃない?」
クスクス笑うシャルナークが辺りを見回し、身近な扉を開けると部屋が現れる。
「うん、広さも申し分ないし僕はこの部屋にするよ。早い者勝ち」
「まぁ此処にいれば面白そうな感じはするわね。
こういった所、団長好きそうだし」
パクノダも納得したように自分の部屋を探し始めたのを機に、他の団員も自分の部屋を決めていった。
クロロは螺旋状の階段を上っていき、二階の一室に入っていく。
扉の閉まる音が響き、部屋の隅に置かれた本を手に取る。
既にこの神殿に足を運び、仮アジトにしようと決めていたので、自身の愛読書は移し終えていた。
「これだな」
分厚い冊子を手に取り、パラパラと捲っていく。
所々破けているのが気になる所ではあるが、
推測のページであるために、調べる事には特に問題はない。
[失われた太古の足跡 メーズ文明]
メーズ文明について…
彼の文明の始まりは約5000年前とされ、現在使用されている神字は
メーズが発祥であるとされる。
独自の文化を持っており、現在までに発見されている石版には中心に王、崇める民がおり、上部には弓を手にした少女と思わしき者が三人、王の前に置かれた寝台に向かって歩いていく様子が描かれている。
石版と一緒に発掘された文書の切れ端には、人身御供と思わしき事が書かれていた。
[悪魔に捧げる少女の条件は10歳]
[首には翡翠の]
どのような方法で生贄が選定されたのか、過程は依然謎に包まれているが、二つを重ねる事で一つの仮説が浮かび上がった。
石版に描かれていた三人の少女は生贄だとされ、民の祝福を受けながら祭壇を上っていく様子であると。
尚、文書の解読に成功した者は亡くなっており、彼自身も解読法を遺していない。
この石版、文書を発見したジン・フリークスはその功績が認められーーーー
本をパタリと閉じる。
断片的ではあるが、棺の中の少女の年齢、そして翡翠の首飾りをしている事から、少女は生贄と見て間違いないだろうとクロロは思った。
だが、石版に描かれていたのは三人であり、此処にいるのは一人だけ。
二人は生贄としてすでに捧げられたと推測するのが自然だが、何故彼女だけが捧げられずに残っているのか・・・しかも生きている。
そして階段の途中で見たカニバリズムを思わせる絵。
考えれば考える程、キリは無い。
ふぅと浅い溜息を吐き、クロロは自室から出た。
再び少女がいる棺の部屋に足を運び、
扉を開けるとマチ、パクノダ、シャルナークの三人が少女を見つめていた。
「あっ団長」
振り返ってそう言ったマチは、再び視線を棺の中で眠っている少女に移す。
三人とも眠りの少女が気になっているのだろう。
「可愛い寝顔してるわねこの子」
パクノダは、その細い指でガラス上部を触っていた。
その様子からは、早く触れたいといった感情が伝わってくる。
仕草だけを見れば好奇心を思わせるが、浮かべている表情は母性的なモノであった。
「あぁ、早くこの棺開けて起こしたいよ」
「起きたら襲ってきたりしてね」
シャルナークの言葉にキッと鋭い視線を送ったマチ、パクノダを見て、
「ハハハ、冗談だよ」
と笑ったシャルナークの首には、冷や汗が流れていた。
「棺に書かれた文字の意味しているものが分からない限り、開けるのは難しそうだね。
僕も調べてみるよ。
団長は、来るの遅かったけど何かしてたの?」
「あぁ、この民族について改めて調べていた」
「ふーん。何か分かった?」
「恐らくコイツは生贄だ」
「生贄? ・・・どういう事?」
これにいち早く食いついたのはマチだった。
「メーズ族では人身御供が行われていたという事は言ったな?」
「あぁ」
「生贄の条件は10歳、翡翠の首飾りがつけられる。コイツと合致している」
しばしの沈黙が流れ、再びマチが口を開く。
「なぁ団長、この子起きたらどうするんだい?」
「使えそうなら蜘蛛に入れる」
「ふぅん・・・使えなかったら?」
「・・・どうだろうな」
クロロは感じていた。
この少女は稀に見るお宝だと。
そして、お宝なら奪うだけだ。
その夜、残った四人は夜通し少女を見つめていたーーーーーーーーー
初めまして。
久しぶりにHUNTER×HUNTERを見て、ノリで書いてみようと思い投稿させて頂きました。
初投稿、駄文ではありますが、完結まで持っていくつもりですのでよろしくお願いします。
尚、原作のハンター試験は暫く先になる予定です。