ーーーー「あの子は眠ったまま?」
仕事も終わり、戻ったマチが部屋を訪れるが、団長は頷くだけ。
規則的に胸を上下させている少女は、今にも目を覚ましそうな雰囲気を醸し出しているのだが、あれから無駄に一週間が経過している。
連日、神殿内を隅々まで探索しているのだが、ヒントらしいモノは一向に出てこない。
「お宝は?」
「礼拝所に置いてる。今はフィン達が仕分けしているよ。あ、コルとボノも来たから」
「そうか」
マチはじっくり少女を見つめた後、棺に描かれている記号を見つめる。
何かの文章であることは明白。
そして背後に現れた気配を伺い、後ろを見ずにクロロが、口を開く。
「シャルか」
「やあ」
入ってきたシャルナークの顔はどこか笑みを浮かべていた。
「何か分かったか?」
棺の周りに書かれた文字を見つめながら、聞く。
「いくら調べても団長が話してくれた事以外は、該当無し」
「・・・だろうな」
ため息をつくクロロに、「でもさ」と付け加えた事により、棺を見ていたクロロが振り向く。
「さっきまでボノ、コルと一緒に壁画見てたんだけど、面白い発見はあったよ」
「・・・発見?」
「うん、棺を開ける方法かなって思わせる絵。階段の所にさ、悪魔の壁画があったよね?あれに描かれた悪魔、矢を六方向から放たれてなかった?」
「そうだな」
クロロ自身この一週間で何度も見た物なので、すぐ頭に浮かぶ。
「六方向から発射された矢を線で繋げると・・・これ」
シャルナークが壁画の絵を、簡潔に紙に書いてクロロに手渡す。
「六角形・・・念の系統表か」
散乱した遺物にオーラが込められている以上、メーズ人が念の系統を把握していたと考えても、不思議な事では無い。
シャルナークは満足そうに頷いた。
「でね、発射された矢・・・《発射》って言葉、《発》で《射》るって解釈したんだけど、どうかな?」
「なるほど・・・少女を悪魔に例えているならば、棺を開ける方法の可能性も否めないな」
少しの沈黙が部屋を包む。
そして重々しい扉の開閉音と共に、部屋にボノレノフとコルトピが入ってきた。
二人は棺の中で眠る少女を見た後、適当な場所に立つ。
「ボノ。メーズ人について知っている事はあるか?」
クロロは、種は違えど部族の間に伝わっている伝承がないか尋ねた。
「メーズは謎が多いから詳しくは知らない。分かる範囲では、弓の扱いに長けた民族だ」
「だからほとんどの壁画に弓矢が描かれているのか」
「そして弓は武器としての使い道もあるが、古代では呪術、除念、音を奏でるにも用いられてきた」
「‥‥聞いた事はあるな」
クロロは熟考した。
古代人には半ば狂ったような思想も数多く存在し、神や悪魔が信じられてきた。
この少女は生け贄であり、悪魔ではない。
それは発見された遺物が答えを出している。
では何故そのように仕立てる必要があったのか・・・
生け贄である少女の何かを恐れた?
だとすれば、これは明らかに封印・・・
念による封印であり、棺自体に埋め込まれた文字や記号も何らかの効力を発揮しているのだろう。
そして、再び階段の壁画を思い出す。
射たれた悪魔は倒れた状態であり、次の壁画では射たれた筈の悪魔が立っている。
シャルナークの仮説、そして少女自体を悪魔とすれば、描かれている事は・・・
封印しなければいけない理由は分からないが、除念師を連れてくる必要が無さそうなので安心する。
事実、除念師を名乗る者は世界中に数多くいるが、その中でも本物となれば指で数えるほどしかいない。
今からそれを探すとなると途方もない時間を要してしまうし、目の前にあるのは少女を生かしたまま封印する程の念。
それだけ強力な念であると断言できる。
本当にアレが復活の儀式を表しているのであれば、何とも親切な事。
何かの罠である可能性も否定できないが、現状ではソレしか方法がない。
幸いな事に、今此処にいる団員を集めれば全ての系統が埋まる。
「やる価値は十二分にあるな」
「みんな呼んでくるね!!」
話を黙って聞いていたマチは、礼拝所にいる団員を呼びにいった。
「ならこの棺の六方向に描かれた矢は、各々が此処に向けてオーラを飛ばすという事だな」
「うん。そうだと思うよ」
これから盗るお宝を目前に、クロロは愉悦の表情を浮かべた。
マチを先頭に、礼拝所にいた全員が部屋に入ってきたので、クロロは先程の事を団員に説明する。
「おお!よくわからねえけど凄ぇんだな!」
「とにかく、やり方分かったんなら早くやろうぜ」
ウボーギンは驚いているが話の内容をよく分かっておらず、フィンクスは難しい事はどうでもいいと、颯爽と配置につく。
そんなフィンクスの様子を見ると、滅茶苦茶楽しみなのがバレバレだ。
「じゃあ始めようか」
それを合図に、それぞれが念の系統別に分かれていく。
「いくぞ」
クロロの声と同時に六人が棺に向かって発をすると、描かれていた文字が発光し始め、軋んだ音を立てながら、ウボーギンの力でも外せなかったガラス部分が浮上していく。
そしてガラスは、そこに初めから無かったかのように霧散して消えていった。
すると、変化が起こった。
それまで眠っていた少女の体がピクンと微かに動いた。
その動きに呼応し、眠っていた少女がゆっくりと目を開ける。
その瞳は半透明な緑色であり、磨かれた翡翠を思わせるような瞳であった。
「綺麗ね・・・」
「ホント・・・」
感慨の声をあげて見つめるパクノダとマチがボーっとしている。
「お宝みたいだな」
覗き込んだフィンクスがそのままの状態で少女を持ち上げようとするのをとパクノダが止めた。
「あんた今手にオーラ纏ってるじゃない!潰れるわ!」
只でさえ力加減に疎いフィンクスが持ったらダメよと注意を受け、チッと舌打ちして一歩下がる。
パクノダが少女をゆっくり抱き上げ、まるで幼児をあやすかの様に背中をリズムよく叩くと、少女は気持ち良さそうに目を細めていた。
このように抱っこする経験など、当然パクノダ含め全員が無いのだが、小さい子供を連れた母親の仕草を何度か見てきたので、それが活きた。
本来ならば幼い子にやる行為ではあるが、パクノダ自身、一度はこういう事をやってみたかったのだ。
「パク、私にも抱かせろ」
パクノダから少女を受け取り、満足そうな表情を浮かべるマチ。
そして、フィンクスが口を開いた。
「なぁ、文献通りでコイツ10歳って事でいいのか?」
「それでいいと思うわ。きっとこの子の時間…棺の中で止まってたのよ」
「なら、これで動き出したのか?」
「多分ね。この子自体は、念能力者じゃない」
パクノダの言った通り、少女の生命エネルギーは一般人と何も変わらない、駄々漏れの状態であった。
少女の様子からも、自身が念能力者だと隠しているとはとても思えない。
ならば棺にかけられた念で、時間は止まっていたのだろう。
「この子、言葉は喋れるのかしら?」
「どうだろうな。さっきから一言も喋ってない所を見ると、喋れないのかもな。
いや、人見知りで喋れないとか・・・」
クロロがマチに抱き上げられた少女の顔を見ると、それは既に懐いている者の顔だった。
「・・・人見知りの可能性は全くないな」
恐らく言葉は喋れない。
少女が生きた時代・・・その時の言語を喋る様子も一切ない。
(記憶を無くしてる可能性が高いな…)
浅く息をついたクロロは、まぁいいと思った。
今は素晴らしいお宝が手に入ったという事もあり、クロロは大満足していた。
そして少女の寝ていた部分に窪みがあり、そこにある武器を見る。
オーラは出ていないので、危険性は無いと判断した。
他の者も少女を持ち上げた時、その存在には気付いていたが、当初の目的を達成した事もあり、皆目の前の少女に夢中になって武器は後回しになっていた。
「弓と矢ね?」
「あぁ」
クロロがパクノダに頷く。
それは長弓であり、全体が白色でコーティングされ、謎の記号が埋め込まれている。
矢は至って簡素な作りであり、攻撃用として使うにはどこか頼りない印象…
どちらかと言えば、儀式的な役割で使用されたと仮定する方がしっくりくる代物だ。
この弓と矢が少女の物なのか、他のメーズ人の物かは定かではないが、盗れる物はもらっておこう。
クロロが窪みから取り出した時、部屋中・・・いや、その音色は神殿中に響き渡った。
単旋律で、一定のリズムの連続。どこか哀しみを感じさせる音色であり、近い物を上げるとすればオルゴール。
オルゴールのゼンマイをギリギリまで巻いていき、離した時のように速いメロディーから徐々に遅くなっていく。
夢心地とはこの事だろうか。
普段は音というものに全く興味を持たない者達も聞き入っていた。
何かメッセージ性のある音色だが、何を伝えようとしているのかまでは分からない。
その中、ボノレノフだけは似た音色を知っていた。
古くから音と共に生きてきた部族ならば、この音色が何を表しているのかは大体察しがつく。
それは哀しみの奥底に秘められた、明確な悪意。
意図は分からずとも、意思は体の髄まで伝達される。
音には儀式的な要素がある。
ボノレノフが育った部族、ギュドンドンド族では自身の体に割礼として無数の穴を開け、それを少しずつ拡げていく。
穴からは大きさ、形状、動きの強弱で多様な音を出す事が可能。
その用途は祈祷や、戦闘前の自身を高揚させ、奮い立たせる儀式的なモノであり、良い音を鳴らす程、より高級な精霊が降りてくると信じられている。
部族が持つ長年の信仰は力となり、それは自身の念能力にも大きく影響している。
だからこそ分かる。
今鳴り響いている音は真逆のモノであり、畏怖を司る音色。恐怖のぐげ
決して精霊を呼ぶものなどではない。
「此処から出よう。一刻も早く」
ボノレノフの語気を強めた言い方に周りが反応する。
「どういう事だ?」
「今は話す時間も惜しい」
一刻も早くと言うあたり、余程切羽詰まった状況なのか…
クロロは頷いた。
「行くぞ」
全員が部屋から飛び出した時、響いていた音が鳴り止む。
音が鳴り止んだと同時、神殿中を異質なオーラが包み込んだ。
それは、遺物を盗ろうとした時に発生したオーラと同質ながらも、込められた殺気は比較するのもおこがましい。
(早くこの場から…)
体が警鐘を鳴らす。
全員が自分達の持つ最速をもって神殿を飛び出し、階段を駆け上がる。
その間にも嫌なオーラの密度は更に増していき、常人の念能力者では耐える事が出来ず、壊れてしまう領域となっていた。
出口が見え、一気に飛び出る。
全員が地上に出た所で、それまであった地下へと続く階段が跡形もなく消え、続くように穴も無くなってしまった。
その光景を見ると、本来ならば開いた口が塞がらないのだが、此処に来てから非現実的な光景を目の当たりにしていた為、今更驚くようなモノではない。
時刻は昼‥‥
雲一つない晴天であり、長い時間、暗所にいたクロロは眩しさに顔を顰める。
クロロはすぐに声を掛けた。
「マチ、少女は無事か?」
念を習得していない少女があのようなオーラに包まれたら一溜まりも無い。
「あぁ…見てみなよ」
分かりやすいようにと、少女の顔をみんなの視界に入るように向けた。
マチに抱かれた少女は今起こった事など意に介した様子もなく、笑っていのだ。
「纏をした様子は?」
「焦ってたから確認はしてないけどね。多分無かったんじゃないかな…
さすがに密着した状態で纏してれば分かると思う」
「そうか」
纏とは念の基礎であり、これを習得する事により、念の攻撃に対して初めて自身を守れるようになる。
先程の念は、どう考えても生身で受けられるレベルでは無かった。
(民族衣装、あるいは身に付けている装飾品の守護が働いたんだろうか…)
でなければ、目の前の少女は壊れている。
続けて、いち早く危険を察知し、逃走を促した者へと目を向けた。
「ボノ、あの音は?」
「アレは精霊と真逆の存在を呼び出す音…禁忌だな」
「悪魔崇拝ならではだな…」
あの巨大なオーラは一人の者ではない。
何十‥‥いや、何百という人間が長年込めてきた呪詛の類だ。
「取り敢えず、アジトに戻るか…」
そう言って下山しようと足を動かした筈のクロロが、何かを思い出したのか止まってしまった。
「団長どうしたの?」
「………俺の蔵書が…」
クロロにとって、本とはかけがえのない大切なもの。
自身の愛読書を神殿に置いてきてしまったのだ。
「………先にアジトに戻っててくれ」
「は?団長はどうするんだ?」
クロロの様子は目の焦点が合っておらず、足も震えていてどこかおかしい。
「世界に一冊しかないんだ……これからが佳境なんだ……」
独り言のように何かをブツブツ呟いており、端から見ればとても一人にさせる事の出来ない状態だった。
「……取ってくる」
「ッ!団長を止めて!」
パクノダの声と共に、シャルナーク、マチ、そしてウボーギンまでもが押さえつける。
脱出したばかりなのにまたあの神殿に戻ろうとするクロロは、いつもの冷静さがまるでなく、別人そのもの。
しばらくギャアギャアやった挙げ句、ようやくいつものクロロに戻ったのを確認し、団員達は安堵の表情を浮かべた。
「取り乱してすまなかった…」
クロロの謝罪に、団員達が引きつった笑みを浮かべている所から、我を失ったクロロが相当手強かったのが見て取れる。
心の中で皆が思った…
(本が絡むと面倒臭い)と。
場も落ち着いた事により、下山を開始した。
シャルナークは道中、ひたすら電話をかけ続けており、その口は動きっぱなし。
そして10分後、ようやく電話を終えた。
「今日はどの飛行船も満席だから、明日の飛行船で帰ろう。適当なホテル予約しといたよ。」
「ありがと。今日はちょっと疲れた」
マチの言葉に全員が頷く。
今日は色々とありすぎた。
一番疲れた原因はクロロにあるのだが、勿論誰もその事には触れないようにする。
その話をすれば、再びクロロのスイッチが入るかもしれない。
可能性としては無いに等しいが、それでも僅かにはある。
面倒くさい事この上ない。
ようやく近場の街に到着したときにはもう日が暮れ始めていた。
「やっと着いたね。つまみと酒でも盗ってから行こうか」
「そうだな」
そして近くにあったデパートに入り、各自思い思いのモノを盗ってからホテルへと入っていった。
「へぇ、綺麗な所ね…ところで、この子の名前はどうするの?」
パクノダの言葉で皆から視線を集めた少女はどうしたの?といった感じに首を傾げている。
「そうだね、取り敢えず俺らの間での呼び名でも作っちゃおうよ。少女って名前にする訳にもいかないし」
「ジャポンだったか・・・この髪に似た色の花がなかったか?」
俺ジャポンとか行った事ねぇよという呟きが聞こえたが、クロロの指摘した、似た色の花というのに心当たりがあるのか、マチとノブナガが
顎に手を置いた状態で思い出そうとしている。
白に少しピンクがかった髪色・・・
「確か桜だな」
ノブナガが思い出したように名称を言うとマチもそれそれ!とようやく思い出せた事に
嬉しそうにしていた。
「うん、ピッタリじゃないかな?団長、この子はサクラにしよう、名前と合うよ!」
「おいマチ、お前すげぇ顔緩んでるぞ?」
ノブナガのからかいに恥ずかしくなったのか顔を赤くし、
「いいじゃないか!!!!」
とそっぽを向く。
「あなたの名前はサクラだよ?サクラ‥‥」
何度も同じ言葉を繰り返すその様は、まるで鳥に覚えさせているようだ。
それをマチが続ける事により、サクラと名付けた少女の口がゆっくりと動き出す。
懸命に口の動きを凝視し、それを真似ようとしているあたり、このやり方は効果的だった。
「サ‥クラ‥」
「そう!サクラだよ!」
マチがはしゃぎながらも、指を今度は自身にあてる
「私はマチ。さぁ、言ってみな!」
「そういや、桜の下には死体が埋まってるって噂話なかったか?血を吸う事で花びらが薄く色づくとか、花見をすると埋められた死体の怨念が降りかかるとか」
「………」
「………」
「………」
「…黙れチョンマゲ」
「す…すまん」
先程の神殿を越すかのような殺気をマチに当てられ、ノブナガはすまなかったと下を向いた。
そんな事を意に介さず、サクラはゆっくりと口を動かし、言葉を紡いだ。
「マチ…?」
自分の言葉が正しいのか確認するような口調で聞くサクラに、マチが大喜びで頷く。
そしてオォーーと歓声があがり、他の団員も我先にと自分の名前をサクラに覚えさせ始める。
事情を知らない人がその様子を見れば、最早アイドルがファンに取り囲まれている様である。
話の内容を聞けば間違いなく関わりたくないと思うだろう。
しかもそれをホテルのロビーで展開しているので、従業員や他の客からすればいい迷惑だ。
「ごめんなさいね。シャルナークで予約していたんだけど、部屋はどこかしら?」
パクノダが、騒がしい事、そして自身の対応が遅れた事を謝り、受付の人に話しかける。
「…あ!はい!こちらのカードに部屋番号が記載されております。部屋はカード差込式です。
中の照明等もこちらのカードを挿し込んでご利用頂けます」
「ありがとう。みんな!もう行くわよ!」
旅団の中でも常識人のパクノダが声を掛けて、フロントで言われた事の説明をする。
それぞれが違った反応を見せるあたり、絶対に何人かは分かっていない。
(まぁいいわ)
マチに手を引かれたサクラと共に各々も部屋に向かうのを見送り、パクノダは一人ロビーで座っていたクロロの正面に座った。
「あの子、覚え早いわよ。一言二言で、その言葉を吸収していく」
「そうだな…短時間で皆の名前を言えたのは驚愕だ」
一呼吸置き、パクノダは先程買ったビール缶をテーブルに二つ置く。
カシュッと心地よい音が響き、二人はそれを一口飲んだ。
「あの子に記憶がないのは念によるものなのか…それとも過去にあった嫌な事を取り去る為に自己防衛が働き、その結果記憶を閉じ込めているのか…」
「どっちの可能性もあるな。後者であれば、あの壁画…」
「えぇ…」
「パク…あれは、サクラには言うな」
「分かってるわ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部屋に入って食事を済ませた。
最初は見ているだけで中々手をつけなかったサクラも、漂う香りに負けたのか一口入れた。
すると螺子が外れたように食べ始めたので、食欲は十分あるようだ。
弁当に入っていたカットオレンジに至っては、余程気に入ったのかマチの注意を他所に皮まで食べる始末。あっという間に食事も終わった。
「サクラ、お風呂入ろうね?」
サクラの着ていた民族衣装を丁寧に脱がせ、一緒にバスルームへ足を運ぶ。
シャワーの蛇口を捻るとお湯が飛び出し、ビクッとサクラの体が強張った。
「大丈夫だ。ほら」
固まっているサクラにマチが少しずつシャワーを当てていく。
やがて強張りが薄れていき、温かさもあってかリラックスしてきたサクラを確認し、洗っていく。
「終わり。次は髪ね」
目にかからないよう髪を後ろに持っていき、丁寧に洗う。
そしてサクラの髪に付着していた泡が全て無くなったのを確認した。
「よし、これでいいね」
最初にお湯を掛けられた位置から一歩も動いていないサクラに、自分が見本となって湯船に少しずつ体を埋めていく。
サクラはマチの行動をしっかりと目で追っていた。
「おいで」
マチが手を広げてサクラを迎える姿勢を作ると、ゆっくりではあったが歩を進め、広げたマチの手に納まるように体を埋めていった。
「気持ちいかい?」
シャワーによってお湯への抵抗が薄れたのか、リラックスした表情のサクラを見て、マチの顔も自然と綻ぶ。
「マチ…」
「なんだい?」
そして、サクラは背中をゆっくり倒していき、寄りかかった。
預けてきた背中はまだ歳相応に小さく、華奢な印象を受ける。
(一体どんな生活してきたんだろうねぇ…)
古代も現代も変わらない現実がある。
弱肉強食…
弱者が強者に従うのは現代でも変わらない。
ならば自分達に出来る事は一つ。
強者として育て上げる。
生贄という、強者の掟に抗う事すら出来なかったであろうサクラの過去をぶち壊す。
(私達が強くしてあげるからな。悪魔なんかではなく、一人の盗賊として…)
マチは妹のような存在が出来た感覚に陥り、目下にあるサクラの頭を撫でた。
流星街で生きてきた過去。
戸籍も無く、世界から見捨てられた存在として育った。
全てを奪われた身である同じ流星街出身者で集い、クロロを団長として蜘蛛という盗賊集団を結成した。
失うモノなど、初めから何もない。
結成後間も無く、外の世界で奪う側にまわった。
数多のお宝を奪い盗ってきた…
邪魔者は虐殺してきた…
そして、関わってきた件の被害はどれも甚大であり、A級賞金首として名を轟かす事になった。
自身な存在を世に知らしめる事ができ、且つ得られる生きているという感覚…
ソレを共に享受していこう。
お風呂から上がり、入浴後の段取りを手際良くこなしていく。
最後に今日盗ってきた白いヘアバンドをサクラの髪に巻いた。
後ろで結わえられたソレは、マチと同じヘアスタイルだ。
「完成っと。よし、もう寝るよ」
部屋の明かりを消し、サクラと同じベッドに入る。
二人は本当の姉妹の様に映った。
文章表現って難しいですね‥‥
神殿編は一旦終わらせますが、話の流れで少しずつ伏線回収します。
そして今回はマチメインでしたが、他の団員とも絡んで主人公の色付けしていきます。
それでは皆さん、良いお年を(^^)