Determination Decade   作:黒田雄一

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ご存知の方も多いと思いますが、外伝『Decade ~Neo-Aspect~』の連載を開始しました!
そちらの方も、よろしくお願いします!!


第十話 戦士失格

「…………」

 

 夜の公園。

 そこのブランコに、ユウスケが座っていた。

 

 ユウスケは写真館を抜けた後、近くに止めていたバイクを走らせた。まりなが自身の車で彼を追いかけたが、車が通れない小道を通り、彼女を巻いた。

しかし、彼女を巻いたからと言って他に行く当てもなく、公園で一人途方に暮れているのだ。

ユウスケは、ブランコを軽く揺らしながら、下を向いて考える。

 

(姐さんは、両親に捨てられた俺を守ってくれた。これまで恩返しをしようと様々なことをしてきたけど、何一つ上手くいかなかった。けど、クウガになって戦うことだけは違った。グロンギを倒せば姐さんが喜ぶ。俺にはそれでしか姐さんを喜ばせられない。もし、あの男が味方になったら、姐さんは――!)

 

「……ユウスケさん?」

「!?」

 

 彼に声をかける少女がいた。

 

「……彩、ちゃん?」

 

 顔を上げ、少女の姿を確認したユウスケが、困惑しつつも名前を口にする。

 困惑するのも当然。彩はハートの形をしたサングラスを身に付け、頭には赤のリボン。アイドルがしないような、非常に目立つ格好をしていた。

 彩を含む『クインティプル』全員とは面識があり、護衛を務めていることも把握している。

 

「どうですか? ちゃんと変装できてました?」

「う、うーん……まぁまぁかな」

 

 返答に困ったユウスケは、濁すように応える。

 

「そうですかぁ……でも、全然声かけられないんですよね……」

「う、うん……」

 

(話しかけられたいのに変装してるの!? というか、それアイドルとしてマズくないか!?)

 

「ユウスケさんは、どうしてここにいるんですか?」

「それは…………」

 

 

 まりなに反発した――

 仲間が増えることに拒否した――。

 

 

 そんなこと、口が裂けても言えるわけがなかった――

 

 

 

 

 

 ――グゥ~…………

 

 

「!?」

 

 ユウスケが返答に困っていると、彩から腹の音が聞こえる。

 

「う、うぅ……」

 

 彩が恥ずかしそうに手を抑える。

 

「どこか、食べに行くか」

 

 ユウスケは立ち上がり、バイクを停めた場所へ足を運び始める。

 

「は、はい! 私奢りますよ!」

 

 彩がユウスケの後を追う。

 

「大丈夫だよ。金には困ってないし、いっそのこと俺が奢るよ」

「いえいえ! いつものお礼がしたいんです!」

「いや、俺は見返りを求めて戦っては…………」

 

 言葉が詰まったユウスケは立ち止まる。

 自分の発言に、矛盾を感じたからだ。

 

(俺は、姐さんに褒められるために――見返りを求めるために戦ってきた。他の人に対して見返りを求めてないなんて口にしてきた。人々は俺を、クウガをヒーローとして認めてくれた。けれど、本当は一人の女性のために――姐さんのためだけに戦っていた。こんな俺が、ヒーローを続けていいのか…………?)

 

「? ユウスケさんどうしたんですか?」

「!? ごめん、何でもな――」

 

 我に返ったユウスケ。その瞬間、後ろから何かが迫ってくる気配を感じる。

 

「危ない!!」

「きゃっ!?」

 

 ユウスケは彩を守ろうと彼女を押し倒す。その刹那、ユウスケの上を何かが素早く通り過ぎる。

 

「人!?」

 

 通り過ぎたものを確認したユウスケは驚く。

 直感ではグロンギと考えていた彼であったが、実際は白髪の青年だった。

 

「ほう……僕の気配を感じ取るとは。思っていたよりは強そうだな……クウガ」

「お前、何者だ!」

 

 ユウスケは立ち上がり、身構える。

 

「僕か……そうだな……『創造主』様の忠実なる下僕とでも言ったところだな」

「創造主? 何を――」

「お喋りはここまでだ。新世界を創造するため、クウガ……お前には消滅してもらう」

「……彩ちゃん、下がってて」

 

 ユウスケは離れるように彩に指示を出す。この場から逃がした場合、ユウスケの助けが届かない場所でグロンギに襲われる可能性があったからだ。

 彩は頷き、後ろに下がってユウスケから離れる。

 

「……彼女、まだ生きていたか。てっきり報告漏れだと思ってたんだが……どうやら、グロンギの中に『ネオ』になる資格を持つものは出なさそうだな。まっ、あくまで選ぶのが面倒だからゲルルにしただけで、適当なグロンギにすればいいか」

「!? お前、やっぱりグロンギの仲間か!」

「仲間? 今の話でそういう風に聞こえたか?」

「くッ!!」

 

 馬鹿にされたように聞こえ、怒りがこみ上げてきたユウスケ。

 彼は前腰に両手で三角形を作るようにかざし、クウガの変身ベルト『アークル』を出現させる。

 右腕を左上に構え、右へと平行移動させる。

 

「変身!!」

 

 掛け声とともにアークルの左側にあるスイッチを、両手を重ねて押し込む。

 すると、アークルの中央が赤く光り出し、回転を始める。

 次第に回転速度が上がり、ユウスケの体に赤の鎧が身に纏われ、『仮面ライダークウガ』へと変身を遂げた。

 

「…………」

 

 青年は右手を前に出し、人差し指を上にクイクイッと曲げて挑発する。

 

「変身しないのか!?」

 

 ユウスケは驚き戸惑う。

 怪人か、もしくは仮面ライダーに変身すると思っていたからだ。どちらにしても、敵意を剥き出しにしている相手とはいえ、生身の人間相手に戦う事にユウスケは抵抗があった。

 

「するかどうかは、お前の実力を把握してからだ。無駄なことはしなくない」

「ッ!! 後悔させてやる!」

 

 ユウスケは青年へ勢いよく殴りかかる。青年は流れるようにスッとかわし、彼の背中に裏拳を入れる。

 

「がはぁ!!」

 

 青年の力は人知を超えており、ユウスケの体が軽々と吹き飛ぶ。彼の体が地面に着く前に、青年が飛ぶ方向に先回りし、彼を反対方向に蹴り飛ばす。

 ユウスケは無様に地面を転がる。

 

「……この程度なら、話にならないな」

「うるせぇ! 超変身!」

 

 ユウスケは立ち上がり、赤の鎧から青の鎧へ――『ドラゴンフォーム』へと姿を変える。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ユウスケは走りながら落ちている木の枝を拾い、それを杖に――ドラゴンロッドへと変形させる。その勢いのまま、青年にロッドを振り下ろす。

 青年はあっけなくかわし、ユウスケの右肩に拳を入れようとする。ユウスケはその攻撃をロッドで防いだ。

 青年は一度身を引き、素早く彼の後ろへ回り込むが、その動きに反応できた彼は後ろを向きながらロッドを青年の脇腹に当てる。

 青年の体が横に吹き飛び転がるが、青年はその勢いを利用してスッと立ち上がる。

 

「ほう……スピードが上がるのか。なら――!」

 

 青年は目にも留まらす速度で動き、ユウスケの全身を連打する。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ユウスケは悲痛の声を上げ、青年に蹴り飛ばされた後、変身が解ける。

 

「弱い……弱すぎる!!」

 

 さっきまで冷静沈着だった青年が一変。鬼のような険しい表情を浮かべ、声を荒げる。

 

「仮面ライダークウガはこんなものなのか!? ふざけんじゃねぇ!!」

 

 青年は倒れているユウスケに近づきつつ、何もない空間から全身紫色の剣を取り出す。

 

「弱い戦士に興味はない。存在ごと――消え失せろ」

 

 青年は剣をユウスケに振り下ろす。

 かわせる状態じゃなかったユウスケは、受ける覚悟を決めるが――

 

「うっ!!!」

 

 後ろで見ていた彩が、ユウスケを庇って大剣を受ける。

 

「彩ちゃん!?」

「!?」

 

 ユウスケは動揺しながら、崩れる彼女を受け止める。

 青年も彼女の行動に驚き、一歩引く。

 

「彩ちゃん! どうして俺なんかを!」

「……良かったぁ……ちゃんと恩返し、できたかな?」

「何言ってるんだよ!!」

 

 ユウスケは涙を浮かべる。それを見た瀕死の彩は、手を震わせながら彼の涙を拭う。

 

「他の皆を……よろし……く――――」

 

 彩の体が発光し、光の粒となって消滅した。

 

「あぁ……あぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ユウスケは泣き叫ぶ。

 自分のせいで、人を死なせてしまった。

守るべきものを、守れなかった。

 

「……興ざめした。今日は帰る」

 

 青年は剣を消滅させ、ユウスケに背を向けてこの場を去る。

 

「許さねぇ!! 変身!!」

 

 ユウスケは涙を流したまま、再度クウガへと変身する。

 

「はぁ…………『見逃してやる』と聞こえなかったのか!!」

 

 青年も剣を再び取り出し、振り返りながらユウスケを斬る。

 

「ぐはッ!!」

 

 ユウスケは倒れ、その上に青年が片足を置く。

 

「後味は悪いが……どのみちこいつは消滅する運命だ」

 

 青年は剣をユウスケの首に突き刺そうとする。

 

「!?」

 

 その寸前、別方向から来る殺気を感じた青年は、ユウスケから素早く離れる。

 仮面ライダーディケイド――門矢士が青年に跳び蹴りを食らわせようとしていた。

 攻撃をかわされた士は、ユウスケの前に着地する。

 

「お前……どうしてここに?」

「買い物帰りに、不穏な叫び声が聞こえたからな」

 

 士は、夕飯の食材を買った帰り道にユウスケの叫び声を聞き、公園へ駆けつけたのだ。

 買い物をした証拠に、右手に食材が入ったレジ袋が持たれている。

 

「馬鹿な……なぜ…………!?」

 

 士の姿を見た青年が驚きの表情を浮かべる。それも束の間、すぐに表情が戻り、安心したようにため息を吐いた。

 

「なんだ、『破壊者』か。てっきり『異端者』の方かと思ったよ」

「破壊者? 何の話だ」

 

 青年の口から出た言葉に、士はレジ袋をユウスケの前に置きながら反応する。

 

「知らないのか? 自分が何者なのか」

「さぁな。記憶がないんでね」

「……そうか。丁度いい。一度でもいいから攻撃を当てられたら――」

 

 青年は剣を構えて士と戦おうとするが、彼の脳内に何者かの声が響く。

 

『――白也(びゃくや)、その辺にして引き上げろ。緊急事態だ』

 

(十秒待て。すぐに片付ける)

 

 青年――白也はテレパシーを返した。

 

『相手は破壊者だろ? 未知数が相手では十秒で倒せる保証はない。それに何より、ビルドの世界に送った幹部が殺された』

 

(!?)

 

『これで“ネクスト・ワールド”の幹部九人全員が殺された。体勢を立て直したい。すぐに戻ってきてくれ』

 

「…………」

 

 白也は剣を消滅させ、士に背を向ける。

 

「悪いが、勝負はお預けだ。また会おう」

「逃がすか!」

 

 士はライドブッカー『ガンモード』で彼を狙撃する。

 しかし、彼は着弾するよりも早く移動し、この場から去っていった。

 

「……奴は一体何者なんだ…………?」

 

 士が変身を解く。

 

「…………」

 

 ユウスケも立ち上がって変身を解くが――

 

「……俺は、俺は守れなかった! 彩ちゃんを!!」

「!?」

 

 すぐに膝を地に着かせ、涙を流す。

 ユウスケの言葉を聞いて、士は彩が亡くなったことを知る。

 

「クウガ失格だ!! 俺にはもう……戦う資格なんてない!!」

「…………」

 

 士は、彼にかける言葉が見つからなかった。

 

「ユウスケ!!」

 

 ユウスケの後方から、彼をやっと見つけられたまりなが彼の元へ走り寄る。

 

「姐さん…………」

 

 ユウスケは涙を流したまま、まりなの方を向く。

 

「ユウスケ!? 何があったの!?」

 

 まりなは片膝を地面に置き、ユウスケと視線の高さを合わせる。

 

「姐さん……ごめん!! ごめんなさい!!」

 

 ユウスケはまりなの両肩を掴む。

 

「守れなかった!! 彩ちゃんを!!」

「??」

 

 まりなは何故か頭に疑問符を浮かべるような顔をする。

 驚いた様子もなく、ユウスケの言っていることが理解できていないような顔だ。

 

「謝って許されることじゃないのはわかってる!! 何をしても償えないことも

――!!」

「ユウスケ、ごめん……」

 

 まりなはユウスケの両腕を優しく降ろし、耳を疑うようなことを口に出す。

 

 

 

 

 

「『彩ちゃん』って……………………誰?」

 

 

 

 

 

 


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