Determination Decade   作:黒田雄一

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第十一話 均衡を保つ者たち

「嘘……でしょ……?」

 

 司の部屋――。

 真っ二つになっている緑色の『ディケイドライバー』を見て、紗夜が震える。

 紗夜はドライバーを拾い、見回す。

 

(夢に出てきたものと一緒……! もし司がこれを使って戦っていたとすれば、今はどうやって戦っているの!?)

 

 紗夜は大量の汗を流すほどの焦燥に駆られる。

 夢の内容が正しければ、『司』も『士』と同様に仮面ライダーに変身して戦う。そのためのドライバーがここにあるのだ。

 少なくとも今、司は『仮面ライダーディケイド』に変身できない状態に置かれているのだ。

 

(予備用があるとは考えられない……! 司は普段おどおどしているけれど、一度覚悟を決めたら自分の意思を曲げない。まさか……生身で怪物と戦っているんじゃ――)

 

 紗夜の焦りが増していると、部屋の扉が開く。紗夜は慌ててドライバーをベッドの下に投げ入れる。

 

「あっ、おねーちゃん。こっちにいたんだ」

 

 扉を開けてきたのは日菜だった。

 

「日菜、ノックしなさい」

「えっ、ここもう一人の士さんの部屋だよ?」

「司がいるかもしれないでしょ?」

「…………え?」

 

 日菜の目が点になる。

当然、紗夜の言葉はただの冗談ではあるが、彼女の口から冗談が飛び出てくるのは、非常に珍しいことだった。

 

「ごめんなさい、今のは冗談よ。そろそろ門矢さんが帰ってくる頃でしょうから、下に戻るわ」

 

 紗夜は微笑みを浮かべながら部屋を抜け、一階のリビングへ向かう。

 

「う、うん!」

 

 日菜は戸惑いつつも、紗夜の後を追う。

 

「ふぅ…………」

 

 紗夜はソファに座り、気晴らしにでもとテレビを点ける。

 その隣に日菜が座る。

 

『どんな笑顔にでも、幸せ来ちゃうよ♪』

 

 テレビには、『クインティプル』だったものが写っていた。

 ――そう、『クインティプル』だったものが――

 

 

 

「あっ! 『クアドラプル』だ!」

 

 

 

「えぇ…………えぇ!?」

 

 紗夜が驚いた顔を日菜に見せる。

 自分の記憶が間違っているのか――紗夜は改めてテレビをよく見る。

 テレビでは、1周年記念ライブの映像が流れている。

 しかし、テロップに書かれているグループ名が『クアドラプル』となっており、彼女達が歌っている曲も『クアドラプル◇すまいる』という曲名に変わっている。

 そして何よりも――

 

「……丸山さんがいないわね」

 

 彩の姿がなかった。

 香澄、蘭、友希那、こころの四人だけだった。

 

「えっ、彩ちゃんがどうしたの?」

「どうしたのって、この中に丸山さんがいたでしょ?」

「いないよ? 最初から四人だよ?」

「え…………?」

 

 日菜は困った表情を浮かべている。彼女の様子から、嘘をついていると思えなかった紗夜は、頭を抱え自分の記憶を疑い始める。

 

「でも、この中に彩ちゃんいた方がもっとるんっ! ってなりそう!」

「…………」

「おねーちゃん、大丈夫?」

 

 頭を抱えたまま硬直する紗夜に、日菜が心配する。

 

「――――帰ったぞ」

 

 それを他所に、士が家に帰ってくる。

 士はスーパーの袋を持ち、リビングに入る。

 

「あっ、おかえり!」

 

 日菜が目を光らせながら、テーブルの方に移動する。

 士は袋をキッチン台に置きながら、テレビの映像を見る。

 

「……やはり、彩ちゃ――ごほん、彩の存在が消えたか」

「!?」

 

 士の発言を聞いた紗夜が立ち上がり、彼のもとへ駆け寄る。

 

「あの中に丸山さんは、ちゃんと存在してたんですね!?」

「あ、あぁ……紗夜が覚えているのは謎だが、その通りだ」

 

 紗夜の勢いに押されそうになる士。

 

「だが謎の男によって彩が殺され、命も、肉体も、存在そのものも消えてなくなった」

「え…………!?」

「俺もそこまでは目撃してないから、何とも言えないがな。ユウスケから詳しいことを聞いたが――その詳細はディナーの後で」

 

 そう言って、士は夕飯を作り始める。

 

 

 

「…………今話しなさい」

 

 

 

   ※

 

 

 

 どこかもわからない、謎の空間にて。

 そこに白也が訪れ、用意されていた椅子に座る。

 椅子は円陣を組むように十二個並べられており、白也を除いて既に十人が椅子に座っていた。

 

「白也遅い! 足速いんだからすぐに来てよね!」

 

 小学生のような見た目をしている少女が、白也に文句を言う。

 

「無駄なことはしたくないんでね」

「はぁ!?」

 

 怒った少女が立ち上がる。

 

桃子(ももこ)ちゃん、落ち着いて」

 

 少女――桃子の隣に座っていた、乙女のようなか弱いオーラを放っている少年が彼女の肩を掴み、優しく押して座らせる。

 

青葉(あおば)!! あなた、皆に甘すぎるのよ!!」

「いてっ!」

 

 抑えられたことに不満を抱いた桃子が、青葉を殴った。

 

「はぁ……とっとと話し合いを始めてくれ、赤松(あかまつ)

 

 白也が中年の男――赤松に目を向けた。

 

「そうだな。時間もない、端的に話させてもらう。改めて、『ネクスト・ワールド』に送った幹部九人が全員殺された。一人の手によってな……」

 

「異端者…………」

 

ドラゴンのぬいぐるみを抱えた少女――黒恵(くろえ)が呟いた。

 

「つまり、今後は『プリビュース・ワールド』に来ると?」

 

 グラマー体型のセクシーな女性――紫織(しおり)が問う。

 

「恐らくはな。そこでだ。君たち九人の配置を再構築しようと思ってな」

 

 赤松が下顎を触りながら、九人それぞれの配置先を告げる。

 

灰治(かいじ)、お前はクウガの世界へ行け」

「おいっす、りょーかい!」

 

 ノリが軽い青年――灰治が雑な敬礼をする。

 

「黒恵、君にはアギトの世界へ行ってもらう」

「…………龍騎の方が良かった」

 

 黒恵はぬいぐるみを強く抱きしめる。

 

「すまない、他に適任がいてな。和茶(かずさ)、龍騎の世界は君に任せる」

「了解しました!」

 

 茶色の短髪少女――和茶が元気よく返事をする。

 

「ブレイドの世界は、桃子に任せよう」

「はいよー」

 

 桃子が適当に返す。

 

越緑(えつのり)、響鬼の世界へ行ってくれるか?」

「…………」

 

 爽やかな笑顔を保った筋肉質の男――越緑が無言で親指を立てる。

 

「カブトの世界は…………言うまでもない」

「当然だ。僕以外に適任がいてたまるか」」

 

 白也が当たり前かのような態度を取る。その様子に再び桃子が立ち上がろうとするも、空かさず青葉が止める。

 

「電王の世界には青葉を行かせよう」

「えっ!? あっ、はい! 頑張ります!!」

 

 青葉は困惑した後、起立して真剣な表情を見せる。

 

「キバの世界は紫織だ」

「お任せください」

 

 紫織は丁寧に一礼する。ただ一礼しただけだが、なぜか色っぽく見えた。

 

「皆、よろしく頼む。全世界の均衡を保つために――」

 

 赤松が神に祈りを捧げるように手を組んだ。

 

「……もう終わり? なら帰るけど」

 

 桃子がダルそうに席を立って場を去ろうとする。

 

「待て、桃子」

 

 彼女を呼び止めたのは白也。しかし、彼女が止まったのを確認した後、赤松に話を振る。

 

「ところで赤松、席が一つ多く用意されてるようだが?」

「気づいたか。さて、ここからが本題だ。実は紹介したい人物がいてな。異端者を倒す最終兵器だ」

 

 赤松が説明していると、後ろから一人の少女が歩いてくる。

 右手に変な形をした銃を持つ、青緑色の髪をした少女が、無表情で空いている椅子に座る。

 

 

 

 

 

「紹介しよう…………氷川日菜だ」

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

「……なるほど、わかりました」

 

 司の家。

 料理を作っている士から話を聞いた紗夜が話を理解する。

 なお、士が今作っているのは、普通のチャーハンである。

 

「謎の男が現れ、小野寺さんを殺そうとしたところ、丸山さんが庇ったと」

「まぁそんな感じだ。そのショックが大きくて、今は廃人みたいになってるだろうけどな。あとの事はまりなに頼んだが」

 

 士は出来上がったチャーハンを皿に移しながら、他人事のように話した。

 

「えぇ!? 彩ちゃん死んじゃったの!?」

 

 話を聞いた日菜が驚いた顔でキッチンの方へ。

 

「そうだ。存在が消えたのは謎だがな」

 

 士は答えながら、三人分のチャーハンをテーブルに運ぶ。

 

「そ、そんな……許せない……犯人早く捕まえないと!!」

「捕まえるのは至難の業だな。最悪、殺すしかないかもな」

「殺すって……」

 

 その言葉に反応したのは紗夜。

 

「そんなことは――!」

「やるなって? 相手は存在ごと殺す奴だ。説得が通じる相手でもない。もとい、そんな奴を生かしておいたら、この世界は存在ごと滅びるだろう」

「…………」

 

 返す言葉がない紗夜。この重い空気を変えようと、日菜がキッチンからスプーンを三人分持ち出し、紗夜と士の分を机に置く。

 

「チャーハン美味しそう! いただきまーす!!」

 

 日菜が真っ先にチャーハンを口に運ぶ。

 

「んぅ~! おいしい!!」

 

 日菜は頬を空いた手で抑えながら、味を堪能する。

 

「……チャー、ハン」

 

 紗夜がチャーハンを凝視しながら椅子に座る。

 

「いただきます……」

 

 紗夜がチャーハンを口に運ぶ。

 

「…………………………普通ですね」

 

 味を噛みしめた後、冷たい感想を述べた。

 

「おっと、紗夜様の口に合わないものを作ってしまったか」

 

 士は皮肉を込めて言い、椅子に座って自分が作ったチャーハンを食べる。

 

「我ながら最高だ……この味がわからないとはな」

「わからなくていいです。誰がどのチャーハンを作っても、あの味には勝てませんから」

 

「『司』――の味にか?」

 

「…………」

 

 紗夜は無言でチャーハンを食べ続ける。

 

 ――図星だった。

 司はチャーハンが好物であり、特に食べたいものがない時は決まってチャーハンを食べる。司も自炊でき、家でよくチャーハンを作っている。紗夜は一度、彼が家に来た際に作ってもらい、食べた経験があった。

 紗夜はあまりチャーハンを食べないのだが、司の作るチャーハンは特別美味しく感じた。

 彼が作ったからこそ、特別美味しく感じたことを、紗夜は知る由もなかった。

 

 

「司…………」

 

 

「おねーちゃん…………」

 

 紗夜は無意識に涙を流していた。涙を流したまま、チャーハンを食べていた。

 

「……はぁ」

 

 士はため息を吐き、食べ続ける。

 

(もう一人の俺は何を考えてんだか。こんなに想ってくれる人を放ってまで、やることがあるのか?)

 

 

 

   ※

 

 

 

 同時刻の山奥にて。

 

「はぁ……この世界つまんねぇな」

 

 灰治がクウガの世界に訪れていた。

 

「どこもかしこもアイドルアイドルアイドル! 気持ち悪いったらありゃしねぇ! 森林の中だけが、落ち着ける場所だな」

 

 灰治は山の中を歩き続けていると、石でできた棺桶を見つける。

 

「おっ、あったあった!」

 

 灰治は棺桶を開け、中身を確認する。

 中には、赤色の狼のような怪人が永眠している。

 

「こいつには、暴れてもらわないとなぁ……!」

 

 灰治はクウガの紋章が描かれた黄色の小さな球体を取り出し、不気味な笑みを浮かべる。

 


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