Determination Decade   作:黒田雄一

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お久しぶりです!
更新が非常に遅くなり、本当にすみませんでした!!
まだ安定しない状況が続いておりますが、失踪はしない、したくないので、今後ともよろしくお願いします!!


第十二話 忘れた者、覚えている者

「司! 駄目!!」

 

 紗夜は再び夢を見ていた。

 彼女が覚えていない、過去の記憶――

 紗夜は目に涙を浮かべながら、司の背中にしがみつく。

 

「一人で立ち向かうなんて無茶よ!」

「…………」

 

 全身傷だらけで、今に倒れてもおかしくない状態の司は、その場を動くことなく紗夜に告げる。

 

「……ごめん、※※※を止められるのは、もう俺しかいないんだ」

「司、お願い……一緒に逃げましょう……! 誰もあなたを責めたりしない! だから――」

「……紗夜、ありがとう」

 

 司は後ろを向き、紗夜を抱きしめる。

 

「!?」

 

 彼女の唇に、自分の唇を重ねながら――

 

「……………………」

 

 キスは十数秒続いた。終わった後も、紗夜は放心状態で司を見続ける。

 そんな彼女に、司は優しく頭を撫でる。

 

 

「ありがとう。最後まで、俺の存在を認めてくれて。本当に……ありがとう」

 

 

 司は紗夜を後ろに押しとばす。

 彼女の背後には、『オーロラカーテン』と呼ばれる白黒の靄が出現していた。

 司は彼女にそっと微笑みを浮かべた後、振り向いた先にいる巨大な化け物と対峙する。

 『ライドブッカーだったもの』を片手に。変身せず、生身で。

 

「司!!!」

 

 紗夜は体が飛んでいる中、彼に向けて手を伸ばす。

 しかし、その手が届くわけもなく、彼女は『オーロラカーテン』に飲まれるように――

 

 

 

   ◆

 

 

 

「っ!!!」

 

 紗夜が飛び上がるように目を覚ます。

 飲まれた後どうなったのか体験する前に。

 紗夜、日菜、士の三人は夕飯を食べた後、各自お風呂に入り、そのまま流れるように眠りについたのだ。

 紗夜は自分の名前が書かれた部屋。日菜はその隣の女部屋。士は司の部屋――で眠ろうとしたが紗夜が頑なにそれを拒み、男部屋は何故か生理的に受け付けなかったため、やむを得ず一階のソファに寝ることにした。

 

 

「今のは…………!?」

 

 紗夜は呼吸を乱し、体を震わせる。

 夢じゃないような、現実味のあった出来事に恐怖を感じたから。

 そして何より、司とキスしたことに戸惑っていた。

 

「……? おねーちゃん、どうしたの?」

「いえ……何でも――って日菜!?」

 

 隣の部屋で寝ていたはずの日菜が、紗夜の隣で横になっていた。

 日菜は最初からここにいましたみたいな態度で目を擦る。

 

「どうしてここにあなたがいるの!?」

「だって……あっち寝心地悪いんだもん……それよりおねーちゃん」

「?」

「このベッドから男の匂いがするんだけど……」

 

 日菜がベッドのシーツの匂いを嗅ぎながら言った。

 

「多分司でしょう? そもそも彼の家なのだから、匂いが染みついててもおかしくないわ」

「うーん……でもこの匂い、ただ部屋の匂いが移っただけとは思えないんだよねー……」

「元々彼が使用していた物かもしれないわ。とにかく、朝だから起きるわよ」

 

 紗夜はベットから降り、クローゼットを開いて中から私服を取り出し、着替える。

 

「……おねーちゃん、私服持ち歩いてたっけ?」

「何言ってるの? ここは私の部屋なんだから――え……?」

 

 日菜に言われ、すぐさま反論する紗夜であったが、自分の発言が着替える前の言葉と矛盾していることに気づき、そこから私服があることに違和感を覚える。

 ここは『紗夜の部屋』であっても『司の家』である。

 紗夜は改めてクローゼットの中を見る。

 

「!?」

 

 紗夜が普段着ている服の殆どが、そのクローゼットの中にあった。

 しかし、彼女が驚いたのはそこではない。

 今彼女が身に纏った水色の服以外、殆どボロボロで何故か血が染みついていた。

 そして唯一、彼女が前日まで着ていた制服だけが、この中になかった。

 さらに紗夜は、下の戸棚を開ける。中には、紗夜が使用している下着類が多く積まれていた。

 

「やっぱりおねーちゃんが探してる人、変だよ!」

「…………」

 

 日菜が真剣な表情で紗夜に告げる。

 しかし紗夜はクローゼットの服を数秒間見回した後、ため息を吐いてクローゼットを閉じる。

 

「別に…………私は気にしないから」

「えぇ!? 何言ってるのおねーちゃん!」

 

 紗夜の司に対する甘い発言に、ついに日菜が怒りを見せる。

 

「本気で心配してるんだよ! おねーちゃんが悪い人に騙されてるんじゃないかって!」

「…………」

 

 日菜の言葉に反発したかった紗夜であったが、何も言えなかった。

 司の存在が証明できるものはあった。紗夜と関わりのある人物であることを証明するものも。

 

 しかし、司が日菜やRoseliaの皆にとって大切な存在であることを証明するものはなかった。

 

 その事実を、紗夜は確かめるまでもなく知っていた。

 彼が撮った写真の多くは、紗夜を焦点に合わせて撮られたもの。他の人と深い関わりを示す写真がないのだ。

 確かに彼は大切な存在である。しかし、それに気づいていたのは紗夜だけだった。

 正確にはもう二人いたが、それは彼女も、司自身も知らなかった。

 

 紗夜が黙り続けていると、部屋の扉からノックの音が聞こえ、扉越しに士の声が聞こえてくる。

 

「起きてるんだろ? 朝食ができたから降りてこい」

「わかりました。すぐ行きます」

 

 紗夜は何事もなかったかのように部屋を抜けようとした。しかし、何故か扉の前で立ち止まり日菜の方を向く。

 

「……日菜。かつての私はこう言ったわね。『私にはギターしかない』と」

「う、うん……そうだね……」

「ギターが大切なのは今も変わらないわ。ただ、私は…………」

 

 紗夜は躊躇いを見せたが、息を呑み覚悟を決める。

 

 

 日菜に嫌われる覚悟を――――。

 

 

 

「私がギターを弾き続けて来られたのは、司がいたからよ」

 

 

 

「え…………?」

 

 日菜は目を大きく見開き、無意識に呼吸を止める。

 

「勘違いしないで。あなたとの約束は忘れてない。その約束がなかったらその時既に私は破滅していたと思うの。けれど……元は、司が喜ぶ顔が見たくて、司の生き甲斐になってくれるならと、ギターに力を入れていた」

「…………」

「私は司を探し続ける。どんなに長い旅になろうとも、私は死ぬまで探し続ける。必ず見つけ出して、彼のそばでギターを弾き続ける。司は何でも一人で抱え込もうとするから、私がそばにいないと早死にしそうで心配だわ」

 

 そう言って紗夜は部屋を抜け、一階へ降りていく。

 

「…………おかしい」

 

 一人、部屋に残った日菜が呟く。

 

「あの目……あたしの知ってるおねーちゃんの目じゃない……」

 

 

 

   ※

 

 

 

 午前九時を過ぎた頃――。

 CIRCLEから少し離れた場所にあるビルの中。

 その五階にあるアイドル事務所のレッスンスタジオにて、『クアドラブル』がダンスの練習をしていた。

 

「ワン・ツー・スリー・フォー! ワン・ツー・スリー・フォー!」

 

 友希那の声と動きに合わせて、香澄、蘭、こころの三人も踊る。

 そこに、彩の姿はなかった。しかし、彼女がいないことに四人とも何の違和感も持たず、最初からその中にいなかったかのように練習している。

 

「ワン・ツー・スリー・フォー! ワン・ツー…………」

 

 友希那は笑顔で可愛らしい声を上げながら踊っていたが、ある事に気づいた途端表情が曇り、動きを止めて口を閉ざす。

 それを見た三人も動きを止める。

 友希那は香澄の方を向く。

 

「香澄、さっきから動きが鈍いわよ! 練習に集中して!」

 

 元の世界の友希那のように、低く威圧的に叱る。

 

「うぅ……ごめん…………」

 

 香澄は落ち込み、視線を下に向ける。

 

「練習に妥協してたらトップアイドルになんてなれないわ」

「友希那、待って」

 

 間に入ってきたのは蘭。彼女が友希那を呼び捨てにするのは違和感があるのだが、この世界ではこれが普通である。

 もとい、四人は全員同期であり、上下関係を作らずに活動してきたのだ。

 

「どうしたの、蘭?」

「どうしたも何も、香澄が練習に集中できないのも無理ない。あの人がずっとあの調子なんだから……」

 

 蘭は部屋後方の片隅に座っている、無気力な顔をしたユウスケに視線を向ける。

 すると他の三人も彼に目を向ける。

 

「確かに気になるわね。練習の邪魔になる要因は取り除いておかないと」

 

 友希那がユウスケを睨むように見る。

 

「本当に、どうしたんだろう…………?」

 

 本気で彼を心配する香澄。

 

「直接聞いてみましょう!」

 

 気になったこころが、遠慮無く彼本人に事情を聞くことに。

 

「ちょ、こころ! マズいって!」

 

 蘭が呼び止めるも、こころは止まらなかった。

 

「どうしたのユウスケ? 今日は元気がないみたいだけれど?」

「…………」

 

 こころは悪気のない、無垢な笑みを浮かべながらユウスケに尋ねた。

 ユウスケは顔を上げたが、彼女の顔を数秒間見つめた後、また顔を下げる。

 

「悩みがあるなら、皆で解決すればいいのよ! 話してみて!」

「こころ! これ以上は――!」

 

 まだ止まらないこころに対し、蘭が強引に腕を引っ張ってユウスケから離そうとする。

 

「…………無理だ」

 

 ユウスケが下を向いたまま、口を開く。

 

「無理かどうかは、やってみなきゃわからないわ!」

 

 彼のネガティブな発言にこころは空かさず言葉を返した。

 

「人を生き返らせることが、できるのか?」

 

 誰もが無理だと答える、冗談で言っているような質問をユウスケは投げた。

 

「それはできないわ。もしかして、大切な人が……?」

 

 事を察したことで、流石のこころも笑顔が消え、悲しい表情を浮かべる。

 

「大切な人……確かにそうだな。でも――」

 

 ユウスケは顔を上げ、立ち上がる。

 

 

 

「それは君たちにとっての、大切な人だよ」

 

 

 

「?」

「?」

「?」

「?」

 

 『クアドラブル』の四人は疑問符を頭に浮かべながら、互いの顔を見る。

 その様子に、ユウスケは溜めていた怒りを爆発させてしまう。

 

「どうして!!」

「!?」

 

 急に怒りを見せた彼に、四人は戸惑い驚く。

 

「どうして平然としてられるんだよ!! 彩ちゃんがいないことに、どうして違和感を持てないんだよ!!」

「彩…………?」

「香澄、知ってる?」

「ううん………………」

「あたしも知らないわ」

 

 友希那、蘭、香澄、こころ。誰一人、彩のことを覚えていなかった。

 

「なんで……忘れられるんだよ…………俺が覚えてて、どうして皆は……!」

 

 ユウスケは膝を床に着け、涙を流す。

 その様子に、四人はただ戸惑うことしかできない。

 

「皆お疲れ――ってユウスケ!?」

 

 レッスンスタジオにまりなが差し入れを持って入ってくる。しかしユウスケの様子に驚き、差し入れが入った袋を落として彼に駆け寄る。

 

「本当に大丈夫なの!? 昨日から変だけど――」

「うるさい!!」

「きゃっ!」

 

 ユウスケはまりなを振り払う。まりなは体勢を崩し、後ろに倒れそうになる。

 

「っ……!?」

 

 そんな彼女を後ろから抱えるように、士が支えた。彼の背後に、紗夜と日菜の姿もあった。

 まりなは思わず胸がときめき、失神する。

 

「士…………」

 

 彼の姿を見たユウスケは、我に返る。

 

「なんだ、心配して来てみれば、悲劇のヒーロー気取りか?」

 

 士はまりなを床に寝かせつつ、ユウスケを煽る発言をした。

 それを他所に、日菜は気を失っているまりなを不思議そうな顔でつつく。

 

「…………」

 

 本来のユウスケであればここで怒るのだが、今の彼にその気力すら残されていなかった。

 

「その様子なら、護衛を続けるのは難しそうだな。俺が代わりになってもいいが」

「……そうしてくれ」

 

 ユウスケは立ち上がり、体を引きずるように部屋を抜けようとする。

 

「待ってください!」

 

 彼の前に立ちはだかったのは、紗夜。

 

「どうして逃げるんですか?」

「……君には関係ないだろ」

 

 ユウスケは目を反らしながら、紗夜を通り越してこの場を去ろうとする。紗夜はそんな彼の肩を強く掴み、自分の方を向かせた後、彼の頬をはたいた。

 

「ッ!!」

 

 紗夜のビンタは思いのほか強く、ユウスケは吹き飛ぶように横に倒れた。

 ユウスケは驚いた顔で、頬を抑えながら紗夜を見上げる。

 気絶しているまりなを除いたユウスケ以外の者も驚き、思わず身を引いていた。

 

「あなた、それでも『クウガ』なんですか!? あなたが戦わなかったら、この街も住民も皆グロンギによって破壊されます!」

「安心しろ、俺が戦えば――」

「門矢さんは少し黙っててください」

 

 間に入ってきた士に対し、紗夜は強く睨み付ける。

 

「……あぁ、わかった…………大体、わかった……」

 

 先程のビンタを目の当たりにした士は彼女に恐れを抱き、思わず両手を上げる。

 

「ねぇ、何が大体わかったの?」

 

 士の発言に、日菜が天才特有の疑問をぶつける。

 

「……ご想像に任せよう」

 

 士は答えを誤魔化した。

 日菜はそれを真に受け、頭を悩ませ始める。

 紗夜は二人の様子を気にせず、ユウスケの方を向き直る。

 

「小野寺さん、あなたはこの世界で数少ない――いいえ、この世界で唯一グロンギと戦える者、この街を守れる者です。『クウガ』となった経緯はわかりませんが、その力を、力のない者のために戦うべきです。そうすればきっとまりなさんも、丸山さんも褒めてくれますよ」

「!? 彩ちゃんを、覚えているのか!?」

「えぇ。理由はわかりませんが、私はちゃんと覚えています。丸山さんがこの世界にいたこと、彼女が歩んできた人生をなかった事にしないためにも、あなたは戦い続けるべきです」

「俺は…………」

 

 紗夜の言葉を受けるも、迷いを見せるユウスケ。

 しかし戦う意志が少しずつ、確かに戻ってきていた。

 

「大変だ!!」

 

 すると突然、三十代の男が焦った様子でこの部屋に入ってくる。

 

「マネージャーさん、慌ててどうしたの?」

 

 こころが男――マネージャーに尋ねると、とんでもない話が出てくる。

 

 

 

「街の人が…………化け物に……化け物に変わってるんだ!!」

 

 

 

 

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