『ツカサ』は、CIRCLEの屋外カフェエリアに足を運んでいた。
そこで何かを食べるわけでもなく、ただひたすら写真を撮っていた。
……カフェにいる人を。
「――勝手に撮らないでもらえますか?」
案の定、椅子に座っていた少女から苦情が来る。
その少女は、紗夜だった。
「安心しろ、悪用はしない。現像したら渡してやる。俺の写真は世界で最も価値のあるものだ。きっと満足するはずだ」
「そういう問題ではありません。撮られた相手に少しでも不快感があれば、トラブルの元になりかねません。そう前から……」
紗夜は冷静に言葉を返す。そして、目の前にいる『ツカサ』が、自分の知っている『司』であるか確かめるため、躊躇いつつもある言葉を口にする。
「ずっと前から言ってるわよね?」
「……ずっと、前から?」
『ツカサ』は、驚いた顔で紗夜に急接近する。
「俺のことを知ってるのか?」
「えっ……!?」
紗夜は予想外の反応に戸惑う。
(もしかして、司は記憶を失ったの!? でも、それだけなら写真や連絡先が消えた原因は何?)
「教えろ! 俺が何者なのかを!」
「……その前に今、あなたが覚えていることを教えてください」
ここで取り乱すわけにはと、紗夜は気を落ち着かせて『ツカサ』に尋ねる。
言われた『ツカサ』も落ち着きを取り戻し、椅子に座って紗夜と向かい合う。
「俺の名は
「……わかりました。私が知っている『司』について話します。その前に私の自己紹介を。氷川紗夜。『司』とは幼稚園の頃からの幼馴染みです」
「『サヨ』……聞き覚えがないはずだが、懐かしい感じがするな……」
『ツカサ』が下を向いて呟く。
その様子を見た紗夜は希望を持ち始め、『司』の話を始める。
「司の苗字は、あなたと一緒です。
「待て、苗字はそれで合っているが、下が違う」
「え?」
「同士の士と書いて『
紗夜は鼻の下に手をあて、少し考えて話す。
「……もしかしたら、人違いという可能性もあります。私の知っている司は、引っ込み思案で臆病だけれど、人に優しく、何より私に希望を持たせてくれましたから。それに比べてあなた――門矢さんは、自信家であり尚且つ自分勝手。自分の行動で他人を不幸にさせていることにも気づかない。司とは正反対です」
「ほう……言ってくれるね」
「ただ一つ、門矢さんが司と人違いであると言い切れない部分があるんです。門矢さんが持っているそのカメラ、司も愛用していました」
「カメラ……」
士は首から下げている二眼レフカメラに手をかける。
「そのマゼンタカラーの二眼レフカメラ、司が自分でカスタムしたものだと本人から聞きました。それと全く同じものを持ってるあなたは、司からそれを盗んだか、もしくは……あなたが『司』だからか――と、考えられます」
「……なるほど、大体わかった――」
(『大体わかった』……司の口癖)
「――この世界の俺は、どこかに消えてしまったと」
「…………え?」
紗夜は、士の言っていることが理解できなかった。
「少なくとも、俺はこの世界の住民じゃない。俺はこの世界に拒絶されているからな」
「な、何を根拠に!?」
「これを見ろ」
士は一枚の写真を紗夜の前に突き出す。
「!?」
紗夜は驚き立ち上がる。
一人の少女がカメラに向かってピースしている写真であるのはわかるのだが、少女が歪んでおり、少女が二重になって写っている。
しかし、紗夜が一番驚いたところは、その写真の少女が日菜であるということだ。
「いた! おねーちゃん!」
写真に引かれてきたかのように、後ろから日菜の声が聞こえてくる。紗夜が声の方を向き、日菜の姿を見る。
日菜が紗夜の鞄も持って走ってくる。
「日菜!?」
「おねーちゃん! はいこれ! もう遅刻だと思うけど」
「これをわざわざ届けに!?」
「うん!」
日菜が満面の笑みで答えた。
「……あぁ、どこかで見たことあるなと思ったが、昨日ひたすら俺にかまってきた奴の姉だったのか」
士が日菜と紗夜を見比べながら言葉を口にした。
「あっ、士さんだ! それ、もしかしてあたしの写真!?」
士の存在に気づいた日菜は強引に奪い取り、ジッと写真を見る。
「あはは! 何これ!? こんな写真見たことないよ!」
日菜は自分が歪んで写った写真を面白がる。
そんな彼女を他所に、士は話を続ける。
「その写真が証拠だ。この世界は俺に撮られたがってないってことだ」
「……ただ撮るのが下手ということは?」
「それはない」
「よく言い切れますね……私の知る司も、昔はそのくらい歪んだ写真を撮っていましたが、経験を重ねるとともに腕を上げ、今では綺麗な写真が撮れていますよ」
「司は司、俺は俺。性格や名前の漢字が違うというのならば、写真の技術も――」
違う――そう言おうとした時――
「きゃあああああああああああ!!」
「!?」
「!?」
「!?」
女性の悲鳴が聞こえ、士と紗夜、日菜の三人に緊張感が走る。
三人は悲鳴が聞こえたCIRCLE側の方を向く。
『ゴォア!!』
蛹のような姿をした怪物達が暴れまわり、人を襲いながらCIRCLEを破壊していた。
「あぁ!! またCIRCLEがぁ!!!」
CIRCLEが壊れていく様に、スタッフである
「ワーム!? どうしてこの世界に!?」
士が怪物の名称を口にしながら、あるものを取り出した。
「!?」
それを目にした紗夜は、目を疑った。
士が取り出した、カメラのようなもの――
――夢に出てきた、変身ベルトとそっくりだった――
だが夢のものと違い、色は白。レンズの周りに書かれている九つの紋章が全て別の紋章である。
士は変身ベルトを腰に着け、ハンドルを引いてバックルを九十度回転させる。その後、本のような入れ物からカードを一枚取り出し、前に構える。
「変身!」
カードの裏面を外にし、バックルの挿入部に入れ――
『カメンライドォ!』
ハンドルを戻す――
『ディケイド!』
すると、士から円を描くように九人の幻影が生み出され、彼を中心に一つになってモノクロのヒーロースーツを身に纏う。その後、ベルトのレンズから七枚の赤い板が生み出され、顔面部に刺さると同時にスーツに色がつき、マゼンタが基調のスーツへと変わった。
「はぁあ!」
変身を遂げた士が、勢いよくワームと呼ばれた怪物達の中に飛び込んでいく。
「えぇ!? 何あれ!? 日曜朝にやってる特撮ヒーローみたい!」
変身した彼の姿を見て、日菜は気持ちが高ぶる。
「名前あるのかな?」
「……ディケイド」
紗夜が目を見開かせて呟いた。
「え? おねーちゃん知ってるの!?」
日菜が聞くと紗夜は頷き、改めて答える。
「仮面ライダー……………………ディケイド」
次の話で序章最後となる予定です。
話の展開がやや遅くてすみません!