Determination Decade   作:黒田雄一

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第三話 ディケイド

 『ツカサ』は、CIRCLEの屋外カフェエリアに足を運んでいた。

 そこで何かを食べるわけでもなく、ただひたすら写真を撮っていた。

 ……カフェにいる人を。

 

「――勝手に撮らないでもらえますか?」

 

 案の定、椅子に座っていた少女から苦情が来る。

 その少女は、紗夜だった。

 

「安心しろ、悪用はしない。現像したら渡してやる。俺の写真は世界で最も価値のあるものだ。きっと満足するはずだ」

「そういう問題ではありません。撮られた相手に少しでも不快感があれば、トラブルの元になりかねません。そう前から……」

 

 紗夜は冷静に言葉を返す。そして、目の前にいる『ツカサ』が、自分の知っている『司』であるか確かめるため、躊躇いつつもある言葉を口にする。

 

 

「ずっと前から言ってるわよね?」

 

 

「……ずっと、前から?」

 

 『ツカサ』は、驚いた顔で紗夜に急接近する。

 

「俺のことを知ってるのか?」

「えっ……!?」

 

 紗夜は予想外の反応に戸惑う。

 

(もしかして、司は記憶を失ったの!? でも、それだけなら写真や連絡先が消えた原因は何?)

 

「教えろ! 俺が何者なのかを!」

「……その前に今、あなたが覚えていることを教えてください」

 

 ここで取り乱すわけにはと、紗夜は気を落ち着かせて『ツカサ』に尋ねる。

 言われた『ツカサ』も落ち着きを取り戻し、椅子に座って紗夜と向かい合う。

 

「俺の名は門矢士(かどやつかさ)。……自分について覚えているのはそれだけだ」

「……わかりました。私が知っている『司』について話します。その前に私の自己紹介を。氷川紗夜。『司』とは幼稚園の頃からの幼馴染みです」

「『サヨ』……聞き覚えがないはずだが、懐かしい感じがするな……」

 

 『ツカサ』が下を向いて呟く。

 その様子を見た紗夜は希望を持ち始め、『司』の話を始める。

 

「司の苗字は、あなたと一緒です。門矢司(かどやつかさ)(もん)()で『門矢』、司ると書いて『司』です」

「待て、苗字はそれで合っているが、下が違う」

「え?」

「同士の士と書いて『(つかさ)』だ。これに間違いは絶対にない。名前だけは鮮明に覚えている」

 

 (ツカサ)は言い切った。

 紗夜は鼻の下に手をあて、少し考えて話す。

 

「……もしかしたら、人違いという可能性もあります。私の知っている司は、引っ込み思案で臆病だけれど、人に優しく、何より私に希望を持たせてくれましたから。それに比べてあなた――門矢さんは、自信家であり尚且つ自分勝手。自分の行動で他人を不幸にさせていることにも気づかない。司とは正反対です」

「ほう……言ってくれるね」

「ただ一つ、門矢さんが司と人違いであると言い切れない部分があるんです。門矢さんが持っているそのカメラ、司も愛用していました」

「カメラ……」

 

 士は首から下げている二眼レフカメラに手をかける。

 

「そのマゼンタカラーの二眼レフカメラ、司が自分でカスタムしたものだと本人から聞きました。それと全く同じものを持ってるあなたは、司からそれを盗んだか、もしくは……あなたが『司』だからか――と、考えられます」

「……なるほど、大体わかった――」

 

(『大体わかった』……司の口癖)

 

 

 

「――この世界の俺は、どこかに消えてしまったと」

 

 

 

「…………え?」

 

 紗夜は、士の言っていることが理解できなかった。

 

「少なくとも、俺はこの世界の住民じゃない。俺はこの世界に拒絶されているからな」

「な、何を根拠に!?」

「これを見ろ」

 

 士は一枚の写真を紗夜の前に突き出す。

 

「!?」

 

 紗夜は驚き立ち上がる。

 一人の少女がカメラに向かってピースしている写真であるのはわかるのだが、少女が歪んでおり、少女が二重になって写っている。

 しかし、紗夜が一番驚いたところは、その写真の少女が日菜であるということだ。

 

「いた! おねーちゃん!」

 

 写真に引かれてきたかのように、後ろから日菜の声が聞こえてくる。紗夜が声の方を向き、日菜の姿を見る。

 日菜が紗夜の鞄も持って走ってくる。

 

「日菜!?」

「おねーちゃん! はいこれ! もう遅刻だと思うけど」

「これをわざわざ届けに!?」

「うん!」

 

 日菜が満面の笑みで答えた。

 

「……あぁ、どこかで見たことあるなと思ったが、昨日ひたすら俺にかまってきた奴の姉だったのか」

 

 士が日菜と紗夜を見比べながら言葉を口にした。

 

「あっ、士さんだ! それ、もしかしてあたしの写真!?」

 

 士の存在に気づいた日菜は強引に奪い取り、ジッと写真を見る。

 

「あはは! 何これ!? こんな写真見たことないよ!」

 

 日菜は自分が歪んで写った写真を面白がる。

 そんな彼女を他所に、士は話を続ける。

 

「その写真が証拠だ。この世界は俺に撮られたがってないってことだ」

「……ただ撮るのが下手ということは?」

「それはない」

「よく言い切れますね……私の知る司も、昔はそのくらい歪んだ写真を撮っていましたが、経験を重ねるとともに腕を上げ、今では綺麗な写真が撮れていますよ」

「司は司、俺は俺。性格や名前の漢字が違うというのならば、写真の技術も――」

 

 違う――そう言おうとした時――

 

 

 

「きゃあああああああああああ!!」

 

 

 

「!?」

「!?」

「!?」

 

 女性の悲鳴が聞こえ、士と紗夜、日菜の三人に緊張感が走る。

 三人は悲鳴が聞こえたCIRCLE側の方を向く。

 

『ゴォア!!』

 

 蛹のような姿をした怪物達が暴れまわり、人を襲いながらCIRCLEを破壊していた。

 

「あぁ!! またCIRCLEがぁ!!!」

 

 CIRCLEが壊れていく様に、スタッフである月島(つきしま)まりなが涙を流していた。

 

「ワーム!? どうしてこの世界に!?」

 

 士が怪物の名称を口にしながら、あるものを取り出した。

 

「!?」

 

 それを目にした紗夜は、目を疑った。

 士が取り出した、カメラのようなもの――

 

 

 ――夢に出てきた、変身ベルトとそっくりだった――

 

 

 だが夢のものと違い、色は白。レンズの周りに書かれている九つの紋章が全て別の紋章である。

 士は変身ベルトを腰に着け、ハンドルを引いてバックルを九十度回転させる。その後、本のような入れ物からカードを一枚取り出し、前に構える。

 

「変身!」

 

 カードの裏面を外にし、バックルの挿入部に入れ――

 

『カメンライドォ!』

 

 ハンドルを戻す――

 

 

 

 

『ディケイド!』

 

 

 

 

 すると、士から円を描くように九人の幻影が生み出され、彼を中心に一つになってモノクロのヒーロースーツを身に纏う。その後、ベルトのレンズから七枚の赤い板が生み出され、顔面部に刺さると同時にスーツに色がつき、マゼンタが基調のスーツへと変わった。

 

「はぁあ!」

 

 変身を遂げた士が、勢いよくワームと呼ばれた怪物達の中に飛び込んでいく。

 

「えぇ!? 何あれ!? 日曜朝にやってる特撮ヒーローみたい!」

 

 変身した彼の姿を見て、日菜は気持ちが高ぶる。

 

「名前あるのかな?」

「……ディケイド」

 

 紗夜が目を見開かせて呟いた。

 

「え? おねーちゃん知ってるの!?」

 

 日菜が聞くと紗夜は頷き、改めて答える。

 

 

 

 

 

「仮面ライダー……………………ディケイド」

 

 

 

 

 




 次の話で序章最後となる予定です。
 話の展開がやや遅くてすみません!

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