Determination Decade   作:黒田雄一

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第六話 戦いの記憶

「どんな笑顔にでも、幸せ来ちゃうよ♪」

 

 CIRCLEのステージにて、五人組アイドル『クインティプル』が予定通りライブを行っていた。

 彼女達は、代表曲である『クインティプル☆すまいる』を歌っていた。

 

(曲は元の世界と変わらないのね)

 

 周囲が盛り上がっている中、紗夜は腕を組み、黙って彼女達を見ていた。

 

 

 

 ――主よ――

 

 

 ――救世主よ――

 

 

 

「!?」

 

 謎の男の声が聞こえ、紗夜は周囲を見渡す。

 

 

 ――救世主よ、世界を守るのだ――

 

 

 直接脳内に語りかけている感覚であったが、紗夜は出入り口の方にその声の主がいるような気がし、無意識にこの場を去ろうとする。

 

「おねーちゃん? どうしたの?」

 

 日菜が紗夜の肩に手を置いた。

 

「…………!」

 

 ふと我に返る紗夜であったが、出入り口の先に何かがあると確信していた。

 

「大丈夫。お手洗いに行くだけよ」

「そう? ならいいけど……」

 

 日菜が不思議そうにしつつ、アイドルの方に顔を戻すと、他の観客同様に体を大きく動かし始める。

 

「…………」

 

 それを確認した紗夜は、出入り口の扉を開け、会場を抜ける。

 

「!?」

 

 紗夜は目を疑う。

 抜けた先に広がっていた風景は、CIRCLEの受付ホールではなかった。

 夢で見た場所、同じ光景が広がっていた。

 気が付くと出入り口も消えており、紗夜は別空間に飛ばされていたのだ。

 

「ここは……!?」

「戻ってきてくれたか、世界の救世主よ」

 

 紗夜が戸惑っていると、一人の男が姿を現す。

 茶色のチューリップハットとコート、眼鏡をかけた中年の男が、紗夜の前に立つ。

 

「あなたは……?」

「私の名は鳴滝(なるたき)。君を『救世主』に戻すべく、力を貸したいんだ」

 

 鳴滝と名乗った男は、一つの変身ベルトを紗夜に差し出す。

 

「……!?」

 

 差し出された変身ベルトは、士が使用していた『ディケイドライバー』と似ていた。

 バックルが青紫色で、上にカメラのシャッターボタンのようなものがあった。

 

「これがあれば君も戦える。『司』の力になれる!」

「司の……力に……!?」

 

 鳴滝の言葉を聞いた紗夜は、ベルトを受け取ろうと手を伸ばす。

 

「!?」

 

 横から銃声が聞こえると同時に、身の危険を感じた鳴滝が瞬時に後ろに飛ぶ。

 飛んできた弾丸は鳴滝の前を通り抜ける。

 遅れて反応した紗夜が左を向く。

 

「――良かった、まだ渡ってないみたいだな」

 

 革ジャンを着た、やや高身長の青年が、手形の付いている変わった銃を持っていた。

 

操真(そうま)晴人(はると)!? 生きていたのか!?」

 

 鳴滝が驚いた顔で青年の名を叫んだ。

 

(操真、晴人……どこかで聞いたことがある気が……)

 

「おいおい、勝手に殺されちゃ困るね」

「……何がともあれ、邪魔をしないでくれ! 彼女には『救世主』として『世界の破壊者』を倒してもらわないといけないのだ!」

 

 鳴滝が叫ぶと、彼の目の前にオーロラのような靄が発生する。

 その靄から、二人の仮面ライダーが出てくる。

 バッタに似た姿をする『仮面ライダーキックホッパー』と『仮面ライダーパンチホッパー』が。青年――晴人に向かってゆっくりと歩き出す。

 

「悪いが断る。司と約束したからな」

 

 晴人は銃を左手に持ち、右手を前腰に当てる。

 

『ドライバーオン!』

 

 謎の音声が鳴り響くと同時に、晴人の腰に変身ベルトが出現する。

 表面に黒い手形がついた奇妙な変身ベルトである。

 晴人は左右のハンドルを操作し、手形の向きを変える。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!!  シャバドゥビタッチヘーンシーン!!』

 

 ベルトから非常にうるさい音声が流れ出す。

 

「――行くよ、燐子(りんこ)ちゃん」

 

 晴人は銃を右手に持ち直しつつ、左手の中指に青紫色の仮面が付いている指輪をはめ、ベルトの手形に左手を添えた。

 

『レクイエム!!!』

『プリーズ!!!』

 

 ベルトから声が枯れそうな程大きな声で叫ぶ。

 ピアノの旋律が流れ、幻影の少女が彼の前に立つ。

 

「ぇ……白金(しろかね)……さん…………!?」

 

 その幻影に顔がなかったのだが、何故か紗夜はRoseliaのキーボード担当――白金(しろかね)燐子(りんこ)であるように思えた。

 幻影が晴人に抱きつくように彼と一体化し、青紫の結晶が彼の体を包み込む。すると、彼の体が光り出し、結晶が粉々に砕け散ると同時に変身した姿を現す。

 黄金のコートに、宝石のように美しい青紫のマスクと鎧を纏った、『仮面ライダーウィザード レクイエムスタイル』へと変身を遂げた。

 砕け散った結晶は、彼の右手に吸い込まれるように集まり、一つの大剣を生成する。

 樋に鍵盤が付いている変わった武器だ。

 

「――行くぜ、相棒」

「兄貴となら、どこまでも」

 

 変身した晴人に動じることなく、『キックホッパー』と『パンチホッパー』はベルトのボタンを押す。

 

CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 

 音声がなると当時に、二人が目で追えない速度で動き始める。

 

「ふっ!!」

 

 晴人も難なく二人の速度についていき、激闘を繰り広げる。

 

「今の内にこれを!」

 

 その隙を狙って鳴滝はベルトを紗夜に渡そうとする。

 

「何!?」

 

 だが、仮面ライダー二人を呼び寄せた謎のオーロラが紗夜の目の前に現れ、鳴滝の行く手を妨害する。

 

「おのれディケイドォ!!」

 

 鳴滝の叫びが聞こえると同時に、オーロラが紗夜を通り過ぎる。

 紗夜は思わず目を伏せるが、特に痛みもなく、目を開けるとCIRCLEの外に出ていた。

 

(……さっきのは一体……?)

 

 紗夜は漠然とその場に立ち尽くしているが――

 

 

『グァ!!』

 

 

 戻った先も戦場であった。

 コウモリのような怪人が、クワガタのような頭に赤い鎧を身に纏った『仮面ライダークウガ』に殴り飛ばされていた。

 

「!? どうしてここに人が!?」

 

 突如その場に現れた紗夜に、クウガは戸惑う。

 仮面越しからは青年の声が聞こえた。

 

『グァ!!』

 

 クモのような怪人が、その隙を狙ってクウガに攻撃を仕掛ける。瞬時に我に返ったクウガは怪人の攻撃をかわし、怪人と向き合う。

 

「そこの人! 早く逃げて!!」

 

 クウガはクモの怪人と拳を交えながら、紗夜に呼びかける。

 しかし、それよりも先にコウモリの怪人が彼女の首を掴もうとする。

 

「!」

 

 紗夜は身をスッと横に移動させて攻撃をかわした。

 ――攻撃を、かわせた。

 コウモリの怪人は諦めずに何度も攻撃するが、紗夜は全てかわしてみせる。

 

(攻撃が見える……どう動けばいいかわかる……戦ったことなんてないのに……!)

 

 紗夜はかわすだけでなく、隙をついて怪人の脇腹に蹴りを入れる。

 

『ガァ!!』

 

 コウモリの怪人が怯んだ後、激昂したようのに叫び、先程よりも素早い速度で紗夜に飛びかかる。紗夜はかわすが、間も空けずに攻撃する怪人に対し防戦一方だった。

 その状況を把握したクウガが助けに行こうとする。

 

『バァ!!』

「くッ!」

 

 クモの怪人が吐いた糸が右腕に絡み、クウガの行く手を阻んだ。

 

「クソッ!」

 

 力尽くで糸を千切ろうとするが、頑丈でビクともしなかった。

 

「!?」

 

 そこに、一発の弾丸が飛んでいき、クモの糸を切った。

 クウガが飛んできた方を向くと、『仮面ライダーディケイド』に変身した士が立っていた。

 

「なるほど、ここはクウガの世界か……にしても、紗夜があそこまでやれるとはな」

 

 コウモリの攻撃を無駄のない動きでかわしている紗夜に関心を持ちつつ、コウモリに向けてガンモードのライドブッカーで撃つ。

 弾丸を受けたコウモリはその衝撃で後ろに倒れる。

 

「おねーちゃん!」

 

 士の後ろにいた日菜が、紗夜の元へ走る。

 

「日菜!?」

「おねーちゃんトイレにいなかったから、もしかしたらまた怪物に襲われているかもって!」

 

 日菜が紗夜の腕を引っ張り、士の後方に回る。

 日菜は紗夜が中々トイレから帰ってこないことに不安を感じ、様子を見に行くと予感通りトイレにいなかった。元の世界で怪物が現れたことを思い出し、この世界でも怪物がいる可能性があると思った日菜は、士に助けを求めたのだ。

 中をくまなく探した後、外に出て紗夜を発見。そして今に至るのだった。 

 

「さて、ならばこれを使――」

 

 士はライドブッカーを開き、カードを取り出して新たな姿へ変身しようとするが――

 

 

 

「……どういうことだ!?」

 

 

 

 




 この話で出てきたウィザードの『レクイエムスタイル』はこの作品のオリジナルフォームです。
 詳細はネタバレ防止のため、後々明かします(かなり後になってしまいますが……)

 また、かなり気が早いのですが、第一章終了辺りで司を主人公にした外伝の連載を開始したいと考えています。
 この作品の前日譚となっており、外伝から読み始めても問題ない構造となっております。

 これからもご愛読、よろしくお願いします!

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