「……どういうことだ!?」
カードを手にした士が困惑する。
士が戦闘で使用するカードには、仮面ライダーの姿や紋章などが描かれている。
しかし、それに白い靄のようなものがかかり、消えかかっているように見えた。
「なら――!」
他のカードなら――そう思った士であったが、他のカードも同様の状態に陥っていた。
問題ないのは、『仮面ライダーディケイド』に関連するカードだけだった。
「くッ……!」
士はダメ元で『仮面ライダークウガ』だったカードを、バックルに挿入する。
案の定、耳障りなエラー音がなり、吐き出されるようにバックルからカードが飛び出る。
「ダメか……っと、よそ見してる場合じゃないな」
士は飛び出たカードを手にしながら、不意打ちを狙ったコウモリ怪人の攻撃をかわす。その後、カードをライドブッカーに戻し、ソードモードにしてコウモリ怪人に攻撃する。
「なんだ、あいつは――って、おっとっと!」
謎の仮面ライダーの出現に混乱するクウガ。その隙にクモ怪人が攻撃するも、それに気づいたクウガがギリギリ回避する。
「超変身!」
クウガが身に纏う赤の鎧が、紫の鎧へ――『タイタンフォーム』へと姿を変える。
『グァ!!』
その隙にクモ怪人は口から糸を吐き、クウガの体に巻き付けて拘束する。
「はぁ!!」
クウガは頑丈に巻き付けられた糸をあっさりと引き千切り、クモ怪人に近づく。クモ怪人はクウガよりも早く動き、拳を彼の胴体に強く当てた。
『バ!?』
しかし、クウガは全く怯まなかった。クモ怪人の攻撃が通じていなかったのだ。それに驚いていると、クウガが勢いよくクモ怪人を殴る。
怪人は後ろに大きく飛び、CIRCLEの壁に凹みができる。
「あっ、やばッ!?
そう言いながら、クウガは近くに落ちていた木の棒を拾い、それを紫色の刃をしている剣――タイタンソードに変形させる。
クウガはクモ怪人が体勢を戻す間も与えず、タイタンソードで斬りつける。
『ガバァ!!』
クモ怪人の体にクウガの紋章が浮かび上がり、爆発四散する。
「…………」
クモ怪人を倒したクウガは、コウモリ怪人の様子を見る。
コウモリ怪人は翼を広げて空を飛び回りながら、鋭い爪で士を引き裂こうとしていた。士は冷静に攻撃をかわし、ライドブッカー『ガンモード』で怪人を撃ち落とす。
「――これで終わりだ」
地面に落ちた怪人に体勢を戻させる間もなく、士はディケイドの紋章が描かれた黄色のカードを取り出し、バックルに挿入する。
『ファイナルアタックライドォ!』
ハンドルを内側に押し戻して、必殺技を発動する。
『ディディディディケイド!』
士の前方に彼の身長と同じくらいの大きさをほこるカードが十枚並び立つ。
士が跳躍すると、それに反応してカードも浮き、怪物に向かって斜め一直線を描く。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
士は跳び蹴りの体勢を作り、カードを通り過ぎる。カードを通過する度に右足にエネルギーが蓄えられつつ、降下速度が上がっていく。
『ダァ!!!』
コウモリ怪物は起き上がると同時に、ディケイドの必殺技――『ディメンションキック』を叩き込まれる。
怪物は後ろに吹き飛びながら爆発を起こし、跡形もなく消滅した。
「ふぅ…………」
士は地面に着地し、ハンドルを弾いてカードを取り出し変身を解除する。
「お疲れさまー!」
日菜が走って士の元へ。彼女に続いて紗夜が歩み寄る。
士は二人に何故か誇らしげな表情を浮かべる。
「まっ、こんなところか。にしても紗夜、喧嘩慣れしてたのか?」
「あたしも気になる! 少し見たけど、お姉ちゃんスタントマンみたいな動きしてたよ!」
「喧嘩の経験なんて……」
ない――そう断言したかった紗夜だったが、頭の奥が刺激されるような感覚に陥る。
そして、頭の中にいつの記憶かわからない映像が流れる。
――変身!!
カメンライドォ! ディ――
「あんた達、何者なんだ?」
「!?」
映像を遮るように、クウガが紗夜達に話しかける。
クウガは変身を解き、その姿を彼女達に見せる。
パーカーを身に纏った青年だった。
「そういうのは、自分の方から先に名乗ってみせるもんじゃないのか?」
などと偉そうなことを言う士であるが、初対面の人に対してカメラを向け、無断で撮っていた。
その様子に紗夜はため息を吐き、彼の代弁を務める。
「この人の名前は門矢士。仮面ライダーです」
「仮面……ライダー……?」
青年は仮面ライダーという言葉に疑問を浮かべる。
青年は一度も仮面ライダーと呼ばれたことがないのだ。
「ライダーに変身して戦う戦士のことです。あなたも、変身して怪物と戦っているのですよね?」
「あ、あぁ……」
青年が困惑しつつも頷く。
(……どうして説明できるのか、私にもわからないけど)
「申し遅れました。私は氷川紗夜です。こっちは妹の日菜です」
「よろしく~!」
日菜は元気いっぱいの笑顔を見せる。
「俺は
「グロンギ? 先程の怪物のことですか?」
「あぁ、奴らは街に降りては人を襲っている。理由はわからないけど、最近は『クインティプル』に狙いを定めているみたいだ。俺はその護衛を――」
「ユウスケ!」
走りながら彼の名を叫ぶ女性がいた。その女性に見覚え合った紗夜と日菜が声を合わせて驚く。
「まりなさん!?」
「まりなさん!?」
走ってきた女性は、元の世界でCIRCLEのスタッフをしていた、月島まりなだった。
「姐さん!」
ユウスケはまりなに何かを期待するように笑顔を向ける。
「はぁ……はぁ……ごめん、どうしても係の仕事から抜け出せなくて……大丈夫だった?」
「大丈夫。このくらい楽勝!」
「俺の力もあって――」
士が会話に割って入ろうとするが、何かを察した日菜が彼の口を塞ぐ。
「? ユウスケ、この人たちは?」
「グロンギに襲われそうになった人たちだ」
「ユウスケさんが助けてくれたんだ! ありがとう!」
日菜が士の口を塞いだままユウスケにお礼を言う。
「?」
紗夜は、日菜の行動理由がわからなかったが、士が変なことを話すよりはマシと思い、放置することに。
「怪我はない?」
「怪我はありません。ユウスケさんにはどうお礼したらいいのか――」
「大丈夫! 見返りは求めてないから!」
ユウスケは爽やかに返した。
「他に被害は…………あ゛ぁ゛!!」
周りを見渡したまりなは、凹んだCIRCLEの壁を見て変な声を上げる。
「またCIRCLEがぁ!!」
(この世界でも、CIRCLEは被害を受けているのね……)
「ごめん姐さん! わざとじゃないんだ!」
ユウスケは頭を下げて必死に謝る。
「うぅ……弁償代、支払わないと……」
まりなは涙を流しながら膝を落とす。
すると、まりなの携帯から着信が入る。まりなはズボンのポケットから携帯を取り出し、電話に出る。
「もしもし、まりなです……えっ!? またですか!? ……わかりました! すぐに向かわせます!」
まりなが電話を切り、立ち上がって真剣な表情でユウスケに告げる。
「駅前広場に新たなグロンギ! すぐに向かって!」
「了解!」
ユウスケは近くに停めていたバイクに乗り、現場へと向かっていった。
まりなも彼の後を追おうと、自分の車に乗る。
「――あっ! CIRCLEの仕事すっぽかしてた! うぅ……いや、ユウスケに何かあってからじゃ遅い! 私も行かなくちゃ!」
まりなは車を発進させ、この場を去って行く。
「……私たちも向かいますか?」
紗夜が提案を出すと、士が日菜の手を強引にどかして答える。
「いや、後はあいつに任せれば問題ないだろ。俺たちは俺たちのやるべきことをやるぞ」
「? 何するの?」
日菜が不思議そうな顔を浮かべる。
「この世界でやるべきことを探す。ついでに、もう一人の俺も探す」
「!?」
士の思いもよらない発言に、紗夜は驚く。
「さ、探してくれるんですか!?」
「あぁ、もう一人の俺がどんな奴か、気になるからな。ひとまず、家に戻るぞ」
※
「…………」
崩壊した街の中――
司は一人で歩いていた。
彼の体には、誰かの返り血が大量についており、右手には『ソードモード』の『ライドブッカー』が持たれていた。その『ライドブッカー』はカードが収納されている箱部分がやや大きくなっており、その箱にディケイドライバーと似たレンズとカードの挿入口が付いており、また箱の表面に長方形の『何か』をはめるための凹みがあった。
彼はもう、これを『ライドブッカー』と呼んでいなかった。
「相変わらず無茶をするな」
司に声をかけながら、一人の青年が物陰から出てくる。
「……晴人」
「ディターミネイションドライバー、見つかったのか?」
青年――晴人が尋ねると、司は首を横に振る。
「
オーズ
フォーゼ
ウィザード
ドライブ
ゴースト
エグゼイド
これまで八つの世界に回ったが、どの世界にもなかった」
「『ネクスト・ワールド』も、残るはビルドだけか……」
「…………」
ビルド――その言葉を聞いた二人は、かつての戦友を思い浮かべる。
「……ビルドの世界、行くなら俺も行く」
晴人は司に歩み寄り、彼の肩に手を置く。
「俺が生きてたんだ……
「……そうだな。けど――」
司が前方の奥に目を向ける。
彼の視線の先には、三十体の怪物がいた。
人の肉片をかき集めて作られたような、気持ち悪い怪物だ。
「まずはこいつらを倒す!」
司は変身せず、生身のまま怪物の群れに突っ込み、斬り倒していく。
怪物達も反撃するのだが、司に攻撃がかすることなく、端から見れば彼が一方的に怪物を殺しているように見えた。
「…………」
三十体もいた怪物が、僅か数秒でただ地面に転がる肉片と化した。
怪物の返り血を浴び、更に赤く染まった司の体。
もう、紗夜の知る『司』は、どこにもいないのかもしれない――。