Determination Decade   作:黒田雄一

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第七話 彼は今――

「……どういうことだ!?」

 

 カードを手にした士が困惑する。

 

 士が戦闘で使用するカードには、仮面ライダーの姿や紋章などが描かれている。

 しかし、それに白い靄のようなものがかかり、消えかかっているように見えた。

 

「なら――!」

 

 他のカードなら――そう思った士であったが、他のカードも同様の状態に陥っていた。

 問題ないのは、『仮面ライダーディケイド』に関連するカードだけだった。

 

「くッ……!」

 

 士はダメ元で『仮面ライダークウガ』だったカードを、バックルに挿入する。

 案の定、耳障りなエラー音がなり、吐き出されるようにバックルからカードが飛び出る。

 

「ダメか……っと、よそ見してる場合じゃないな」

 

 士は飛び出たカードを手にしながら、不意打ちを狙ったコウモリ怪人の攻撃をかわす。その後、カードをライドブッカーに戻し、ソードモードにしてコウモリ怪人に攻撃する。

 

「なんだ、あいつは――って、おっとっと!」

 

 謎の仮面ライダーの出現に混乱するクウガ。その隙にクモ怪人が攻撃するも、それに気づいたクウガがギリギリ回避する。

 

「超変身!」

 

 クウガが身に纏う赤の鎧が、紫の鎧へ――『タイタンフォーム』へと姿を変える。

 

『グァ!!』

 

 その隙にクモ怪人は口から糸を吐き、クウガの体に巻き付けて拘束する。

 

「はぁ!!」

 

 クウガは頑丈に巻き付けられた糸をあっさりと引き千切り、クモ怪人に近づく。クモ怪人はクウガよりも早く動き、拳を彼の胴体に強く当てた。

 

『バ!?』

 

 しかし、クウガは全く怯まなかった。クモ怪人の攻撃が通じていなかったのだ。それに驚いていると、クウガが勢いよくクモ怪人を殴る。

 怪人は後ろに大きく飛び、CIRCLEの壁に凹みができる。

 

「あっ、やばッ!? (あね)さんに怒られる……緊急時だし、なんとかなるよね?」

 

 そう言いながら、クウガは近くに落ちていた木の棒を拾い、それを紫色の刃をしている剣――タイタンソードに変形させる。

 クウガはクモ怪人が体勢を戻す間も与えず、タイタンソードで斬りつける。

 

『ガバァ!!』

 

 クモ怪人の体にクウガの紋章が浮かび上がり、爆発四散する。

 

「…………」

 

 クモ怪人を倒したクウガは、コウモリ怪人の様子を見る。

 

 コウモリ怪人は翼を広げて空を飛び回りながら、鋭い爪で士を引き裂こうとしていた。士は冷静に攻撃をかわし、ライドブッカー『ガンモード』で怪人を撃ち落とす。

 

「――これで終わりだ」

 

 地面に落ちた怪人に体勢を戻させる間もなく、士はディケイドの紋章が描かれた黄色のカードを取り出し、バックルに挿入する。

 

『ファイナルアタックライドォ!』

 

 ハンドルを内側に押し戻して、必殺技を発動する。

 

『ディディディディケイド!』

 

 士の前方に彼の身長と同じくらいの大きさをほこるカードが十枚並び立つ。

 士が跳躍すると、それに反応してカードも浮き、怪物に向かって斜め一直線を描く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 士は跳び蹴りの体勢を作り、カードを通り過ぎる。カードを通過する度に右足にエネルギーが蓄えられつつ、降下速度が上がっていく。

 

『ダァ!!!』

 

 コウモリ怪物は起き上がると同時に、ディケイドの必殺技――『ディメンションキック』を叩き込まれる。

 怪物は後ろに吹き飛びながら爆発を起こし、跡形もなく消滅した。

 

「ふぅ…………」

 

 士は地面に着地し、ハンドルを弾いてカードを取り出し変身を解除する。

 

「お疲れさまー!」

 

 日菜が走って士の元へ。彼女に続いて紗夜が歩み寄る。

 士は二人に何故か誇らしげな表情を浮かべる。

 

「まっ、こんなところか。にしても紗夜、喧嘩慣れしてたのか?」

「あたしも気になる! 少し見たけど、お姉ちゃんスタントマンみたいな動きしてたよ!」

「喧嘩の経験なんて……」

 

 ない――そう断言したかった紗夜だったが、頭の奥が刺激されるような感覚に陥る。

 そして、頭の中にいつの記憶かわからない映像が流れる。

 

 

 

 ――変身!!

 

 カメンライドォ! ディ――

 

 

 

「あんた達、何者なんだ?」

「!?」

 

 映像を遮るように、クウガが紗夜達に話しかける。

 クウガは変身を解き、その姿を彼女達に見せる。

 パーカーを身に纏った青年だった。

 

「そういうのは、自分の方から先に名乗ってみせるもんじゃないのか?」

 

 などと偉そうなことを言う士であるが、初対面の人に対してカメラを向け、無断で撮っていた。

 その様子に紗夜はため息を吐き、彼の代弁を務める。

 

「この人の名前は門矢士。仮面ライダーです」

「仮面……ライダー……?」

 

 青年は仮面ライダーという言葉に疑問を浮かべる。

 青年は一度も仮面ライダーと呼ばれたことがないのだ。

 

「ライダーに変身して戦う戦士のことです。あなたも、変身して怪物と戦っているのですよね?」

「あ、あぁ……」

 

 青年が困惑しつつも頷く。

 

(……どうして説明できるのか、私にもわからないけど)

 

「申し遅れました。私は氷川紗夜です。こっちは妹の日菜です」

「よろしく~!」

 

 日菜は元気いっぱいの笑顔を見せる。

 

「俺は小野寺(おのでら)ユウスケ。クウガとして、グロンギと戦っている」

「グロンギ? 先程の怪物のことですか?」

「あぁ、奴らは街に降りては人を襲っている。理由はわからないけど、最近は『クインティプル』に狙いを定めているみたいだ。俺はその護衛を――」

 

「ユウスケ!」

 

 走りながら彼の名を叫ぶ女性がいた。その女性に見覚え合った紗夜と日菜が声を合わせて驚く。

 

「まりなさん!?」

「まりなさん!?」

 

 走ってきた女性は、元の世界でCIRCLEのスタッフをしていた、月島まりなだった。

 

「姐さん!」

 

 ユウスケはまりなに何かを期待するように笑顔を向ける。

 

「はぁ……はぁ……ごめん、どうしても係の仕事から抜け出せなくて……大丈夫だった?」

「大丈夫。このくらい楽勝!」

「俺の力もあって――」

 

 士が会話に割って入ろうとするが、何かを察した日菜が彼の口を塞ぐ。

 

「? ユウスケ、この人たちは?」

「グロンギに襲われそうになった人たちだ」

「ユウスケさんが助けてくれたんだ! ありがとう!」

 

 日菜が士の口を塞いだままユウスケにお礼を言う。

 

「?」

 

 紗夜は、日菜の行動理由がわからなかったが、士が変なことを話すよりはマシと思い、放置することに。

 

「怪我はない?」

「怪我はありません。ユウスケさんにはどうお礼したらいいのか――」

「大丈夫! 見返りは求めてないから!」

 

 ユウスケは爽やかに返した。

 

「他に被害は…………あ゛ぁ゛!!」

 

 周りを見渡したまりなは、凹んだCIRCLEの壁を見て変な声を上げる。

 

「またCIRCLEがぁ!!」

 

(この世界でも、CIRCLEは被害を受けているのね……)

 

「ごめん姐さん! わざとじゃないんだ!」

 

 ユウスケは頭を下げて必死に謝る。

 

「うぅ……弁償代、支払わないと……」

 

 まりなは涙を流しながら膝を落とす。

 すると、まりなの携帯から着信が入る。まりなはズボンのポケットから携帯を取り出し、電話に出る。

 

「もしもし、まりなです……えっ!? またですか!? ……わかりました! すぐに向かわせます!」

 

 まりなが電話を切り、立ち上がって真剣な表情でユウスケに告げる。

 

「駅前広場に新たなグロンギ! すぐに向かって!」

「了解!」

 

 ユウスケは近くに停めていたバイクに乗り、現場へと向かっていった。

 まりなも彼の後を追おうと、自分の車に乗る。

 

「――あっ! CIRCLEの仕事すっぽかしてた! うぅ……いや、ユウスケに何かあってからじゃ遅い! 私も行かなくちゃ!」

 

 まりなは車を発進させ、この場を去って行く。

 

「……私たちも向かいますか?」

 

 紗夜が提案を出すと、士が日菜の手を強引にどかして答える。

 

「いや、後はあいつに任せれば問題ないだろ。俺たちは俺たちのやるべきことをやるぞ」

「? 何するの?」

 

 日菜が不思議そうな顔を浮かべる。

 

「この世界でやるべきことを探す。ついでに、もう一人の俺も探す」

「!?」

 

 士の思いもよらない発言に、紗夜は驚く。

 

「さ、探してくれるんですか!?」

「あぁ、もう一人の俺がどんな奴か、気になるからな。ひとまず、家に戻るぞ」

 

 

 

   ※

 

 

 

「…………」

 

 崩壊した街の中――

司は一人で歩いていた。

 彼の体には、誰かの返り血が大量についており、右手には『ソードモード』の『ライドブッカー』が持たれていた。その『ライドブッカー』はカードが収納されている箱部分がやや大きくなっており、その箱にディケイドライバーと似たレンズとカードの挿入口が付いており、また箱の表面に長方形の『何か』をはめるための凹みがあった。

 彼はもう、これを『ライドブッカー』と呼んでいなかった。

 

「相変わらず無茶をするな」

 

 司に声をかけながら、一人の青年が物陰から出てくる。

 

「……晴人」

「ディターミネイションドライバー、見つかったのか?」

 

 青年――晴人が尋ねると、司は首を横に振る。

 

 

(ダブル)

 オーズ

 フォーゼ

 ウィザード

 鎧武(ガイム)

 ドライブ

 ゴースト

 エグゼイド

 これまで八つの世界に回ったが、どの世界にもなかった」

 

 

「『ネクスト・ワールド』も、残るはビルドだけか……」

「…………」

 

 ビルド――その言葉を聞いた二人は、かつての戦友を思い浮かべる。

 

「……ビルドの世界、行くなら俺も行く」

 

 晴人は司に歩み寄り、彼の肩に手を置く。

 

「俺が生きてたんだ……一海(かずみ)も、その世界に飛ばされて生きてる可能性はある」

「……そうだな。けど――」

 

 司が前方の奥に目を向ける。

 彼の視線の先には、三十体の怪物がいた。

 人の肉片をかき集めて作られたような、気持ち悪い怪物だ。

 

「まずはこいつらを倒す!」

 

 司は変身せず、生身のまま怪物の群れに突っ込み、斬り倒していく。

 怪物達も反撃するのだが、司に攻撃がかすることなく、端から見れば彼が一方的に怪物を殺しているように見えた。

 

「…………」

 

 三十体もいた怪物が、僅か数秒でただ地面に転がる肉片と化した。

 

 怪物の返り血を浴び、更に赤く染まった司の体。

 もう、紗夜の知る『司』は、どこにもいないのかもしれない――。


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