「あれ? ここって喫茶店じゃなかった?」
「おかしいわね……道を間違えたかしら?」
司の自宅である写真館に訪れたのは、小野寺ユウスケと月島まりなの二人だ。
「いや、道も場所も、この場所から見える風景も同じだし……もしかして、知らない内に潰れたのかな?」
ユウスケが周囲を見渡しながら言った。
「ここ写真館っぽそうだし、ひとまず別の場所に行きましょ」
「そうだね」
二人は別の喫茶店に行こうと扉を閉めようとした瞬間――
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
家の中から少女の叫び声が聞こえてくる。
「!?」
「!?」
それを耳にしたユウスケとまりなは扉を閉める手を止め、家の中を見る。
すると、眉を寄せた日菜がチェーンソーを持って玄関の方にやってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ユウスケとまりなは恐怖のあまり腰を抜かす。
突然チェーンソーを持った少女が現れれば、恐れを抱くのも無理はない。
「止まらないと、ギュイーンするよ――って、なーんだ」
日菜が安心した顔でチェーンソーを床に落とす。
「ユウスケさんとまりなさんかー。でもどうしてここに?」
「な、何なんだよ! お前!?」
「あたし? 日菜だよ。氷川日菜。自己紹介してなかったっけ?」
「日菜!!」
上から紗夜の怒号が聞こえてきた後、彼女が玄関まで降りてくる。
「何をして――って、ユウスケさんとまりなさん!?」
「本当にすみません。うちの妹が大変迷惑をおかけしました」
紗夜は、ユウスケとまりなをリビングに招き入れ、頭を下げて謝った。
日菜はリビングの床に正座させられていた。
「や、やんちゃな妹だね……」
ユウスケはまだ恐怖に震えながらも、紗夜が入れるコーヒーを飲む。
彼はクウガとしてグロンギという怪人と戦ってきてるのだが、日菜にはグロンギとは別の異質さを感じ、それが恐怖と化している。
「ふ、二人はここに住んでいるの?」
まりなが部屋を見渡しながら尋ねる。
「はい、一時的ではありますが、今はここが拠点ですね」
「一時的?」
「ここは、私たちの家じゃないんです。もとい、家主は現在行方不明ですけれども……」
「行方不明!? 一体何が――」
驚くユウスケの隣に、いつの間にか姿を見せた士がカメラで彼を撮る。
士はまりなの方に回り込み、今度は彼女を撮ろうとする。
まりなはノリノリでセクシーポーズを決める。
「門矢さん! 勝手に人を撮るなと何回も言っているでしょう!」
「うるさいなぁ……あと、言われたのはこれで二回目のはずだが」
士は紗夜の注意を無視して撮り続ける。
「駅前のグロンギは倒せたのか?」
士はユウスケに馴れ馴れしい感じで聞く。
「当たり前だ! 俺はクウガだからな!」
「……なら安心だ。そっちは任せられるな」
「『そっちは』って……あなた――門矢くんは戦えるの?」
「!?」
何かを察知した日菜がバッタのように士に飛び込み、彼の口を塞ごうとする。
だがその動きを読んでいた士は彼女の腕を抑えながら、まりなに話す。
「当然だ。俺も仮面ライダーだからな」
「仮面ライダー? それって、ベルトを使って変身する人のことだったりする?」
「あぁ、その通りだ」
まりなは喜びを顔に出し、立ち上がる。
「あなた、ユウスケとコンビを組まない?」
「コンビ?」
「ユウスケは今まで一人でグロンギと戦ってきたわ。私はか弱い乙女だから、ただそれを見守る事しかできないけれど、あなたが一緒に戦ってくれれば、少しでもユウスケの負担が――」
「――――断る」
そう言ったのは士――――ではなく、ユウスケだった。
「えっ…………?」
予想外の言葉に、まりなはユウスケの方を向き唖然とする。
「そいつには少し恩がある。だが、それは別の機会に返す。グロンギと戦うのは俺一人で十分だ」
「ユウスケ、何言ってるの!? 敵が強くなってきている今、あなた一人じゃ不安なのよ!」
「それって、俺が弱いって言ってるのか?」
「違うわ! ユウスケが強くなかったらクウガなんてやってられないじゃない! でも、あとどのくらいいるかもわからない敵を、今後も一人だけで戦っていくのは無理があるわ! だから――」
「ッ!!」
まりなの言い分が気にくわなかったユウスケは、逃げるようにこの場から走り去る。
「ユウスケ!!」
まりなはユウスケを追いかける。部屋を出る時、紗夜達に向かって一礼してからユウスケの後を追い始めた。
「あーあ。行っちゃったね……」
日菜が悲しげな顔を浮かべ、紗夜の隣に座る。
「おい日菜、どうして俺の発言を妨害しようとしたんだ?」
「うーん……なんか、ユウスケさんから昔のおねーちゃんと似た感じがあったんだよね」
「私と?」
紗夜が疑問を顔に浮かべる
「うん。なんかこぉ……『一人で抱え込んでる』ってよりは『一人で抱えたい』って感じがしてー……うーん、なんて言えば……」
「――大体わかった」
日菜が何を言おうとしていたのか、士は理解できた。
「要するに、誰かに褒められたい、承認欲求の高い奴ってことか。だが日菜、それを最初に言ってほしかったな」
「ごめんごめん! 動いた方が早いかなーって!」
「…………」
紗夜が一人思い詰める。
(日菜、昔の私を見破っていたのね……けれど、その私は日菜の知っている『私』。司を知らない『私』。けれど……実際、司を知ってる私も、同じだったわ。
日菜は私と同じことをやっては、軽々と私を超えていく。私の努力を踏みにじるかのように軽々と。皆が日菜の方に目を向けて、私のことなんて――。
でも、司だけはちゃんと私を見てくれた。私を撮ってくれた。だから私もそれに応えようとした。努力する理由がそれだけでもいいと思った。それも、間違いだったけれど……)
「さて、探索を再開するか」
「追いかけないの?」
「俺らが口を出したところで悪化するだけだ。解決するなら二人で話し合うのがベストだな」
士は部屋を抜け、二階へと上がっていく。
「行こ、おねーちゃん!」
「えぇ」
二人もその後を追う。
「さて、問題の部屋二つに入るとするか」
二階に上がった三人は、『男』と書かれた紙が貼られている扉の前に立っていた。
「客用の部屋かな?」
「入って確かめるか」
士が扉を開け、中に入る。
中は散らかっており、特に丸山彩のグッズが多かった。
「彩ちゃんのファンが使ってたのかな?」
「汚らわしい部屋ですね。日菜もこういうファンには気をつけないさい」
「はーい!」
日菜は元気よく返事をするが、士は首をかしげる。
(もう一人の俺も大概だろ……)
「……もう一人の俺に関する物はなさそうだな」
部屋を漁り終えた士が言う。
「ねぇー、これなんだろー?」
だが、日菜はある物を見つけ、紗夜と士に見せる。
「それは……ゼリー飲料? それにしても小さいように見えるけど」
「うーん……どこにも賞味期限書いてないし、回しても引っ張っても蓋が取れないよぉ!」
「変な物は開封するな。そこら辺に投げておけ」
「はーい!」
士に言われた通り、日菜はゼリー飲料らしきものを投げ落とした。
「次行くぞ」
士たちは部屋を出て、『女』と書かれた部屋へ入ろうと――。
「……俺はここで待つ」
紗夜に怒られることを察した士は、部屋に入らず外で待つことを選んだ。
「よろしい」
紗夜は微笑みを浮かべながら、日菜とともに部屋の中へ入る。
部屋の中は綺麗――と思いきや、先程の部屋以上に散らかっていた。
「ここの住民はだらしない人ばかりなのかしら?」
「あっ!!」
何かを見つけた日菜が、それに飛び込むように走る。
「私のギター!! どうしてここに!?」
疑問に思いつつも、日菜はギターを手に取って弾き始める。
アンプなど繋げていないため、音に迫力はなかったが、紗夜に負けない弦さばきを見せる。
「ほう……紗夜より上手いじゃないか」
「っ!!」
士の発言に、紗夜は鬼のような凶相を浮かべ、強く拳を握る。
「……なんでこんなやつが『カドヤツカサ』なの…………!!」
「なんか言ったか?」
「いえ、何も!!」
「? そうか」
「おねーちゃん、大丈夫?」
「問題ないわ、手がかりを探すわよ――」
「……結局、何もなかったな」
全ての部屋を探し終えた三人はリビングにいた。
三人はあの後、念のため一階のトイレ、風呂場、洗面所なども探したが、どこにも彼の居場所を特定できるものはなかった。
「俺と性格が真逆なら、日記をつけてそうだったんだが、それらしき物もなかったな」
士は偉そうな態度でソファーの上で横になっていた。
「はぁ……疲れたー……」
日菜はテーブルに突っ伏している。
「…………」
落ち着かないのか、紗夜はテーブルの近くで突っ立っている。
「あと、少し話は変わるが――」
士は横になった状態で、複数の写真を手裏剣のように日菜が突っ伏している後ろのテーブルへ投げる。写真は曲線を描きながらテーブルの上に落ち、綺麗に並ぶ。
「…………」
「…………」
写真には、主にユウスケとまりなの二人が写っていた。写真はどれも歪んでいたが、紗夜と日菜は特に驚くことはなかった。
「さっき現像してきたが、このザマだ。どうやら、この世界も俺を拒絶しているみたいだ……さて、そろそろ晩飯にするか」
士は立ち上がり、キッチンの方へ足を運ぶ。
「あなた、料理を作れるのですか?」
「当然。俺にできないことはない」
自信満々に言った士。しかし、冷蔵庫の中身を見て、険しい顔をする。
「おいおい、何もないじゃないか! 仕方ねぇ、買いに行くか」
不満そうな顔をしながら、士は家を出る。
「行ってらっしゃーい!」
日菜は元気よく手を振る。
「…………」
紗夜もどこかへ行こうと、部屋を出ようとする。
「おねーちゃん、どこ行くの?」
「少し、部屋で休んでくるわ……」
そう伝えて、紗夜は二階に上がる。
「…………」
二階に上がった紗夜は、自分の名前が書かれている部屋に入ろうとしたが、無性に司の部屋が気になっていた。
紗夜は誰も見てないことを確認し、司の部屋へ入る。
「お邪魔します……」
紗夜は部屋を見渡した後、自分の写真が収納されているアルバムを取り出し、中を見る。
「……私、こんなに笑ってたのね」
殆どの写真に写る紗夜は、カメラに向かって微笑みを浮かべていた。
「……これが全て私の写真と考えると、確かに考え物ね。撮る対象のバリエーションを増やしてもらわないと」
紗夜は的外れなことを言いながらアルバムを本棚に戻す。
――ガチャ! ガチャ!
本棚の上から、何かが二つ落ちてくる。
(そんなところから物が? そういえば、私と司の部屋は詳しく調べないまま中断されていたわね)
紗夜は下を向いてそれを確認する。
「えっ……どうして…………!?」
信じられない物を見た紗夜は目を見開かせ、体を震わせる。
落ちてきたのは、真っ二つになった緑色のディケイドライバー。
――夢に出てきた、司の変身ベルトだった。
ご愛読ありがとうございます。
展開が遅くてすみません!
第一章は他の章よりもやや長くなる予定ですので、ご了承してくださると助かります。
また、少し前に外伝の話をしましたが、その物語の長さ上、第一話を書き終え次第連載を開始したいと考えを改めました。
外伝といいながら、下手すると本編のこちらよりも長くなるかもしれません……(人によっては、外伝の方が本編っぽいと捉える人もいるかもしれない内容です)
今後ともご愛読の方、よろしくお願いします!!