子供のしたこととは言え、悪いことをしてしまった。
頭突きで完全に伸びてしまった子供を脇に抱え、ついでに周囲の男衆の目を潰した後、慧音は白夜に何か侘びをしたいと申し出た。
白夜は最初は遠慮するような素振りを見せていたが、不意に何事かを考え始め、そして1枚のメモを渡してきた。
それはどうも買い物メモらしく、書かれているのは食糧とお酒、あとお菓子を少々。
何でも主要な通りの店は軒並み品切れ状態らしく、困っているのだと言う。
それくらいなら造作も無い、二つ返事で引き受け、その結果。
「…………!」
「いや、そこまで感謝されると逆に困るんだが」
そろそろ夕刻に入ろうかと言う時間、慧音は寺子屋の前で困り果てていた。
と言うのも、目の前で1人の少女が膝をついていて、しかも慧音の手をとってじっと見上げてきていた。
こう、拝むように。
慧音自身は己が拝まれるような人物では無いと思っているので、そんな態度を取られるとむず痒い気持ちになってしまう。
白夜の傍らには少量ながら米と野菜、それから和菓子が入った籠があった。
メモの内容と同一では無いものも入っているが、代替にはなるだろうと思う。
彼女らがいるのは慧音の自宅を兼ねた人里の寺子屋であり、慧音は自宅の蓄えの一部を白夜に分けたのだ。
子供も含めて他人に料理を振舞うことも多いため、少し多めに蓄えているのだ。
「それよりもうすぐ日が落ちる、早めに戻った方が良い。まぁ、お前なら大丈夫だとは思うが、知性の低い妖怪も夜になればうろつき始める」
「…………」
「いや、それはもう良いから」
なおも頭を下げて感謝の気持ちを表する白夜に、苦笑を覚える。
礼儀正しいと言うにはやけに鬼気迫っているようにも見えるが、言葉が無いので何ともおかしな印象を受けてしまう。
最初に見た時は、見た目通りに冷たい印象を受けたものだが――こうして付き合ってみると、無表情ながらも感情豊かな方だとわかる。
「ではな、気をつけて」
「…………」
「……前を見ないで歩くと、転ぶぞ」
それと、割とそそっかしい所があるのかもしれなかった。
今もこちらを見ながら歩き出したため、道端の石に普通に躓いていた。
何だか寺子屋の子供達を見ている時のような気分になってハラハラしていると、その後は特に何事も無く、白夜は通りの向こうへと消えていった。
「やれやれ」
軽く伸びをしつつ、肩から力を抜く。
子供達は白夜に食糧を分けている間に帰ってしまったし、今日はもう本当にやることが無い。
そういえば結局、お酒については分けてあげることが出来なかった。
子供達が良く来ることもあって、慧音は自宅にお酒を置かないのだ。
酒浸りな教師など、ろくな物ではあるまい。
とは言え明日は寺子屋も休み、こういう日には晩酌の一つも欲しい所だ。
幻想郷の住人は酒好きが多い、慧音もその例に漏れないと言うわけだ。
と言うわけで、彼女が酒を飲もうと思うなら方法は2つしかない。
その内の1つは今日は難しい、そうでなければ……。
「慧音」
そうでなければ、お酒を持ってきてくれる客人を迎えるか。
どうやら都合の良いことに、今日はそう言う日だったらしい。
「
ふわりと微笑んで振り返れば、透明感のある少女がそこに立っていた。
どこか憮然とした表情を浮かべているが、その手に持った酒瓶を見れば、本心は透けて見えるというものだろう。
普段は人里の外で生活している彼女がここにいるのは珍しいが、稀にこうして慧音を訪ねてくる。
まぁ、人目の減る遅い時間にならないと出てこないと言う所は困りものだが。
白銀のロングヘアは足裏にまで届き、毛先に小さな赤いリボンをいくつも着けている。
白のシャツに指貫袴の緋袴と言う他に見ない格好だが、輝くような美貌は群を抜いている。
だがそれ以上に、そこにいるのに見失ってしまいそうな、不思議な透明感を感じさせる少女だった。
「何だ、誰と話しているのかと思えば白夜と話していたの」
「ん? 妹紅は彼女と知り合いなのか?」
「うん、まぁ。前に輝夜が異変を起こした時に会ったのよ」
ああ、あの時か、と慧音は思い出す。
以前、永遠に夜が明けない――通称、永夜異変――異変が起こり、慧音は人里を守るために行動していた。
妹紅はどうもその時、異変の中心に近い位置にいたらしいが。
「確か、吸血鬼と一緒にいた従者……が探していた、迷子だったような」
「ま、迷子?」
「うん。最初はまたぞろ竹林に迷い込んだ人間かと思って、放っておくのもアレだから外まで連れて行ってあげようとしたんだけど……実は自分から来たらしいってわかって。で、保護者っぽいのが来たから引き合わせたんだけど、その後は本当に酷い目にあったわね……」
妹紅がどこか遠くを見るような目をする中、慧音は何となくその場面を想像した。
彼女が住処にしている土地は「迷いの竹林」と呼ばれ、自然的・非自然的要因から入り込んだ者を迷わせる場所として知られている。
妹紅は気が向けば迷い込んだ人間を外に連れ出したりもする、白夜はその中の1人だったのだろう。
いったい、どんな会話をしたのだろう?
どちらも口数が多いほうでは無いが、口数が少ないからこそ、白夜などはリアクションで意思疎通を図っている面がある。
竹林で迷って慌てている白夜と、億劫そうにしながらも彼女を助ける妹紅。
何となく、簡単に想像できそうな気がした。
「……ああ、嫌なことを思い出した。慧音、呑もう。何となく今夜は呑みたい気分なのよ」
「そうだな。でも明日もあるから、程々にしておこう」
「私は明日は行かない」
「またそんなことを言う。お前は……」
「あー、はいはい」
「もう」
ヒラヒラと手を振って家に入る妹紅に苦笑を覚えつつ、後を追いかけるように家に入る。
「あ」
「どうしたの?」
「いや、すまん。食材を白夜に分けてしまったから、あまり良いつまみを用意できないかも」
「別に良いわよ」
ふ、と笑って立ち止まる妹紅に、慧音も立ち止まる。
目を丸くして、少し驚いたような印象。
「慧音がいるから、ね」
「……馬鹿」
今夜は、長い夜になりそうだ。
酒に呑まれるくらいで、ちょうど良い。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
もこけねは、神の国……!
東方は懐が広いですね。
そして東方妹もついに最後、最後は大図書館の魔女の妹です。
では、どうぞ。
からすそ様(ハーメルン)、レヴィ様(ハーメルン)
・カッコウ・ノーレッジ
種族:魔女
能力:錬金術を扱う程度の能力
※錬金術を使います、ハガ○ン的に。
二つ名:実験と日陰の少女。幻想郷の錬金術師。
容姿:長い紫髪、紫瞳、そしてパジャマに白衣。
テーマ曲:真理の向こうへ
キャラクター:
紅魔館の動かない大図書館、パチュリーの妹。種族は姉と同じ魔女だが、錬金術師である。
姉と同じく引き篭もりであり、大図書館の一角に実験棟を構えている。かび臭い大図書館と奇妙な薬品の匂いを発する実験棟、散々である。なお、姉のパチュリーとは良く「薬品の匂いが本につく!」と言うことでよく口喧嘩をするようだが、それでも追い出されていないあたり、なんだかんだと甘やかされているのかもしれない。
彼女は姉のように知識を蓄えるだけでなく「実験」と言う形で実践することに意味を見出している、だが大体ろくなことにならず、異変にカウントされることもある。
姉に小悪魔がいるように、彼女はペットを買っている。大きなスライムで、名前は「すらりん」。お風呂にもベッドにもなる優れものである。ただし服が溶ける上、非常にぬめぬめする。
薬物中毒:
彼女は元々健康だった、らしい。らしいと言うのは今の彼女が非常に身体が弱いためである。
何故か、それは彼女が常に実験棟に引き篭もっているため、錬金術の実験の過程で薬物の効果が身体の中に蓄積されていったためである。
よって、今の彼女は姉より薄弱である。
主な台詞:
「実験日誌2381号32頁、今日も紅魔館を爆発させた……と」
「本を盗られる? じゃあ薬を使おう、媚薬と惚れ薬ならどっちが良い?」
「く、くすり、くすりをちょうだいいぃ……(身体をブルブル震わせながら)」
「ちょ、すらりん。そんな、だめ、ひゃっ、つめた……ゃんっ」