東方従者伝―瀟洒の妹―   作:竜華零

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小悪魔:表

 紅魔館には、巨大な図書館がある。

 いつから在るのかもわからない程の昔から存在している図書館で、正確な蔵書量も不明。

 100年程前は図書館と呼べない程に荒れていたらしいが、今では紅魔館の知の泉として機能している。

 理由としては、魔導書溢れるこの図書館を支配できるだけの力を持った魔法使いの存在があり――。

 

 

「あれ、侍女長じゃないですか」

「…………」

 

 

 その大図書館に足を踏み入れた3秒後、白夜に声をかける者がいた。

 足を止めて、ゆっくりとそちらへと視線を動かす。

 そこにいたのは、紅い髪の女性だった。

 頭と背中にある蝙蝠(こうもり)の羽根からわかる通り、人間では無い。

 

 

(あー……いきなり見つかっちゃったか)

「どうしたんです、こんな所で?」

「…………」

「相変わらず、喋ってくれない人ですねー」

 

 

 苦笑するその顔は、同性から見ても妖艶で美しい。

 まさに、悪魔的な程に。

 

 

(どうするかなぁ、小悪魔って館の人達――人、ほとんどいないけど――には嘘吐けないしなぁ)

 

 

 この女性の名は小悪魔、名前らしくない名前だがこれが名前なのである。

 種族名ですらない、本当にこれが名前なのだ。

 そして、この大図書館の司書でもある。

 白いシャツに黒ベストとスカートで、胸元にネクタイが揺れている。

 

 

 そして彼女は白夜のことを「侍女長」と呼んだが、これは白夜の役職名だ。

 まぁ、紅魔館において役職名はほとんど飾りのようなものなのだが。

 それでも咲夜の「メイド長」との違いを挙げるのであれば、メイドが家政婦(ハウスキーパー)であるのに対し、侍女は高貴な女性個人の世話をする者、と言うことだ。

 つまり咲夜は紅魔館全体に責任が持つが、白夜はフランのことにのみ責任を有していると言うことだ。

 

 

(図書館なら、誰にも会わずに時間を潰せると思ったんだけど)

 

 

 つまり、フランが休んでしまったこの早朝、白夜の仕事はほぼほぼ無い。

 何かあったのかもしれないが、レミリアのカリスマに当てられてド忘れしてしまう始末。

 言ってしまえば、時間潰し兼思い出す時間稼ぎのために、人気が無く見つかる心配の少ない大図書館に来たと言うわけだ。

 ……まぁ、小悪魔に見つかったことでその計画は破綻してしまったのだが。

 

 

「メイド長に何か頼まれたんですか? それともお嬢様?」

「…………」

「あはは。ほんとに喋らない人ですねー」

 

 

 館に住む者は、大きく2つに分類できる。

 スキンシップの激しい者と、そうでない者だ。

 ちなみにフランドールの「アレ」はスキンシップには含まない、アレがスキンシップとかどれだけだと思う、命がいくつあっても足りない。

 

 

 閑話休題。

 問題はそう、今目の前にいる小悪魔。

 彼女が、紅魔館でも一、二を争うくらいにスキンシップ好きということだ。

 

 

「なでなでー」

「…………」

「あ、飴食べますか?」

(子供かっ!)

 

 

 声には出さず、胸の内だけでツッコミを入れた。

 まぁ、小悪魔から見れば人間は全て子供以下にしか見えないのだろうが。

 

 

「うふふ、侍女長は本当に良い子ですねー」

 

 

 実際、昔から白夜は子供扱いだった。

 赤ん坊の頃から見られているわけだから、仕方ない部分があるにしてもだ。

 それにしても、小悪魔のそれは群を抜いているように思えた。

 

 

 なでくりなでくり、すりすりすりすり。

 いつの間にやら抱きすくめられて、撫でられながら頬ずりされている。

 と言うか、何だこの状況は。

 

 

(は・な・し・て!)

「あはは、そんなに嫌がらなくても良いじゃないですか」

(いやいや、嫌がるとかそう言う話じゃないから。常識的に考えて欲しい、幻想郷で一番どうでも良い概念が常識なわけだけど)

 

 

 ぐいっ、と頬に手を当てて押しのけると、小悪魔がニコニコ笑顔の割に強い抵抗を見せた。

 こやつ、意外と出来る。

 ……いや、これは本当に……。

 

 

(うわっ、うわわわわっ、ちょっ、エプロンの下に手ぇ……どころかお尻掴んだ!? 何のために!? 女の子のお尻触って何か得なことがあるの!? しかも足踏ん……でないっ、でもどうしてこっちの足の間に差し込む感じに……あれ、本棚がいつの間にか背中に!?)

「うふふ、どうしたらこの澄ましたお顔をぐちゃぐちゃに……」

(何か凄く怖いこと言ってるしぃ――――!?)

 

 

 まさに悪魔的なことを呟く小悪魔に、白夜は今度こそ本気で脱出を試みた。

 具体的には、本棚から抜き取った辞典でチョップを敢行した。

 割と本気で殴ったが、人間では無いので問題は無いだろう。

 

 

「せ、聖書で殴るとか……!」

(何で悪魔の館に聖書が!?)

 

 

 訂正、実は割と効いているのかもしれない。

 でも「よよよ」とあからさまな嘘泣きするあたり、実は余裕があるのかもしれない。

 ……あれ、結局どっちなのだろうか。

 

 

「あ、そういえばパチュリー様が呼んでましたよ」

(じゃあ何で邪魔したのさ)

 

 

 図書館の主、つまり自分の主であるはずの存在からの頼みごとを随分と無視したものだ。

 その度胸に感心しつつも「いやいや」と首を振り、その気持ちを溜息に変える。

 乱れた着衣をそれとなく直し、その場から半ば逃げるように歩き出した。

 一方で、小悪魔はと言えば。

 

 

「後でお茶を持っていきますねー……さて、何を入れましょうか」

 

 

 何を入れる、の部分に悪意を感じるのは、はたして白夜の勘違いだっただろうか?

 





最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
どんどん東方が好きになります、無理くりいろいろなキャラクターを登場させたいですよね。


暇を持て余した妹様の遊び:

フラン「今まで見た何よりも素晴らしい。あの太陽をついに、ついに……克服したぞ!(ジュ~)」
白夜「フラン様、身体溶けてますよ」
フラン「あっれぇ~?(ジュ~)」

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