「やれやれっアンタも無茶をしたもんさね、アンタのその左目がどんな事になってたのか知ってるかい?」
「ええっ医者と駅に来たヒーローが俺に煩く言ってましたからね、一字一句覚えちゃいましたよ」
進志の病室に訪れている一人の老婆、彼女もヒーローだ。リカバリーヒーロー:リカバリーガール。希少な治癒の“個性”を持ち現役時代はその能力で多くの人々を救ってきた偉大なヒーローの一人、今は小柄な老婆となってしまっているがその個性は衰えていない。今現在はヒーローを教育する学校の最難関校である雄英高校の看護教諭をしているが、時々各地の病院を訪れては重傷者の治療に当たっている。
そんな彼女がこの病院を訪れていたのは雄英のOBであり、良く保健室にやって来ては自分の世話になっていたヒーローが是非見てほしい子が居るというのでやって来てのであった。そして進志の元を訪れたのだが、資料でどういった経緯で怪我をしたのかを知っているが、やはり滅茶苦茶としか言いようがない。
「角膜と水晶体の大きな損傷。眼球破裂、視神経断裂……これに加えて身体の各部に銃弾を受けておいてよくもまあ相手を殴り飛ばせたねぇ」
「火事場のバカ力ってやつですかね。今まで生きてきてあそこまで力が満ち溢れた経験もありませんでした」
「嬉しそうに言うんじゃないよ。火事場の力っていうのも普段脳が身体に掛けているリミッターが外れただけ、しかもリミッターが外れれば身体は徐々に壊れていくんだよ。全く若さっていうのは怖いねぇ」
リカバリーガールの治癒の個性を受けて身体の痛みはかなり消えてきている。対象者の治癒力を活性化させ傷を治癒させるのが個性の仕組み。傷に応じて対象の体力を使い活性化を行うので重傷が続くと体力消耗し過ぎて逆に死ぬという事もある、がリカバリーガールの長年の経験でその匙加減でその辺りは完璧に行う。
「今回、アンタは個性を使用している。だけどそれは女の子を必死に守ろうとしていた気高く素晴らしい物だという事で不問にされている。加えてヴィランをたった一人で倒してる……だけど、これがどれだけ危険な事だという事は理解しているかい?下手すれば殺されていたかもしれないんだよ、ヒーローが来るまで待っていても良かった筈だよ」
「それ、何度も言われましたよリカバリーガール」
聞き飽きたと言わんばかりの表情を作る進志。意識が戻ってから彼にはほぼ毎日医者やヒーローが説教じみた言葉を投げかけ続けていた。危険を冒す意味などない、死ぬ可能性だってあった、ヒーローに任せればよかったと。口々にそう言い、同時に光を失った自分の目を同情の目で見つめてきた。
「それじゃあまた言うよ。ヒーローが必ず解決した筈だよ、あの時向かっていたヒーローの中にはエクトプラズムそしてギャングオルカもいた。確実に鎮圧出来ていた」
「だが俺がそれを知る術はなかったし時間もなかったし、ヒーローが来るまでの間に奴が百を見つけて怪我をさせる可能性もあった」
それに対して彼は決まって確固たる意志をもって言い返した。ヒーローが来てくれるまでの間に誰も傷つかない、自分が守ろうとした百が発見されない保証はない。全ては結果論であって現実と異なっている。
「……」
「あの時、周りの大人たちは京兆の個性で制圧されて百を守るのは俺一人だけだった。そして俺は戦える力があった、だから戦った。そしてヒーローたちは何をやっていたんですか、結果的にヒーローは停車予定の駅に待ち伏せをしていただけだった。助けに来てくれたというよりも、現場がヒーローに向かっていただけです。そしてこれも事実です、俺が京兆を倒すまでヒーローは誰一人として列車に来なかった」
「……耳が痛い話だね。その話をして皆困っている事だろうに」
「ええっ医者もヒーローも、あのギャングオルカも困った顔をしてましたね」
それを聞いて進志の意思、いや覚悟の強さというものをリカバリーガールは再認識した。まだ成人もしていない少年が身体に弾丸を食らった上に片目を潰されたというのに果敢にヴィランに立ち向かえたのは、彼の
「そして何より、俺は片目を失ったことを後悔していません。寧ろ安心してます」
「如何してだい?」
「大切な女の子を守れたからです、それにまだ彼女の笑顔を見る事が出来る。それだけで俺は満足です」
「やれやれっ惚気られちまったねぇ。だけどアンタみたいな子は嫌いじゃないよ、また来て治癒してあげるから確り療養しておくんだよ?」
「分かりました」
何処か肩を竦めながら去っていくリカバリーガール。彼女のおかげで入院の期間が短くなるのだから感謝しておかなければ、そう思っていると今度は入れ替わりと言わんばかりに百が入ってきた。
「進志さん、お父様が果物を用意してくださいましたの。食べるようでしたら剥きますがどうします?」
「小腹も減ってる頂こうかな。9食分を取り戻さないと」
「もうっ進志さんったら、でしたらリンゴを剥きますから待っててくださいね」
そういうと彼女はベットの近くの椅子に座ると持ってきた皿と果物ナイフを出して、ゆっくりと刃を当てながら必死な表情で皮をむき始めた。
「も、百あの大丈夫か?」
「大丈夫ですわっご安心ください!!この八百万 百の名前にかけて立派なリンゴ作って見せますわ!!」
「ああいや別にそんな必死にならなくても……」
「進志さんにいただいていただくのですから、このぐらい当然ですわ!!」
「……そ、そうか」
この後、必死に挑戦する百だったが……皮をかなり厚く剥いてしまって食べる部分がかなり少なくなってしまった。
「わ、私とした事が……」
「(もぐもぐ)いやでも普通にこのリンゴ美味しいぞ、甘みと酸味のバランスが最高だな」
「ですが私がもっとうまくやればもっと堪能出来たはずなのです!!次こそは完ぺきなリンゴを、いえリンゴのウサギを作って見せますわ!!」
「……なんか、百が燃えてる」
この作品のヒロインの行方は?
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八百万 百 (ヒロイン一人固定)
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もう一人もいる