2月下旬。その日は全国から将来有望な若者たちがとある学校へと訪れていた、その若者達は皆特殊能力たる個性を持つ者たち。そんな若者たちが集うは学び舎、しかも彼らが夢として目指す目標であるヒーローになる為に学び舎の最高峰である雄英の受験日なのである。そんな学び舎の受験に一人の少年が、他の受験生よりも遥かに覚悟を決め込みながら足を踏み入れようとしていた。
「おいあいつ見ろよ、すげぇ余裕そうな顔してやがるぜ……」
「嘘だろ、笑ってるぞ……?」
「眼帯付けてるけど、あれって個性関係なのか……?」
彼は注目を集めていた、他の生徒たちが受験で浮足立っている中で何処かワクワクとしている笑顔を浮かべているのもそうだが左目を隠している眼帯も注目を集める要因となっていた。そう、その人物とはスタンドを持つ少年"傍立 進志"であった。彼は胸ポケットへと軽く触れると、笑みを溢しながら軽い足取りで受験の受付を済ませるのであった。
「百に勉強は見て貰ってたし、たぶん大丈夫だろ」
そんな余裕な言葉を溢しながらも進志は迫ってくる実技試験へと思いを向け続けていた、百に勉強を見て貰っていたのもあるが彼自身も勉学の方面の成績は百と同じく学年トップ。それほどに先程終わった筆記試験の心配はせずに次の試験に集中力を傾ける。そんな成績は学年トップな進志だが学校からの推薦を受ける事が出来なかった。理由としては不問にはされてはいるが個性の無断使用が原因となっている。
致し方ない現状ではあるものの現代で厳しく制限がかけられている個性の使用、それに違反した事実に変わりはないという事で推薦を受ける事が出来なくなっていた。これに最も抗議したのが進志に守って貰った百と大切な娘を守って貰った百の両親だった。進志が推薦を受けられないのならば、個性の無断使用の原因となった自分とて推薦を受ける資格がないとそれを蹴ろうとしたのだが進志の説得でそれはなんとか防がれた。
『百落ち着けよ。俺はもう気にしてないし学校の判断は正当性がある。ルールを破ったのは事実だからな』
『し、しかし進志さん!!余りにも状況を判断して配慮する姿勢が全くありませんわ!!』
『いいんだよ。それに俺が通常入試で合格すればいいだけの話だ』
『し、進志さんがそこまで言うのでしたら……しかし、これで進志さんが入試に落ちたら……私も雄英入学を蹴りますのであしからず』
『はいはい、俺が受かればいいんだもんな』
そんな事情もあって通常入試を受ける事になった進志だが、百は余裕で推薦入試に合格し特待生として入学が決定した。が、これで自分が入試に落ちでもしたら特待生がその特待生枠を蹴るという全体未聞の事になるから絶対に合格してくれと教師陣から念を押されている。まあ自分としては普通に受験に挑むだけなので何も言えないのだが。
「さてとどんな実技が待ってるのやら……」
「あっやっぱりだ」
「んっ」
何やら聞き覚えのある声がするので振り向いてみる、そこに立っていたのは何処か嬉しそうな表情を浮かべている快活そうな少女。明るい髪色のサイドテールは元気の証と言わんばかりに揺れている、そんな彼女は自分の友人でもあり幼馴染でもある拳藤 一佳であった。
「久しぶりだね進志。元気そうで何よりだよ」
「そっちもな、やっぱりお前も雄英志望だったんだな」
「そりゃヒーロー志望なら雄英を目指すでしょ、士傑っていう選択肢もなくはないけどぶっちゃけ遠いし」
「成程な」
そんな当たり障りのない会話を続けている中、一佳の表情がほんの一瞬、凍り付いたかのように止まった。ほんのわずかな瞬間だったが彼女の視線は自分の片目を隠している眼帯へ固定されていた。やはり気になるのだろうか、だが彼女は一切眼帯の事を言葉に出さずに自分が元気にしている事に対する喜びを口にしつつも、今日までの準備がいかに大変だったかを語る。
「アタシ模擬が少し危うかったんだよ。でも凄い頑張って何とか模試がAにまで勉強しまくったよ、もう一生分勉強した気分よ」
「気が早いな。人生はまだまだ続いていく、勉強は一生続くって話だってあるんだぞ?」
「うへぇっ嫌なこと言わないでよね進志ィ……」
「ハッハッハッ悪い悪い」
先程見えた凍り付いた表情の片鱗さえ見せない何処か、視線の動きに揺らぎさえ見られない。気のせいのだったのだろうか、自分の知っている一佳のままだったことにどこか安心しつつも首をかしげる。
「罰として受験終わったらコーヒーでも奢ってよ、ここに来る途中にイイ感じのカフェ見つけたんだよね」
「相変わらずのコーヒー党だな。俺のダチにはコーヒーの事を泥水だっていう奴いるぞ」
「よし、そいつここに連れてきて。一発殴る」
「待て待て待て、お前が殴ったらぶっ飛ぶだけじゃ済まねぇだろ」
一佳の個性の事を考えたら、仮にそれを発動させて殴ったらぶっ飛ぶだけで済めばいいレベルの事が起きかねない。ちゃんとコーヒーは奢るから勘弁してやってくれと言うと冗談だよ♪と茶目っ気たっぷりにテヘペロをしながら笑う彼女に軽く癒される。
「あっやば、アタシの会場あっちだったわ。んじゃまたあとでね、終わったらメール入れるからさ」
「おう、んじゃ後でな~」
そう言って一佳と別れると進志はスイッチを入れなおして、次なる試験へと備える……がそんな姿を一佳は影を作った表情で見つめると、それを振り切るように歩き出した。
「やっぱりあいつもしかして……ダメダメ、言っちゃダメ。あいつを傷つけかねない、言ってくれるまで待とう……でも言ってくれるかな……アンタにとってのアタシってただの幼馴染、ただの友達、それとも……いけない、今は試験に集中しなきゃ……」
この作品のヒロインの行方は?
-
八百万 百 (ヒロイン一人固定)
-
もう一人もいる