覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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幼馴染との会話

「ごめん待った?」

「いや、それほど待ってはないな」

 

雄英の入試も終了した進志、一佳との約束通りに彼女にコーヒーを奢る為に近場のコンビニ前で待ち合わせを行っていた。お互いに久しく会う事もあってか何処か嬉しげな表情を浮かべながら合流した二人は軽く挨拶をする。

 

「そっちは試験如何だった?」

「中々に手応えがあったな、お前は?模試でA取ったんだろ?」

「自己採点で70点は固いと思うんだけどねぇ……まあ多分大丈夫だと思うよ」

「おいおい雄英で70点って大丈夫かよ……」

 

何処か誤魔化すのような笑いを漏らしながら隣を歩く一佳にそれで大丈夫なのかと不安のような呆れを抱く進志。そんな中で彼は一佳の案内で見つけたという喫茶店へと到着した、落ち着いた雰囲気の中を流れる静かなジャズの音が気持ちを落ち着かせる。共に席に着きながらメニュー表を広げてみると中々に値段もお手頃だし、コーヒーの種類も豊富。成程、これは良い店だ。

 

「好きなの頼めよ、奢るって約束だからな」

「あれっいいの?あれって普通に冗談のつもりだったんだけど」

「久しぶりに会ったんだ、この位はやっても罰は当たらないだろ」

「それじゃあ遠慮なく奢ってもらう事にするよ」

 

一佳はそのまま進志に奢って貰う事を了承しながら店長の日替わり気まぐれコーヒーとフレンチトースト、進志はブレンドコーヒーとピザトーストを注文する事にした。

 

「進志ってピザトースト好きなんだっけ?」

「そういう訳でもないけどな。でもなんかこういうところだとピザトーストが食いたくなるんだよ」

「ラーメン屋でチャーハンセット頼みたくなるみたいな感じ?」

「多分なんか違う」

 

そんなやり取りをしていると不意に、笑みがこぼれた。昔もこんな感じの話をしていたことがあった、そんな思い出が頭をよぎる。そんな話をしているとコーヒーと注文した料理が届いていた、一佳は進志に礼を言ってからトーストを頬張りながらその甘みの笑みを溢す。明るい笑顔を見ながら自分もピザトーストに手を伸ばし食べ始める。

 

「そう言えばさ、個性の制御とか出来るようになったって言ってたけど結局どんな個性が出たの?アンタのお父さんとお母さんの個性のどっちかとか?」

「言うなればその二つを受け継いだ感じだな」

「へっ~……確か"形成"と"精神波"だったっけ、おばさんとおじさんの個性って」

 

その二つが一つになる個性って……といったい自分の個性についての考察などを行っていく一佳。こうして自分の個性についての考えなどを言われるのは初めてなのでかなり面白いという印象を受ける。

 

「俺の個性はそうだな……簡単に言っちまえば守護霊を作り出すって所かな」

「守護、霊……?どういう事?」

「守護霊というよりももう一人の俺を作り出すって感じなんだけどな。見てろよ」

 

そう言うと進志はこっそりと、店内にいる店員に見えないようにスティッキィ・フィンガーズを出現させる。それを見た一佳は思わず小さく声を上げてしまった、が、直ぐに声を抑えて目を丸くしてスタンドを観察するかのように見始めた。様々な個性が跋扈する超個性社会の中でもかなり異質な部類に入る事だろう。

 

「それが進志の個性……!?すごっ……確かに霊って感じするのに、凄いパワー感じる……」

「スティッキィ・フィンガーズって名前なんだ。個性としてもこいつは相当強くて気に入ってるよ」

「へぇっ~……でも良かったじゃん、おじさんとおばさんも喜んでるでしょ。やっと個性が出た!って」

「全くその通りだったよ」

 

一佳はまるで我が事のように笑みを浮かべながら喜んでくれている、彼女としても幼馴染である自分の事を心配していてくれただろう。医者から無個性ではないと言われているのにも拘らず個性を扱えなかった彼を。そんな笑みを浮かべてくれている彼女だが、矢張り何処か視線が稀にズレている事に気づいた。矢張りあれは気のせいではなかった。進志は思い切って切り出してみる事にする。

 

「なぁ一佳、お前この眼帯気になるか」

「……っ」

 

唐突な言葉に思わず一佳のコーヒーを口に運ぶ手が止まる、その瞳は焦りが浮かんできている。同時に汗が一滴流れる、口を閉じてしまった彼女はそっとコーヒーの入ったカップを置くと言い辛そうに口を開いた。

 

「……うんごめん……意識してみないようにしてたんだけど、見ちゃってた……?」

「偶に視線がズレてる位だな。対面してるとよくわかる」

「……ごめん」

「謝られてもな、言ったろ遅い中二病だって」

 

茶化すかのような言い回しの進志に対して神妙な態度をとってしまう一佳、彼女にとってその眼帯は幼馴染が変わってしまった一点の象徴のような物。何も変わらない中でそこだけが変わってしまっているので異様に気になってしまう、もしかして中二病というのは方便で実際は、もうその瞳は何も見えなくなっているのではないかという事を考えてしまい、不安でしょうがなかった。

 

「そんな不安そうな顔するなよ……悪い余計に心配させちまったか」

「ううん……」

「そんな声で言っても説得力ないぞ……一佳、これだけはお前に言っておきたい」

「何を……?」

 

震える声と共に顔を上げる、するとそこにあったのは笑いながらこちらを見つめてくる進志の姿だった。その笑顔は例え眼帯があったとしても何一つ変化がない明るくて暖かい、彼らしい笑顔だった。

 

「俺は今の俺に何の後悔も未練もない、不自由もしてないしな。俺は俺だぜ」

「進志……そう、だね。今の笑顔でアタシも確信したよ、アンタはアンタだよ。昔と何一つ変わらない」

 

一佳は笑顔を取り戻しながらそう思った、今これだけ笑える進志が何かを抱えてるわけではない。抱えていたとしてもそれはもう解決していて本人は何も気にしてない、している訳がない。ならば自分もいつまでもそれを気にして暗い気分でいるのは進志に対して失礼にあたる事だろう、進志が笑顔でいるのであるならば自分で笑顔でいようと決めた。

 

「それじゃあ再会を祝って……すいませ~ん追加でイチゴパフェと小豆トースト、店長特製スープお願いします~!」

「おいおい少しは遠慮ってものを」

「だって奢ってくれるって言ったでしょ、男に二言はないでしょ♪」

「ったく……分かった分かりました、しっかり奢らせていただきます」

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