覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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入試の後

入試が終了した翌日の雄英の一室のモニタールームには多くの教員が詰めていた。理由は勿論決まっている、これから入試の合格者を出すためであった。モニタールームに備え付けられている映画館にあるような大モニターに投影されている実技試験の様子と各受験者ポイントの類型を順位別に分けられたランキングが表示されている。それを見つめながらも教員らが審査を行うポイントが纏められていく。

 

「YEAH!!にしても今年はマジで豊作だな!!」

「全くだ。まさか救助ポイントなしで2位とは驚かさせる、しかもあれだけ派手な個性であるのにも拘わらず後半のスタミナ切れもない様子とは……恐れ入る」

 

一人の審査が終了する中、その度に総評というべきなのかそれぞれの教員からの感想やその生徒とどう向き合っていくべきか指導方針はどうするかの話がされていく。天下の雄英であるからにはこのぐらいは致し方ない。それに受験者は膨大だがその中で入学させるのは一握りであり、その合格者もこうしてランキングで篩にかける事も出来るので思っていたよりも楽なものである。

 

「んで1位なのがこいつか」

「傍立 進志……ムゥゥッ……」

「如何したよエクトプラズム、お前さんがシヴィィ顔するなんて珍しいじゃねえか」

 

1位になった生徒は進志、そんな彼が映し出されたときに教員の一人であるエクトプラズムを同期であるヒーローであり同じ教師である皆が珍しげにそちらを見つめていた。あの彼がそんな顔をするのも珍しいがどこか苦々しいものを噛み潰したかのような表情を浮かべている。そんな彼を見つつも同じく教員の一人であるリカバリーガールがおやおやという声を上げる。

 

「あの坊やかい、そうかそうか遂に来たみたいだねぇ」

「リカバリーガール。傍立少年をご存じなので?」

「まあね。でも私以上に知っているのはエクトプラズムだと思うよ」

 

嬉しそうに進志を見つめるリカバリーガールの隣に座り、ガリガリに痩せた骸骨のような風貌をした男がそう尋ねると何処か暈すように言いつつも、パスボールを投げるのだが彼はそれを受け取るがあまり答えたくなさそうに口を開く。

 

「……以前、我ガ非番ダッタ時ノ事。差シ入レヲギャングオルカヘト持ッテ行ッタ時、彼ニ応援ノ要請ガ入ッタ。我モソレニ同行シタ、犯人ハ八百万家ノ所有列車ヲ占拠シテイタノダガ走行中ノ列車ニ乗リ込ムニハ停車予定ノ駅カラ飛ビ乗ルシカナカッタ」

「まあそんな状況だったら俺もそうするな、その列車も相当な速度で走ってるだろうしそんな所に乗り込むのは容易じゃないからな」

 

周囲の教師たちもマイクの意見に賛同していく。エクトプラズムの話を詳しく聞くと列車の速度は200キロ近かったらしい、そんな列車に飛び乗るのは骨が折れる、追い付く為の乗り物を用意するだけでも時間がかかる。が、停車予定の駅を通り過ぎるのが分かっているならばタイミングを計って乗り込むのが一番だと皆が思っている。一人だけ、200キロぐらいだったら跳躍を繰り返して列車に飛び乗るだろうし、時間を掛けていたら人質が危ないからそうするかな……と考えている者がいたが敢えて口には出さなかった。

 

「んでお前は乗り込んでこのリスナーを助けたって感じか?」

「イヤソウデハナイ」

「あっ?」

「列車ハ速度ヲ落トシ、通常ノ列車ガ止マルヨウニユックリ止マッタ」

 

それを聞いて教員たちはどういうことなのかと思った、列車はヴィランによって占拠されている。それなのにゆっくりと停車したというのが理解できなかった。そして直後に列車から降りてきたのは血塗れになった進志と担架に乗った彼を運ぶ大人、そして彼に縋りつくかのように号泣する百であった。思わず何が起こったんだと思っていると中から鎖でぐるぐる巻きにされているヴィランが連行されてきて、エクトプラズムはギャングオルカと共に驚いた。

 

「お、おいまさかそのヴィランって……」

「ソウダ。傍立 進志ガヴィランヲ倒シタノダ」

「おいおい嘘だろっ!!?」

 

思わずマイクが声を上げて驚愕する。話を軽く聞くだけでも進志は明らかにヴィランに重傷を負わされた、少なくとも血まみれで担架で緊急搬送されるレベルの大怪我。それなのにヴィランは鎖でぐるぐる巻き。そこまで話された段階でリカバリーガールも口を開いた。

 

「私も坊やにその時の話を聞いたさね。奴さん、身体を複数個所撃たれた上にナイフで左目を潰された状態でヴィランを殴り飛ばしたらしいよ」

「それは本当ですかリカバリーガール!!?」

「らしいよ。坊やもそれを否定しなかったし、守っていたお嬢ちゃんも坊やが私を守ってくれたって証言しているしねぇ」

 

それを聞いて教員たちは驚きに包まれた。身体を銃弾で撃ち抜かれている、それに加えて片目をナイフで潰されている。そんな状況に陥ったとして彼のようにヴィランを倒せるだろうか、プロヒーロー顔負けの精神力だ。リカバリーガールの隣の男、八木 俊典は驚愕せずにはいられなかった。子供でありながらどうやったらそんな重症に耐えながら敵に立ちむかう事が出来るのだろうか。だがそんな中で無精ひげな男が言った。

 

「合理的じゃないな。その時点でヒーローに救難要請を出しておいてヴィランと戦うだと、馬鹿としか言いようがないな。その結果がその重症だ、最悪の場合殺されていた。そいつは正真正銘の大馬鹿だな」

「そうだねそれは間違いないだろうね、だけどねその坊やはある事を言っていたんだよ。ねぇエクトプラズム」

「……」

 

―――そして俺は戦える力があった、だから戦った。そしてヒーローたちは何をやっていたんですか、結果的にヒーローは停車予定の駅に待ち伏せをしていただけだった。助けに来てくれたというよりも、現場がヒーローに向かっていただけです。そしてこれも事実です、俺が京兆を倒すまでヒーローは誰一人として列車に来なかった。

 

エクトプラズムが自分がお見舞いに行った時に言われた言葉をそのまま口にした。ヒーローが来てくれるまでの間に誰も傷つかない、自分が守ろうとした百が発見されない保証はない。全ては結果論であって現実と異なっている。暴論かもしれない、だが彼の言った言葉と行動の結果が現実なのである。思わず皆が口を閉じる。そして、八木が声を上げる。

 

「確かにその通りかもしれません。彼が取った行動のおかげで彼以外に怪我人はいなかった、そしてヒーローは間に合わなかった……だからこそ雄英で学んで貰う必要があると私は思います。彼にはその資格があり、その意思を高める為に」

 

彼の意見に反対するものなどいなかった。筆記試験も申し分なく、実技試験においては1位を記録している。彼の入学を拒否する理由などどこにもなかったのである。

 

 

 

「それにしても彼が合格で少しホッとしたさ」

「なぜですか校長?」

「実はさ、特待生の八百万 百さんが彼が落ちたならば自分も入学を蹴ると宣言していてね……推薦枠の生徒に入学蹴られたらもう、色々とヤバいからさ」

「……私には何か別のものがやばいように思えるのですが……」

この作品のヒロインの行方は?

  • 八百万 百 (ヒロイン一人固定)
  • もう一人もいる

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